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ライル、雲のむこうに  作者: 伊藤 慎一郎
9/9

9 第三国とコンプリトル島

 4月24日6時10分、静かな朝を迎えていた。


 それもそうだ、街には人がいないし港への船の往来が全く無くコンプリトルは無人島みたいな状態になっている。しかし少ないが全く人がいない訳でもない、やっぱり働いている人達がいるのは完全に人がいなくなると、この島自体機能しなくなる恐れがあるからだ。


「ジェス、いよいよこの時が来たな、以外と早かった」


「うんライル、僕もいきなりで気持ちがまだ付いて来れていないよ」


「しかしタナーの手紙が無かったら準備すらしてなかっただろうな」


「そうだな、ゴーク国における総司令官の娘タナー」


「そのタナーだけど、俺は逆にその子が心配なんだ」


「そうだな、とりあえず様子見よう」





 7時00分

「出向開始!」


 イーサ指揮官の号令が空に響いた。


 乗組員達はロープを引っ張り巡らす、既にみんなの手は豆だらけで新しいロープの匂いも染み付いている。


 エルムの船首に取り付けられているオブジェはゴールドに輝き甲板もピカピカだ。追い風にも負けない馬力を持った船体を大きなボイラーエンジンで勢い良く回転させた。その船が水面を切り咲いていく、後には大きな波だけを残して進んでいく。


 先に見える海原は青く澄みきっていて空に浮かぶ入道雲が水面に映っている。


 最前線にいる沖の護衛艦エルムはライル、ジェス、ロージー、などが乗っていてその船はとても大きい船だ。


「イーサ指揮官、船の配置が完了しました」


 一等隊員が報告をすませた。


「両海岸も配置完了です」


「陸の監視及び大砲の人員配備、砲台のたまこめも完了です」





 10時05分

 ひたすら待つ船の中で乗組員が話す。


「何処から攻めてくるんだ?」


「何処からだろうか」


「まだ姿は見えてこないな」


「やっぱり嘘の情報じゃねーの」


「まあ、これも訓練と思えばそれはいいとしょう」





 10時25分

「来ないな、時間までだいぶ長く感じるよ」


 マストの上の監視棟から海を見回している者が退屈そうだった。


 ライルは甲板にいて持っている間に双眼鏡で山の方を見て丘の方にはマークとパーカーが見張りをしているのを確認すると、何かしているのに気づいた。


「うん? マーク達はなにやってんだ?」


 マークとパーカーは一生懸命に訓練場で習った手信号をやっていた。


「あっ、手信号だ!」


 それに気づいた瞬間、ライル達が乗っている船が大きく揺れ、同時に大きな爆発音が聞こえた。

「指揮官! 船体に第一派の攻撃を受けました、船内の弾薬庫に命中し被害が広がっています」

 新造された護衛鑑エルムは早くも敵の攻撃を受け、火災が起きていた。


「みんな下へ行き火を消せ!」


 ライルは攻撃に備えていたがその威力のすさまじさに顔が青ざめていた、なにせ今まで訓練場にいたしゴークの攻撃を受けたのを目の当たりにするのは初めてだった。


「なんだ、何処にいるんだ、何処から発射しているんだ」


 甲板にいる者は殆ど下へ行き、消化活動へ移った。


「我々の位置が先方に熟知されている、船をスライドさせる、面舵いっぱい、出力全開!」


 イーサ指揮官の指示が飛ぶ。


「面舵いっぱい、出力全開!」


 すると船が大きく傾き、乗っている者は床を転がった。そのせいでマストにある監視棟に登っていた人がバランスを崩し落下、甲板に叩きつけられた。

 ライルは手すりをしっかり持ちながら体を立て直して海を見回した。しかし周りの海には何もなく姿すら見えない、もう一度双眼鏡でマーク達がいる丘の方を確認した。


「やっぱり手信号をしている、なんていっているんだ? 丘の向こう側、いや違う、沖の島の向こう側。そうか、マーク達のいる丘の上からは敵が見えているんだ!」


 その時さらに大砲が撃ち込まれ船の脇から水柱が上がった、同時に音がなった。


「第二派の攻撃は損傷ありません!」


 船を動かしたお陰で直撃はまぬがれた。


 ライルは丘の上から見えている沖に浮かぶ小さな島の向こう側の方に、敵がいることを知りすぐに指揮官に伝えた。しかし島の向こう側と言うと距離がだいぶ離れていて普通の船の大砲が届く許容範囲を越えていた。


