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幕間 : 男と英雄の朝

一月以上過ぎましたが、あけましておめでとうございます。

なかなか更新できなくて申し訳ありません。

よろしければ、また付き合ってくれれば嬉しいです。

それでは、どうぞ

山田の演説の翌日、朝日が昇る前、富士村は訓練所で一人竹刀を振るっていた。素振りの修業はファストフィリアにおいて身体的に意味がない。それでも富士村はこの世界に来たから一日もサボることはなかった。それは身体ではなく精神を鍛えるためだからであった。身体が理想の力を得ても、精神は半端な学生のまま。一日でもサボったら心が弱くなり、元の世界に帰った時にサボり癖ができてしまう。だから富士村は地球でやってきたことと同じように、毎朝、朝日が昇る前に一万回竹刀を振るう。

素振りが九千九百回に至ったところ、一人の男性生徒が訓練所にやってきた。


「おはようございます、富士村先輩」

「ああ、山門か」

「今日も竹刀を借りていただきます」

「勝手に取れ」

「はい」


生徒は訓練所の端に置いてある富士村の竹刀袋から一本の竹刀を取り出した。富士村の竹刀袋には基本竹刀が二本と木刀が一本入っていた。彼の名前は山門真守(やまとまもる)、風紀委員会の一員であり二年生。そして、富士村の実家である富士道場の元門下。彼は父の影響で入門して中学までは剣道部だったが高校の入学の時にとあるきっかけで剣の道を捨て、己で見つけた道を選んだ。門下の時代に良くしてくれた富士村からの恩を返すために、彼と同じ風紀委員になった。

だが、皮肉なことに、ファストフィリアに来て山門が得た職業(ジョブ)は剣士であった。一度捨てた道、一年間竹刀を持つことが一度もなかった。その間に腕だけではなく、精神が、心の剣が鈍くなっていた。元の兄弟子であり、今は当主となっていた富士村にどの面下げてと思いながらも指南をお願いした。富士村はその願いを断った。富士村曰く、


『この世界でお前に教えることは何もない。お前と同じ、この世界の初心者だからな。むしろ、お前の方が俺よりステータスが高い。だが、もしお前は自分が弱いと思っているのなら、竹刀(これ)でも振れ。言っておくがステータスが上がるわけじゃない。やるかやらないか、自分で決めろ』


山門は即答にやると決めた。富士村がそう言っている以上何らかの意味があると確信した。その意味はやってから自分で見つけろということだろうと山門は思った。そして、山門は言われた通りやって、すぐにその意味を見つけた。素振りをやることで自分の決心が固まることができた。素振りの最中、疲れもなく、手応えもなく、ただただしんどいと感じた。その度に、山門は自問していた。なぜ自分が竹刀を振るっているのだろう?何のために自分が剣を振るうのだろう?そう自問していた度に自答もしていた。だから山門は迷うことなく戦うことができた。それから彼は富士村と共に毎朝百回素振りをしてきた。その決心が鈍らなくならないために。

今日も山門は素振りしにやってきたのだろうと富士村は思った。が、竹刀をとってからの山門から出た言葉は想定外のものであった。


「富士村先輩、今日は稽古をつけていただけませんか?」

「何?」

「今なら力がありますよね」

「………」

「確かめたいことがあるんです。そして、先輩に伝えたいこともあります。どうか、宜しくお願いします」


そう言って山門は頭を下げた。そんな自分の後輩のお願いを聞いた富士村の答えは、


「時間がない」

「………」

「さっさと構えろ」

「…はい!」


その思いを受け止めることにした。

二人は特定の距離を取って向かい合い、中段の構えを取った。合図はない。お互いの準備ができたと分かったの同時に二人も踏み出しお互いの竹刀をぶつけさせた。


(受け流ししてない!本当に自分を取り戻せたんだな、富士村先輩!俺の腕力は770、大剣を持ち岩を壊せることもできた!なのに、押さえられる!)

