幕間的なモノ:とある転生者の所感
幕間的なモノ:とある転生者の所感
「日本という国は魔境なのでしょうか」
「急にどうしたんだいアッシュくん。私の前世の故郷を勝手に魔境にしないでくれるかな」
「失礼しました。確かにいきなりすぎましたね」
「でも気持ちは分かるなぁ」
「シルバくんまで……もしかしてヴァーミリオンくんやシャルくんも同意見だったりするのかい?」
「魔境とまではいかないが……特殊な地だとは思っているな。……シキと同じくらい」
「待ってヴァーミリオンくん。それはどういう意味か問い質したい」
「む、私は日本という地は世界中からHENTAIの国だと称されていると聞いたが」
「否定はしないけどね、シャルくん。けどシキと同じ感じで一億人もいたらそれはただの魔境――ああ、そういう事なのかい、アッシュくん?」
「それもありますが」
「あるんだね」
「メアリーを含む前世持ちの転生者の方々は、我が王国内でも優秀で才能に溢れた方が多いです」
「そうともさ! メアリー様の優秀さは芸術所かまさに聖なる――」
「落ち着けエクル。俺も同意見だが、一旦落ち着け」
「すまない、ヴァーミリオンくん。取り乱した。しかし、私も含まれるのかい? それは嬉しいね」
「だって僕でも分かる程に名を広めているじゃん、エクル先輩。新たな事業を開拓していく新進気鋭の若者! って感じに」
「ああ。私は剣や武の道以外は鈍い男だが、それでも充分に名を聞く。私の父と母も褒めていたぞ」
「それにエクルは魔法においては俺達の中で最も優れている。俺の使える王族魔法という特殊を使用してようやく抜くか追い付けるほどだ」
「ははは、キミ達に言われると嬉しいモノだ。だけどそうだね……私は他の三人とは違った才能だよ」
「違った、ですか?」
「そう。私のこの身は件のゲーム世界のキャラクターと同じ姿、および才覚だ。だから魔法の特性を早めに分かる事が出来た」
「早めに磨けたから、今の状態になったと?」
「そういう事さ。ま、上手く嵌ったんだろうね」
「だけど、商才とか新規事業とか……前世の知識あっても難しいんじゃない?」
「それは私もこんな事が出来ているのは正直驚きなんだけど……前世じゃ白様のお世話後は、休日に映画見て新しいおつまみを食べる事が楽しみ程度な、しがない女だったし……お世話後は割とすぐ死んだけど」
「エクル」
「おっと、話しが逸れたね。ともかく、私の“新規事業”は前世の知識を利用した、前世では割と当たり前な事業をこの国に最適化しただけ。あと商才も地盤があったから出来ているだけだよ。どちらもフォーサイス家に居なければ活かす事も出来ないものだ。他の三人とは違うんだよ」
「? どういう事?」
「シルバ、エクル先輩は他の三人は個として優れている、と言いたいのでしょう」
「…………。あ、つまり生まれの環境がどうあろうと、という事?」
「そういう事さ。私は上手く嵌っただけ。活かす機会が得れただけさ」
「それでも充分優れていると思いますよ。誰でも出来るモノではありません」
「ありがとう。だとしても他の三人は私とは違って……はい、皆。メアリー様の優れた所を順に簡潔にどうぞ」
「勉学魔法実技全てが精鋭」
「見目麗しく所作が美しい」
「社会奉仕をや他者が避ける善行を進んで行う」
「料理上手で、それらを鼻にかけない慈愛の心」
「そう、まさに完璧! ……自分で振っておいてなんだけど、傍から見たら気持ち悪い集団だね、私達」
「今更お前が言うのか」
「ともかく、メアリー様は素晴らしい。それは否定できない事であり、ただの事実。私達の中では一番の周囲に認められる素晴らしい女性だ。そして私の妹だが……ヴァーミリオンくん」
「どうした?」
「キミから見たクリームヒルトの才能はどうだい?」
「……アイツの才覚は、俺達とは違うモノの持ち主だな」
「違うモノってなにさヴァーミリオン」
「クリームヒルトは入学当初は勉学魔法共に平均。運動は女学生園の中で優れている方、という程度だ」
「そうだよね。錬金魔法も使える、ってだけであんまり使わなかったし、目立ってなかったよね」
