始めての訓練、始めての模擬戦
昼前、訓練所、桜ヶ丘高校の者たちはそれぞれの職業によって別れてヴァージニア教国の上位戦闘系の者たちから訓練を受けていた。勇者の件で、ヴァージニア教国と桜ヶ丘高校両方共盛り上がって、桜木校長はマリアム大司祭に助けを申し込んで皆を抑えてやっと予定を進めることができた。
「では、剣使いの戦闘系はこちらに集まって下さい。」
そのお呼びに応じたのは剣士、騎士などの者たちであった。
「自己紹介しよう。私はヴァージニア教国の騎士、アレクシス・ショーンと言います。これからは貴方達の剣技の能力を鍛える人だ。よろしくお願いします。」
アレクシスは堂々と話したが桜ヶ丘高校の者たちの大半は彼女を怪しめる目で見ていた。なぜなら彼女はどう見ても若い。他の戦闘系の教官の中に他の女教官はいたが彼女程若くなかった。実際アレクシスはまだ19歳だった。一人の男教師が意を決して直球で彼女に聞いた。
「あの、本当に君が教えるのですか?すみませんが、他の教官の方と比べるとずいぶんと若いですので。」
「なるほど。疑問は分かります。ですが、ご安心下さい。私はちゃんと教えることができます。」
「そう言われましても…」
「もし、まだ疑っているのなら、こうしましょう。」
アレクシスは自分の後ろにいた大きな箱から一本の剣を取った。
「誰か私と模擬戦しましょう。それで私には貴方達を鍛える十分な力があることを証明出来るのでしょう。」
「それは…!いきなり真剣で…!?」
「そうですが、これは訓練用の剣で高い攻撃力を出せないように仕組めています。ですから、HPがいきなり大幅に減ることはないので安心して下さい。それに、木製の剣は所詮ただの剣もどきなので能力上げするには効率が悪いのです。ですから、今後の訓練にもこの訓練用の剣を使います。」
そう言われて、全員思い出した。ファストフィリアには痛みがない。つまり、真剣も木の剣も同じであった。それでもやはり、いきなり戦うのは戸惑っていた。それを見て、アレクシスはとある人物を指名することにした。
「勇者様。もしよろしければ、腕を貸してもらえませんか?」
「え、俺?」
勇者、真勇斗。調べたら彼はほぼすべての能力を用いていた。どの訓練を受けさせるかヴァージニア教国の者たちは迷っていたが、桜木校長の助言によってとりあえず最初は真の好きのような訓練を受けさせ、後日スケジュールを作ってもらうことになった。そして、真が最初に選んだのは剣の使い方を習うことであった。
いきなり呼ばれた真は躊躇っていたが、自分で選んだのだと思い、その勝負に上がろうとしたが、
「分かった。やりまーー」
「ちょっと待った。悪いが、俺にやらせてもらおうか。」
「貴方は…」
真を下がらせて申し出たのは富士村であった。
「それで構わないか?」
「…ええ」
少し残念そうなアレクシスだが、断る理由がなくその申し出を承知した。富士村は持っていた竹刀袋を同じく剣の訓練を受けることになった谷川に預かってもらって、用意された箱あら訓練用の剣を取ろうとした。
(西洋剣しかないのか…この世界には日本刀がないかもしれねぇな…ん?)「アレクシス殿、剣を触ったら何かステータスみたいな画面が出てきたが」
「それは武具のステータスです。それぞれの武具にそれぞれのステータスがあって、その武具を装備すると我々のステータスに加えるのです。武具のステータスはその武具を作った鍛冶屋のレベルと能力によります。我々も色々な武具を持っていますので実質的に魔物を狩ることになったらその時に皆様にそれぞれのレベルと能力に合う武具を選んでもらいます。ただ、訓練用の剣はすべて同じステータスを持っているので、今は適当に選んでもいいですよ。」