「うぉオオオオオオオオ!!!」


山門はありったけの力で富士村の竹刀を跳ね返して、その反動に自分の竹刀も跳ね返った。山門はすぐに構えを立て直して、富士村は跳ね返された反動を利用し自分の身体を回して次の攻撃を撃った。立ち直った山門はすぐに反応しその攻撃を防いだ。が、富士村の攻撃は止まらなかった。嵐のように富士村はあらゆる角度から攻撃をしかけた。山門はただ防御するしかできなかった。魔族グリッドの二の舞にも見えるが、一つだけ違いがあった。山門は富士村の攻撃を受けながらも一歩も下がっていなかった。

攻撃の嵐の最後に間をあけて富士村は両手で上段の構えを取った。グリッドの剣を折れた技を富士村は山門にしかけた。山門はそれを正面から受け取った。二人の竹刀がぶつかった時、山門が立っている地面にヒビが入ったが、山門もその竹刀も健在だった。


「そういうことか」


異世界人の五人パーティーと二人の高レベル騎士を余裕で負かした魔族を剣もろともふっ飛ばした技が低レベルの一人の異世界人に止められた。普通に考えればありえないことだが、山門から出たオーラを見て富士村は納得した。山門はわずかながら魔力を使っていた。富士村は山門がまだ門下だった頃を思い出した。彼にも"殺気"を使う素質があった。大人の攻撃を受けても動かさず姿はまさしく山の如く、故に彼はこう呼ばれた、


「不動の山門、お前もこっちに来るか?」

「いきなり二つ名で呼ばないでください。正直言って恥ずかしいですよ、時代遅れの三人のバンカラが一人、武士の風紀委員長」

「時代遅れじゃねぇ、携帯電話ぐらい持ってる」

「それガラケー、ボタンで操作するやつですよね」

「ボタンがないとどうやって操作するんだ?」

「………」

「………」

「まあいいです。質問に戻って」


山門は構えを下ろして深呼吸したら魔力が消えた。高ぶった感情からではなく、ファストフィリアの神の掟を破ったからではなく、自分自身でコントロールしていた。それが、元の世界で"殺気"を使える証拠だと富士村は思った。


「答えは否です。一度捨てた道ですし今更だとも思いますが、俺はこのままで進みたいと思います」

「そうか」

「前から先輩に話したかったんですが、俺、高校に入ったとき好きな人ができました。あの人と一緒になるために剣の道を捨てた。理想の力、それを手に入れたらあの人と一緒にいられなくなると思いますから俺は要らないです。だから、」

「………」

「だから俺はあの人を守るため、それだけのために剣を振るいます!他の人たちは頭に入れられない…!入れるつもりはないです!卑劣だと思われようが、俺は……!」

「さっきから自分一人でぐちゃぐちゃと…、顔を上げろ!山門真守!」

「は、はい!」


自分でも知らないうちに、山門は途中で視線を下に向いていた。富士村に叱られ視線を前に戻した山門は富士村の厳しい目とあった。


「いいか、よく聞け。桜木先生は俺たちにそんな事を求めていねえ。自分で自分を守れればそれでいいんだ」

「でも先輩たちは……」

「俺とアイツらは自分の判断で勝手に進んだだけだ。だからお前は余計な事を考えるな。捨てた事を悔やむな。大切なものを守り通し、自分が決めた道を進め」

「………っ!」

「男を見せろ、山門。惚れた女は自分の手で守ってみせろ」

「はい、必ずや守り通して見せます」

「ならば良し。俺も少しは安心できる。稽古は終わりだ」

「ありがとうございました!!」


山門は礼をして富士村に竹刀を返した。富士村は竹刀をしまい、学ランを着ている中、山門は思い出したように富士村に質問した。


「富士村先輩は……何のために剣を振るうのですか?」

「お前と同じ、俺の大切なモンを守るためだ。他の理由はない」


では、先輩の大切なものはなんですか?と聞こうとした山門はホコリがある桜ヶ丘高校の学ランと風紀委員会の腕章を着こなしている富士村を見て言葉を飲み込み、他の言葉をかけた。


「先輩、頼りにしてます」

「ああ、お前もしっかりやれよ」


これが朝日に浴びられる男と英雄が交わした言葉であった。

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