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いかなる時もイチャつく


「コホン。さぁ、クロさんにエロい事をされたくなかったら、大人しく話してください、ヴァーミリオン君」

「くっ……!」

「その表現やめて貰えません?」


 折角協力しているのに、協力したくなくなってしまう。殿下の事を心配だからそう言っているのは分かるのだけど……いや、心配だとしてもこの表現は嫌だな、うん。

 あと殿下も「くっ……!」じゃないよ。その言い方だと本当に「殺せ!」って続きそうだよ。騎士じゃないけど。


「……だから、話せない事は話せない。俺は今回の騒動の首謀者の息子として、責任を果たすために後始末をするだけであるし、姉さん達の所にも行くだけだ。本当にどうしたんだ、メアリー。ヴァイオレットもクロ子爵に頼む必要は無いんだぞ」


 だが、ヴァーミリオン殿下(メアリーさんに脅しで壁ドンされている)は、殺せと言うのではなく、問い詰められてもなお戸惑いの表情を見せながら話す事は無いと言う。

 俺の脅し(?)が効かないのか、あるいは本当に話す事は無いのか。確信にも満ちて、話すまで逃がさないとしているメアリーさんやヴァイオレットさんを前にして戸惑うという事は、後者なのかもしれない。もし隠し立てしている事があれば、今のメアリーさんからは逃げられないと悟るだろう。


――嘘は言っていないな。


 だけど先程感じた違和感と、今の言い回しで俺もなんとなく気付いてしまった。

 今のヴァーミリオン殿下は嘘は言っていないが、メアリーさん達が聞こうとしている内容も話そうとはしていない。恐らく殿下はそれを分かった上で言っている。嘘は吐かない事で誤魔化そうとしている。

 しかし俺が感じるのは違和だけであるし、正確な内容までは分からないが……。


――内緒にしたいのなら、無理に聞く必要は……


 なんでもかんでも話す事が信頼関係とは言えないし、親しいからこそ隠したい事もあるだろう。

 他だと“メアリーさんという好きな相手には特に話せない”と言うのもあるだろう。それが格好つけになるのか、あるいは恥ずかしいから話したくないからなのかは俺には分からないが……


「…………」

「? ……どうした、クロ殿?」

「いえ、ヴァイオレットさんなら殿下の隠したい事分かるのかなー……って」


 ふと、ヴァイオレットさんなら分かるかもと思ってしまった。……駄目だな、俺的には気にしていないつもりであったが、先程のヴァイオレットさんのヴァーミリオン殿下好き好き感情を受けた影響があるのかもしれない。


「私は違和感程度だ。……そもそも殿下の心情を鋭く気付けていたら、私は学園であのような事をしないさ」

「えっと……なんかごめんなさい」

「うむ、気にしてくれ」

「はい、では気にしません――え、気にしてくれ?」

「なにやらクロ殿は私に妙な疑い……気遣いを考えているようだからな」

「わ、分かりますか?」

「殿下の気持ちは分からずとも、クロ殿ならば少しずつ分かって来ている。なにせ愛しの相手の事だからな」

「ヴァイオレットさん……!」

「ふふ、だからお詫びに後でなにかしてくれ」

「分かりました!」

「分かってくれたか」


 ヴァイオレットさんはそう言いながらこちらを向いて微笑んでくれた。なんと可愛らしい微笑みな事だ……!

 こんな笑顔と言葉を向けられるなど、少しでも後ろめたくなった俺が恥ずかしい……!


「あのー、この状況でイチャイチャしないでくださいー」


 は、イカン。ついヴァイオレットさんの素晴らしさを再確認して、さらなる愛おしさが増していき、先程の続き(手繋ぎ)をしそうであった。今はヴァーミリオン殿下の話が重要であった。続きは問い詰めが終わってからするとしよう。


「よし、俺は妻の愛を受け取ったんで、殿下を責める事に容赦はしませんよ」

「クロ子爵は本当にヴァイオレットに甘いな。……なにもない。これは本当だ」


 俺が手をワキワキ(本当になにかするつもりではなく、ポーズでやってる)をしながらヴァーミリオン殿下に近付くが、殿下は変わらずなにも無いと言う。

 ……これはやっぱり、聞くのも野暮かもしれないな。


「メアリーさん、流石にこれ以上はやめたほうが良いのでは?」

「…………。そうですね。ごめんなさい、私の勘違いだったみたいです」


 メアリーさんはジッと殿下を見つめ、殿下は変わらず困ったようにしながら目を逸らさずに見返し、少しの間の後、メアリーさんは壁ドンを止めて一歩下がり謝った。


「では、私はちょっとヴァイオレットと話をする事がありますので、先に行ってください。ヴァーミリオン君も疲れたら休んでくださいね? 休まなかったら私も休まず働くので」

