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紺と雪白と純白、遭難す_4(:紺)


View.シアン



 しゃがみ込み、脳内でグルグルと思考が巡って整理が付かない状態で十数秒。

 まだ上手く考えが纏まらないが、このままではいけないと思い、立ち上がり服を脱ぎ。適当な所に服をかけてタオルで身体を拭いた。ある程度髪なども拭けたので、服を絞れるだけ絞り、水分を出した後、広げて皺を伸ばした。

 皺程度ならば着る分には問題無いのだが、完全には乾ききってはおらず、着るには少々躊躇われる。そのため物置にあった一本の棒状のものと、同じく物置にあった暖房用にあった魔力を込めると熱を発する火術石を使い、服を乾かす事になった。

 棒も火術石も一つしかなかったため、私が物置から腕だけ出して棒と火術石、そして私のシスター服を神父様達に渡して、スイ君が魔力をこめて熱を出し、神父様が棒に服を干した状態で持って乾かしている。


「シアン、寒くないか? もう少しで乾くからな。あと埃っぽくないか?」

「……大丈夫ですよ。それともまた私に嫌われる覚悟で神父様が裸の私を肌で温めてくれるんですか? 他者を助けるために身体を許してくれるんですねー。わー、神父様のえっちー」

「そ、そういう意味じゃ無いからな!」

「冗談ですよ。身体は乾きましたし、今は寒く無いですから」


 そして当然ではあるが、私達の場合服を一枚脱げば裸である。

 私は見られるのは流石に恥ずかしいし、神父様やスイ君も私に見られるのは恥ずかしいし嫌だろう。そのため、私が物置で独り、扉越しにこうして話しているのである。


――扉一枚挟んで、私達は全員裸かー……


 なんとも不思議な状況である。鍵も無い部屋で、あっさりと開く扉の越しに、私は身を隠せるモノなどハンドタオル一枚しか持っていない。しかもこれはもう少ししたら魔力切れで霧散する代物だ。

 ……女として状況的に身の危険とか色々心配しないと駄目なのかもしれないけど、相手は神父様とスイ君なので襲われるのではないかという不安は少ない。


――やっぱり、恥ずかしい。


 けどやはり緊張はするし、恥ずかしくもある。

 異性の誰にもまだまともに見られた事の無い裸を、相手の意思次第ではあっさりと見られてしまう。

 神父様達を信用はしていても、その事実が私を不安と羞恥に染めてしまうのだ。


――神父様達も、同じ状況……!


 あと、神父様やスイ君も同じ状況というのが私の思考を乱す要因にもなっている。

 神父様は人当たりの良い優男で、普段は身体のラインが分かりにくく、露出の少ない神父服を身に纏っているが……鍛えられた肉体を持っているのを私は知っている。なにせいつでも誰かを救えるようにと鍛錬を欠かさないのだ。神父様は同年代と比べても筋肉質で端整な肉体であろう。


――駄目。それを想像すると思考が更に乱れそう。スイ君も居るのにこれ以上は駄目……!


 ……駄目だ、今の神父様を想像すると、普段は「好き!」で済みそうな大丈夫な事も思考を乱され、心臓を昂らせる要因となってしまう。……こう言ってはなんだけどスイ君が居て良かった。あの子が居なければ二人きりという状況で私はどうなっていたか分からない。今もどうなるか分からない状況だが。


「そういえば神父様、スイ君。今度私の仲間が増えるかもしれないんですよ!」

「え。あ、ああ、そういえば行きがけにそんな事を言っていたな」

「クロさんが仰っていたのでしたっけ」

「うん、そうだよ」


 どうなるか分からないので、別の事を話して気を紛らわせることにした。

 黙ってしまうから変な方向に思考が行くのだ。ならば服が乾くまでの間、話題を提供して時間を潰すとしよう。


「新しいシスターか……シアンやヴァイスはともかく、俺は上手くやれると良いんだが」

「神父様は人見知りな私と違って上手くやれると思いますけど。それに外見や血で距離を置かれる事も無いですしょうし……」

「いや、俺は他者の感情の機微に疎いらしいからな……気付かぬ内に失礼をしていそうでな。気難しい相手だと俺は上手くやっているつもりでも、実はそんな事無かった、とかなりそうでな。それに相手は女の子(シスター)だしな……」

「その辺りは私がフォローしますって。というか、今までもシスターを相手はした事あるでしょう?」

「あるにはあるし、それなりに話すようになった子とかお世話した子に以前……」

「以前?」

「……助祭とかに“あのヒト勝手に動いて着いて行けません”と言っているのを聞いてな……まぁこれはシスターだけでなくブラザーにもそうなんだが……」

「あ、あはは……」


 スイ君はどう反応して良いか小さく笑っているのが聞こえた。

 確かに神父様は誰かのためにすぐに動くから、着いて行くのは割と大変である。直して欲しいと思わないでも無いが、そこが神父様の良さでもある。いままでその良さを理解する相手が居なかったという話だ。


