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紺の幕間


紺の幕間



View.シアン


 雨で冷えた身体をお風呂で温め、ベタベタした髪や身体も洗い気分的にもさっぱりした。ついでにマーちゃんにマッサージとか髪と肌のケアとかやってもらったので調子が良いくらいである。短時間のケアでこれとは、マーちゃんは何処まで万能なのだろう。

 そんな事を思いつつ、私はこのままベッドに入れば気持ち良く眠れるだろうなーとも思いつつ。今の私は再び礼拝堂にてボーっとしていた。


「シアン、まだ起きていたのか?」


 そして私が礼拝堂で座っていると、私と同じく寝間着に着替えた神父様が声をかけて来た。

 初めはマーちゃんのクロレベルの力で引っ張られ、一緒に入る、入らないの問答はあったモノの、結局は私達女性陣を優先してお風呂の番を譲ってくれた優しい神父様。そしてどうやら私達の後のスイ君と一緒に入り、今はお風呂上がりのようである。

 スイ君は傍には居ないのは、恐らくは体力の限界でおねむのスイ君を部屋まで送り届けた後、寝る前にもう一度戸締りを確認しに独りで教会内を見回っていた、と言う所だろう。

 相変わらずの真面目ぶりである。そしてそのお陰で私も予想通りこうして会う事が出来た。


「夜更かしはあまり良くないぞ、シアン。明日……というか今日か。今日も朝から仕事があるんだ。早めに休むんだぞ?」


 神父様は私を心配して言うが、神父様も明日は朝から仕事だろうし、明らかに礼拝堂以外も今から見て回るつもりだろうし、そして合間にはスイ君とマーちゃんが不純異性交遊を行っていないか部屋を見て回るつもりだろう。ようするに私の事を言える立場ではない。


「う、そこを突かれると痛いのだが……」


 私が指摘をすると、神父様は困ったように目を逸らした。

 ここで目を逸らすという事は、私に言う資格が無いと自覚していると同時に、見回りとかを止めるつもりはないという証拠だ。

 無理に止めても良いのだけど、止めたら止めたでジッとしていられず結局は眠れずにいるだろう。場合によっては一、二時間程度寝た後、「よし寝たから今日の朝の仕事を開始するぞ!」と言って起き続ける可能性もある。神父様はそういう男性だ。というか過去にもあった。


「うぐ。出会った年の冬の事か……生まれて初めて年下の女の子に本気で怒られたな……」


 ちなみにだが、私もその時生まれて初めて年上男性を正座させて本気で怒り説教をした。

 その時はまだ意識をしていなかったので、それはもう遠慮せずに怒ったモノである。……まぁ同時にその後から「このヒト放っておいたら駄目なんじゃないか……?」という意味で意識し始め、気が付いたら好きになっていた訳なのだが。


「え、そうなのか? だったら怪我の功名というやつで――はい、ごめん。そのような目で見なくとも、反省しているから……今日もちゃんと明日に響かないように早めに寝るから」


 ……それはともかく、神父様の睡眠時間を確保するためには、私も神父様の手伝いをして早めにやる事を終わらせた方が良い。私はこの数年でそれを学んだ。

 どうにかならないかと思う時もあったが……いや、これは神父様の性格上無理難題という話だ。だから私は学んで、こうしているのである。


「ありがとう、シアン。いつも助かるよ。それと無理難題は言い過ぎだと思うが……いや、そうかもしれないな」


 そう思うのはどうかとも思うが、そういう所も神父様らしいので良いと思うとしよう。そもそも私はこういう所に――ああ、そうだ。


「どうした、シアン?」


 神父様と一緒に、戸締りや見回りをする前に、言いたい事があったんだった。

 忘れてしまう前に言っておくとしよう。


「神父様、結婚しましょう」


 別に意識する事無く。

 ただ連絡事項を伝えるように、私は神父様に言った。


「ああ、良い、ぞ……?」


 そして神父様は私の言葉に了承の言葉を言い、その途中で内容を理解したかのように途切れ途切れになり、最終的には「自分はなにを言われたのだろうか?」と脳内で反芻するように疑問符が付いていた。


「そうですか。ありがとうございます、神父様。では、見回り行きましょうか」

「ま、待てシアン!?」


 最終的に疑問符がついたとはいえ、了承は了承だ。

 了承されたのならそれで問題はないし、神父様が早く寝られるようにと見回りに行こうとしたのに、神父様は私を呼び止めた。


「なんでしょうか、神父様?」

「なんでしょうか、じゃなくてだな。シアン、え、今、え……?」


 呼び止めた私が特に気にしてなさそうな反応だったのが余計混乱を招いたのか、神父様は珍しいくらい慌てている。

 そんな神父様も可愛いが、何故混乱しているのかをハッキリさせてくれないと私も困る。他者の機微には聡い方な私でも、神父様相手だと途端に疎くなるのだから。


「シアン、今、俺に告白を……?」

「はい、しました。……聞いていなかったんでしょうか」

「いや、聞いていたが、そんな急に、何故……?」


 急に何故、か。

 その質問ならば今の私にも答えられる。


「世界で一番、神父様の事が好きだからです。結婚したいと想いが抑えられないほどに」


 私はスノーホワイト神父様の事が大好きだ。

 神父様が居ない世界など考えたくないと思うほどには。

 神父様が好きでいてくれるために、努力を惜しまないほどには。

 だから共に歩みたいと思った。ただ、それだけだ。


「……シアン、ほ――」

「本気なのか、とか聞いたらいくら私とて本気で怒りますよ。あの時より、それはもう勢いよく」

「うぐ」


 冗談でこのような事を言うはずがない。

 私はいつだって、神父様に対しては本気で向き合って来たんだ。

 ああ、でも……


「ごめんなさい、神父様。私は約束を(たが)えましたね」

「え?」

「最高の告白をする、と言ったのに、言葉だけでなにも用意していませんでした」


 以前、私は神父様に最高の告白をすると宣言した。

 私はその時は本気で最高の思い出にしようと色々と計画を立てたし、ほんの数時間前まではどうすれば最高になるのかと悩みもしていた。

 けれど、先程のある出来事を経て、私はそれがただの逃げなのだと思ったのだ。

 弟のように可愛い男の子と、最近出来た友達の女の子の、とある会話。

 男の子の飾り気のない言葉で告白する姿を見て、私は言葉が持つ感情を知り。

 女の子の悲し気な姿を見て、私は好きな相手のあんな姿を見たくないと思った。

 そして私は、抱えていたなにかがストン、と落ちた気がしたのだ。


「神父様と夫婦という一歩を踏み出したいと思ったら、つい言っちゃいました。待たせておいて、こんな形の告白でごめんなさい」


 だから私は、感情に従って想いを伝えた。

 ただ、それだけの話である。


「……いや、謝る事は無い」


 神父様は私の言葉に対し、先程まで慌てていた姿は何処へやら。

 落ち着いた様子で、いつものような優しい笑みを浮かべてすらいた。


「むしろ謝るとしたらこっちの方だ」


 神父様は気取る事無く、日常の延長線かのように私の左手を取る。


「キチンとした返事を出来なくてすまない。最高の告白を受けたのに、最高の返事を出来なかった」

「いえ、私は最高の告白はしてな――」

「俺にとっては、世界で一番好きな女性からの告白、と言う時点で最高の告白なんだ。そして、許されるのなら今から改めて返事をしても良いだろうか」


 私は神父様の言葉に、黙って頷く。

 すると真っ直ぐと私を見て。


「これからは夫婦としてよろしくな、シアン」


 そんな、単純な(さいこうの)返事をしてくれた。


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