「なるほど」
アレクシスに言われた通り、富士村は適当に剣を取った。そして、アレクシスの前に立って躊躇えなくその剣を抜いた。まるで真剣を扱い慣れた歴戦の剣士のように、富士村は呼吸を整えて、ゆっくり構えて、目をアレクシスに集中した。
「準備は出来た。いつでも始めてくれ。」
アレクシスは異世界から喚ばれた者たちは戦いに慣れていない者たちだと聞いていた。だが、目の前の男はそうは見えていなかった。その落ち着きな態度、その揺るぎなく敵を見つめている目、彼は間違いなく戦いに慣れている人だとアレクシスは思った。
(だが、彼は勇者ではない。こんなところで怯む場合ではないのだ)
アレクシスは一瞬視線を真に向けて、そして富士村を応えるように自分が持っていた訓練用の剣を抜いて構えた。二人はしばらく睨み合っていた。合図を出す人はいない。お互い剣を抜いた時から勝負は始まった。後はお互いに仕掛けるタイミングを伺うだけだった。二人の勝負の緊張感が周りに移って、他の者は無言で勝負の行方を見守っていた。やがて、お互いに隙きがないと判断し、二人は同時に攻めに動いた。
「「はああああああ!!!」」
剣と剣がぶつかった。そこからは腕力の勝負になり、ステータスの低い富士村は押さえられていた。
「クッ、!」
完全に押さえて切られる前に富士村は逆に自分を押さえている力を利用して後ろに逃げた。構えを立て直そうとする富士村だが、
(逃がすか!)
勝負を急ぐアレクシスはそのチャンスを見逃しなく速いスピードで追ってきた。それを見た富士村は驚かず、むしろ想定通りと思っていた。だが、今回富士村はアレクシスの剣をまともに受けることなかった。'受け流し'。富士村は自分にかけられている力を流して自分の身体を上手く動かして彼女の背後に逃げた。アレクシスはバランスが崩されて富士村が横に通った時に彼の呟いた声が聞こえた気がした。「落ち着け」と。だが、その気のせいを振り払うようにアレクシスはすぐ身体のバランスを取り戻して振り向いた。その時に、今回は富士村の方が攻めに来た。あまり力がない攻撃でアレクシスは簡単にガード出来たが、攻撃を返そうとした時、富士村はすぐに逃げた。'ヒットアンドアウエー'。無理に攻めず危なくなったら逃げる戦法であった。
そこから、富士村は'受け流し'と'ヒットアンドアウエー'を繰り返した。モノトーンに見えたが、勝負を急いでいたアレクシスには有効な戦法であった。体力に余裕があったとしても、精神の疲れがどんどん現れてきた。
(なぜだ!?攻撃が全然入らない!ステータスの差が明らかなのに!クッ、こんなところで…!)
一瞬目をそらしたアレクシスに富士村がかかってきた。それを気づいたアレクシスはすぐ反応したがやはり富士村は深追いなく逃げた。流石にアレクシスは苛立ちになってきて、文句言葉を吐こうとしたが、富士村の目を見て気づいた。
(私、何を言おうとした?やる気あるのか、と?ちゃんとやれ、と?では、私はちゃんとやっているのか?彼は、フジムラ殿はちゃんと私を敵として見て勝負に挑んだ。最初からそう分かっていたではないか。でも、私は…焦っていた)
勝負の間に時々そらしたアレクシスの目。その先は勇者、真であった。そう、彼女は勇者の意味を神から聞いていた時から、彼が祖父が喚んでいた未来を変えるための代物を知ったから、ずっと真に気にかけていた。彼の実の価値を知りたかった。自分の使命を忘れて勝負を仕掛けて程に。今、目の前の敵をちゃんと見られず程に。
'落ち着け'
勝負の始めに気のせいで聞いた言葉は気のせいではなかった。彼は最初から自分の焦りを気づいて彼女を落ち着きさせようとしていた。冷えていく頭で考えたら今までの交わされた剣を通じてその思いがアレクシスに伝わってきた。
