子供達の過ごし方_2(:灰)
View.グレイ
「ふぃー温まるー」
「―……――…………」
「ブラウン、寝るなー。湯船で寝ると死ぬぞー?」
「寝てないよ、エメラルドお姉ちゃん……ぐぅ」
「おいコラ」
シキの少し外れにて。
私達四名は一緒に温泉に浸かっていた。
先程の魔法実験により濡れてしまった服を乾かすのと、身体を温めることが目的だ。これがもう少し前の季節なら川でも良かったかもしれないが、少々肌寒いので温泉がいいのではないかという事になり皆で行くことになった。
クロ様の尽力により温泉までの道がある程度整備されている。温泉自体は外側に湯が漏れないようにしてある程度で施設とは言い難いが、以前と比べると幾分かマシになっている。いずれは男女に分けてシキの方々などに開放するとのことだ。料金は気持ち程度で儲けは気にしないらしい。
「しかし、今回の失敗はなにが悪かったのでしょうか、アプリコット様」
私は温泉から出て手招きをしているアプリコット様に近付き、そのように問う。いつの間にか用意をしていた石鹸で泡を立て、座るように促すとアプリコット様は私の背中を洗いながら先程の出来事について説明をする。
「ふっ、良いか弟子よ。我達は失敗したのではない。この方法では出来ないという証明に成功したのだ。だから恥じるべきではないのだぞ!」
「な、成程! そのような証明だったとは、私めの無学が恨めしいです!」
「ふ、気にすることではない。だが被害に対する反省はしなくてはならない事を忘れるな」
私はその言葉に元気よく返事をする。
アプリコット様はいつものような自信に溢れた表情のまま私の頭にお湯をかけ、何処からか香油を取り出し私の頭につけ泡を立て始める。
「…………」
「あれ、エメラルドお姉ちゃん、今の言葉にツッコミはいれないの?」
「……正しい言葉であるし、私も毒で失敗を前提でよくぶっ倒れている以上強くはでれん」
「なるほどー」
今の言葉の何処にツッコミどころがあるのだろうか?
私にはよく分からないのだが、確かにエメラルド様はアプリコット様の言葉にツッコミを入れることはあるが。
「ほら、弟子。お湯を流すぞー目を瞑れ」
「はい」
言われたとおりに目を瞑ると、お湯を流される。
これで濡れてベトベトだった感覚が大分スッキリしたので、次は交代で私がアプリコット様の身体を洗う番だ。
それを見てエメラルド様も温泉から上がる。どうやらブラウンさんの身体を洗うようだ。
「ところでアプリコット。お前、来年学園に入ると聞いたが」
「可能性の一つだ。正直この地で独学で学んだ方が自由にできる――」
「気になる男でもできたか」
「――ゲホッ!」
エメラルド様の言葉にアプリコット様は言葉が詰まり咽て、思い切り咳をする。
丁度背中を洗っていたので落ち着かせるように擦る。すると呼吸を整えると、アプリコット様は二人の方へと顔だけを向けたので、私は洗うのを再開した。
「何故そうなる。我がそのような事に現を抜かす訳が無かろう」
「ほれ、この間模擬戦をしたシャト……レーズだったかラリルレロだったかはどうなんだ。一つ年上だし顔も悪くはあるまい」
「決闘だ。あの男は当てはまるとしたらライバルであって契りを結ぶ間柄ではない。それにあの男は好きな相手が居るようだしな」
「そうなのか?」
私は泡を立て終わったので石鹸をエメラルド様に渡し、近くに置いてあった桶を手にして温泉のお湯を汲み泡を落とす。
……そういえばアプリコット様はあまり男性とお付き合いすることや気になる異性の話を聞かない。同年代が少ないというのもあるだろうが、あまり興味が無いのだろうか。
「金色の髪に赤い瞳の美しい女性で、錬金魔法を扱い他者に優しく種族・身分差別も無い素晴らしい女性とのことだ。」
「詳しいな――こら、ブラウン。動くな」
「ああ、シャトルーズが熱心に語るモノでな。学問や魔法、料理や芸術のどれに関しても一級品らしい」
「なんだその天が二物以上を与えたかのような女は」
どうもアプリコット様がシャトルーズ様の他に強い学生が居るのかと聞いた所熱く語られたようだ。あまりにも熱く語るので鬱陶しいとアプリコット様は思ったようである。
しかしそのような方が居られるとは……いや、錬金魔法と言ったか。錬金魔法は希少な魔法であると聞いている。そしてヴァイオレット様の決闘相手も錬金魔法を扱う女性であったと聞いたような。そしてクリームヒルト様はあの会話の様子から見て決闘の相手ではないだろう。つまりその女性がヴァイオレット様を――
「そういえば先程チラリと聞こえたのだがな、弟子」
「はい、どうされましたか?」
私は香油をアプリコット様の頭で泡立てつつ、質問をされたので思考を切り替える。気にはなるが確定もしていないことなので、今は気持ちよく頭を洗えることと質問に集中するとしよう。うん、解くと相変わらず綺麗な黒くて長い髪だ。こう長いと洗い甲斐もある。
「先程ネフライトという名前が聞こえたが、なにかあったのか?」
「ああ、それは私が聞いたんだ。……そういえばネフライトも錬金魔法を使うのだったな」
エメラルド様はブラウンさんの身体を洗いつつ、先程の会話を思い出しながら言葉を続ける。内容が内容なので私は丁寧に髪を洗うことに集中する。出来るだけ綺麗に仕上げなければならない。
「なんてことはない、ネフライトが少々違和感があってな」
「違和感? 隠された魔の力でも感じ取ったか?」
「違う。気にする程の事でもないさ」
ふふふ……まだです。まだ泡を立てて念入りに洗わねば……!
「それなら良いが。……笑い方に違和感があるという訳ではないだろう?」
「笑い方?」
「ああ、彼女の笑いはなんというかだな――」
ふふふふ、素晴らしい。流石はアプリコット様が用意された香油だ。泡の立ち方も泡を立てた所から髪を梳くと滑らかに指が通る……!
「お、おい弟子? そろそろ泡を流しても良いのではないか?」
「ええ、流しましょう。そしてもう一度香油を塗らせて頂きます」
「何故だ」
「髪を綺麗にするためです。ご安心ください。不肖グレイ、アプリコット様の髪を素晴らしく仕上げるために全力を尽くしましょう」
「ふっ、そうか。では我が黒尖晶石が如き髪を任せたぞ弟子! ……ただし長い事上がっていると寒いから時間は気にしてくれ」
私は了承の返事をすると、綺麗にするための作業に戻る。
後でもう一度温泉に浸かる時間を考え仕上げなければならない。服が乾く時間も考えると少々長くなるだろうから、後でもう一度洗った方が良いかもしれない。ふふふ、腕が鳴る……!
「グレイお兄ちゃんも偶におかしくなるよね」
「私達が言えたことではないがな。グレイはああいう尽くす行為が偶に暴走するな」
「でもアプリコットお姉ちゃんと相性良いよね」
「だな……ほら、流すぞ」
「ありがと。んー……なんというか、あのお姉ちゃんは笑顔が張り付いた感じがするんだよね」
「なにか言ったか、ブラウン?」
「ううん、なんでもないよ……ぐぅ」
「おいコラ寝るな」
グレイ(11)
性の関連に関して無意識に疎くなっている
アプリコット(14)
相手が相手なので見られても気にしてない
エメラルド(13)
相手が傷を露骨に見るか嫌がらない限り気にしない
ブラウン(7)
外見は大人だが中身は年齢相応の性差に関して意識していないお年頃