「イーサ指揮官、あの沖にある島の向こうです!」


「本当か! 良く気づいた」


 船は損傷したまま旋回して沖にある島の方へ進路をかえた。


「全速力前進!」


「全速力前進!」


勢い良く指揮官の声が響いた。



「二時の方向へ進み、迂回して島の裏側へ行く」


 本船は素早く沖へ出たがなかなか敵船からの攻撃は止まないまま、何とか直撃をまぬがれていた」

 ライルは不思議に思った。


「なぜ相手から本船が見えていないのにこっちの船の位置が分かるんだ?」


 ライルが双眼鏡を覗き島の周辺を確認しても相手の姿は全く見えない、ただその向こうから攻撃しているという事しか分かってない、ライルは船の周りにいそうな敵を全方角見回したがそれでも分からない。その時砲弾がまた当たり船が大きく揺れる。

 ライルは双眼鏡を両手で持っていたため背中から倒れ、辛うじて手を突いたがそのまま仰向け状態となった。そして空を見上げると、あることに気づく。


「鳥。いやゴーク国の飛行機、もしかすると上空から何かの方法で下の船に情報を伝達して我々の船の位置を正確に知らせているのではないのか?」


 護衛鑑が沖にある島の裏側まで近づいた時、また船は大きく揺れ今度は連続して攻撃を受けた。だが島の裏にいるはずの敵船の姿がそこには無かった、敵は島の岩場に簡易的な大きな砲台を備え付け、それに飛行機からの情報を基に攻撃していた。

 その砲台を動かしていた敵国の兵はこちらの護衛艦の姿を見るなり慌てて逃げ出していった。しかし次の瞬間本船の反対側の船体が一気に複数の攻撃を受けた。船は半分大破し今までにない破壊力だった。その方向を見ると既に島のある反対側には敵国の艦隊を組んだ軍艦があったのが見えていた。


「あっ! 敵の船がいたぞー!」


 更にまた大砲の攻撃を次々ともらった。


「撃て、攻撃部隊はなにをやっている」


イーサ指揮官の号令を反して本船の攻撃は沈黙している、既に下の大砲の層がすべてやられていて、もうこの船機能的に敵船に向けて発射する事は出来なくなっていた。


「甲板砲台に移れ!」


「砲台用意!」


 ライル達は甲板の上部に備え付けられた砲台からの発射を試みる。


「方向仰角34度、北北西右21度、目標セット」


「撃て!」


 本船から発射された玉は敵の艦隊の一番手前の船に命中。


「おおっ!」


 ここからでも敵船のマストが折れていくのが見える。


「やったな、もう一度発射だな」


 続いてイーサ指揮官の発射命令が出る。


「発射準備」


 ライル達は発射準備の作業で気を取られていたが、少しずつ船の傾きが大きくなっていることに気づいた。


「この船沈んでいる、沈没するぞ!」


「よし撃て!」


大砲は発射したが傾きだし不安定になっている、船からはもう大砲を命中させる事は出来なかった。


 そうしているうちに艦隊の中の一隻がこちらに接近してきた。


「エンジン全開、全速力前進!」


「駄目です! 炎室が浸水しています」


 ライルの顔は青ざめていた。


「くそーっ、ここで終わりか。全くはがたたない」


 だんだんと一隻の敵船が近づいてきているが護衛艦は船内に海水が進入してきていて身動き一つとれない。敵船は止まるような様子を見せない位の速度で接近し、ついに護衛艦の横に体当たりした。


 その衝撃で乗員は海へ投げ出された。イーサ指揮官も階段から落ちて甲板に叩きつけられた。ライルは板張りの床を転げて手摺りの所で引っかかったが、更にライルの所に大きな樽が追い打ちをたてるように転がってきて、危機一髪でそれを避けたが手摺りは転がってきた樽によって壊れて、そのぶら下がった手摺りにライルは捕まっていた。でも半分沈没しかけた船で手摺りに捕まっていても足は海に浸かっていた。


「いてててっ、早く上がらないと」


 ライルはゆっくりと船の上へ戻ろうとするとイーサ指揮官らが捕らえられているのが見えた、ライルは見つからないようにその様子を見ていると、イーサ指揮官がライルに気づき、目で逃げるように指示した。


