友実からの着信
ピピピピピ…… ………
敦志のスマートフォンのアラームが鳴る。
時刻は5時半、まだまだ外は真っ暗だ。
スヌーズ解除の為に画面を睨むが、焦点が合わずにボヤけていて、中々解除出来ない。
昨日から調子の悪い友実を起こさないように、慌てて電源ボタンを押す。スヌーズ解除は後でやれば良い。
敦志はノッソリと起き上がると、ふらふらとした足取りでトイレに向かう。 コーヒー好きの敦志にとって、就寝前のコーヒーと朝のトイレはセットなのだ。
起きると同時に限界を迎えている膀胱を空っぽにし、またふらふらとキッチンへと向かった。 テーブルの上には、ピザソースとチーズがたっぷりと盛られた食パンと、プチトマトが散りばめられたサラダ、カップにインスタントスープが、マグカップにはインスタントコーヒーがそれぞれ刺さって居た。
これらは毎日、午前3時に友実が敦志の昼食用の弁当と一緒に用意しているのだ。調子の悪い時の友実は、昼夜逆転してしまうのだ。
お腹いっぱいになった敦志は、また寝室へと戻る。
今度は作業着への着替えだ。 友実を起こさぬようにコソコソと着替えていたのだが、ベルトのカチャカチャ音で友実が目を覚ます………。
「おはよう…。ん〜…やっぱりお腹の調子が悪いみたい…。」下した感じも無ければ、虫垂炎のような鈍痛も無い。だが、違和感があるようだ。
「もしも悪くなるようなら、電話して!直ぐに帰るからさ。今日は定時だから、帰ったら病院に行ってみよう?」
敦志は自身の病状と友実の病状、共に理解ある社長のお陰で、時間の融通はしてもらい易い。
「それじゃ、何かあったら電話してね!お弁当ありがとう。いってきまぁ〜す!」
ベッドの中、布団に丸々友実を残し、大通りに続く下り坂を目指し、駆け足でバイクを押して行く。
排気音の煩いバイクだから住宅街は押して行くのだが、敦志はまるで鈴鹿8耐のスタートのように、全力で駆けていく。毎日の通勤はレースなのだ。
午前10時を回った頃、中休みの為に詰所に戻った敦志は、同僚達と談笑していた。頭の隅では友実の体調を気に掛けていたが、何かあれば電話が鳴るはず。
虫の知らせとでも言おうか、ふと友実の事を考えたその時、敦志のスマホが鳴り響く。
[友ちゃん]と表示される画面を見つめ、仕事もひと段落しているし、早退して病院に連れて行こうかと考える。
「もしもし友ちゃん?だいじょ……」敦志の応答を掻き消すように、違う声がスマホから聞こえる。
「もしもし、敦志ちゃん?今大丈夫??」
義母の声だった………。