子供達の過ごし方_3(:灰)
View.グレイ
「ふっ、感謝するぞ弟子よ。我が黒尖晶石が如き髪にさらに磨きがかかった! これで魔力がより高まるだろう!」
「私めには勿体無きお言葉です、アプリコット様」
いつも以上に美しく仕上がった髪を靡かせアプリコット様は歩きながらポーズをとる。
良かった、私のケアが上手くいったようだ。元々美しい髪であるが、より一層輝いて見える。
今度はヴァイオレット様の髪をこのように仕上げたいものだ。あの菫色の美しい髪を仕上げればより美しくしてみたい……が、元よりヴァイオレット様はその手のケアは万全ではあるのだが。
反対にクロ様は油断すれば半乾きでいるので、見ていないと外側に髪を跳ねさせてしまうのである意味やりがいはある。
「アプリコットお姉ちゃん、髪と魔力になんの関係があるの?」
「なんだ知らないのか。髪は魔力を温存するのに最適な媒介だ。質が良ければそれだけで魔力が高まるのだぞ」
「そうなんだ。……所で僕達は何処に向かっているの? 戻っているとは思うけど……」
「ああ、先程の魔法の後処理を……ふむ、全員しゃがんで静かにしろ」
アプリコット様の言葉に私達は一同に話すのをやめ、各々が近くの茂みの陰に隠れる。
そして静かに顔を出し視線を向かっていた先に向けるとそこに居たのは――
「あれは……獣のモンスター?」
居たのは白い毛に覆われた身体に四本足で歩く、少々小柄ではあるが牙が鋭い獣型のモンスター。
シキの周辺で見る事があるタイプだ。以前ライトブルーさんを攫ったダイアウルフよりは強く雑食ではあるが普段は大人しく、シキなどの集落には降りてこないが迷い込んだりして偶に家畜や畑に被害を出すモンスター。
……なのだが、どうも様子がおかしい。
今私達の視線の先に居るのは一心不乱になにかに噛り付く数体の獣。凶暴性が明らかに増しており、普段の様子を知っていると違和感が思い浮かびあがる。
「うむ、以前不敬にも我が弟子を攫った男の残滓が残った魔物のようだ」
その言葉に全員がより警戒心を強くする。
私を攫った男の残滓……つまりローシェンナ・リバーズの言霊魔法とやらの残滓があるモンスターという事か。以前シキと学園の方々で掃討したはずだが、生き残りが居たという事か。
……確かに言霊魔法のがかかったモンスター特有の雰囲気が出ている。目元に黒い魔力残滓が見える。
「あのモンスターは一定の魔力に反応して襲い掛かる暗示が掛けられているようだ。先程の呪の力――魔に反応して、我達が先程標的としたモノに喰らいついているのだろう」
「……暴走しているように見えるが」
「そのようだ。我ですら未知の魔法だ。なにかしらの副作用が出ているのかもしれない」
アプリコット様はそこまで言うと手に持っていた杖を両手で持ち、戦闘態勢を取る。それを見て私達も各々が武器を構える。
エメラルド様は小さなナイフ数本と植物が入った瓶を取り出し。ブラウンさんは携えている長刀の柄に手をかける。私は生憎と固有の武器類はまだ無いので、感知されないように魔力を高めるだけだ。
「我々には魔法を解く方法が無く、このままだと被害が及ぶ可能性もある。申し訳ないが、被害が及ぶ前に討伐させてもらおう」
「うん、分かった」
アプリコット様の言葉に一様が頷き、いつでも出れるように体勢を整える。
「準備は良いな? ――行くぞ」
その言葉を戦闘開始の合図として、私達は各自で動いた。
◆
「ふぅ、スッキリした!」
シキの広場にて。
先程の戦闘と温泉で減った水分と糖分補給を兼ねてアプリコット様お手製のミックスジュースを全員で飲みながら私達は乾杯をしていた。
結果としては先程の戦闘は恙なく終わり、特に被害らしい被害を出さずに討伐が出来た。後でクロ様か神父様に報告はするが、今はとりあえず大人の方々を抜きにして皆で無事討伐できたことに対して自分達でご褒美をとっていた。
「いやぁ、久々に弟子と連携を取れての戦闘はやはり良いモノだ。以前は我に付いてくることすら出来なかったが、よくここまで成長したな!」
「過分な評価をありがとうございます。ですが私はアプリコット様と比べるとまだまだです。いつか強くなってアプリコット様……いえ、師匠と肩を並べるように精進します」
「ふっ、その時を楽しみにしているぞ。お前ならばその日も遠くはない!」
「はい!」
ああ、なんという評価を頂けるのだろう。
