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少し変な奴らの滞在_6


 バーントさんとアンバーさんは優秀な兄妹だ。

 掃除は俺達がするより遥かに早く、さらには綺麗に仕上げ。

 料理は同じ素材を使っているはずなのに味に深みがあり段違いに美味しい。

 さらには仕事中の俺達に迷惑が掛からないよう家事の類を出来る限り音を消し行い、無駄な動きが無く洗練されている。

 それは良い。彼らが優秀なのは彼らの他者に仕える事を懸命に積み重ねた年月の賜物によるものだろう。ヴァイオレットさんは異性のバーントさんにも同性のアンバーさんにも信頼しているように見えるし、グレイも従者の仕事ぶりを見習いたいと懐きかけている。

 良いことは良い。だが、知って欲しいことは知っておいて欲しい。


「音と香りに興奮するのは変態と言って差し支えありません」

『ははっ、ご冗談を』


 ヴァイオレットさんもグレイも居ない俺の部屋にて、バーントさんとアンバーさんに俺が目撃した行動についての説明をすると、(あるじ)が冗談を言ったのでとりあえず社交辞令ということで彼らは笑う。

 しかし悪いが冗談で言ったのではない。

 俺も好きな香りはあるし、好きな音はある。

 変態チックだが俺だってヴァイオレットさんの香りは好きだし、声も好きだ。だが性的興奮することは無い…………あまり無い。

 だけど少なくとも脱いだ服を顔を埋めて嗅ごうとはしないし、口に含もうと呼吸を荒げはしない。

 心音や骨の鳴る音に興奮は覚えない。さらには録音したモノを体内に宿そうとは考えない。

 別に変態が悪いと言っているのではないんだ。ただ当事者が無自覚に変態的行動をして、結果的に変態行動の対象となった者に対して傷を負わせるのが駄目なんだ。もしヴァイオレットさんがショックを受けるのならば避けたいし、どうもグレイに対しても興奮の対象が当てはまりかけている気がするので自覚だけはしてもらいたい。家族は傷つけたくないし。


「大体私達は興奮していませんよ、ね、兄さん?」

「ああ、そうだな。お互いお嬢様の音や香りは好きですが、興奮なんてするはずが無いですよクロ様」

「そうです、気高きお嬢様にそのような劣情を抱くなんてとんでもない。私達は半分だけ感覚鋭いエルフの血が混じっている影響で(あに)は聴覚が。私は嗅覚が鋭いんです」

「他は人族とそんなに変わらないため、鋭い所がより敏感になってしまって。その分良い音や香りに反応してしまうんです」


 ……ああ、成程。バーントさんもアンバーさんも自身を変態だと思っていないのはこれが理由か。単純に好きというだけで、興奮しているとは思っていないのか。

 多分ビデオカメラとかであの時の様子を見れば一発解決するのだろうけど、映像を残す小型機械はこの世界にはないからな。……ロボとか持っていそうだけど。よく分からない機能とか普通についてそうだ。


「そうですか……では質問させていただきます。答え辛かったら答えなくて良いですし、アンバーさんにはセク……不愉快な性的言動だと思ったら答えなくて良いです。命令ではないので」

「はい、構いませんが。私は真摯に隠し事などせず全て応えましょう」

「一時的とはいえクロ様は主です。私が性的被害を受けたとは言うつもりはありません」


 その心意気は立派だが、前世の日本の会社だったら危ういな、それ。

 そんなことを少し思いつつ、俺は質問――という名の確認作業を行っていった。







「馬鹿な……俺はお嬢様の声や身体から発せられる音に興奮していたというのか……!?」

「馬鹿な……私はお嬢様の香りに興奮していたというの……!?」


 一時間の問答の末、バーントさんとアンバーさんは打ちひしがれていたかのような体勢で地面に手を付き、自身の行為についてショックを受けていた。

 初めの内は信じない彼らであったが、シキという地でしばらく仕事をしたお陰なのか、シキの住民と照らし合わせて当てはまる事と先程の行為と彼らの感情を確認すると段々と口数が少なくなっていき、最終的にはこうして自身の行動についての周囲の評価を理解した。

 一番の決め手はシキの住民との照らし合わせであったのは複雑だが。


「ハッ……! という事は兄さん! 私達はお嬢様に今まで変態的行動を!?」

「ハッ……! まさかアンバー! 俺達が不敬な事をしてしまったが故にお嬢様を貶めてしまいヴァーミリオン殿下と婚約破棄を!?」


 いや、それはヴァイオレットさんがメアリーさんとやらに嫉妬し暴走したのが原因であって貴方達は関係ないと思います。


「まさか……私達の行動がお嬢様の品位を貶めていたなんて……!」

「こうなればアンバー、俺達のする行動は一つだ」

「ええ、兄さん。分かっています」


 ……なんかイヤな予感がする。


「せめてお嬢様の手で裁いてもらおう」

「ええ、全て白状して処刑されましょう」

「待ってください」


 バーントさんとアンバーさんは決めると一目散にヴァイオレットさんの元へと駆け出そうとしたので、自前で持って来たらしい執事服とメイド服の後ろの襟元を掴み止める。

 多分止めなきゃ本当に話しかねん。そして処刑されなくても自ら腹とか切りそうだ。


「お放しくださいクロ様! せめて、せめて死ぬ時はお嬢様の高貴なる香りに包まれて最期を迎えたいのです!」

「そうです、高貴なるお嬢様の声が最後の声でありたいのです! お嬢様の鼓動に包まれ最期を迎えたいのです! だから行かせてください!」

「ああ、でも兄さん! 私達を見下した時のお嬢様は今までとは違う香りを放つのじゃないでしょうか!」

「確かに! 俺らに対して完全に軽蔑しきったお嬢様の声は聴いてみたい!」

「おいコラ」


 なにちゃっかり自分の欲望を満たそうとしている。というかヴァイオレットさんにそのような事をさせてたまるものか。長年仕えて来た従者が、自分の()と香りに最後まで興奮しながら最期を看取るとか下手したら一生物のトラウマになるわ。


「そもそも変態的行動で処刑されなきゃならなかったら、シキの住民の殆どが居なくなりますから」

『……確かに!』


 納得するのか。

 でも自分で言ったのも事実そう思ったからだし、暴走を止められただけでも良しとしよう。とりあえず彼らには落ち着いて貰い、香りや音が好きであるという事を否定せず、変態という言葉で罵る者は居るかもしれないけれど、好きである事を否定しないで欲しいという事は説明しなくては。

 それに彼らは……


「それに処刑されたら貴方達は……俺とヴァイオレットさん、そしてグレイの()()()()も目的なんですから、目的を果たせなくなりますよ」


 俺の言葉に、バーントさんとアンバーさんは固まった。


・無い…………あまり無い。

意訳:割とある。

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