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紺と菫の愉快な会話(:紺)


View.シアン



 私は領主邸で話し合いが終わった後、イオちゃんと二人で曇った空模様の外に出ていた。雨は降っていないものの、いつ降ってもおかしくない天気ではある。しかし今は涼しく感じて過ごしやすい。

 個人的には晴れの日の方が好きではあるけれど、こういった天気も偶には悪くない。


「神父様、拗ねていたが放っておいていいのか?」

「大丈夫だって。フォローもしたし、引き摺る様な性格でも無いよ」

「それは……うむ、そうだな」


 そんな悪くない天気のシキを歩きながら、雨が降る前に自警団と方々の用事を済ませたいというイオちゃんと先程の事を話す。

 先程神父様がスイ君の様子について「恋をしているようだった」と評したのだが、その場にいる神父様以外の皆が「本当に分かっているのだろうか……」といった反応を示し、結果的に神父様が拗ねたのである。

 不機嫌になった、というよりはいじけている、という感じだろうか。とはいえ、普段の神父様の様子を知っていると、恋愛について分かるかと問われれば間違いなく鈍いとしか言いようが無いからさも有りなんだ。


「それよりも拗ねていた神父様も可愛かったなー。普段とは違う子供っぽさが良かったね」


 また見はしたいが、意識的にと拗ねさせるとただの愉快犯のようになってしまうから気を付けたい所である。


「大の男性に可愛いという評価は良いモノなのか?」

「イオちゃんだってクロの可愛い所みたいでしょ。需要があるなら良いモノなんだよ」

「なるほど、これが論破か……」

「私が言うのもなんだけど、もうちょっと頑張ろう?」


 相変わらずクロの事になると甘々というか、なんというか……まぁ私も神父様相手だと似たようなものだからとやかくは言えない。類は友を呼ぶという感じなのかもしれない。


「それにしてもスイ君が恋をしている、かぁ」

「意外か?」

「意外と言えば意外かな? でも嬉しくはあるよ」


 来た頃の怯えぶりや、怯えを表に出さないように距離を取っていた事。

 唯一といえる姉とも上手くコミュニケーションを取れず、ある意味社会の最小単位の関わりを知らなかった事。

 それらを思うと今は明るくなっただけでも嬉しいし、恋を知ったというのならとても喜ばしい。シューちゃんのように血こそ繋がっていないモノの、姉のように嬉しく思う。


「やっぱり初恋なのかな?」

「……そうかもしれないな」


 あれ、なんだろう。イオちゃんの言葉に妙な間を感じた。けれど理由は分からない……なんだか最近こういった事が多いな。私の機微に敏感な所も鈍くなっているのかもしれない。


「それで、もしもヴァイスの恋の相手がマゼンタさんだった場合、シアンは応援するのか?」


 イオちゃんは私よりも高い背を、相変わらず綺麗な姿勢のまま歩きつつ私に聞いて来る。それを見ながら私はこういう風に歩く事はないだろうなと思いつつ、イオちゃんの表情を見る。

 表情的にその問いに深い意味はなく、ただ私ならどうするのかという世間話にも似た確認だろう。

 同じ教会に住む者としてどういう態度を取るのかが重要であり、イオちゃん自身は深くは関わらずとも、私が意見を求めれば素直に答えてくれるような深入りしない態度にも似た質問……うーん、こういったのは分かるんだよね。特定のなにかになると分からなくなる気がする。


「そりゃ応援はするけど……」

「けど?」

「……マーちゃんがスイ君を恋愛対象として見るかが疑問だね」

「……そうかもしれないな」


 今日の会話でマーちゃんが王族である事をイオちゃんは否定をしなかった。そしてその事からマーちゃんがシキに来る前は“マゼンタ・モリアーティ”である事はほぼ確定だ。

 そして今は若返って“マーちゃん”になっているとはいえ、彼女自身にとってスイ君は、


「子供を見る様な感じだろうからね……」


 という事かもしれないのである。


「だが、クロ殿も堂々と私の前で誘う御方であるぞ? 年齢差はあまり関係無いのではないか? ……いや、ヴァイスに手を出したら犯罪だが」

「というかイオちゃん的に誘うのは良いの?」

「良くないが、あの御方はカーキーのような感じだと思って警戒だけに留めている」

「良いのそれ。まぁでもそれは恋愛とは違うと思うんだよね」

「ほう?」


 イオちゃんの話だとクロ相手でも誘うらしいから、実年齢差は問題無いようにも思える。しかし単純にそれは「若い子って良いよね!」というような、貴族の中年の男性が幼妻を愛人として娶る様な……いわゆる性的欲求を若さという武器を持った相手に楽しむような形だろう。つまり恋愛対象というにはいささか違う代物だ。

