桜ヶ丘高校、裏側で決めた方針
遅くなりました。
その代わりなんですが、今回長い文章になりました。
「私たちは死んだのか?」
桜木校長はそう山田に質問した。
地震に遭って異世界に飛ばされたと思ったら行ったのが魂だけ、身体は霊体と言われた。つまり、自分は死んだと思っても不思議ではなかった。自然な考えであった。だが、自然法則を逆らうのはまた人間性である。特に、自分の都合に悪い自然法則。その最悪は死というもの。誰でも死ぬのは怖い。だから、もし自分が死んだという可能性があったら知らないふりするのが普通の反応。そう山田が思っていた。しかし、桜木校長は、そして他の四人も、その可能性を気づいて知らんぷりどころか真っ先に確認してきた。怖くないわけではなかった。彼女たちの緊張、余裕のなさが山田にも伝わってきた。だが、その裏側に覚悟もあった。
目の前の現実を無理矢理に受け入れ、前に進む。
そう桜木校長が言っていた。まだ死んだとは確定していないが、死してなお、彼女たちは現実から逃げず、前に進もうとしていた。その意思の強さの前に山田はプレッシャーを感じた。山田は心の準備をしてから話すことにした。目を閉じて、息を整えて、そして目を開けた。山田は答えた。
「死んだか死んでいないかのどちらかというと、まだ死んでいません。」
しばしの沈黙。桜木校長たちの緊張が解けていき、それぞれ安心の吐息を出した。桜木校長に至っては今まで溜まったタバコの煙を一気に吐き出した。
「最悪な状況にならなかったようだね。」
「うわぁ、マジでビビった。死んだらどうしようかと思ったわ。」
「おれたちにまだ運が残ってるようだね。」
「うむ」
「ふぅ…それで、山田。なぜ死んでいないのに霊体になってたのか説明してもらえるか?」
「はい。簡単に言うと召喚のスキルは元々本体を喚ぶ能力ではなく、本物に似たもの、いわば偽物を作り出して召喚士のところに出現させる能力なんです。だから、今ここにいる僕たちの身体は本当の身体ではなくこの世界の仕組みで作り上げた偽の身体です。」
「ん?ちょっと待って。じゃあ、おれたちの本当の身体はどうなったの?魂が逃れても身体がそのままぐちゃぐちゃになったら死んだ同然なくない?帰っても帰る場所いないよ。」
「いいえ、僕たちが帰るときには必ず喚ばれた時に帰ります。つまり、僕たちがファストフィリアにいる間は元の世界にいる身体は時間が止まっている状態です。今の偽の身体も何があっても変形はしません。歳をとるのもです。」
「それはつまりただの一時的なものじゃない?やっぱりまだ最悪の状況から脱出していないよね?」
山田の説明を聞いて、安原はまだ納得出来なかった。が、寺島は何かを気づいた。
「だが、希望の糸が見えてきた。」
「寺島、何かを気づいたのかい?」
「うむ。この召喚の術は時空間系の術の類だと思われる。つまり、多少は運命を書き換えることが出来る。例えば、帰す時に落ちた壁にいるはずだが、空間をいじって身体の居場所をずらすことが出来るはず。違うか、山田?」
「…いいえ、その通りです。」
「私たちの運命は召喚士の手にあるってことか…」
「力量は魔王の魔石からとして、後は技術なんだね。」
「ああ。召喚士の選びが重要になる。」
「その魔石を手に入れるために、まずは魔王のヤツをぶっ倒さなきゃなんねぇけどな。」
山田からの情報で、さらなる現状把握が出来て、最終目的である元の世界に帰る方法を明確に出来た。原田はその前の話を振るうことにした。
「校長センセーは戦と言ってたけどよ、多分ファストフィリアのはオレたちか知ってる戦と違うと思うッス。」
「…ステータスの数字で決められる身体能力と生命力、神の加護で痛みを感じられない体質…」
「確かに、どちらかと言うと命がけのVRゲームの感じだね。」
「そういえば、山田。私たちのHPが0になったらどうなるんだい?」
「普通の召喚でしたら、ただそのまま元の場所に帰るだけですが、」
「俺たちの場合はそれが再び死ぬ直前の場所に戻るということか…」
「やはり、誰も倒されるわけにはいけないか。当然なことなんだが。」
「後は魔王の実力だけど、話だけじゃあやっぱ図れねぇよな。」
「その前に力をつけなきゃだろう。今の俺たちの状態じゃ話にならねぇんだ。」
「おい、そこの戦闘狂のバカ二人。言っておくが私はお前ら生徒にトドメを刺すなんて真似をさせるつもりはないからね。」
戦う気満々の原田と富士村に桜木校長が釘を刺した。彼らの話を聞いた山田はもう一つ伝えたいことを思い出して、それを機に伝え出した。
「あの、実は魔王を倒す役目はもう決まっています。」
「何?」
「サモンさんが召喚しようとしていたモノ、それは魔王を倒せるモノ。その結果は僕たち全員なわけではありません。僕たちの中の特定の人間だけです。」
「…そいつは誰なんだね?」