「斬新な脅しだが、俺に効果はてきめんだな。分かっている、ではな」

「ええ、では」


 メアリーさんの言葉に殿下は小さく笑いつつ、改めて部屋を出ようとする。


「私達は今回の一件の真の黒幕を話していますので」


 そしてメアリーさんが笑顔で言った言葉に、殿下は出ようとする足を止めたのであった。


「……メアリー?」


 そして殿下は先程までとは違い、何処か真剣な面持ちでメアリーさんを見て来る。


「どうされたんです? 私はヴァイオレットやクロさんと、今回の一件のコーラル王妃以外の黒幕を話し合い、確信を得てからその黒幕の所に行くと言ったのですが、なにか気になる事でも?」


 対してメアリーさんは笑顔のまま、という、「そちらが話さないんだったらこっちから言うぞ」的な言葉を言う。

 その笑顔はローズ殿下とは別種の怖さが有り、基本は優しいメアリーさんから感じた、今までとはなにかが違う感情が感じられる。


――コーラル王妃が、黒幕じゃない……?


 メアリーさんの怖さは、恐らく殿下に対しての怒りの感情が混じっているモノと思われるが、言った内容はどういう事だ?

 その内容は俺にとっても聞き捨てならない事であり、場合によってはヴァイオレットさんに止められようとも行動に移さなければならない事柄だ。


「どういう事だ、メアリー。コーラル王妃とは別に首謀者が居ると言うのか?」


 いや、ヴァイオレットさんも内容に喰いついている。恐らくヴァイオレットさんも俺と同じように、内容の如何によっては行動に移す気である。


「ええ、恐らくは。私も先程まではコーラル王妃が全てを操り、今現在はこれ以上の事をしそうにないので、後始末だけだと思っていましたが……」


 メアリーさんはこちらの方を向きつつ質問に答え、一旦区切ると殿下の方を見る。


「ヴァーミリオン君の言動から、まだ終わっていないと分かりました」


 事件の後始末と言う意味ではなく、事件の渦中である。メアリーさんは殿下を見てそう判断したのだという。それは確信にも似た――いや、確信しての言葉であった。


「…………」


 殿下は振り返って止まった後、なにも言う事無くそのままだ。


「……ふぅ」


 そして暫く俺達に見られていると、小さく息を吐いて顔だけこちらを向けていたのを、身体事向き直ってこちらを見た。


「……確信、と呼ぶには根拠が不十分であるし、なにより、向かうにしても当てが無いから巻き込むのもな、と思っていた」


 殿下何処か覚悟を決めたような、あまり言いたくなかったと言わんばかりであるが、ここまで来ると諦めて話したほうが良いだろう、といった表情で話し始め。


「悪いが、説明を聞くのならついて来て貰えるだろうか。俺も王子としての後始末の前の短い間に少しやろうとしていたくらいなのでな」

「……分かりました」


 先程とは違い、殿下はついて来るようにと言って背を向ける。

 ……ヴァーミリオン殿下のその背中は、今まで見て来たどの背中よりも、何処か物悲しさを感じた。……俺も行くからには、覚悟を決めて行くとしよう。


「あ、だがその前にクロ子爵はその御粥を食いきれ。食べ物を粗末にしてはいけない」

「え、わ、分かりました」

「ついでだ、ヴァイオレット。お前が食べさせてやれ」

「何故です!? 俺は普通に食べれますって!」

「クロ子爵はヴァイオレットから食べさせて貰えば元気が湧くようだからな。どうせ同じ栄養を取るなら愛情もついでに補給しておけ」

「いや、ついでにって……」

「分かりました、殿下。はい、あーんだクロ殿!」

「ヴァイオレットさん!?」


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― 新着の感想 ―
[一言] さすがヴァーミリオン。さりげなくメアリーと二人きりになったか……。 ……3体1から逃げたわけではないよね?攻めの姿勢なんだよね?……?
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