この後しっかり説教をしました(:紺)
View.シアン
「で、なにがあったのかな、スイ君、マーちゃん。事と次第によっては説教コースだけど」
教会の前で服を脱がそうとするマーちゃんに、脱がせられかけ着衣が乱れたスイ君の間を私とイオちゃんが中に入り止めた後。両者を座らせて話を聞いていた。
例えどんな理由があろうとも傍から見たら良くない光景ではあるので、大なり小なり説教はするのには変わりないのだが、まずは理由を聞かないといけない。
なにか理由があれば服を脱がせるのも……脱がせるのも……うん、服に呪いがかかってすぐ脱がせる、というのなら良いだろう。
「ぼ、僕が――私が悪いんです。私の発言がイケないんです!」
「違うよヴァイス先輩。服を脱がせていた事を怒られているし、私が悪いよ。私は欲望に任せて行動をしていた訳だからね」
そして互いに自分が悪いと言う両者。庇うと言うよりは実際に自分の方が悪いと思っているようであるが……種類の違う思い方のようである。
「シアン、まずは理由から聞こう」
「そうだね。じゃあまずはヴァイス君。何故服を剥かれていたのに自分が悪いと?」
ともかく、このまま互いに自分が悪いと言って理由を明らかにしないのも良くはない。イオちゃんの言う通り、まずは行動理由を聞かねば。
「えっと……今日は私達お留守番だったじゃないですか」
「そうだね」
お留守番。ようは教会内や周辺の掃除とか、懺悔室に誰か来た時のための待機組である。
こういった雨が降りそうな日は結構懺悔や相談に来る人も多いので、昨日の事は若干不安であったが二人に任せた。
「この機会に今日こそマ――シスター・マゼンタと交流を深めようと色々話をしようと意気込んだんです」
「良い事だね」
「そのために私はシスター・マゼンタの魅力的な所を語ったんです!」
「ん?」
何故そこで魅力的な所を語る事に……あ、多分マーちゃんの根深さをスイ君も何処かで感じ、それは自己肯定能力の低さからなっているものだと思ったから語った感じかな。だからと言って魅力的な所を語ったら神父様の言うように恋しているのだと思われると思うよ。
けど、どうしてそこから服を剥かれる事に……?
「ですが、語っている内に私が恥ずかしい事を行っている事に気付き……つい頭を冷やそうと外に出たんです」
あ、やっぱり自覚はしたんだ。
「そうしたらシスター・マゼンタが追いかけて来まして。まだまだ話したい事がある、と。だけど私は恥ずかしかったので、どうにか話さなくて済む言い訳を考えていたんですが……」
「ですが?」
「……その、仲良くしようとそちらから来たのに、逃げるなんて駄目だと言われて。そちらが逃げると言うのなら、私が行動をするよと言われてこのような事に……あれは私に発破をかけてくれていたんです。優柔不断な私がイケないんです」
「……なるほど」
スイ君が自分を悪いと思っていた理由は分かった。私もイオちゃんもスイ君の話だけ聞くと思う事はあるが、意見を言うのはマーちゃんの話を聞いてからだ。片方だけの意見を取り入れるのは良くない。
「じゃあ次にマーちゃん。何故自分が悪いと?」
なので次はマーちゃんの話を聞く。
先程の発言的に、私が怒っているであろう行為を自身がしていたから悪いと思っているようなマーちゃんではあるが……ともかく、話を聞こう。
「……私の大好きな友達の話なのだけど、最近その子、仲が悪かった相手や家族と通じ合い、仲直りしたみたいなんだよね」
ん、なんの話だろう?