いつかはアプリコット様がいうS級モンスターを共に倒したいものだ。
本来は定められた規定ではA級が最高クラスなのだが、何人かで構成されている委員会が隠しているさらに強いモンスター、つまりS級が何処かには居るらしく、アプリコット様は過去にS級と対峙したことがあるらしい。いずれはそのモンスターを倒すのが師匠の悲願とのことだ。その補助をいつかはしたいものである。
クロ様にそのことを話したら「うん……頑張って!」と微妙な表情をされたが。
「まったく、燥ぎすぎだ」
「でもエメラルドお姉ちゃんも嬉しそうだけど、どうしたの?」
「ふむ、まぁ今回の戦闘で貴重なサンプルが取れたからな。嬉しくもある」
エメラルド様はいつもより上機嫌な表情で飲み物を飲む。
貴重なサンプルというと……先程の戦闘で使ったナイフと毒に関係があるのだろうか。
「エメラルドはいずれ蘇生薬を作り他者を救いたいと言っているくせに、モンスターには致死性の毒を躊躇いなく使うのだな」
「なにを言う、毒は獣型のモンスターにはこのように効くという貴重なサンプルだ。相手が被害を出すモンスターな以上は心置きなく使えるからな」
「いずれモンスターを実験に使って指名手配になるのだけはやめるのだぞ?」
「親父とあの医者が生きている内は進んではしないさ」
そういうとエメラルド様は残りを一気に飲み干す。
つまりそれはいずれする可能性があるという事だが、冗談の類だろう。以前夢を追うにはまだ私は若いと言っていた。なにが起こるか分からないのだから、可能性は考えるだけにするとも。
「まぁ最終的にアプリコットとグレイの混合魔法で焼き払われるわ、ブラウンのよく分からん斬撃で薙ぎ払われるわで効果の事後経過の確認は殆どできかったがな」
「確かにそうであったな。そしてブラウン。もう少し斬撃の出力は抑えてくれ。当たりそうになるし、ロボさんが偶に出すビームっぽいからな」
「ムリー。僕も出せる原理分かっていないから、抑えるとかそういうの出来ない」
ブラウンさんの出す斬撃とは、彼の長刀から出す衝撃波の事だ。基本的に当たると上級魔法レベルのダメージを喰らう。
それを当の本人がよく分からず連発で撃つので、強いのだが危うい子である。
「モンスターを討伐するのは良いが、危険と判断したらすぐ知らせるんだぞ」
「おや、ヴァイオレット様」
するといつの間にかロボ様とヒャッハーから戻って来たのか、ヴァイオレット様が私達に話しかけて来た。どうも私達の話を聞いていたようである。
私は頭を下げ、続く形で皆様が挨拶をするとヴァイオレット様が私に近付いてくる。
「グレイ、怪我はないか。痛む所は? 気怠さや妙な感覚などがあればすぐに報告するのだぞ。無理はしてはいけないからな」
「大丈夫です。皆様の奮戦のお陰で怪我も疲れもありません」
「そうか、良かった……」
ヴァイオレット様はその報告にホッとした後に改めて私の身体を上から下まで見て、問題がないかを再確認する。相変わらず最近のヴァイオレット様は私に対して過剰に優しい。そして悪くはないが少し恥ずかしい。
もう少し心配を掛けさせないようにしなくては。そのために強くなれば良いのだろうか。■■様からヴァイオレット様を守れば良いのだろうか。あるいはアプリコット様のようになれば良いのだろうか。……よし、まずは形から入ろう。マントと帽子を貸して貰えれば良いのだが。
「……はぁ、ああいうのを見ると私も親父に心配を掛けさせるのが忍びなくなるな。偶には肩でも揉んでやるか」
「だが毒物の実験をやめる気はないのだろう?」
「私に死ねと言うのか」
「そこまでなのか。我やブラウンには親が居ないからな。ああいうのはよく分からん」
「そうだねー」
「しかし……」
「どうした?」
「いや、大人というのも、あまり変わらないのかもしれない、と思っただけだ」
「?」
グレイ(11)
全属性魔法適性が高くあらゆる魔法で対応可能
アプリコット(14)
グレイの魔法師匠が出来る実力を持つ魔力と知識の持ち主
エメラルド(13)
あらゆる毒物に精通。少しの傷で倒すことも可能
ブラウン(7)
長刀遣いで大人の肉体を持つ天与の戦闘優者。何故か長刀から斬撃も出せる
※シキにおける戦闘能力強者達。
クロに言わせると「この子達は乙女ゲームには出られないな。住む世界がなんか違う」




