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挿話:純白の困惑-午前-(:純白)


挿話 純白の困惑



View.ヴァイス



「ごめんなさい、なにも見てませんから!」


 試練かご褒美か。どちらにしろ僕は部屋の中の状況を把握した瞬間に部屋の扉を勢いよく閉めた。

 年若き女性の裸を異性が見るなんてあってはならぬ事だ。事故であればすぐさま見ないように努めるべきである。そして見ていないという事を告げ、安心させなければならない。……見ていないと言っている時点で見ているのではないかとかは置いておくとしよう。

 それに服を着ていない事を把握してすぐ閉めたから本当に見ていない。綺麗な肌とか柔らかそうとか小ぶりで良いとかは見ていないから思ってはいない。……本当だ。


「どうしたのヴァイス先輩」

「!? 何故そのまま扉を!?」


 そして綺麗な肌で柔らかそうで小ぶりで良いマゼンタちゃんが片手にシスター服を持った状態でそのまま扉を開けた。


「いやだって私に用事があって来ただろうに、慌てて閉めるからなにかあったのかと……」


 もう先程まで思っていた足のスリットで太腿でチラチラでとかの次元ではない。今見ようと思えば普通に全部見える。何故躊躇いが無いんだ。


「ふ、服を着てくださいシスター・マゼンタ。淑女がそのような格好で異性の前に立つなどよくありません……!」


 淑女云々以前にお付き合いしていない相手に裸体を晒すべきではないのだが、そこは気にしない。僕は先程と扉を開けた後のダブルインパクトで見た光景を忘れようと必死である。

 これからもマゼンタちゃんの先輩として接していかなくてはならないのに、先程の光景を覚えたままでは色々とマズい。マゼンタちゃんを見る度に先程の光景が――


「あ、ごめんね。若い身体ではあるけど、見たくも無いモノを見せちゃって。気が回らなかったよ」

「なにを言いますかお綺麗ですし見たくないかどうかと問われれば見たい――なんでもないです」


 なにを言っているんだ僕は。でも紳士として見たくもないと言って淑女の自信を喪失させるのも良くないとも思う。うん、だから仕様が無い、うん。


「? 見たいなら遠慮せずに見れば良いよ? ほらどうぞ?」

「!?」


 なにを言っているんだ彼女は。そりゃあ僕だって健康的な男児だから、異性の身体に興味が無いかと問われれば有ると答えるし、見たいか見たくないかと問われれば正直見たい。が、そういう問題ではない。


「あ……」

「あ?」

「朝ごはんの時間なんでそろそろ来て下さいねマゼンタちゃん!」


 だから僕は甘い誘惑に負ける事無く、彼女の方を見る事無くそのまま彼女の部屋を走って後にしようとする。此処に居たら僕は色々とマズいと分かるからである。


「あれ、見ないのー!? 遠慮しなくて良いんだよー!?」

「見たくは有りますが、躊躇いを持ってください! 貴女は魅力的な女性なんですから、自分の価値を理解して御身を大切になさってください!!」


 走る去る前にマゼンタちゃんに声をかけられたが、振り返る事無く僕は去っていった。

 ……ああ、もう。朝ごはん前に精神を落ち着かせないといけない。水垢離でもした方が良いかもしれない。……そうでもしないと、この熱は流石に収まりそうになさそうである。



「……行っちゃった。見たいのになんで見ないんだろう。…………魅力的で価値のある、か」







「うー……」


 結局完全に落ち着く事は出来なかった。

 どうにか忘れようとしつつも朝ごはんの場に着いたは良いのだが、マゼンタちゃんが着た瞬間に先程の光景が鮮明によみがえって色々と落ち着かなかった。お陰で美味しい神父様の料理の味とか全くしないまま、文字通り押し込む形になってしまった。ごめんなさい神父様、そして食材達。


――心配されたなぁ……


 それに神父様やシアンお姉ちゃんには何事かと心配されもした。かといって言う訳にもいかないので、なんでもないと答えるしかなかった。深く追求する訳にもいかないと言った様子で朝ごはんを摂る神父様とシアンお姉ちゃんには本当に申し訳ない事をした。今も僕に礼拝堂の掃除を任せたのも気を使ってくれての事だろうし。


――マゼンタちゃんは特に変わらず食べてるし……


 そして僕にあのような光景を見せたにも関わらず、マゼンタちゃんは特に気にした様子は無かった。本当に見られた所で平気なようである。……あの一枚の布の下は先程の――駄目だ、思い出すな僕。また精神が落ち着かなくなる。


――僕って男として見られないのかなぁ……


 再びあの光景を思い出しそうになり、別の事を考えようとしてふと思う事はそんな事。

 あのように肌を晒したり、弟の様な距離感で近付かれるのは男として意識されていないからではないのか。そんな、弱気な思考。

 ……僕の身体は貧弱だし、顔もシュバルツお姉ちゃんと若干は似ているので少しは整っているとは思うのだけど、男っぽく無くてなよなよしている。これが原因であんな風に見られても小さな子供に見せる様な感覚なのかなぁ……


「どうした、ヴァイス弱気だな? 悩みがあるようなら私に相談すると良いぞ。なにせ私はヴァイスの家族にして姉だからな!」


 そしてそんな僕の様子を心配したのか、多分シアンお姉ちゃんが気遣って呼んでくれたであろうシュバルツお姉ちゃんが、僕に相談に乗るように言って来る。行商人として仕事があるだろうに、僕のために来てくれるとは優しいお姉ちゃんで本当にありがたい。


