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酒場にて


「……成程、急にヴァイスだけが出て来たのはそう言った理由か。……モグ」

「はい、流石にそれは予想外であったようで……モグ」

「残念です。折角色々と作戦を練ったのですが……モグ……美味しいです」


 夕食時の酒場にて。

 結局誰も食べずに終わったケーキを家族で食べながら、先程までの作戦の顛末について説明をしていた。

 ヴァイス君が去った後、調理場の方からグレイが顔を出し、ヴァイオレットさんが酒場に入って来たのである。そして固まったまま落ち込んだシュバルツさんと、俺の様子を見て大体を察してシュバルツさんを慰めていたわけであるが……


「失敗した……失敗したんだ私は……ふ、ふふふふふふ」


 励ます当事者がこの様子であるので、落ち着くまで軽い状況説明とケーキを食べたのである。なおケーキの方は、シュバルツさんが「勿体ないから食べてくれ……」という絞りだす様な声で言われたので食べている。……半分は保存か酒場の誰かにあげたほうが良いかな。ヴァイオレットさんとかはあまり食べられないし。


「諦めるなシュバルツ。シュバルツは私と違って何度でも話す機会がある。だから何度でも挑戦出来る機会があるさ」

「挑戦出来る……そうだろうか……」

「そうだ。私のように“第三王子の婚約者という肩書以外なにもない”と言われ、“そう言われたくなかったら結果で語れ、それ以外で私に語り掛けるな”と言われてはいない。実際の会話が大切だぞ。それをシュバルツは出来るのだからな」

「う、うん、そうだね」


 ヴァイオレットさんのそれは励ましなんだろうか。いや、自分のようになるなと言いたいのだろうが。

 あとそれ言ったのはどっちの兄だ。実際にぶっ飛ばす事は出来ないけど心の中でぶっ飛ばしてやる。


「そうですシュバルツ様。私めのように兄弟に利用された訳ではないのですから、大丈夫です!」

「え、兄弟に利用された……?」

「はい、貧民街(スラム)に居た頃、私めは兄弟のように親しいと思った相手に騙され、身代わりに奴隷商に買われましたので」

「え」

「ですがシュバルツ様は私めと違って利用もされていませんし、話せる距離に居ます。諦めずに話しましょう」

「う、うん、頑張るよ」


 グレイよ、確かに実際に経験した事かもしれないが、シュバルツさんがドンびいているぞ。

 ……まぁ純粋に励まそうとはしているんだろうけど。


「……ありがとう、二人共。少しでも前向きに頑張ろうと思うよ。……ケーキ、少し食べても良いかな」

「はい、どうぞ。切り分けたモノと、フォークになります」

「ありがとう」


 シュバルツさんは二人の励まし(?)に対してブツブツと言っていた状態から回復し、顔を上げてグレイからケーキを受け取った。

 そして気持ち小さい一口サイズのケーキを口に運ぼうとする。


「だけどヴァイスが甘いモノが苦手、か。……そんな事も知らないなんて、姉失格だ」


 ケーキを食べる前に、シュバルツさんは自虐的に笑いながら呟いた。

 先程のヴァイス君の発言はそれほどまでにシュバルツさんの心に響いたようである。


「そうでもないさ。私だって兄達がなにが好きか嫌いかなんて分からない。そこは重要ではないだろう」

「だけどねヴァイオレット君。苦手なモノを好きだろうと思って差し出すのは――」

「ならばそれを反省とし、次に活かせば良い。……なに、決定的な間違いをした訳では無いんだ。取り返しは付くだろう」

「……そうだね」


 ヴァイオレットさんに励まされると、シュバルツさんはケーキを食べてゆっくり咀嚼し、


「……甘い。そしてとても美味しい。レインボー君の腕は確かなようだ。ヴァイスとも一緒に食べられればな……」


 ケーキを飲み込むと感想を言った。

 シュバルツさん自身は甘いモノが大丈夫なようである。むしろ好きなようにも思え……同時にヴァイス君とこの“好き”を共有したかったようにも見えた。

 ……本当、この表情や言葉がヴァイス君の前で出来ていればな。


「……うん、甘いモノを食べたら元気になって来た。よし、こうなったら夕食も私が奢ろうではないか! そしてこれからの事と今までの愚痴に付き合って貰うぞ! もちろんお酒だって飲む!」

「シュバルツ、それは――」

「励ましておいて放置はさせないぞヴァイオレット君。ふふふ、今の私は美しさ二割増し、うざったらしさ五割増しの状態だからしつこく絡むぞ!」

「自分で言うのか。……私は付き合っても良いが、クロ殿やグレイは……」

「俺は大丈夫ですよ。仕事は今日無いですし、夕食の準備もまだでしたし」

「私めも大丈夫です。今日の反省を活かし、残りの作戦も昇華させるような案を作ってみせます!」

「おおー、良いねグレイ君! じゃあまずはお酒を四人分――」

『グレイに飲ませたら帰りますよ(らせるぞ)

「あ、そっか。王国じゃグレイ君も飲めないのか。……ちょっとくらい」

『駄目』

美美(ちぇー)


 俺とヴァイオレットさんは睨みを聞かせ牽制する。それに対しシュバルツさんは少し不満げな表情をしていた。

 まぁ明るくなったし、元の調子に戻ったみたいだし良かった。この前向きさならヴァイス君との軋轢もいずれ氷解するだろう。


「よし、まずは私の美しさを皆と共有し、酒場に華を――」

「脱ぐとレモンさんの拘束はいりますよ?」


 ……ところでヴァイス君がこの姿のシュバルツさんを見たらどうなるんだろうか。やはりシキでおかしくなったと思うのだろうか。







「ふぅ、久々に飲んだ」


 時刻は十時。俺はお酒を飲んだ熱冷ましに外に出ていた。

 春であるので夜でも温かいと言えば温かいが、風が吹くと涼しさを感じる。色々と白熱するトークで温まった身体を覚ますには丁度良い。


――結局、ずっと盛り上がっていたな……


 あの後シュバルツさんの反省と計画を伴う飲み会は、カナリアやオーキッドなど酒場に居る他の面子も含めて豪勢に行われた。

 その中でグレイはシュバルツさんなどと大いに楽しそうに騒ぎ、ヴァイオレットさんは少し離れた位置で諫める役をしながらも、グリーンさんやエメラルドと言った人達と軽めに飲みながら楽しそうにしていた。

 俺はその間を行き来するような役割をし、久々にお酒を結構飲んだのであった。

 ……今さらだが励ましたり愚痴を言うとかは何処に行ったんだろうか。あれじゃ騒いで吹っ切れようと――いや、それで良いのか。あの調子で前向きに行こうとなってくれればそれで良い。


――さて、戻ろうか――ん?


 頭も冷えたし、まだ騒いでいる酒場に戻り、ヴァイオレットさんにはグレイを連れて戻って貰おうかなと思っていると、ふと視界の端に気になる人影が入って来た。


「……神父様?」


 夜道を歩いていたのは神父様。だけどつい疑問符を浮かべてしまう。

 疑問符を浮かべたのは何故この時間に、などと言った意味合いではなく、なんというか……


――なにかに怒っている……いや、逃げている?


 なんというか、いまの神父様はとても“らしくない”表情であったのだ。

 まるでその表情が今を作っている過去のキッカケに起因するような、寂しい表情に見えたから……別の人に見えてしまったのだ。


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