ダブル可愛いデビュー!(:紺)
View.シアン
「ええっと……マゼンタ。その衣装の事なんだが……特に問題は無いか?」
「はい。サイズもピッタリですし、着心地も良いです。お気遣いありがとうございます、神父君」
「あ、いや、そうではなくて……まぁ問題が無いのなら良いんだが……」
「?」
朝食の際、妙にソワソワした神父様と、綺麗な食事作法で食べるマーちゃんのそのような会話があった。
なにか言いたそうではあったが私もマーちゃんもよく分からず、何故かスイ君も神父様と似たような感情を抱きながらマーちゃんを見ている気がした。
――まさか、ついに可愛さに気付いた……!?
疑問ではあったが私はそういった結論に至る。マーちゃんという可愛らしい子がスリット入りシスター服を着る事によって、可愛いという事を分かってしまったのだろう。なんという罪な少女なのだろうか、マーちゃんは!
……そうだ、そうに違いない。以前のレイ君達への性教育の際にエロ――もとい色々あった気がするが、間違いないはずだ、うん。……それはそうと神父君って呼び方良いな。私もマネしようかな。
とにかくそんな事はあったモノの、特に気にせず今日から私とマーちゃんでダブル可愛いシスター服デビューと相成った訳ではあるが。
「へーい、オーキッド君、パンダ!」
「ククク、パンダ!」
「……貴方達、その挨拶はやめて」
「そう? 可愛らしいと思うんだけなー。それはそうとゴロゴロゴロゴロー」
「ニャゥ!? そんな撫で方で私がほだされるとでもゴロニャゥー……」
「ククク……ウツブシがとても癒されている……!」
「なるほど、この服はこういうコンセプトなんだね。じゃあ、ここをこうすると更にいいと思うよ!」
「!? まさか、至高で究極だと思ったこのデザインがさらに素晴らしくなる、だと……!? 貴女は天才か!?」
「うーん、天才はキャメル君自身だと思うよ。私は百にプラス一しただけだけど、キャメルは零を百にした素晴らしい才能。これからも色んな服を作ってみせてね!」
「おお、なんという謙虚さと美しさ……はっ! 貴女を見ていると新作のアイデアが生まれる! どんどん作っていくぞ!」
「おー、頑張ってね!」
「イエイ、お肉屋のご夫婦! これからも素晴らしい肉をよろしくね!」
「ああ、貴女のお陰で肉への理解が深まった。これからもよろしくな!」
「ええ、貴女のお陰で刃への行為が成長した。これからもよろしくね!」
「イエイ、お魚屋のご夫婦! これからも素晴らしい魚をよろしくね!」
「貴女のお陰で俺は魚の心理に寄り添えた……感謝する!」
「貴女のお陰で私は魚の良い殺しを学べた……感謝します!」
「イエイ、お野菜屋のご夫婦! これからも素晴らしい野菜をよろしくね!」
「野菜とは……生命とは……宙の理とは……!」
「野菜とは……奇蹟とは……神の愛とは……!」
マーちゃん、めっちゃ強い。
まずはシキを知ってもらおうと、スイ君と一緒に色々案内をしたのだが、かつてのメアちゃんレベルに人心掌握をしている。というか一部は怪しい領域にいっている。
初めは何故か皆に新しいシスターだと紹介するたびに、
「シアン……お前後輩にその格好をさせるのか……」
などと複雑そうな表情と共に言われるのだが、マーちゃんが挨拶と共に会話を始めると気が付けば仲良くなっている。
「自分のペースに持っていくのが上手いですね、シスター・マゼンタは」
マーちゃんが少年ラブの気難しいブラ君相手ですら、仲良く話せている所を見ながら一緒に居るスイ君がそう呟く。
確かにマーちゃんは相手に応じて態度を変える、というよりは相手が誰であろうと自分のペースに持っていき仲良くなる、というタイプに見える。いわゆる輪の中心になるタイプである。
「うーん、それは違うかな?」
「? そうなんですか、シスター・シアン?」
外用の言葉を使いながら疑問顔で見て来るスイ君に対し、私は否定の言葉で返した。
確かに自分のペースに巻き込んでいるようにも見えるし、一部はそうではあるのだろうが、スイ君の感想は少し違うように思える。
「あの子は多分、受け入れるのが上手いだけだよ」
