作戦談義(:紺)
View.シアン
「とりあえず我が子達に教会を囲んで騒いでもらって、奴らが外に出て来た所に私が侵入してヴァイスをこっそり救えば良いかな?」
「とりあえず、じゃない」
預かっている鍵を使って屋敷内に入った、クロの屋敷内にて、私は今にも特攻をかましそうなシューちゃんを落ち着かせつていた。
シューちゃんはどうやら連れていかれる所だけ隠れて見ていたらしい。すぐに解決するモノかと思ったのだが、私の説明と軍人の態度を見てから「どうやってすぐに取り返すべきか」を画策している。それと「あのような汚い手で美しいヴァイスに触れていて欲しくない……!」だそうだ。
「大体それだと、スイ君は今後シキには居られなくなるけど」
「成程、つまりヴァイス捕縛の関係者を全てこの世から葬り去れば良い訳か……」
「成程、じゃない」
放っておくと実際にしそうだから困る。
……私もすぐにでも奪還したいという気持ちはあったし、軍人の粗暴な手から解放したいけど、私以上に慌てるシューちゃんを見ていると落ち着いた。冷静になれた、というべきか。
「今すぐにでも救わないと、ヴァイスが……ヴァイスがあの悪しき執行官に不当に……!」
「落ち着いて。スイ君は下手な事は言わないだろうし、今は神父様も居る。すぐに悪い結果に繋がる事は無いよ」
「でも神父様は不当に扱いを受けているとなれば、真っ先に特攻して捕縛されそうだけど」
「…………」
……うん、否定出来ない。
神父様は基本優しく、大抵の事は受け入れても全てを許す訳ではない。むしろ納得いかない事に対しては、自分の立場が危うくなろうともとことん食って掛かる。そのせいでシキに飛ばされたくらいだ。……まぁ、その不器用さが良いんだけど。
「神父様も下手な事はしない……はず」
「不安なんだね」
「と、ともかく、すぐに行動する必要はあっても。いきなり突撃するのは愚策。訴えるにしてもキチンとした方法をとらないと」
「キチンした方法……私の美しさを示し、美しい私の弟が鬼では無いと証明したり?」
「それでどうにかなったら苦労はしない」
その自己肯定力は見習いたいけど、違う方法をとらねば。
けれど姉であるシューちゃんが直談判するのは必要な事ではある。見目麗しいシューちゃんが、商売人として余裕を持って交渉を行えばそれなりに良い動きはするだろう。
……ただ、他国出身で商売人。その上裏では色々やっているシューちゃんに深く突っ込まれたらますます危うくなるのが問題だ。あの執行官はそういった交渉は受け付けなさそうだし……それに。
「シューちゃん、実はね。今回の件なんだけど、クロの留守中を狙ったみたい」
「クロ君の?」
私の言葉に、今にも飛び出してモンスター達を引き連れて来そうであったシューちゃんは反応を示す。
「……つまり、カーマイン殿下の件が関与しているかもしれない、と?」
「うん。偶然かもしれないけど、執行官はそういった事を言っていたし、敢えてその情報を漏らした気がする」
「その根拠は?」
「途中から見る目が変わった、という感じがした」
スイ君に対する呼び方も途中から変わっていたし、なんと言うか……今回の件は軍人の方が主体の気がする。
裁く相手が修道士であるから執行官を呼んだだけで、あの軍人達がシキにスイ君を捕縛しに来た。スイ君をどうにかする……というよりは、混乱を招くためにスイ君をターゲットにしたように思える。そして執行官は目的のために相応しいと評価され、すぐに動ける相手を選んだ。……だから何処か、執行官の私達に対する対応が妙であったのだろう。
「シアン君がそう感じたなら私は信じるが……だとしても、どうする? ヴァイスの力が君達の教え的には邪悪なモノに分類される事は確かだ。相手は無暗にヴァイスを標的にした訳ではなさそうだぞ」
「そうだよね……」
