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勇者、現れる

真勇斗(まことゆうと)、ジョブは勇者です。」


桜ヶ丘高校の者たちがファストフィリアに来たその翌日の朝、彼らは聖宮の近くにあった戦闘系の訓練場に集まっていた。ヴァージニア教国側はマリアム大司祭を始め、近衛騎士のアダム、騎士のアレクシス、そしていくつかの戦闘系と思わしき人たちもいた。誰が戦に出るか、つまり誰が戦闘系なのかを明確にするために、全員を集めてそれぞれの職業(ジョブ)を発表させた。様々な戦闘系の上級者の下にそれぞれの戦闘系に合う訓練をさせる予定であった。ですが、聞いたことない職業(ジョブ)が出てきて、ヴァージニア教国の者たちは戸惑っていた。その一方、桜ヶ丘高校の者たちの反応は様々だったが、ほとんど考えは同じであった。この物語のような出来事に、彼が主役であろうと。

その場にいて勇者の真実を知っていたのはたった五人。その内の二人、桜木校長と安原は小声で話していた。


「昨夜は不確かな情報で何も言わなかったけど、どうする?あっちらの反応を見る限り、勇者のことは何も知らないようだけど」

「勇者の存在はサモンとこの世界の神の契約が生んだものだ。唯一魔王を倒せる存在。魔王を倒すためだけの存在。魔王の完全消滅を願った結果だ。歴史上、そう願ったのはサモンが始めてだったらしいからね。皮肉なことに我々にとっては馴染みな言葉で、隠すには無理があるわね。さて、どう誤魔化す(説明する)?安原、あの真の少年はお前が見てどうかね?」

「正義感にあふれていい子だよ。積極的に人を助けたりする。フェミニストのところがあって女子に味方することが多いけど、快活な性格で男子の友達もたくさんいる。入学から二ヶ月弱、ハーレムラブコメ的な生活を満喫してたよ。ただ、青くて甘い。正義の裏に悪があることをまだ知らない。」

「最も危ういタイプな若人ではないか」


桜木校長は真の今後の扱いについて考えていた。目的を達するために彼は鍵であることは間違いないと思っていた。

桜木校長が思考を巡らせて、周りがざわついた時、生徒の群れの中にいた富士村の隣に異変が起きた。


「うぅ…」

「紗綾?」

「なに…みんなに…つたえたい…?からだ…を…」

「おい、紗綾!?」


様子がおかしかった紗綾、富士村は彼女を触ろうとしたが見えない力に跳ね返された。紗綾の身体がゆっくり空に浮いた。その場いたものは真から紗綾に注意を移行した。そして、紗綾は顔を上げ、言葉を発した。だが、その音声は子供のものとは思えない大人びいていて、この世のものとは思えない穏やかな音声であった。


『勇敢な者、それは唯一魔の王を打ち砕ける者。人間の子らよ、その者を育つが良い。いずれは新たな未来への道を開いてくれよう。』


そう言い残し、紗綾は巻き戻しのように顔を下げ、身体はゆっくり地面に降りていた。足が地面についた途端、紗綾は倒れていたが素早く動いた富士村は紗綾の身体が地面に落ちる前に受け取ってゆっくり横にさせた。兄と姉である幸二と楓もすぐ彼女に駆け付けた。


「んん…?」

「紗綾!」

「紗綾ちゃん!」

「おにいちゃん…おねえちゃん…どしたの…?」


目を開いて、再び声を出した紗綾が、その音声に先程の世離れな感じがなかった。富士村は落ち着いた声で紗綾に話しかけた。


「紗綾」

「きょうちゃん…」

「悪いが頼みがある。ステータスって言って、画面の中のジョブと言う文字の横の文字を教えてくれるか?」

「うん…わかった…すてーたす、でいいの…?あ、何か出た…えーとね…じょぶの横の…あのね、ここにみこって書いてあるんだよ…」

「そうか、ありがとうな。お前、眠いだろ。寝てていいぞ。後でベッドに運んでもらえるから。」

「でも…わたし…まだきょうちゃんと…」

「今日の用事が終わったら、お前のところに行く」

「…うん…やくそく…よね」

「ああ」


紗綾は眠りに落ちた。富士村は紗綾の身を幸二にまかせて、幸二はすぐに紗綾を運んで自分たちの部屋に向かった。楓は、紗綾が本当にただ眠っていたこともあって、ステータスをまだ発表していなかったため残っていた。そして、富士村は先程のことを他の人たちに説明した。


「先程の少女、山下紗綾は巫女だ。我々の世界では神の意思をその身に宿させ、人々に神の言葉を伝える役目がある。ここでも同じなのか?」

「はい。昔から、数百年に一度、巫女が誕生し、我々に神様のお言葉をお伝えて下さいました。ご加護やこの都市の結界についてもそうでした。つまり、今回も…?」

「そういうことで間違いないと思う」


そう言われて、理解するのに時間がかかったかが、やがてヴァージニア教国の者たちは興奮し始めた。


「うおおおおおお!!!」

「ついに!ついにあの魔王を!この世界の救世主がやって来た!」

「神様、感謝します!やはり私たちはまだ捨てられていないのだ!」


長年、ファストフィリアの人々は魔王の存在に恐怖を感じていながら生きてきた。そして今、その恐怖の元凶である魔王を倒せる者が現れた。勇者。彼らはその者の出現に喜びを感じられずにできなかった。唯一、アレクシスだけが複雑な顔をしていた。


「真君、凄い!」

「さすが俺の親友だ!」


一方、桜ヶ丘高校の者たちは真に群がっていた。自分が真と仲良くだと見せ付けるように真に馴れ馴れしい言葉で話しかけていた。その中に、富士村は桜木校長に向けて申し訳なさそうに頭を少し下げた。しかたがないと答えるように桜木校長は肩をすくめた。

マリアム大司祭は群れの中心にいる真に歩み寄って、それを気づいた桜ヶ丘高校の者たちは道をあけた。


「マコト様、と言いますね。神様の言葉を受け、私たちは貴方を育て、魔王を倒させると考えております。ヴァージニア教国の代表として申し込めます。私たちに力を貸してくれませんか?」

「マリアム様...そんなこと、決まっているじゃないですか!やります!俺が魔王を倒してこの世界の人々が安心して暮らせるようにします!」


真がそう大声で宣言した。そのとき、ヴァージニア教国も桜ヶ丘高校も彼の意気込みにつられて気を盛り上がっていた。マリアム大司祭は彼の返事を聞いて、優しい微笑みを浮かべながら、ありがとうございます、と彼に礼を言った。


こうして、ファストフィリアの勇者伝説が始まった。

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