「くっそー、みんな捕まってしまうのか」


 ライルは船を下り見つからないように水面を泳ぎ、港へ戻った。近くには同じく泳いで戻る者もがいた、ロージーだ。


「おーい、ロージーも逃げ切れたんだな」


「ライル! 無事だったんだな、俺はさっきそのまま海へ投げ出されたんだ、その隙を見てな」


「そうだったのか、他のみんなは?」


「たぶん捕まっている、早く戻って第二の護衛艦ホープで指揮官を救出しにいかないと」


「わかった、急ごう」


 二人はもう一つの港に待機してある護衛艦を目指して泳いだ。


 その頃イーサ指揮官は捕まり戦艦にゴークの小型高級船が到着、指揮官の前にゴークのワーク司令官が初めて姿を見せた。


「ご機嫌は如何かな、イーサ指揮官、私はゴーク国の軍事司令官だ、もっと上部の者と話をしたいのだが」


「話だと? 貴様、何のつもりで唐突に攻撃をしかけた」


「勘違いしないで欲しいこれは戦争ではない、私たちゴーク国の存在を示すパフォーマンスだ」


「パフォーマンス? ふざけたこと言うんじゃない、人が沢山死んでいるのだ、どういうつもりだ」


「それは仕方がない、そうでもないと説得力が出ないからな」


「何が目的だ!」


「率直に言おう、この島を開け渡せ。今日からこの島は我々が管理支配する。合意を受け入れれば今すぐ攻撃を中止する、なあに悪いようにはならないさ」


「おまえ達のような汚れた奴らにこの島に入る資格はない」


「イーサ指揮官、我々は今あなたを指揮官司令部として交渉をしているのだ、あなたは今の状況における立場を分かっていない」


「私はどうなっても構わない好きにするといいさ、私にこの島の運命を決める権限はないが今回の戦いの指揮は私がとっている」


「いい度胸だ、こちらも手段を選ばず続行する、この指揮官を連行しろ」


 丘の上ではマークとパーカーが沖の状況を心配そうに見ていた、しかし出番がなかった。


「俺たちはここで見張っているだけで終わりそうだな」


「なにも出来ないまま僕らはここにいていいの?」


「てっきりライルが武器を調達してくれるのかと思ったのだがな」


「あっ、護衛艦が沈むよ」


 ライル達が乗っていた第一の船エルムが沈んでいく。


 その頃ライルとロージーは第二の船ホープにたどり付いていた。


「大丈夫か、みんな、ライル達を引き上げろ」


 やられた船から引き上げてきた者達は第二の船ホープの者達に引き上げられた。


 ライル達はエルムの船の状況報告をした。


「艦長、第一の船エルムは沈み、イーサ指揮官は敵に捕らわれてしまいました」


「うむ、聞いている。しかし次に本艦は慎重に行動しないといけない」


「そうですね、それに指揮官を救出しないと」


「分かっている、それでは君らは引き続き準備に取りかかってくれ」


「はい」


 ライルとロージー、他の者達は休む間もなくすぐに動いた。


「釜をたぎらせろ、大砲に玉込め準備、砲台には発砲準備、すぐに出発だ」


 ライルとロージーは艦長室に呼ばれた。


「君らは相手の艦隊の位置はもう分かるよな、本鑑はすぐに発砲し、沈没した場所まで移動する」


 第二の護衛艦ホープは煙を上げ、すぐに動き出して同時に艦隊の場所へ大砲を打ち込むと、その衝撃で油断していた敵艦隊はかなりの打撃を受けて、すぐさま敵軍は反撃を開始した。その攻撃が第二の船ホープを直撃、攻撃は艦長室を破壊し艦長は大けがを負った。


「くそーやっぱりあの偵察飛行部隊が場所や行動を見張っている限り玉の直撃は免れない」


 ライルは上空を確認しょうと思ったが双眼鏡をどこかに落としていた。


「ライル、なにやっているんだ、次の攻撃が来るぞ、衝撃に備えろ」


「まて、先に上空の飛行機を撃墜しないといけない」


「上空の? 飛行機?」


「そうなんだ、あれが僕たちの位置を敵艦隊に送っているんだ」


「よしわかった。上空に向けて発射準備」


「撃て!」


 大砲の弾は空に向けて発射したが命中しないのでまた次の大砲を発射した。


「撃て!」


 また的は外れた、それは飛行物体の位置が特定出来ないからだ。


「あまり時間がない」


 本船の大砲は次の発射に時間がかかり、準備出来るまで攻撃の衝撃に備えてライルは柱に捕まっていた、するとポケットに何か入れていた事に気づいた、あのゴークの使えない六文儀だった。


