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壊れた金の女性


「――()()の大切なモノを奪ってやる」


 現れた金髪の彼女は、数日は眠っていないような不健康な目を見開き、俺を指差しながら呪詛のように宣言した。

 俺を人間扱いしていないから“ソレ”と言ったのではなく、人間扱いしているからこそ俺をそのように表現しているように思えた。

 相手がだからこそ、人間として大切に思うようなものを奪い、人間として大切な存在(モノ)を奪う。そう、言っているように思えた。


――オール。


 その名は聞き覚えがある。

 第二王子……カーマインの妻にして、帝国貴族の女性。俺を恨む女性としては、コーラル王妃と並ぶだろう要注意人物。


――さっき見かけた女性……?


 しかし、要注意でありながら俺には詳細な情報はなく、ヴァイオレットさん等以前に会った事がある方々に情報として聞いたくらいの女性。

 曰く聡明叡智。

 曰くプライドが高く気難しい。

 曰く帝国の誉れ高き黄水晶(シトリン)

 彼女を讃える言葉は数多く、彼女とカーマインの婚約は王国にとっても繁栄をもたらすだろうと称された女性だ。


――……俺としては、彼女の気位の高さのせいで……いや、あれはカーマインが原因だ。


 俺としては亡くなった友人……タンやテラコッタの件で思う事が無い事も無いが、彼女自体に罪は無く、俺は彼女にカーマインの件で罵られたり、はたかれたりするならば甘んじて受けようと思っていた。

 カーマインが悪くとも、俺に罵倒や手が出るならば彼女はカーマインを少なからず好きであった、という事だ。あるいは立場を悪くしたから出るかもしれないが、彼女からすれば夫を失脚の原因とも言える男だ。

 だから多少の事は我慢する事が、最も波風立たせずに進む対応である。そのように思っていた。


――けれど、奪おうと言うならば――


 しかしそれはあくまでも俺以外に危害を加えない場合の話だ。

 もしカーマインのように俺の大切な人や、守りたい場所を奪おうとするならば容赦はしない。


「オール。それ以上の妙な行動は控えて貰おうか。なにかする素振りを見せるのならば、拘束する」


 俺達が警戒するのに対し、最初に言葉をかけたのは国王であった。

 場所と言葉、そして仕草からして、この場において要注意人物と判断したのだろう。そして可能ならばすぐに捕獲するのだろうが、距離となにが発動条件でこの場を変えるか分からないから捕縛に移れない、と言う所か。


「いやですね、お義父様。物騒な事は言わないでください。それともなんでしょう、愛する妹との子ではない息子の妻はどうでもいいから排斥したいのですか?」

「…………」

「そうですよね、そうですよね。お義父様はなにせこのような場所を設け、馬鹿な事をした血を分けた息子より、なによりも愛する息子が大切だと思う関係者を優先するくらいですから、私なんてどうでも良いですよね」

「……オール」


 警戒しながらも、何処か同情の視線が見えた国王。

 こうなる事が分かりながらも、裏で手を回してなんとか良い方向に向かうように祈っていたが、叶わなかった。そのような視線に思える。


――レッド国王には悪いが、今は……


 しかし国王の心情はともかく、俺にとって重要なのはオール嬢がなにをしようとしているのか、という点だ。

 大切なモノで思い浮かぶのは、ヴァイオレットさん、グレイ、カナリアにアプリコット。そしてシキ。

 すぐに同情の視線を止めた国王には悪いが、今はなにをしようとするかを聞きだし、すぐに止めなければ……


「あ、そうです。なんなら私がソレの元にでも行きましょうか。カーマインが馬鹿をした代償補填として、妻に責任を負わせるんです。私をカーマインに見立てて、恨み辛みを晴らすんです。殴ろうが実験台だろうが、死のうが責め苦を合わせようが、別に私をどうでも良いと思っているのならば良いですよね!」


 ……止めなければならないのだけれど。

 もう、どちらの意味でも手遅れなのではないか。そう思ってしまった。


「……オール義姉さん」

「おや、愛されているヴァーミリオン殿下。私になにか御用かな。夫が知らぬ内に幽閉され、最初に会った後は碌に会話もして貰えず、愛されていないと分かった私を哀れんでくれるのかな?」

「……違います。そのような事を言いたいのではありません」

「……ははっ、冗談だよ。元より愛されていないのは分かっていたさ。夫との間に子供は居ても、それが義務によっているだけだという事も理解しているし、それで納得はしている。だが、どうかしたのかな。私に言いたい事があるのなら、義理の姉である私は聞いてあげようじゃないか」


 コロコロと表情を変え、雰囲気も恐らくこれが素なのだと思うような気高さも感じられるオーラを纏わせつつ。間合いに入らない立ち居振る舞いをしているオール嬢は、ヴァーミリオン殿下に笑顔を向けて受け答えをする。


「お願いします。貴女の想いは正しいのです。ですから今はなにもしないで下さい。父上もこの後貴女と話し合う予定なのです。その時に貴女の要望は聞きますし、俺も微力ながらでも味方いたします」


 例え手遅れと思っていようとも、まだ間に合うと信じて刺激しない様に交渉をするヴァーミリオン殿下。

 さり気なく前に立ち、距離を近付きつつも詰めすぎないようにしている。


「ヴァーミリオン殿下。貴方は若くとも優秀だ。貴方が味方ならばとても心強い」

「オール義姉さん……!」

「だけどね、一つ思い違いをしているよ」

「え?」


 オール嬢は「というか最初から言っているんだけどな」と前置きをし、弟に向ける笑顔のまま。


「私は、君達の助けをしようとしているんだと言っているだろう。……そのために、ソレの大切なモノを奪うような――」


 パチンと、まるでマジシャンのように指を鳴らす。


「――私が汚れ役になるだけの話さ」


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