 だから多分昨日のくすぐりも子供とじゃれ合うような感じだと思う。


「しかしそうなると、マゼンタさんの場合の問題は子供相手と認識しても、良い相手だと思ったら手解きするような形に取りそうなのがちょっと怖い所だな」

「愛の種類を理解していない感じがするから?」

「そうなる。なにせ彼女のそういった行為のハードルは低いように思える。少しでも好意を持ち、求められれば応えそうだ」

「うーん、それは否定しないけど……けどあの子、割と選り好みすると思うよ?」

「そうなのか?」

「まぁ……私のカンだけどね」


 ただ、決めたらグイグイ行くタイプだから印象に残りやすいのだとは思う。そしてグイグイ行く相手に対しても倫理観とかそういうのを無視する可能性があるというだけだ。……うん、それが大問題だけどね。


「カン、か」

「どしたのイオちゃん?」

「……いや、なんでもない」


 ……なんだろう。またイオちゃんの感情が読み取れない。

 とはいえ、先程のスイ君の初恋云々とは違った意味で読み取れない。これは先程の領主邸で話していた時にもあった、「マーちゃん(マゼンタさん)をよろしく頼むぞ」と言った後にもあった、不思議な感情だ。私に対してなにか思う所がある様な……?


「じーっ」

「……なんだシアン。わざわざ見ているアピールをして」

「いや、なにかあるのになんでもないと言うイオちゃんが、なにを言い淀んでいるのかを知りたくて見ているだけ。気にせずどうぞ」

「気にせずと言われてもだな」

「じーーっ」

「…………」

「じーーーっ」

「…………。シアンは」


 そして私がわざとらしく見ていると、イオちゃんは僅かに態勢を崩して、観念したかのような表情になった後、目を逸らしつつ私の名を呼ぶ。どうやら話をする気になったようだ。

 多少強引な気はするけれど、なにか抱えている気もしたし、多少くらいなら問題無いと思いたい。


「シアンは随分と……マゼンタさんの事を理解しているな、と思ってな」

「うん? まぁ根深い部分は合っても結構気が合うしね」

「…………そうだな。だから……」

「だから?」

「……だからだな」

「うん」


 私はイオちゃんの言葉を待つ。

 イオちゃんはしばらく言い辛そうに間を置いたが、しばらくすると


「友として他の子と仲良くするシアンを見て…………嫉妬した」


 と、小さな声で呟いた。


「……シアンはシキに来て初めて友だからな。シアンが社交的であるし、友が多いのは知っているし、マゼンタさんの事も私達が頼んだ事ではあるが……」

「仲良くなるのを見て、ジェラシーを感じちゃった、と」

「…………うん」


 わぁ可愛らしい。私に指摘されて顔を赤くして逸らしている。

 普段は凛々しいイオちゃんがクロに対して以外でこんな風に照れるのは相当珍しい事である。しかも普段とは違う頷き方だし。ああ、とても可愛い。神父様とは違った可愛さである。


「そっかー、ジェラシー感じちゃったかー」

「…………」

「いやぁー、最初の頃は私にあだ名で呼ばれて驚いていたイオちゃんが、そんな風に思ってくれているとはねぇー」

「………………」

「ふふふ、大丈夫だよイオちゃん! イオちゃんのファーストフレンドとして、これからも仲良くしていこうね! 手始めにお揃いスリットはどう!?」

「ぜったいに、しない!」


 そして私が揶揄うと、イオちゃんは大きな声で否定するのであった。

 どうやら私は可愛く拗ねるのを見ると、もっと見たくなって愉快犯のようになってしまうようである。


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