「皮肉にもこれを作った敵がすぐそこにいるしこの国を滅ぼされようとしている、そして使えない六文儀。ん? これ望遠鏡の代わりになるんだったな」


 ライルは上空の飛行物体がなん機飛んでいるのかそれで確認する。


「ピントがなかなか合わないな、また錆び付いて要るのか」


 ライルはそれが何の機械なのか気づいた。


「わかったぞ、これは壊れているのじゃなくて、飛行機の位置、高度が特定出来る道具なんだ。実際は飛行機から下に向けて使用し、敵の場所を計算出来る道具だったんだ」


 すぐにその飛行物体の高度と位置をその道具で特定し、計算を出して大砲の撃つ角度と火薬の量を調整した。


「よし、今度は確実に狙いを定めろ」


「撃て!」


 弾は見事に一つの飛行物体に命中、飛行機はその機能を失い落ちてきた。


「おお、やったぞー」


「甲板から閑静が上がった」


 ゴークの司令官が感心した。


「この島もなかなかやるな」


 ライル達の船はすぐに大砲の準備に取りかかり船を走り出せた。しかし艦長室はやられていて指揮する者は重傷で誰も動けなかった。


「なあライル、お前の出番がきたな」


「ロージー、君がまとめていきなよ」


「今更何を言っているのだ? 俺もいずれは皆を引っ張って行きたいと思っていた、しかしライルの行動は予想よりも上を行くし、今は頼もしく思えるよ。だからお前が行け。あとは俺がサポートする」


 周りの隊員もライルに任せると言うロージーの言葉に賛同した。


「わかった」


 ゆっくり頷いた。


「それではよろしくたのむ、本船全速力前進、指揮官救出に向かう」


「イェッサー」


 みんなの声が初めてそろった。


 第二の護衛艦ホープはライルの指揮のもと捕らえられている船に全力で向かう。


 第二の護衛鑑ホープからは敵の位置を予測して本船から見えないまま敵艦隊へ総攻撃を開始した。

 発射された大砲は次々と敵船艦隊に命中し、敵艦隊の中には制御不能になる船もあった。


「艦隊は何をやっている、」


 ゴークの司令官は少し焦りを見せる


「よし、捕虜らを連れ出せ、乗員は皆甲板に出ろ、船を動かせ」


 その時だった、そのゴークの船は大きく揺れ捕らえられたものも船の隊員も皆床に転げた。


 その衝撃に慌てているワーク司令官は左肩を柱にぶつけて痛めていた。


「何事だ、攻撃を受けたのか? こっちには捕虜がいるのだぞ! すぐ報告しろ」


「司令官、もう一つの護衛鑑が本船に突進して激突させられました」


「なに!」

 ライル達が乗った護衛艦がこの敵船に衝突させていたのだった。衝撃のタイミングで捕まっていた者が何人か逃げだして、上へ出ていき、敵船はその衝撃により少しずつだったが船内に海水が進入していた。


 ゴークのワーク司令官が肩を押さえ甲板に出ると、そこには敵国の兵士と護衛艦の兵士が接近戦で皆戦っていてライルもその中にいた。


「なんと言う事をしてくれるのだ、しかもこの船は艦長室が吹っ飛んでいるではないか」


 お互い二隻の甲板は敵味方の戦いで大勢がやったりやられたりして、沢山の兵士が横たわり死亡者も出ていた。


 その時ワーク司令官が発砲した空砲の銃声が響いた。


「やめろ、兵士も手を出すな。既に護衛艦の兵士の運命は決まっている」


 双方は一旦戦いをやめた。


「ゴーク国の司令官、イーサ指揮官を解放して下さい」


 ライルの声が響いた。


「なんだ、この小僧は、分かっているのか? 君らはもう確保されているし奥の艦隊の軍艦はまだ機能しているよ、君たちは動けば動くほど君らの兵士は死んで行くんだ」


「僕らはまだ動く事もできます、だが逃げる事はしません、必ずチャンスがあるから」


 ライルはゴーク製の六文儀をポケットから出した。


「なに! なるほど、それで飛行部隊を撃墜出来たのか。それを何処で手に入れた、それもかなり古い物を、しかしまあここまで来れたのは認めよう、だがこの船の大砲はもう使えまい、そして君の島の砲台は皆襲撃してあり、使うことが出来ないよ、さあどうする」


