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王妃の休日_7(:珊瑚)


View.コーラル



 クロ・ハートフィールド。

 ハートフィールド男爵家出身であり、現在の彼自身の爵位は子爵。

 年齢は二十歳であり、私と同じ四十五年生きている男性。

 言葉だけだと意味が不明であるが、ヴェール君曰く「彼には前世の記憶があるから間違ってはいない」との事だ。

 以前……というか、一ヶ月前であれば戯言と称していた内容であり、最近聞いてもにわかに信じがたい事である。なにせ私の周囲への見方が変わったので「今ならなんでも信じそう」という事で適当な事を言い出したのかと思ったレベルである。

 しかし最近のメアリー君やエクル君などの情報や言葉から、私達が居る世界とは全く違う世界の前世の存在を信じざるを得なくなった、と言うべきだろうか。あるいは“信じなくてはならない”という直感が働き、前世と別の世界の存在を認めるようになった。

 そして彼も前世の記憶が有り、前世では二十五、この世界では二十年生きているので、ある意味私と同じ年齢の男性である、という事である。


――なんだ、最近は若返りが流行っているのか。


 クロ君は四十五年生きた二十歳。

 エクル君は四十八年生きた十七歳。

 メアリー君は三十三年生きた十六歳。

 クリームヒルト君は四十一年生きた十六歳。

 そしてどこぞの親友は私の一歳下の癖になんか十五歳くらいになってた。外見自体はその年齢よりもっと幼く見えるが、アレは親友が成人した頃とそう変わりあるまい。

 ……若さに執着している訳では無いし、年齢を重ねた故に見える事を見ようと精進中の私ではあるが……なんというか、こう、ズルい。あの年齢の頃は肉体の成長をよく実感できる頃であったので、その喜びを得られるというのは羨ましいのである。


――レッドも私が若返ったら喜んでくれるのだろうか。


 私は十五歳の時から実年齢より大人びて見られていたから、レッドも違った魅力のある親友の…………はっ!? いけない、これは駄目な思考だ。

 私はレッドと共に年齢を重ねて、喜びと苦難の道を歩んでいき、子供や孫世代を見ながら多くの思い出を共有し語り合う余生を過ごしたい。決して若返ってもこの胸の大きさは変わらないし、スカーレットとフューシャのように張りのある肌ならば昔のように喜ばせられるとか思ってはいけない。

 それに――


――それに、今の私はそのような願望を抱く事は許されない。


 若返りに関しては望んでもどうこう出来る代物でも無いが、余生に関しては今の私は望んではいけない事柄だ。

 それはまさしく夢――そう、夢である。

 夢を現実に変える資格を得るには、まずは……


――あの時は出来なかった話し合いを、しなくては。


 まずは、クロ君と改めてキチンと話さなくてはいけない。

 かつては学園祭でのカーマインの件を、裏も見ずに結果だけを見て憎しみを抱き。挙句にはカーマインの言動を狂わせた相手として排除しようとした。

 ……結局はその感情もカーマインの幽閉を無くすための隠れ蓑とした上に、その隠れ蓑も何処かの親友に見越されていたのだが……ともかく、私はクロ君に良い感情は抱いていなかった。

 だが同時にクロ君も私に良い感情は抱いていなかったであろう。

 そして私の処遇を決めるあの時には“あのような事”を望んだが、あの時はレッドなども居たからあのように望んだ可能性もある。

 故に私は彼と一対一で話し合わなければならない。その結果がどのような事になろうとも、覚悟は決まっている。

 ……私は貴族でもなんでもない同じ年齢の男性を相手として、クロ君と話さなくてはならないのだ。


「さて、次は温泉施設に行ってコレを設置しないとな。――フン、フーン、上手くいくと良いなぁ」


 ……なんか子供っぽいな、クロ君。

 私はクロ君を見つけ、一対一で話す機会を窺っているのだが、クロ君はなんというか……言動が少々子供っぽい。

 謁見の時などは今世の年齢に応じた者だと思ったのだが、今世の年齢を考えても……い、いや、鼻歌くらい歌う時もあるし、良い事があれば足取り軽やかになる事もある。ただそう見えるだけで、“あの時”のように男らしい一面を――


「クロ、ご機嫌だな」

「お、神父様。……いや、今は敢えてスノーと呼ぼう。実はなスノー、アレが手に入ったんだ」

「アレと言うと……まさか、アレか!?」

「そうだ王制共和国発祥のアレだ! さっきシュバルツさんが仕入れてくれたから今日実際に試してみるんだ!」

「くっ、俺がこの後の務めが無ければ是非一緒にしたいが……だが、今は!」

「ああ、上手くいく事を祈っていてくれ――そしてまずは、ヘイ!」

「ハイタッチ!」


 ……うん、子供っぽいな。一緒に居てハイタッチを交わす神父らしき男性もそうだが、やけに子供っぽい。……いや、男性は夢見るように子供のような言動をする事があるし、アレもその一種で男同士の友情の在り方なのかもしれないな。


――だが、温泉施設でなにかをするのか……


 温泉施設というのは、シュバルツ君からの情報で存在を知っている。

 急に湧き出した温泉をクロ君が施設として成り立たせ、無料開放しているそうなのだ。少し歩くが男女に別れているので、足を延ばしてお湯に入る時は丁度良い施設だという。


――そこでならクロ君とゆっくり話せるかもしれんな。


 少し歩く場所ならば、今この街中よりは人目も少ないだろう。

 そして人目が無い場所でタイミングを見計らってクロ君に接触する。そしてその後は話し合って、クロ君の思う気持ちを受け止め、そして。


――話し合って、クロ君のいいようにされよう。


 ヴァーミリオンは私に対し「仲良くなるために裸の付き合いはしないでくださいね」と言っていた。当然する気は無い。

 十・二十代と比べると“若く瑞々しい身体”とはどうしても離れてはいるが、私の身体は相応の武器として利用出来る代物であり、家族以外に全てを見せるのは価値を放り出す愚行である。


――だが、私のやった事は間違いなく罪人の所行だ。


 被害者は多く居るが、その中で被害が大きいのは、私を直接止めに来たヴァーミリオン達、スカーレット、そして……クロ君だ。

 つまり私は、


――必要ならば、この身を……!


