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とある夫婦の恋に愛する長い夜


「しかし、夕食を作ったは良いが、やはりバーントやアンバーと比べると味がいささか落ちてしまっていたな」


 夕食が食べ終わり、軽めの仕事をしてからの寝室。

 昨日は独りで裁縫に集中し過ぎて怒られたので、今日はやりすぎないように本を読むヴァイオレットさんに見張られながら裁縫をしつつの話し中である。

 独りでやる時は周囲が見えなくなるくらい集中するが、別に誰かと一緒に居ながら、話ながらの縫い作業も作業スピードは若干落ちるが俺は可能である。こうしてヴァイオレットさんとや、以前だとグレイと話しながらの作業も今までに何度もあるし、前世でも(ビャク)がゲームをするのでそのプレイ内容を見ながら縫う、なんて事もしていた。俺個人としてはこちらの方が楽しく縫えるので好きではある。好きとはいえ、相手に失礼な場合は流石に縫うのを止めるが。


「それは仕様がない事かと。十年以上料理を学んでいたあの両名と、作り始めて一年も経っていないヴァイオレットさんが同じくらいだったら立つ瀬が無いですよ」

「それはそうだな。二人にも失礼か」

「……まぁ、俺はヴァイオレットさんより長く作っていますが、もう越されていますがね。貴女の作る料理はとても美味しいですし、好みの味付けです」

「はは、ありがとう。だが私の料理はクロ殿やグレイに美味しいと言ってもらうための料理だからな。自然とクロ殿にとって好みの味付けになるから美味しいのだと思うぞ。つまり私の料理は家族……クロ殿のための料理だ」

「その言い方は……ズルいですね」

「ズルく言ったからな」

「……ズルいですね」

「ふふ、ズルいとも」


 しかし会話の内容がこういった類の話になると、縫うペースはとても落ちると言うか、心が乱されて集中出来なくなる。基本(ビャク)のやるゲームやアニメが面白い展開になろうと、縫い続けられる俺ではあるが、ヴァイオレットさんのこういった会話に対しては耐性が無いのか平常心を保つ事が困難になる。

 一応縫う事自体が止まる事は無いのだが……多分ヴァイオレットさんには俺の動揺は気付かれているだろうな。いつかは止める程の動揺を与えようとするのを目標とすらしてきそうである。


「ところでクロ殿。コーラル王妃の依頼の品は滞在中にどうにかなるモノなのだろうか?」

「出来ますよ。ちょっと難しいのですぐには無理ですが」


 ……それはそれとして、妻の前で別の女性(コーラル王妃)の下着を縫いながら話す光景って、傍から見たら妙な光景だよな。ヴァイオレットさんは気にしていないようだから良いけど。むしろ名誉だと思ってくれているようだし。


「難しいとは?」

「コーラル王妃の測定値を見るに、デザインと実用性を兼ね備えるの難しいんですよ。良いデザインをお渡ししたいのですが、デザインを優先して壊れたら本末転倒ですし……」

「そういえば私も今日コーラル王妃と少し話したのだが、そのような事を言っていたな……私ですらあるのだからコーラル王妃はなおさらだろうな」


 コーラル王妃、身長はヴァイオレットさんより少し高い百六十七で、身体は四十代後半に差し掛かったとは思えない冒険者(アスリート)体型。一昨日のサウナでも思ったが、多分スカイさんと同等程度、あるいは以上の筋力をしている。引き締まった素晴らしい体型だ。


「一メートル越えの張りのあるサイズですからね。多分合う物を探すだけでも大変でしょうし」

「だからクロ殿でも作るのが難しい、と」

「そうなりますね」


 そして胸が……とても胸が大きい。本人も言っていたが、あの大きさと張りは見事なモノだ。自慢したくなるのも分かる。

 とはいえ、邪魔だとも言っていたし、前世ですら合うサイズを探すのに一苦労する代物だ。普段はサラシの様なもので抑えているらしいが……王妃という立場で色々探せるとはいえ、アレは相当厄介であろう。

 だが、それはそれとして……


「ふ、ふふふ、ですが作ってやりますよ。自分の大きさや形に合うサイズが無いと諦めていた女性が、自分の胸にフィットする形で装着出来て嬉しそうにする表情を見ると俺も嬉しいんです。ふふふふふ、下乳を綺麗に納めて可愛らしく痛くなく、背中に食い込みにくいブラを作ってやりますよ……!」

「おー、頑張ってくれクロ殿ー」


 しかし厄介な代物を立派な代物に替えるのが服飾の素晴らしさだ。

 中身自体は素晴らしい肉体を持つコーラル王妃なんだ。後は服飾の力でその素晴らしさを維持するのが辛い代物にならない様にしつつデザインを気に入らせるのが、型紙師(パタンナー)としての腕の見せ所だ……! 待っているんだコーラル王妃、サウナで見た時に思った素晴らしい貴女の胸を包み込んで見せる!


「なにせサウナで湯着を着て迫力のあるモノを見てから、この体型でこの胸なら俺はどういう技術でなら良い物が作れるかと考えていたからな……!」

「……これを見ていると、夫は女の色香に惑わされにくいのは分かるが、男として大丈夫なのかと思いもするな……」

「ご安心を。貴女に関してだけ女の色香に惑わされます、ようは貴女にだけ欲情し男として求めますので」

「ごほっ!?」


 おや、ヴァイオレットさんが咳き込み読んでいた本を落としそうになった。何故か分からないが動揺したようである。本当に何故かは分からないが。


「というかヴァイオレットさんは()()を知っているでしょう?」

「そ、そうだな。()()を知ってはいるし、他の女に惑わされぬのは良いのだが、魅力的な女性に興味を示さないというのも、な」

「一昨日コーラル王妃と気付かなかった時、コーラル王妃に興味を示し惑わされたのかと嫉妬していたのは誰でしたっけ」

「う」


 コーラル王妃の変装に気付かず、俺が惑わされたのではないかと可愛らしい嫉妬をしたヴァイオレットさん。ちなみに嫉妬の一番の理由は自身とは違うタイプの体躯(スタイル)と自分より立派な女性の象徴が同性でも魅力的に思えたからとか。

 ヴァイオレットさん自身、大きくなっていく胸に異性の視線が集まるのを感じ、男性が大きな胸に惹かれ見るという事を理解しているからこそ焦ったのだろう。


「……それとこれとは話が別だ。嫉妬はするが、魅力的な代物に興味を示さないと私で大丈夫なのかと不安になるんだ」

「ああ、なるほど」

「そうだ。男性が大きな胸の女性に目が奪われるのは、私も何度も経験しているから、コーラル王妃の――」

「つまり不安にならないようにもっと求めろと」

「――ん?」


 俺は裁縫道具を置き、立ち上がるとゆっくりとヴァイオレットさんに近付いた。


「どうやら俺が男として魅力的な女性に興味を示すかを我が妻は不安がっているようですね」

「ク、クロ殿?」

「ですが生憎と、俺がそれを証明するには魅力的な女性の協力が必要で、なおかつ男として求める必要があり、愛する妻には嫉妬させないようにしなければならないので――ねぇ、ヴァイオレットさん?」

「な、なんだろうかクロ、殿?」


 近付いていき、慌てて本を床に落としてしまった壁際に座っているヴァイオレットを追い詰めるような形で迫り、さらに一言。


「証明するために夜は長くなりそうですけど、付き合って貰えるでしょうか?」

「は、はい――」


 ――今日は昨夜と違い、向き合う形で寝る事になりそうである。


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