 周りには敵も味方も武器を持って構えていた。


 ゴーク国の司令官は銃をライルに向けた。


「クソー! ここまでか、マーク達は丘の上だし他の皆は動けない。それに後ろの艦隊に包囲されているしどうしたらいいんだ」


「怖くないのかね、当たると一瞬だ」


 司令官はライルに銃を向けたまま近づいていく。


「怖くはないよ、気持ちは皆も同じだから、それに俺が死んでもこの島の誰かがまた前へ出る」


「ほう、この国は皆君のように命知らずの者ばかりかね」


「この島は俺が、いや俺たちが守る」


「そうだいいぞ!」


 ロージーが勇気付けるようにいった。


「ライル、やれー」


「こっちは丸腰なんだ、銃を向けるなんて卑怯だぞ!」


「そうだそうだ」


 周りの護衛艦の隊員らがワーク司令官にやじをとばした。


「ふっふっふっ」


 司令官は銃でライルの足元に発砲する。だけどライルは微動駄にしない。


「その小僧を捕らえろ!」


 周りの敵の兵士が一斉にライルを捕まえた。しかしライルはもがき兵士をふりはらい、そして兵士の銃を奪って司令官に向けた。司令官はすぐにまた銃を向け直し、同時にライルにいくつもの銃口が向けられた。ライルの目は既に血走っていた。


 その時だった。敵の兵士達の中から声がした。


「もうやめて、もう争うのはやめて!」


 一人の敵の兵士がライルの前に出て、司令官の前に立ちはだかった、みんなの動きが止まった。


「なんだ、あれは誰だ?」


 周りがざわつく。


「もうこんな事は終わりにして! さもないと私はライルと命をともにするわ」


 司令官はその兵士が目の前にくると、目を疑った。


 その兵士は帽子を取り、軍服を脱いだ。


 ライルは驚いた。


「タナー、タナーじゃないか、どうして」


 タナーの服装は黄色いワンピースに変わり、この戦場に非常識とも言える格好だった。


 司令官は銃を下ろさないままタナーの向こう側にいるライルをまだ狙っている。


「タナー、いつの間に乗っていたのだ。どいてくれタナー、お前の守るべきものは他にも沢山ある、やめるのだ」


「私はここから動かない。お父さんがこの戦いをやめない限り」


「お父さん? この人が……」


 ライルも含めて驚いた。


「タナー、こんな事をしてもなにもならないよ、この戦いは既に我らの勝利が決まっている。ゴーク国はここの島国とは規模が違うのだし、私たちの文明には到底勝てない、わかるだろ」




「そういうのを言っていない、私はこの島に初めて来た時からとても美しい島だと思ったわ、空気は澄んでいて太陽は輝き、山は草木がおいしげ作物を育て、海はこの島の地形が生態系を呼び寄せ命を育む、全く汚れていない昔の自然形態を維持していて、私の国とは全く違う。それだけではないわ、ここに住む人々は今まで皆助けあってここまで島を繁栄させてきたのだわ、歴史からすると苦しく貧しい時代もあったでしょう、それでもその人たちが楽しみを持ち、悲しみも苦しみも乗り越えてきたのだわ、そんな人たちの島を一瞬にして滅ぼそうなんて酷すぎる」