「それはメアリーが目立っていた、というのもあると思いますがね」
「ああ。クリームヒルトは……入学当初は基礎が無かったから、あのような成績だったのだろう」
「基礎?」
「本来なら一から十を段階を踏んでいく所を、いきなり九をやり始めていたようなものだ。勉学も魔法もな。全て感覚のみでやっていたのだろう」
「……だから入学当初の基礎を見る段階で、成績が振るわなかったと? だが、基礎を疎かにする者はいずれ駄目になるだろう。私も父にそう教わった」
「騎士団長のシャルの父親らしいな。……だからこそ、学園で基礎を学んで、“評価されるモノ”として学園で頭角を現したのだろうな」
「……成程な」
「……AからZ……」
「どうした、シルバ?」
「いや、前にクロさんとシアンさんが話していたのを思い出したんだけど……クリームヒルトの才能は、突っ走る才能だって」
「ほう?」
「他の誰かが大事にするモノを、あるいは必要にするモノを疎かにしてもやらずにはいられない……僕達が一から十を学ぶと同時に、AからZ、つまり違う事を加えて楽しむのがクリームヒルトなんだって。前世だとそうだったらしいよ」
「そうだな。恐ろしいのは、それが無意識にしてしまうクリームヒルトだ。……才覚で言えば、アイツは俺達王族を凌ぐような女性だよ」
「うんうん、そうだろうね。私の妹はそういった優秀さを持ち、前世ではクロくんが上手い事やっていたんだろうね。そうでなければ互いに外れていただろうから」
「互いにと言うと……クロもそうだと言うのか?」
「まぁね。あの二人は理解を示す相手が近くにいたから、今に落ち着いているんだろう。…………」
「エクル?」
「いや、なんでもない。ともかく日本は彼のような者達ばかりじゃ無いよ」
「まだクロさんの事を語ってないけど?」
「ははは、キミ達はシキを治められる自信があるかい?」
『…………』
「うん、その無言が答えさ。他にも優れた運動能力を持ち合わせていたり、領主としても優れてはいるが……それだけでも充分だろう? ともかく、彼らは日本でもとびきり優れている方さ。皆、彼らのようじゃないよ」
「そ、そうなんですね。ええと……ともかく魔境と称してしまい、申し訳ありません」
「いや、構わないよ」
「ところでさ、エクル先輩」
「どうしたのかな、シルバくん?」
「前世持ちの中で戦ったら、誰が一番強いと思う?」
「え?」
「皆が優れているのは分かったけど、皆戦闘で強いからさ。誰が強いのかなーって思って」
「それは魔法有りや武器有りによっても変わるのではないか?」
「あ、そっか。シャルの言う通りだね……じゃあ……魔法・武器有りの全てで! シャルはどう思う?」
「私か? ……イカン、全て有りだとアイツが爆弾で蹂躙する姿が真っ先に浮かぶ……」
「そうですね……ですが、それを踏まえてもメアリーではありませんか?」
「俺はクリームヒルトだと思う。シャルの言う爆弾云々は無しにしても、アイツの戦闘面は優れている」
「そうだな。私もアイツ……ク、クリームヒルトが勝つ可能性が高そうだ」
「いい加減女の子の名前言うの慣れなよ。もう良い年齢なんだよ」
「やかましいぞシルバ。そういうお前はどうなんだ」
「僕は……うーん、エクル先輩も強いとは思うんだけど……実際に魔法で勝ってるの見た事あるし……でもやっぱりメアリーさんかな?」
「メアリーとクリームヒルトの二分か……エクルはどう思う?」
「……クロくんかな」
「クロ子爵?」
「うん。メアリー様も妹も私よりは強いと思うけど……私はクロくんだと思うよ」
「それは……何故だ?」
「クロくんは強く無ければカーマイン殿下の件でも単純に負けていた、というのもあるけど……」
「あるけど?」
「……本気を出されたら、間違いなく一番“敵わない”と思うんだよ。彼はね」
「ところでフォーン会長は誰が勝つと思われるだろうか?」
「あ、私が居る事は認識してくれていたんだね。良かった」
『…………』
「うん、その反応を見るにヴァーミリオン殿下以外は気付かなかったんだねー……」