「その子はある事をする事で長年のわだかまりが無くなったみたいなの」
「ある事って?」
「それは――裸の付き合い」
よし、なんとなく結論は分かったけど、とりあえず最後まで聞こう。
「彼女は戦うか裸の付き合い、つまりお風呂に入る事で心からお互いになにも隠さずに話す事が出来た。さらにはかつて恨んでいた異性の相手にも、お風呂ではないけどサウナに一緒に入る事で相手を知る事ができた。最初は自身の愚行に身を差し出してでも許されようとしたけど、最終的には握手を交わし合いこれから仲良くしようと言い合った!」
誰なんだろうかそのマーちゃんの友達とサウナに入った恨んでいた異性。家族と裸の付き合いはまだ分かるが、なにを思ったらそういう行動に至るんだろう。
……あれ、イオちゃんが「あの御方か……」と言わんばかりに頭を抱えているけど何故だろう。まさかイオちゃん誰か知って……そういえば最近シキの温泉にもサウナが出来て――……マーちゃんの友達で、仲が悪かった家族と通じて……よし、これは後から考えるとしよう。
「そしてヴァイス先輩は私と仲良くなろうとしていると感じ取った」
「うん」
「だけど彼は羞恥から行動しきれていないと気付き、大丈夫だと促しても恥ずかしがるだけでした」
「うん」
「それならば! 私も仲良くなるために行動するべきだと思い、大好きな友達と同じ裸の付き合いで仲良くなろうと行動しました! なので教会のお風呂に入ろうと、まずは互いの服を脱ごうと!」
「つまりスイ君の服が脱げかけていたのは偶然であり、さっさとお風呂に連れて行こうとした訳だ」
「そうだね。まずは私が率先して脱いだ後、脱がせてあげようかなとは思ったけどね」
「うん、服が脱げかけたのは悪いと思っていても、行動自体には反省も後悔もしていない感じという事だね」
「よく分かったね」
よし、キッカケを作ったのはスイ君だとしても、私達が見た行動の問題に関してはマーちゃんが悪い。
そして“よく分かったね”と開き直っているんじゃない。スイ君が「あのまま行けば僕はお風呂に一緒に入ってた……!?」と驚愕しているよ。けどここまで堂々と言いきられるとそこまで悪い事をしていない感じがする不思議。……いや、錯覚だけど。
「正直に言うなら今からこの場に居る皆で仲良くなるために、皆でお風呂に入ろうと思っているくらいだね。皆で裸の付き合い!」
おお、スイ君がさらに驚愕した挙句、ちょっと想像してしまったのか顔が羞恥に染まるのが可愛い。
スイ君も男の子なんだねと思い――あれ、でもこの顔の染まり方、最近何処かで見た事が……あれ、何処だっけ……?
「……マゼンタさん。あまり他者、特に異性とそのような事をするモノではありませんよ」
「そういうものかなヴァイオレットちゃん?」
「そういうものです。あの御方の裸の付き合いの相手も……成人はしていますが家族ですから大丈夫だったのでしょうから」
なんだろう。イオちゃんの言葉から裸の付き合いをしたであろう、マーちゃんの友達の家族に対して同情の感情が込められている気がする。
「よし、じゃあ神父君を含めて、私と先輩方で入ろう」
「何故そうなるのです」
「だって私達は同じ屋根の下に住む間柄……つまり家族!」
「それはなにか違うと思いますが――シアン、どうした?」
神父様と……一緒にお風呂に……!?
なんだその素敵な響きは。つまり私が神父様の大きな背中を流したり、白くて綺麗な髪の毛を洗ったりできると言うのか。さらにはお風呂に浸かりながらゆっくりと会話をする? なんという素晴らしき行為だろうか!
「シアン? ……駄目だな、これは」
「なにが駄目なのヴァイオレットちゃん」
「そうですね。しばらく悩んで結局は出来ない、まだ早い、という結論に至るタイプの状態です」
「?」
だが神父様は誘った所でお風呂に入ってくれるのだろうか。
そういえば以前付き合っていない時に、お風呂に一緒に入るかと無意識の内に誘った事もあるが、その時は断られた。
その時と同じで断られ――いや、今は付き合っているし、可能なはずだ! それにいやらしさなどなにもない、ただの交流に過ぎないのだから平気なはずだ! レッツ家族交流!
私は神父様を誘って、お風呂に入り、裸の付き合いを――裸の……
「…………無理ぃ……」
……駄目だ。神父様の裸を見るのも耐えられそうにないが、私の裸を見せるのも恥ずかしい。
「うぅ……したいけど、私にはまだ早い……」
見せると言うか、“見られる”というのがどうにも想像すると……う、耐えられそうにない……!
「おお、本当になった。凄いねヴァイオレットちゃん」
「シアンは活発で行動力は高いですが、好きな相手には初心な女性ですから……」
「なるほどね? ……ところでヴァイス先輩」
「なんですか?」
「シアン先輩はなんだか無理みたいだし、私達だけでも裸の付き合いする?」
「しません。というかシスター・マゼンタは嫌じゃないんですか……?」
「? 私は別に嫌じゃないけど……? そちらが良いのなら、私も良いからいつでもするよ?」
「……そうですか」
「??」