「"勇者"と言うジョブを持つ者です。」
「うわぁ、マジでベタな話だね…」
「安原、うるさいぞ。山田、その口ぶりだと勇者だけが魔王を比敵する力を持つだからではなさそうだが、違うかね?」
「いいえ、その通りです。これはサモンさんがこの世界の神と取引した結果です。サモンさんの祈りを叶わせる代わりに、勇者以外は魔王を倒せることが出来なくなった。」
「思いの外、厳しいところもあるんだね…勇者以外の喚ばれた理由は?」
「それは、えっと、こっちの世界と僕たちの世界の繋がりが不安定で、そしてその、魔法陣が特定のポイントに出来なかったので周りにも出現することになったみたいな感じで…すみません、自分でもよく説明出来ません。」
「いや、だいたいわかった。例えるとしたら、GPSの電波が不安定な時にピンポイントで場所を表示するではなく周囲を表示する時と似てるだろう。つまり他は巻き込まれったってわけ。これが幸か不幸かわからないけど。さて、どうする、彩芽さん?」
「とりあえず、ここにいる全員のステータスを知りたい。各々ステータスを開いて教えてくれ。」
全員、桜木校長の指示に従ってそれぞれのステータスを開いた。
「まず、この中に勇者はいるかい?」
桜木校長の質問に対して、誰も応じなかった。
「参ったね。安原とかにやらせておきたかったのに。」
「いやいや、無理があるよそれ。っていうかおれ、戦闘系でもないし。えっと、なにこれ、職人?何の?」
「知らん。後で調べな。それで、富士村たちはどうだい?」
「剣士、平均数字は112」
「オレは戦士ッス。平均数字は117。よっしゃ、オレの方が上だな。」
「あぁ?たった5しか違わねぇだろ。調子に乗んな。」
「へ、負け惜しみ。」
「止せな。今そういう場合じゃない。しかし、あんたらが戦闘系になったのはわかるが、なぜ普通の下の戦闘系と同等なんだい?明らかに元の世界にいたよりあんたらの動きがかなり鈍くなったし、一体何の基準にステータスが決めていたんだい?」
「…そこまでは僕も知らないですね。」
「多分あれじゃない?人間には甘い神さまだから、今までの人生に自分がやってきた善行とか。」
「「「あぁ…」」」
「いや、なぜそこで皆さん納得したんだ?」
(というか、かなり鈍くなった?サモンさんの記憶には普通の戦闘系はそこらの不良より戦い慣れているのに、二人の元の世界の戦闘能力はそれ以上だというの?一体どんな生活をしていたんだ?)
山田は桜木校長が言っていた言葉に信じられないことを聞いた気分だった。平和な日本で普通な学生生活をしていたら異世界の戦闘員より強いのはありえない。それはつまり、軍人より強いという意味だから。
(富士村先輩のお父さんは軍人だという噂は本当かもしれない…)
「山田、あんたはどうだい?」
「え?」
「だから、あんたのステータスはどうなんだと聞いたが」
「すみません、考え事してました。僕は……召喚士です。ステータス平均は115」
「!!」
少し躊躇った山田は自分のステータスと職業を正直に伝えることにした。召喚士、それは桜ヶ丘高校の者たちの運命を持っている職業であった。桜木校長は鋭い視線で山田を見て話しかけた。
「山田、すまないが、あんたは今私たちにとって重要人物になった。今後、一人で無茶をせず私の指示を従ってくれないかい?」
「わかりました。元々、僕が一番伝えたいのはこの事です。自分には荷が重くて。」
「そうか。伝えてくれてありがとう。私たちも出来るだけあんたをフォローする。」
「はい」
山田は全面的に桜木校長に従うつもりであった。桜木校長にもそれが伝わって頷いた。
「さて、最後は…ん?」
「どうしたの、彩芽さん?」
「いや、何か自分のステータスを見直したらHPが変なことに、なぜか上限から減っているんだ。」
「それやばくないか、ってあれ!?おれも!」
「一体何で…?」
「えっと、…!皆さん、状態の欄を見てください。僕には"毒"が書いてあります!」
「ホントだ!オレにもあるだぜ!」
「でも、どこから毒が入ってぇ……あ」
安原は気づいた。彼は隣にいる桜木校長を見た。他の者も釣られて桜木校長を見て同じく気づいた。そして、注目された桜木校長本人も。毒の源は彼女の手元にあった。それは、彼女が話の序盤から吸っていたタバコ。
沈黙がおちた。山田は何を言えばいいかわからず狼狽えたが、富士村、原田、安原は見事な連携でいい出した。
「タバコは身体にとって毒であり、」
「自分の健全にはもちろん、」
「周りの人たちの健全にも悪い影響を与える」
「消せばいいだろう!!消せば!!」
桜木校長は乱暴に持っていたタバコを床に投げて火を消すのに踏み躙った。煙が完全に消えた瞬間、"毒"の状態も消えたと山田は確認した。だが、桜木校長の苛立ちは未だに消えたいなかった。安原はなんとか彼女を落ち着けさせようとしていた。
