ヴァージニア教国の願い
「つまり、世界を救ってほしいというのは魔王というやつを完全に倒せということなのか?」
「はい、平たく言えばそうです。」
マリアム大司祭の話を聞いた桜木校長は額を抑えた。倒す。それはつまり魔王を殺してほしいということ。しかも、話を聞いた限りその魔王は元人間。桜木校長は心の中で全力で断りたいと思っていた。
(学生たちにそんなことをさせるか!!!仮に私や他の教師にとどめをさすことにしても、それでも学生たちを戦場に行かさなければならないというのか!?士官学校の教官はともかく普通の学校の教師がそんなことやって許せるものか!!!)
桜木校長は最初に話を聞こうと思ったときに確かに覚悟を決めたがはっきり言われた今、やはりイヤな気持ちになっていた。この依頼は彼女の信条に反している。だが、状況は状況であった。知らない世界に飛ばされた今学生たちの安全を確保するためにこの世界の人間に頼るしかなかった。
「一つ聞いても…?」
「ええ、何でも聞いてください。」
「なぜ私たちがその魔王を倒せると思っている?」
「それは、ごめんなさい。実は私たちもその確信が持っていません。」
「は?」
「貴方達をこの世界に召喚したお方、サモン殿は召喚士であらゆるところからあらゆるものを自分の居場所に引き寄せる能力の持ち主でした。彼はこのままはいけないと、魔王をただ封印するだけだといずれ魔王は街の結界も破れる力を得てしまうと、いつも仰っていました。ですが、彼の言うことを聞いてくれる人はとても少なかった。この世界の誰もが倒せなかったら他の世界から召喚すればいい。いつしか彼はその発想に至り、自分の能力を限界まで発動させるために彼はこの地下室に引きこもって神に祈り続けていました。その結果は貴方達です。勝手なことだとわかっていますが、サモン殿の思いが報われるためにも私たちは貴方達が魔王を倒せるだと期待しています。」
「…なるほどね。」
召喚士サモン・ショーン。彼の強い思いは彼の最期を見ていたときにわかっていた。彼は彼の信念で動いていたのだろう。その思いを尊重できるが、桜木校長もまた自分の信念を持っている。それは教育者としての信念であった。が
「私達の大半は戦いを知らない一般人だ。魔物となんて戦ったことがなかった。力もない。一体どうやって戦えと言うのですか?」
「召喚士が召喚したものにこの世界のご加護が与えられてはずです。そして、召喚士のレベルが高ければ高いほど、召喚されたもののステータスも高いのです。」
「それはどうやって分かるんだい?」
「簡単です。'ステータス'と詠めば自分のステータス表が現れます。」
桜木校長は半信半疑で「'ステータス'」と呟いた。
そして、テレビ画面みたいな表示が飛び出した。その中に書いてあったのは桜木校長の名前、年齢、性別、職業、HPとMPと身体神経に関わる事項とそれらを評価しているような数字、そして能力のリスト。
「これは…」
「どうやら見れましたね。」
「貴方にはこらが見えないのか?」
「自分のステータスは自分しか見れません。」
「そうか…」
桜木校長は再び自分のステータス表示に目を落とした。職業のところを確認すると彼女は悔しがった。そこには'アドバイザー'と書かれていた。
(確かに自分は教師でその仕事に対して誇りを持っているが、今はそれが必要ないんだよ!)
桜木校長は自分が戦闘系の職業がほしかった。そうでないと、自分の手で魔王を倒すどころか戦場に立てることすら出来ないからだ。
「参考のために、ステータスの数字はどれぐらいが普通なんだい?」
「そうですね…基本ステータスの
平均数字が100〜300は普通の戦闘系のレベルです。高いレベルの戦闘系は300〜750で、上昇した戦闘系は750〜1150です。そして、ただ僅かな人しか辿ることは出来なかったが、高いレベルの上昇した戦闘系は1150〜5000です。」
桜木校長は自分のステータスの平均数字を見た。75。完全に戦力外だった。どうする?と桜木校長が悩んでいるそのときに、
「俺のステータスの平均、417なんだが、レベル1なのにそれ凄くねえか?」
「ヤバ!職業が騎士とかカッケー!」
「良かった!私は戦闘系ではないんだ。これで安全なところにいられる。」
後ろから、生徒たちの声が聞こえた。説明を聞いていた後にそれぞれが自分で試したのだろう。それはいいが、せっかく他人に見えないのにそんな大声で情報を漏らしたら今後の話が厄介になる。そう思った桜木校長が生徒たちを止めようとしたが、国のお偉い方の話の途中に背を向かわせて自分側の人間に話しかけるのは失礼に当たる。生き残るためにその国に頼る側としてそれはできない。桜木校長は一瞬躊躇った。が、その直後に、
「静かにしろ!!」
桜木校長の代わりに叱ってやる。そう言わんばかりに、彼は彼女が躊躇った一瞬の間もなくに生徒たちに注意した。彼、富士村強一は厳しい顔で他の生徒たちに向いていた。
「今校長先生と大司祭が話している途中だ。私語は失礼だぞ。桜ヶ丘高校の名に恥をかかせるな。わかったなら黙って何もせずに話を聞いていろ。」
「風紀委員長…」
風紀委員長。生徒たちが校則を違った時や何かのトラブルを起こしたとき、つまり桜ヶ丘高校の生徒が風紀を乱していたときに同じ生徒として正すのが仕事、同じ生徒なのに他の生徒の自由を抑止するもの。特に富士村は厳しくて容赦がなく、喧嘩に関しても喧嘩番長の原田と敵対だと生徒たちの間に知られていた。だから彼はほとんどの生徒に怖がられて、その一部に嫌われていた。だからなのか、
「チッ。さっきは意味なく跳んで自分自身を辱めていたくせに。ステータスが低いんじゃないか?」
この世界に来て力を得たと思い込んだ一人の生徒は今までの恨みを返すチャンスだ思い、富士村をばかにした。富士村は視線を生徒全体に向いているままその発言を無視したが彼の隣にいた学生帽をかぶった生徒、原田仁は発言した生徒に向かおうとした。が、原田は一歩後ろにいた大柄な男子生徒、寺島樹に止められた。二人がお互いの目を見て一秒、原田の方が下がった。そして寺島はとある女子生徒に向かって合図を送った。女子生徒は頷き、話しだした。
「皆さん、私からもお願いします。興奮する気持ちはわかります。ですがこの話は私達の今後を決める話でもある。だから、今は皆で一緒に聞きましょう。」
「……会長がそういうなら、」
女子生徒、谷川風華生徒会長のフォローの言葉で場は収まった。生徒たちは静かになった。
「皆、ありがとう。」
ヴァージニア教国の者たちはその一連の出来事をただ見守っていた。向こう側の人間が何か大事なことを言ったと気がしていたら、富士村の圧力と谷川のカリスマのパーフォーマンスにその気がかりは飛ばされた。そして、
「うちの生徒たちが騒ぎ出してすまなかった。」
その一言に彼らの注意は桜木校長に戻された。桜木校長は心の中に富士村たちに感謝して、話を進めることにした。
「そちらの事情と我々が呼ばれた理由はわかった。それでは、今度はこちらの要望を言う。」
読んでいただいてありがとうございました。
寺島樹はサモンが消えてゆくときに富士村の後ろに立っていたもう一人の男子生徒です。