「受け入れる、ですか。それはクロさんのように?」
「うーん、クロとも違う受け入れかな」
クロもなんだかんだ言いつつ受け入れる事が多い性格ではあるが、譲らない所は一切譲らない。それでいて相手の事を尊重し、らしくなる境界線を探っていって共存を目指すタイプだ。
「そうだね、マーちゃんは大抵を受け入れて包み込むタイプかな」
「ええと、難しいですが……否定を一切しない、という感じでしょうか」
「そんな感じかな」
見ているのは今日だけだが、マーちゃんは「君がそう思うのなら、私はそれで良いと思うよ!」という感じの子だ。
優しく、甘く、それでいて強いから相手を惑わす。
これはまさに……
――メアちゃんの成れの果て、か。
ふと、クロの言ったマーちゃんの感想を思い出す。
その時はメアちゃんのような危うさを持つタイプかと思った。実際メアちゃんのようなタイプであるのだが、これは本当に――
「あれ、どうしたのシアン先輩、ヴァイス先輩?」
……いや、まだ今日は初日だ。いきなりの決めつけはよくない。
今日は天気があまり良くないからちょっと気分が沈んでネガティブに考えていたのかもしれない。
これから一緒に過ごしていくシスター仲間な訳であるし、今は優しくて聖女の如き資質の一端を見ているだけかもしれない。しばらく経って相手を理解すると、本当は厳しい一面も見せる様な立派な少女である可能性だってあるんだ。
「シスター・マゼンタはヒトと仲良くなるのが上手いなぁ、って話ですよ。私は人見知りをするので羨ましいな、って」
「そう? あははは、褒めてくれるのならありがとね」
……この、何処か以前のリムちゃんを彷彿とさせる笑い方も、ただ似ているだけに過ぎないのかもしれない。……“笑えばヒトらしい”と思っているような、笑い方の本質が似ているなんて事は、まだ思ってはいけない。
「それにしてもシキは楽しいね。皆元気で自分らしさを貫いているよ」
「はい。クロさん夫婦が領主として頑張っているお陰ですね」
「うんうん、さぁ次行ってみよう。ヴァイス先輩、案内お願いしまーす!」
「……あの、シスター・マゼンタ」
「どうしたの?」
「案内して欲しいと言いながら、その、僕……私の、その……」
「んん? どうしたの、もっと大きな声でお願い」
「ええと、その……」
はっ、イケない。私が色々と悩んでいる内にスイ君が再び顔を赤くして困っている!
なにやらマーちゃんに左側に近寄られて困っているようだ。ならば私は初めての後輩で緊張しているようだから先程からしているように、私はマーちゃんの反対側に寄り添って安心感を与えてあげよう!
「シスター・シアン、あの……」
「大丈夫、私が居るからね。スイ君は安心して案内してあげてね」
「……あ、はい……もう……うん、そうですね……」
あれ、なんだろう。更に顔を赤くしたと思ったら、なんだか諦めた様な表情になった。
スイ君は本当に偶に分からない事があるな。神父様以外にここまで読み取れないのは初めてだ。
「よーし、じゃあドンドン行きましょう、シアン先輩、ヴァイス先輩!」
「よーし、ダブル可愛いシスター服コンビで行こう!」
「はは……ゴーゴー……」
まぁスイ君も乾いた笑いをするくらい緊張しているのだから、私はいつもの様に元気に行くとしよう。マーちゃんも元気だし、段々と元気になるだろう。
「あ、ヴァイス先輩もスリット入れます? そしてトリプル可愛いシスターズ!」
「それは絶対ヤダ」
嫌なのか。私的にはアリなんだけどな、ブラザー服のスリット衣装のスイ君は。
備考1 シアンの鋭さに関して
神父以外には基本相手の心情を読み取るのが上手かったり、鋭かったりするシアンではあるが、自身に向けられる悪意以外の感情には割と鈍感。その辺りはシアンがあの服装を男性の前でする所からも読み取れる。
備考2 ヴァイスの状況
右を見れば初恋の距離感の近いお姉さんが近くに居て、見れば健康的な太腿とか色々近くで見えかねない。
左を見れば自分と同じくらいの年齢の可愛らしい距離感の近い女の子がいて、こちらも色々見えかねない。
結論:多分色々と危うい。