「タナー、これは国のミッションなのだ、私たちはやるべき事を遂行しなければならない、タナーわかってくれ」


 この緊迫した状態で、敵の兵士が駆け寄ってきた。


「司令官、この我が艦はさっきの衝撃で少しずつではありますが浸水しています、その浸水速度は加速していきやがて沈没します、早急に退避願います。」


「うむ、仕方がない、捕虜をそのまま船にくくりつけ、奥の艦隊をこちらに呼び寄せろ、私は自分の船で行く、いいな」


ライルはタナーのお陰で撃たれる事を避けられた、しかし指揮官の救出する任務は果たせていない。

「タナー、来い。この船に乗るのだ」


 司令官はタナーの腕を引っ張りあげ、船につれていかれた。


「クソー、こんな時はどうすればいいんだ」


 ライルは動けないまま、そして司令官がタナーをつれてボートに乗り込もうとした時、どこからともなく大砲の弾が司令官のボートを直撃した。


「なに、何処からねらっているのだ?」


 司令官のボートはあっと言う間に海の底に沈んだ。


「おい、島の砲台はすべて破壊したのではなかったのか?」


「はい、すべての攻撃施設は消滅しております」


「ではなぜ弾が飛んでくるのだ!」


「いえ、それは。今すぐに確認します」


「時間がない、早く艦隊をここに呼び寄せろ、この船は沈むぞ」


「はっつ!」


  その時また続けて弾が飛んできた、その弾は艦隊めがけて攻撃し、すべて命中。艦隊の船の動力部分を直撃した。


 ライルは何処からか助けの船がやってきたと思ったが船は周りに見当たらない。この島の巡視艇や他の護衛艦はすべて沈黙、おまけに大砲の威力が強く、次々と飛んでくる大砲の弾は艦隊の機能を停止させるほどだった。中には浸水する船が出てきた。


