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夫婦仲良く買い物(:菫)


View.ヴァイオレット



「夕食なににしましょうか。いっそのこと今日は【レインボー】で豪勢に食べます?」


 騎士団の女に関しての話をそこそこに、今日の仕事を終わらせつつ。クロ殿は私の手を繋ぎながら夕食について問いかける。

 時刻は日が傾き始めている時刻。そろそろ戻って夕食の準備に取り掛からないと、遅い夕食を食べる事になってしまう時刻である。

 酒場で食事だと二人きりではなくなるが、外で食べれば夕食後も夜景を見ながら散歩などを出来るし、案としては悪くない案だろう。


「嬉しい提案だが、バーントやアンバーが来たら料理を振舞う機会が減るだろうからな。折角であるから私はクロ殿に料理を振舞いたい」

「そう言われたら帰るしかないですね」


 しかし、私としては数少ない機会を最後まで楽しみたいと思ったので、今日の夕食は屋敷で食べる事にした。

 食材は屋敷にも有る事は有るが、折角なので一緒に買い物をして夕食の献立を考えるとしよう。新鮮な食材で美味しい料理をクロ殿に食べて貰いたい。


「あ、いっそ今日は互いに一品ずつ作るという感じにしようか。そうすればより互いの料理が印象に残ると思うんです」

「む、それは良いな。しかしそれならば、手の込んだものを出さないとマズイ料理として記憶されそうだから、より美味しく作れるよう頑張らねばな」

「ふふふ、俺もとびっきり美味しいモノを作りますよー」


 料理対決(?)を楽しみにするかのように微笑むクロ殿。

 とびっきり、という言葉選びに可愛らしさを感じつつ、私達は夕食の買い物をするために色々な所に赴いていく。


「おーい、今日の肉の調子はどうですかいな肉屋の旦那ぁ」

「領主夫婦か。仲良く手なんか繋いで見せつけやがって」

「仲が良いし見せつけていますからね!」

「やかましいわ。今日はロボ嬢が【巨大猪(オールド・ボア)】を狩って来たから買い取って解体したんだが」

「む、それは良いな。【巨大猪(オールド・ボア)】はモモ肉が絶品だ」

「ですね。それを頂けますか?」

「斬るという感触が新たなる極致に至って、猪肉という存在そのものの意義を切断したらしくてな、旨味成分がなくなりただの感触だけが肉、という存在になったんだ。……いるかい?」

「いらねぇ」

「貴方は何処へ行こうとしているんだ……」


 まずはお肉を買うために、肉屋に顔を出す。

 しかし今日の肉屋の主人は妻の刃物をより活かしきるために、斬るという行為を鍛えていたらしく、今日は売り物になる肉が無いとの事だ。とりあえず彼が妙な極致に行かない事を祈ろう。


「おーい、今日売っている野菜はあるかいなヤオヨロズの店主さんー」

「クロと……ヴァイオレット嬢か。なにしに来た!」

「野菜を買いに来たんだが」

「そうか、グレイが居なくなったから息子代わりにと俺の野菜(こども)を!」

「そうか、じゃない」

「ほうら、今日のおススメは春キャベツだ! 今日採れたての、そのままでもイケる代物だ!」

「しっかりと勧めはするんだな。……うん、頂こう」

「ああ、アイビーグリーン達を大事にしてくれよな!」


 相変わらず野菜に名前を付ける事で食べ辛くはなるのだが、食べる事が野菜が喜ぶと言う八百屋の店主を相手しつつ、キャベツの他数点を買う。

 ……うむ、やはり美味しそうだ。


「魚屋の主人ー、今日は良い魚入っていますかー?」

「ああ、今日は【爆速鮭鮪(サケマグロ)】を仕入れたぜ! ほら見ろ、新鮮だぞ!」

「私の記憶ではそれは海が生息域のはずだが、何故まだ採れたてのように生きているんだ?」

「え、ほら、店の奥に水槽あるだろう?」

「あるな。私達の屋敷程度の大きな奴が」

「その中で自然発生した」

「…………クロ殿」

「深く考えるのは危険です。あの、俺達では捌けないんで、捌いて貰えます?」

「おうよ。……よし、今日肉屋のアイツから教わった、“存在の点”を斬るという方法を……」

「それはやめてください」


 魚屋(大半は自分で水槽から仕入れる)に行くと、新鮮な魚の切り身が手に入った。

 脂がのって美味しそうで、元を考えると不思議と食べたくなくなるが、食欲のそそられる見た目をしている。……一応は大丈夫だ。本物と同じ性質と味と安全性だからな、何故か。


「あ、シュバルツさん、戻って来てたんですね。チョコあります?」

「クロ殿ー。甘いモノの食べ過ぎは肥満の元だぞー?」

「う。……ですが希少ですし……」

(はは)、クロ君は相変わらずだね。ヴァイオレット君もあまり彼を虐めないように」

「虐めているつもりはないんだが」

「ほう、私の記憶では“クロ殿やグレイが喜ぶからチョコレートを出来る限り仕入れてくれ”と頼んでいた気がするんだがね」

「ヴァイオレットさん……!」

「な、言うとはどういう事だシュバルツ!!」

「おおーごめんごめん。はい、お詫びにチョコレートをどうぞ。全部タダで良いよ」

「え、こんなに貰えませんよ!?」

「なに、情報漏洩のお詫びと、ヴァイスの感謝の印さ。私からのお返しだと思って素直に受け取ってくれると助かるよ」


 屋敷に戻ろうとすると、偶然帝国から戻って来たシュバルツと会い、チョコレートと香辛料を大量に貰った。

 ……ここは素直に受け取ろう。クロ殿がチョコレートとは別の所で私に嬉しそうな表情を向けて来るが、気にせずに受け取ろう。


――思ったよりも材料が増えたな。


 お肉は買えなかったが、野菜に魚、チョコレートに香辛料。カナリアから貰ったキノコもある。今日どころか数日は食材に困らなさそうである。

 しかし今日の献立はどうしようか。

 今日は元々お肉料理にはしようと思っていたから、お肉は屋敷に帰ればある。だが折角ならば新鮮なモノを使った美味しい料理を作ってクロ殿に食べて貰いたいし……ううむ、悩みどころだ。

 チョコレートも手に入った事であるし、デザートにはチョコレートを使用した――い、いや、駄目だ。今日チョコレートを使うとクロ殿になにを思われるか分からない! ……だが、クロ殿の喜んで食べる姿も見たいな……いや、クロ殿は大抵喜んで食べてくれるのだが……けど嬉しくなってほしくも……しかし甘いモノの食べ過ぎは……くっ、悩みどころだ……!


「クロ殿なにを作る――」


 のだろうか、と続けようとした所で。


「あの……領主さん、ですよね」


 ふと、女性に話しかけられた。


――この声は……


 シキでは聞かない声ではあるが、今日聞いた声でもある。

 演技には思えないが、彼女の所属を考えると演技であったのではと思うような所属の――


「あの、先程は助けて頂きありがとうございました!」


 騎士団の諜報部の女が、そこには居た。

 ……今日の食事は少し遅れそうである。


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