「ありがとう、シュバルツお姉ちゃん。でもお姉ちゃんには相談出来ないかな……」

「え」


 でも僕は断りの言葉を返した。

 シュバルツお姉ちゃんの申し出は嬉しいが、この悩みは男特有のものだと思う。

 例え家族であり、相談したらどんな内容であれ親身になってくれるだろう大好きなシュバルツお姉ちゃん相手であろうと、お姉ちゃんが女性である以上は話す事は出来ない。というか家族に知られたくないというのもある。


――お姉ちゃん、清純でお淑やかだからなぁ……


 ましてやシュバルツお姉ちゃんは、偶に暴走もするが基本こういった性の悩みとは縁が遠い清楚な女性だ。今も肌の露出がほとんどない服装であるし、他者に肌を晒すなんて事を嫌っているだろうお姉ちゃんに、このような悩みを聞かせるなんて申し訳ない。手を煩わせるわけにはいかないだろう。

 けれど僕が困っているのを見て相談に乗ってくれようとしているのは素直に嬉しいので、改めて感謝の言葉を――


「――――――」

「シュバルツお姉ちゃん? どうしたの」

「――――――」

「おーい、シュバルツお姉ちゃーん? ……お姉ちゃん?」


 だけど何故かシュバルツお姉ちゃんは固まっていた。僕が呼びかけてもなんの反応も無い。


「――(はっ)!?」

「あ、復活した。どうしたのお姉ちゃん?」

「……いや、なんでもないさ。ふふ、私には相談出来ない事、か」

「うん、ごめんね。申し出は嬉しいんだけど、お姉ちゃんに相談するのはその……恥ずかしくて」

美美美(ふふふ)……そうかい、美美美(ふふふ)


 ん、なんだろう。お姉ちゃんの様子がおかしい気がする。具体的に言うと“恥ずかしくて”の部分が聞き取れていないような気がする。気のせいだとは思うけど。


「私に相談出来ないのなら、シアン君やクロ君とか良いんじゃないかな……ヴァイスをシキで受け入れてくれた人たちだからね……」

「あ、クロさんに相談か……でもクロさんになら出来るかもしれないけど……」


 けど、こういった内容を忙しいクロさんに話しても良いのだろうか。自分で解決した方が良い気もするし……


「気にしなくても良いんだよ。もし無理なら無理と言うだろうし、彼なら真剣かつ親身になってくれるよ」


 ……確かにクロさんはこっちが真剣ならば真剣に応えてくれるヒトだ。うん、確かにクロさんならこの悩みにも答えてくれるかもしれない。


「ありがとう、お姉ちゃん。時間が出来たらクロさんに相談してみるよ!」

「そうかい。弟の力になれたようで、お姉ちゃん嬉しいよ。(……そうか……彼なら話せるのか……彼には感謝はしているけど、随分と仲良くなっているようだね……美美美(ふふふ)……!)」


 なんだろう、よく聞き取れないが、お姉ちゃんがなにやら不穏な事を呟いている気がする。


「じゃあ私はこれで失礼するよ。相談するのは良いけど、仕事の手は抜かないようにね?」

「うん、ありがとうね、お姉ちゃん! じゃあまたね!」

「またね」


 僕は礼拝堂を出ていこうとするお姉ちゃんに向かって手を振り、出て行くのを見送った。

 そして扉が閉まると、僕は早く相談するために仕事を終わらせようと手に持った掃除用具に力を込めた。


――ようし、仕事には手を抜かず、この悩みを相談するために頑張るぞ!


 そう決めると、僕は元気よく掃除を再開する。

 まずはモップを手にして、床掃除をするとしよう。ふふふ、はしたないが、体力をつけるついでに勢いよく走りながらやってみようイェイ。なんだかテンションが高い気がするが、気にせずやるとしよう!


「あ、ヴァイス先輩! なんだか元気が無いと聞いたよ! ごめんね気が付かなくて、良ければ私が相談に乗るよ!」

「え」

「あ」


 そして唐突に現れた悩みの種であるマゼンタちゃんにぶつかり――


「おっと、大丈夫、ヴァイス先輩? 走るのは危険だよ?」


 ――そうになって、鮮やかに勢いを殺されつつ受け止められた。

 身体で受け止められたので、先程見た柔らかそうな部分が、“そうな”ではなく柔らかいのだと分かる感触が――


――シュネー、今すぐ変わって! え、やだ? そこをなんとか! 僕をいますぐ眠らせて! お願いだからシュネー、無視しないで!!


 そして僕は最近いる事を知った僕の中に眠るもう一人の僕に助けを求めたのだが、無視されるのであった。くそぅ、薄情者。無視は酷いぞ!


――え、相手が遠慮しないのだから合意? 見る所か触ったりすればいいじゃん? むしろワタシが良い雰囲気にして大事な所で変わってあげるよ? よし、変わらなくて良いよ!


 うん、無視された方が良いな、これ。

 それに「目指せ子供から大人!」とかやかましい。絶対に身体の主導権は渡さないぞ。


「ふふふ、それとも甘えたかったのかな。ほら、甘えても良いんだよ。あの子にはさせて貰えなかったけど、ヴァイス先輩は存分に甘えて良いんだよー」


 ……僕達クリア教の教会関係者は下着の着用が基本的に禁止されている。当然僕もマゼンタちゃんも着用していない。そして女性の場合は当然上もなくて、今布一枚に――


――ああああああああああああ…………


 クロさん。

 貴方には助けて貰ってばかりで申し訳ないですが、僕のこの悩みを早く聞いて助けて欲しいです。


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[一言] 悩める青少年に(略)あれ!(遠い眼差し
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