「司令官、発砲場所が判明しました。我が備え付けた島の裏の特設大砲を何者かが操っているようです」


 ライルは先ほど僕たちを攻撃した大砲の場所をスコープで見た。


「マークとパーカー、それにポブじいさんまで!」


 それはマーク達が敵から砲台を奪い攻撃していた。島の横にはポブの漁船が見えていた。


 司令官はマーク達に気づいた。


「くそー、あのじいさんはここにいたのか、早くあそこを攻撃しろ!」


「だめです、我々の船はみな致命傷になる所を打ち抜かれ、攻撃は不能です」


 その島ではマークとパーカーが交互に弾を込めている、そしてポブじいさんが目標を指示していた。


「この際、めちゃくちゃにやってしまおうぜ」


「僕たちがやっと役に立つ時がきたね」


「そうだな、この船の設計内部の図面を見ながらだったら、一発で相手の船を止める事ができるな」


「そうだよね、さすがライルのお父さんだ、いきなりこの図面をもって行けって言うんだもんな。はじめはいみが分からなかったけど。ライルに似て、船の構造は完璧だ」


「しゃべっていないで手を動かすのじゃよ」


「はい!」


 マークらの攻撃が艦隊に向けて次々と発射していた。


「あいつら、やるな、いつのまに島に移動したんだ?」


 ライルが見ていた。


「司令官、艦隊の一隻の甲板砲台が発砲可能です」


「よしすぐ攻撃しろ」


「目標、特設砲台ゾーン一帯。発射!」


 島のマーク達のいるところが砲撃で一瞬にして破壊された。


「ああっ、マーク達が」


 ライル、ジェス、ロージーそれとヒートとピート、皆が見ていた。


「大変だ、皆助けに行くぞー!」


「おー!」


「まて! お前達動くな」


 その言葉と同時に司令官の拳銃の弾が床に発砲された。肩に力が入っている司令官の様子を見たライルが言う。


「司令官、僕たちはゴーク国の攻撃力はとてもかなわない、しかし僕たちの奇跡によってここまで戦って来た。文明で勝てても本当の戦いでは勝利出来ない」


「なに!」


 捕らえられていたイーサ指揮官はライル達の兵士が縄を解いていてワーク司令官の横まであるみより、そして言った。


「あなたはもう指揮する立場ではない、足下をみろ」


 ゴークの船は浸水して、司令官の足元まで水がせまって来ていた、更に司令官の船は既に沈没し、艦隊の船はさっきの攻撃で動けない状態まで陥っていた。


「ううっ、なんでこんな奴らに負けるのだ、不覚だった」


「あなたは戦艦の数や装備で自信を持っていたが、それ故にそこに隙があったのだ。乗組員兵士も同じで機会に頼りすぎていたはずだ」


 司令官と兵士の乗った船はもう殆どが水に浸かって兵士は海に浮いていた、そして司令官は全身まで水に浸かったまま僕たちを見ていた。


「戦争はもう終わりです!」


 その時にライルが一言いって司令官に手を伸ばした。


「なにをしているのだ、俺は今攻撃をしてきた敵の一人だぞ、なぜ助ける?」


「僕たちは殺しはやらないので」


 ライルが沈没する寸前の船から司令官を引き上げた。続いて敵の兵士も次々と引き上げられた。


「よし今度こそは行くぞ、この船を沖の島へ付ける、全速前進!」


 ライル達の船は司令官も乗せて島へ向かった。


「さっきの攻撃でやられたのか?」


 船は島へ近づいて行くがマーク達の姿が見えない。砲撃された砲台設備は跡形もなかった。


「マーク、今度は本当に死んでしまったのか?」


 船は近く迄行き、ライル達は岩場まで泳いで行った。そこには砲台の首が吹き飛んで転がっている。皆は急いでその部品をどかす。


「タイミングを合わせるんだ、せーの!」


 その砲台の首をみんなで持ち上げるとマーク達がいた、三人ともそこに倒れていた。


「マーク、パーカー、ポブじいさん!」


 みんなの声が響くと、三人は気がついた。


「おおーライル。やっぱりこの砲台は頑丈に出来ていたよ」


 ライルは三人の無事を確認するとすぐに船へ合図を送った。


「やったぞー! 生きていた」


船のイーサ指揮官をはじめ、他の者達も心から喜んだ。


司令官が小さな声でつぶやく。


「この国の団結力はすごい」


タナーが心の中で言った。 


「やったわね、ライル」


 ライルはマーク、パーカー、ポブおじさんをつれて船へ戻るとポブじいさんがワーク司令官に語りかける。


「久しぶりじゃの司令官殿」


「君が我が国を逃亡するとは疑問に思っていたが、その意味が今分かったような気がするよ」


「わしはこの島に来て気づいたのじゃ、この国の若者は未来に希望を持っている、それに比べるとゴーク国の文明は進んでいるが、あんたらの考えが古いために若者が成長しない、もうあんたの時代は終わったのじゃよ」


 ワーク司令官はコンプリトルの若者の一人であるライルに言った。


「君はライルと言うのかね、この国から選ばれた者なのか?」


「いえ、違います、僕らはただの訓練を終えたばかりの船乗りです」


「船乗りか。君に一つだけ伝えておこう。君の言う通り当初の予定は兵器の爆発実験場を作る予定だったが、この島の周辺を調査していくうちに、この海域周辺で石油が出ることが分かった」


「石油? 石炭の事ですか」


「石油は石炭に変わる新時代の液体燃料だ、石炭と比べものにならない位の熱量を発揮する。それは今後の世界を支えていく次世代のエネルギーになるだろう」


「エネルギーの開発を?」



「そうだ、我らの目的は石油の採掘計画へと変わっていた。しかし君らにその情報を教えるとするよ。私はこのまま国に帰ると位を外されるか最悪は処刑されるだろう。だから君にはこれから君の仲間と開発を進めていく権利がある。それはこの世界にとっての義務でもあり責任でもある。これからは君たちのような若く希望を持った者が進めて行くべきだな」



「え、でも僕にはその責任は重すぎます」


「責任には重いも軽いもない、君は飛行機にも詳しいみたいだな、我が国の飛行機を観察し好きなだけ航空技術を学ぶといい」


「やったなーライル」


「これで自転車でも追突することがなくなるな」


 よこでマークとパーカーが頷いた。


「うるさいなー」


 ゴーク国の兵士は自分の国へ戻って行った。


 その後三人はそれぞれの仕事に戻った。マークは海軍護衛の賞を貰い賞金の代わりに新しいパン屋の店を新築してもらいポブじいさんも同じ新しい漁船を新造。パーカーは目指していた目標にブレは無く島の入港や出港をサポートする管制塔の管制官として働くようになった。

 そしてライルはというと海軍技術部に配属となり、幹部候補の位置に着くがすぐに幹部へと昇格する。また航空開発部を立ち上げ飛行機を研究することとなる。






 ある所にコンプリトルとは違いもっと南にある国でゴーク国とも違う。そこは海のそばにある家の庭でコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる老人のおじいさんとおばあさんがいた。その記事は先日のコンプリトルの記事だった。


「近頃の若いものはすごいな、ゴークに立ち向かうとは」


「何の記事ですかおじいさん」


「いや、遠い異国の話だよ。わしに孫がいたなら丁度このくらいの年齢だろう」


「そうかもしれないわね、でもあなた昔の名前があったわよね、何だったかな……」


「昔の事は全部忘れてしまったよ」


 その家の窓には、使えない六文儀が置いてあった。



近日 クラウス車の記憶を更新予定!

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