純粋な外資系企業
今回は三題噺ではなく「即興小説トレーニング」さんのお題を使いました。
うちは外資系企業なんですよ、と彼女は言った。
「はい?」
思わず聞き返すと、彼女は人好きのする笑みを浮かべたまま続けた。
聞けば、うち、と言うのは文字通り家のことらしい。彼女の家族の構成員――つまり彼女と夫と息子、さらに彼女の両親と二人の弟妹――は誰一人として仕事をしていないのだという。
彼女は困惑する私をおかしそうに見つめる。いたずらっぽい眼差しだった。
「ごめんなさい、ちょっと変なたとえでしたね。実を言うと、うちって――」
「あーっ!お姉ちゃん、こんなところにいた。今日はみんなでご飯食べに行こうって言ってたじゃない」
彼女を遮ったのは、子供の声だった。
「あら、そうだっけ。ああそうだ、こちらお友達の__さん。ほら、貴方も挨拶して」
「こんにちは、姉がいつもお世話になっています」
少女はぺこりと頭を下げた。私はまた仰天して、思わず彼女とその「妹君」を見比べてしまった。彼女は二十代半ばだが、対する妹君はどう見ても小学生くらいだったからだ。しかし訳ありそうな家の事情につっこむのも気が引け、しどろもどろになってええどうも、とかなんとか返す。
彼女は笑みを崩さないまま続けた。
「混乱させてしまいましたね。私たちは被験体なんですよ。ほら、今って核家族化が進んでいて大家族なんてめったにいないでしょう?だから私たち家族がええと、多様性、なんとかかんとかって理由で、政府からお金をもらって大家族をやってるんです」
私は開いた口がふさがらなかった。だとすれば、彼女たちは全員が被験者として働いているともいえる。そんなことがあるのだろうか、いや、あるのかもしれない。
「ねえ、お姉ちゃん。そろそろ時間だよ?みんな待ってる」
「あら、そうね。それじゃ__さん、ご一緒出来て楽しかったです。また会いましょうね」
「え、ええ。また……」
私は呆気に取られて、奇妙な姉妹を見送った。