「まぁシアンが居れば大丈夫だと思うよ。どんな相手でも仲良くやれそうだ」

「どうですかねー。何処かの第二王子のような感じだったら、私は仲良く出来ませんよ?」

「その時でもシアンは、その子をシキに馴染ませようとしてくれるだろうからな」

「そうですね。シアンお姉ちゃんは悪い所は悪いと、根気を持って向き合って直そうとしてくれるでしょうね」

「ああ。成長を促し、導いてくれる良いシスターだからな。そうでなければ俺は当の昔に見限られているだろうからな」

「私もこんな風に前向きに慣れなかったと思いますしね」

「それは……どうもありがとうございます」


 ……なんだろう、この流れで急に私が褒められるとは思ってもみなかった。

 先程のクロもそうだが、今日は私を褒める日かなにかなのだろうか。いや、クロとの話はもう昨日の話だから……ってそこじゃない。こんな状況で褒められても困るという話である。


――クロとの話……


 そこでふと、クロとの話を思い出す。

 新しいシスターが来て、私が神父様を取られないようにと嫉妬するかもしれないという話である。

 新しい子が神父様やスイ君と仲良くやれるように頑張りはするが、神父様と仲良くやったらやったで私は間違いなく嫉妬する。

 クロに言ったように、嫉妬した結果攻撃とかはしないとは信じたい。だがそれが未来である以上は、確定した事などありはしない。

 それに……


――嫌われるのは少し悲しいが、か。


 それに、先程の一件も気になる。

 私はヒトの機微には聡い方ではあるが、神父様に関してだとあまり読み取れない事がある。多分好きな相手には照れが先行するのだろう。

 だがその時でも読み取れた、神父様の感情。私のために、私に嫌われても風邪をひかせないようにとしてくれた事。


――少し悲しい、で済んじゃうんだ。


 ……こういう時、私の感情の読み取りの聡さが嫌になる。

 私の確認の言葉に、神父様は否定をしなかった。そして私の言葉は事実なのだと読み取れてしまった。

 私と神父様は付き合っている。

 鈍い神父様と付き合えている事は、奇跡という他の何物でもない。神父様に好きと言って貰い、付き合っているという事自体が大きな進展なのである。


――もっと嫌がって欲しかったな。


 ……だからこそ、嫌われる事による自分の感情を、無視出来る程度にしか思われていない、という事はちょっとだけ悲しかった。

 我が儘なのかもしれないが、もっと執着してもらいたかったと思ってしまう。


――はぁ。私、大丈夫かな……


 このままではクロが心配していたような事になってしまう。そしてそうなっては神父様に嫌われるだろう。スイ君にも軽蔑されるだろうし、なにより私が私を嫌いになる。まさに踏んだり蹴ったりだ。

 ……今の神父様の状態では、私が告白をした所で、最高の返事(こくはく)なんて返って来そうにない。どうにかしないとな……


「ああ、でも」

「?」


 私が物置で独り落ち込んでいると、神父様がなにか言葉を続けようとしていたので、私はネガティブな思考を一旦打ち切って耳を傾ける。


「案外俺も上手くやっていけるかもしれないな。俺だって少しは変わってきているし」

「変わって? ……私とシュネーと戦って、一皮むけた……とかですか」


 そういえば神父様、スイ君の中に居るシュネー君と向き合って、少しだけ強迫観念が薄れていた気がする。多分本気の感情を封印していたけど、一回本気で感情のままに戦ったから変わったんだろう。

 確かにそれを思えば、変わっては来ているんだろうけど……


「それもあるが、もっと別の事だ。シアンという彼女が出来た事だよ」

「え」


 しかし次の言葉に私はつい間の抜けた感嘆詞を発してしまう。


「最高の彼女と付き合えているんだ。そんな子が傍に居れば、流石に俺も変わって来るよ」


 神父様は私が聞いている事を知った上で。

 見えはしないが、恐らくいつものような優しい笑みを浮かべながら。


「世界一好きな子に最高の彼氏だと言って貰えるように、俺も頑張れるだろうな」


 特別に意識はしておらず、当然の事だから当然のように言うように、言ったのであった。


――これは、えっと……


 つまり、なんだ、えっと、これは、その、そう、つまり。

 私はまた、神父様の感情を上手く読み取れなかったという事だろうか。


――これってもしかして……


 いや、違う。

 私はもしかしたら今までも神父様の感情を読み取れていたのかもしれない。そして先程も本当は分かっていたのかもしれない。

 ただ……


――私、スノー君の事になると、自分の感情が読み取れなくなるんじゃ……


 ただ私は、スノー君の感情を読み取った上で、私が理解出来なくなってしまっているだけなのではないか。

 そんな事を、こんな状況で考えてしまうのであった。


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