 クロ君が望むのなら危険な仕事をこなすし、個人資産を渡すし、なにかあった時の融通も聞かせるし――望むのなら辱めも受けよう。

 そう“仲良くなるため”に身を晒すのではない。“許されるため”に身を晒す。

 これが王妃としての――コーラルとしての、クロ君への贖罪である!


「――っ!? な、なんだ、悪寒が……春も中頃だけど、寒気を覚えるなんて、風邪か……? いや、これは早くコレで温まってみろという思し召しかもしれないな……」


 安心しろ、クロ君。私は精神面では至らぬ所もあるが、色んな方面に優れているという自負はある。

 戦闘面では若い者達にまだ引けを取らないから危険な討伐もこなせよう。

 個人的資産は民と将来のためとは別に、我が子のためにと真っ当に稼いで溜めたお金であり、クロ君と君の孫世代までは贅沢できる資産だ。私であればすぐに溜められる。

 王妃としての立場を利用させろと言うならば、我が子達の王族としては異例と言える結婚を手伝うように、利用されてみせる。

 このテクニックを夫以外に使うのは初めてだし、正直言うならば夫以外には見せたくなく憚られるモノだが、クロ君が望むのなら私はこの身を使おう。大丈夫だ、レッドも二度の浮気をした挙句に子供を設けたんだ。万が一バレてもそれを盾にするから安心しろと言うぞ。まぁ話すつもりはないが。


――メアリー君も言っていたからな。敗れた敵の王妃には淫らな事をするのが日本(NIHON)のマナーであると。


 若い力に敗れたあの時にメアリー君に言われたあのマナー。その時はなにを言っているんだ、という状態だったが、前世の別世界のマナーだというのなら頷ける。

 そして私は敗れた王妃。クロ君も別世界で過ごした前世持ちだ。同じマナーを学んだのなら――私は、そのマナーに従おう。この世界には無い世界でも、他国のマナーに理解を示すのが重要であると、王妃の私は身に染みているからな!


「……なんか嫌な予感がするな。気を引き締めて試した方が良いという直感か……? よし、気を付けよう。さて、入るか」


 む、クロ君が温泉施設の隣に併設されている謎の建物に入ったな。

 チラッと中が見えたが、中は一部屋あるだけで誰も居ないように見えた。つまり――


――今がチャンスだ!


 他に誰も居ない部屋。

 クロ君と私の二人きり。

 温泉施設も外から知覚する分には誰も入っておらず。

 周囲は静かな木々の音だけが心地良く鳴り響いている。

 という訳で。


「クロ・ハートフィールド子爵!」

「え!? だ、誰!?」


 私は扉を開けた。というか半開きだったので中を除いてから開けてクロ君の名前を呼んだのである。


「え、ええと、どちら様でしょうか……?」


 そしてクロ君は警戒態勢を抱きつつ、なにやら石のようなものを持ちながら構えていた。どうやら元々持っていた鞄から取り出して部屋の中央にある箱に入れる作業をしていたようである。

 しかし突然の来訪で、変装により誰か分からない相手が来ても敬語を崩さず対話を試みるとは流石である。これがシキの領主というものか……!


「今の私の顔は分からなくとも、クロ君は私の身体を見た事があるから分かるはずだ」

「は? え? か、身体……?」

「王城での戦いの時、私の聖鎧が壊れていて見たはずだ。そしてクロ君は女性の身体を見たら把握する力に長けていると聞くから、私の身体にも覚えがあるはずだ。特にこの誰にも負けぬ自負がある胸をな!」

「え、ええと、人を女性の身体の情報だけを覚えている変態みたいに言って欲しくないですが、胸……? それに王城……」

「そしてクロ君!」

「っ!?」


 そしてそんな立派な領主に詰め寄り、私はまずクロ君に、私の処遇に対する話し合いをしようと初めの言葉を言う。


「私の身体を自由にして良いぞ!」

「あの、まずは落ち着いてくれません? それからゆっくり思い出しますんで」


備考 コーラルが言っていた“別世界のマナー”

詳細は890部「避けられぬ戦い?(:朱)」参照。

要約すると「敗れた騎士はくっころ状態になるからエロい事をするのがマナー」

当然そのようなマナーはありません。


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― 新着の感想 ―
[一言] いやシュバルツが言った愛妻家って事忘れてますやん王妃!? …でも真面目な話王妃って貴族出は貴族出でも食器よりも重いものを持ったことが無い深窓の令嬢かと思ったらバリバリの女騎士だったので ク…
[一言] 姫騎士とクッコロはお約束だけどね……。 元姫騎士な王妃だからクッコロも間違いではないような……人妻ものもよくあるし……?(脳破壊
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