「何なんだよ!タバコはそんなに悪いのかよ!この世にはな!タバコでしか吐き出せない不幸があるんだよ!吐息だけじゃ吐き出さねぇんだよ!タバコで吐き出さねぇと自分の中に溜まったままなんだよ!それでやっていけるか!!」
「彩芽さん、どうどう、生徒の前ですよ。後、そういうのいないから。完全に禁煙中の人の戯言だから。あ、そういえばさ、これを機に禁煙すればどう?」
「やかましいわ!もういい!寺島、あんたの番だよ!」
「…んん?すまない、聞いていなかった。」
「ってかオメェ、やけに黙り込んでいたな。」
「ステータスの確認だ。樹、お前のステータスはどうなんだ?」
「そうか。うんん…いや、やはりやめておく。校長先生、突然すまないがお願いがある。」
「どうした?」
「俺はこの地下室に引きこもりたい。大司祭に許可を得ていただけると助かる。」
「引きこもる?何のために?」
「俺、強一、仁の力を取り戻すため。」
「できるのかい!?」
「うむ。サモン殿と同じ、ここで祈って神にお願いする。幸い、俺たちの世界に繋がっている陣は残っている。道はまだある。」
そう言った寺島は自分たちが出現した魔法陣を見た。寺島の案に富士村と原田は反論した。
「ちょっと待って。サモンと同じということはお前も消える可能性があるだろ。」
「まあ、そうだな。」
「だったらやめたほうがよくねぇか?力が戻ったって結局魔王を倒すのは勇者じゃなきゃってのは変わんねぇだろう。オメェがそこまでする必要はねぇと思うが。」
「そう言ってもな、お前たちは本当にこの状態で戦うのは納得出来るのか?」
「それは、しょうがねぇだろ。」
「身体能力の話だけじゃない。今の状態では殺気も出せないだろう。先程の騎士との睨み合いに不思議と思ったが、出さなかったではなく出せなかったからたろう。」
「確かにそうだが、あの騎士も敵意があれど殺気が感じられなかった。相手が同じ条件なら問題ないと思うが。」
「それは人間の話だ。強一、俺たちの相手は魔物、そして魔王だ。同じ条件だとは思えぬ。正直、大司祭の話を聞いてから嫌な予感がする。だから俺は力を取り戻す必要があると思う。校長先生、お願いできるか?」
「…その前に、山田に確認しよう。山田、どうだい?サモンの記憶から魔物についての情報はあるのかい?」
「え、い、いや。すみません、実はまだ全ての記憶が見れないんです。現時点で僕が見れるのは今回の召喚について程度です。」
「そうなのか。分かった。他の記憶が見えて、新しい情報が分かったら教えてくれ。」
「わかり、ました。」
桜木校長は考え込んだ。最終判断は桜木校長に任せる方向で富士村、原田、寺島は黙って待っていた。山田は内心で混乱していた。
(殺気!?今殺気と言った!?それって出せるモノなの!?何で皆当たり前のようにそういうこと言えるの!?僕がおかしいの!?違うよね!?違うと言ってください!)
話の流れで出せなかったツッコミ。山田は内心でそれを叫んでいた。そして、山田が落ち着いたと同時に桜木校長も結論を出した。
「いいよ、寺島、あんたのやりたいようにしてくれ。ただし、危なくなったらすぐ止めること。それが条件だ。」
「相分かった」
「よし、では話をまとめる。富士村と原田は今の状態じゃあ誰も聞いてくれないと思うので谷川のサポートをしてくれ。現場の仕切り役は彼女に任せる。事前に彼女のステータスを確認したが問題ないと思う。本人には明日にでも話す。」
「「ウッス」」
「寺島は先言った通りね。許可を取ればそのまま放置するからそのつもりでいてくれ。」
「うむ」
「山田は無茶せずに能力をあげて、その間に出来るだけサモンの記憶から情報を調べだしてくれ。」
「分かりました。」
「若人たちは大変だねぇ。おじさん、応援するから頑張ってねぇ」
「そして、安原」
「あれ!?おれにもなんかあるん!?今までの話の流れで何も決めていなかったよね!?」
「うるさい。まぁ、今まで通りでよろしくって言いたいだけだよ。いいね?」
「あ、そういうこと。じゃあわかった。」
「それじゃ、」
桜木校長は床に投げ捨てたタバコを拾って、出口に向かって歩き出した。
「今日は休もうか。」
それが合図で、寺島以外は全員部屋を出ることにした。が、その時に寺島は富士村と原田に呼びかけた。
「強一、仁」
「あん?」
「俺が来るまでくたばるんじゃないぞ」
「言われるまでもない。期待せずに待ってるからお前もちゃんと来い」
「あんま遅くと、元の力がなくても強くなっちまうからな。置いて行かれてもオレは知んねぇぞ」
「うむ。お互いに頑張ろう」
「フン」
「へっ」
返事にもならない返事を残して、富士村と原田は出ていった。だが、それがあの二人らしいだと寺島は理解して自分のやることに集中した。彼は魔法陣の中心に移動して座った。目を閉じ、息を整え、寺島は部屋と一体化した。