'落ち着け'。'前を見ろ'。'今お前の敵は俺だ'。'お前にはやるべきことがあるんだろ'。
(そうだ。その通りだ)
アレクシスは決意を固めて、深呼吸して、構え直した。今度、ちゃんと敵を見ていた。富士村もアレクシスの心変わりを感じ取って、いよいよ本当の勝負が始まると思っていた。二人はまた睨み合っていた。攻めに行くのはアレクシスであった。彼女の動きには焦りがなく真っ直ぐで速く、富士村に必殺な一撃にかかってきた。富士村は'受け流し'で払おうとしたが、途中でアレクシスの剣筋が変わった。今度こそ不意に取られた富士村、アレクシスは彼の剣を飛ばした。そして、
「…!参った」
剣を失った富士村にアレクシスは自分の剣を彼の首元に向けた。勝負はアレクシスの勝ちで終わった。それを見守っていた桜ヶ丘高校の生徒たちは一瞬言葉を失ったがやがて興奮した気持ちを叫びだした。
「うおおおお!すげえええ!」
「マジであの風紀委員長に勝ったんだ!」
「俺、やっぱりアレクシスさんに教えてもらいたい!」
生徒たちは素直にアレクシスの強さに憧れていた その中にも真の姿があった。一方教師陣は未だに信じがたいものを見ていた感じであった。その教師たちに富士村は一押しを入れた。
「先生方。見た通り、彼女には十分な強さを持っている。俺たちを指導する能力を十分持っている。それに、彼女は19歳だと聞いた。確かに先生方に比べればまだまだ若い。だが、彼女は生まれた時から騎士であった。つまり、彼女は騎士として19年の経験を用いている。立派な戦闘員のプロだ。俺たちにとやかく言う筋合いはないと俺はおもうが。」
「フジムラ殿…」
「う、うむ。確かに、富士村君の言った通りだ。アレクシスさん、先程の言葉は失礼しました。僕たちに是非剣の使い方を教え下さい。」
「い、いいえ。こちらこそ申し訳ありません。こんな力でねじ伏せたのような方法で。…やはり自分もまだ未熟なんです。貴方達を教えるのは恐れ多いですが、お互いに切磋琢磨していきましょう。」
「はい」
ようやく認め合うことが出来たアレクシスと桜ヶ丘高校の者たち。それを見届けた富士村はその場から去ろうとしたが、アレクシスは焦りながら彼を呼び止めた。一言だけ彼にどうしても伝えたかった。
「フジムラどの!あの、今回はありがとうございました!」
「…ああ。良い勝負ーーじゃなかった。勉強になった。これからもよろしく頼む。」
(違わない。本当に良い勝負でした。むしろ、こっちの方が色々勉強させてもらったんだ)
そう思っても、アレクシスは口に出せなかった。わざわざ彼がアレクシスが桜ヶ丘高校の者たちの教官としての立場を固まってもらったのにその思いを言葉にしたら彼のしたことが無駄になる。だが、この思いも彼は見透しただろうとアレクシスは思った。なぜなら、彼女に頭を下げて足を振り替えた後、彼は軽く手を振った。
「強一君、お疲れさま。」
富士村の竹刀袋を返しながら、谷川は彼にお礼の言葉をかけた。
「彼女が落ち着いて、普段な調子に戻ったようで良かったですね。」
「何のことか分からねぇな。俺今負けたから凹んでるんだ。コレを邪魔しないところに置いておくついでにちょっと見学席に行ってくる。」
「まったく。素直じゃないんだから。」
そして富士村は、さっきから見学席にアレクシスを心配の目で見ていた山田のところに向かった。
読んでいただいてありがとうございました。
最初のバトル回です。と言ってもただの模擬戦でしかも主人公負けました。(^_^;)
主人公の活躍に期待していた方には本当に申し訳ありません。m(_ _;)m