しかしスイ君に討伐対象である吸血鬼の血が流れているのは事実。そこを突かれて邪悪だと判断される可能性も高い。もし執行官が吸血鬼の血について気が付けば、仮に執行官が今回の捕縛に疑問を持って私達よりの立場だったとしても、執行官の職務を行い、スイ君を少なからずシキから連行されていくだろう。あの執行官はそういった性格に思える。
そして問題があるとされてシキに来た私や神父様ではなく、スイ君をピンポイントに狙った上、軍人を動かせる以上はそれなりの地位の相手が絡んでいる。連れていかれた後は、スイ君がどうされるか分からない。
――……一応はシュネ君が表に出なければ大丈夫だけど……
ここ数日スイ君とシュネ君について調べて分かった事は、シュネ君が表に出なければ吸血鬼……つまりは邪悪と判断される魔力は外には出ないという事。
そしてシュネ君が表に出る条件は、スイ君が弱っている時や血が足りない時。そして血に反応した時。
弱っているというのは以前のような害意を加えられた時や、長時間の日光によって“抑えつけ”が弱まった時などだ。
血が足りない、というのは吸血鬼としての栄養が足りない事を示す。ただダンピールであるが故なのか、元が血液である牛乳やレバーといったモノを数日に一回取れば事足りるらしい。
だけど新鮮な血を見ると反応してしまう事があるらしい。いわゆる吸血衝動である。……あれ、そういえば……?
「真面目な執行官なら、スイ君に危険性は無いと判断すれば良い訳だけど……」
「つまり疑いを晴らせば良い訳だ。勘違いであり、無害であると判断されれば良い。……そうか、吸血鬼として疑われているなら、弱点をついても問題が無ければ良い訳だ」
「もしくは、目の前で新鮮な血を見せても反応しない、という手もあるね」
「成程、吸血衝動を抑えられればいい訳か……しかし、新鮮な血だと反応してしまうのだろう? 私や君、神父様の血でも試したら反応してしまったじゃないか」
「うん、そうだけど……」
以前の実験では、私が指先に針を刺して出た粒サイズの血でも反応を示した。だから出来る限り気を付けようと思ったのだけど……
「アイ君が血だらけの時は反応を示さなかったし……」
「それは新鮮じゃ無かっただけなんじゃないかい?」
「いや、あの乾き具合から見て反応する程度の時間のはずなんだけど……」
だから私は後で疑問に思った。今までであればシュネ君の反応を感じられたのに、全く感じなかったから。
そしてその時にスイ君は確か――
「あ」
「ん?」
ふと、ある事を思いついた。上手く行けばスイ君には問題無いと判断させられる方法。
……しかし、失敗すればスイ君は吸血鬼として連行される可能性がある様な事であるので、実行は難しい。
「なにか思い付いたのならば言ってくれ。迷っている時間は無いんだよ」
「いや、その……目論見が外れたら駄目な奴で……私やシューちゃん、神父様には無理で、協力者が必要な奴なんだけど……」
「私やシアン君には……? もしかしてこの場に居ないクロ君とかに協力が必要なモノなのかい?」
「……まぁクロやイオちゃんなら出来るけどさ。後はカー君とかゾンちゃんとか……」
「??? よく分からないな。ハッキリ言ってくれないか?」
……まぁ、それにいざとなれば他の案もあるし、一つの案として提案しておこう。
「――という事」
「……成程。確かに私達では無理な芸当だ。いざとなればヴァイスのために私がどうにかするが……」
「それでスイ君が助かっても、スイ君が気に病むよ。まぁ、この案は最終手段として……どちらにしても、シューちゃんに頼みたい事があるんだけど」
「なんだい?」
この方法には誰かの助けが必要であるし、他の方法をとるにしても誰かの助けが必要だ。
早めに行動を移すためにも、まずはシューちゃんには――
「悪魔になって欲しいんだけど」
「んん?」




