シャトルーズの責任感による騒動_2
「っ、く、くく……!」
シキの教会にて。
シアンは目の前の状況に必死に笑いを堪えていた。
スノーホワイト神父が近くに居ると言うのに笑いが若干我慢できていない辺り、本当に我慢しているだけでも精一杯のようだ。
普段であれば諫めるだろう神父様も身体を震わせている辺り笑いを堪えているのだろう。
笑うには当然理由がある訳だが、その理由は教会に居るシャトルーズによるものだ。ただ居るだけならば問題はなく、笑うことも無いだろうが格好が問題なのである。
「……ふっ、終わったぞシス―ーシアーズ先輩! 次はどうすればいい!」
「え、ええっと、床掃除をお願いできるでしょうか。掃き掃除でも拭き掃除でも構いませんから」
「承った! 修道士見習シャトルーズ・カルヴィン、華麗に熟して見せよう!」
「……っ! ……!」
シアンはシャトルーズの無駄にハキハキとした発言に声にならない笑いをあげる。
神父様はどうにか持ち直し、息を長く吐き落ち着こうとする。
何故両者ともこんなにも笑い込み上げてくるのか。その理由は、
「くそ、スリットがあるとは言え長いスカートは動き辛い……このような格好でアイツや女子達はいつも動いていると言うのか……! だが確かにこれだとスリットが欲しい気持が分かる気がするな」
シャトルーズの格好がシスター服だからだ。
これが初対面の相手であればドン引くだけドン引いて気まずくなるだけだろうが、調査期間中はシアンや神父様とも割と会話もあったので性格も知っており、それなりに効いているようだ。
何故シャトルーズがそのような格好をしているかと言うと、経緯としてはこのような感じだ。
『つまりシャトルーズ卿も同じ種類の恥をかく可能性を負えばいいんです』
『同じ種類?』
『ええ、要は大切な箇所を見られるかもしれないという羞恥の中過ごせば良いんです。そのためにシアンと同じ服装、教会関係者の格好をすればいいんです』
『待て、それだけで良いのか? 修道士の格好をした所で修道女とは訳が違うだろう。下着を身に着けないとはいえローブだと恥を感じる要素は……』
『誰が修道士の格好と言いましたか? シアンと同じ服装、と俺は言ったんです』
『……? ……待て、それはつまりあの格好を俺がか!? 女装の上に俺に肌を晒せと!? 巫山戯ているのか!?』
『巫山戯ていません。いいですかシアンが断ったのは覚悟が足りないからです! つまり、同じリスクを負う覚悟があるという気概を見せなければ、責任を負うなんて只の言葉でしかないんです! まずは格好から覚悟を決めるべきなんです!』
『……成程!』
……うん、改めて思い返しても、シャトルーズはよく着る気になったな。
実際シスター服を着て手伝うと言い出したシャトルーズに対し、シアンも理解不能な顔をした後に「正気ですか」という発言はしたが、本当に着て来た時には笑いを堪えながらも覚悟を感じ取ったのか、手伝いをやらせることでシャトルーズの意志をくみ取ったみたいなので成功していると言えば成功しているのだが。
「シアーズ先輩、水は何処で汲めばいいのだろうか!」
「ええっと、水は基本的に私が魔法で出しているから。居ない時は向こうの突き当りを曲がった所に水術石で拵えた道具があるから、そこで」
「了解した! 先輩のお手を煩わせてはいけないので汲んでくる!」
「は、はーい。気をつけてねー」
「任せてくれ!」
そしてシャトルーズはシャトルーズでもう既に吹っ切れているかのように全速力だ。
初めは女性モノの服を着て、下着も着ないと言う変態の中でも割とレベルの高い行為に色々と葛藤があったようだが、こうして責任を取れる行為が出来て生き生きしているように見え――いや、あれは単に中途半端にすると返って恥ずかしいからテンション高くしているだけだ。多分そうだ。
というかこの行動の方がシャトルーズにとって責任を取る以上に恥ずかしい歴史になるのは気のせいだろうか。……気のせいではないな、うん。
「ふっ、それでは始めさせて頂く! 神父、そして先輩、危ないから離れていてくれ!」
何故床掃除で危ないと離れていてくれという単語が出てくるのだろう。状況によってはおかしくないかもしれないが。
そして何故モップ(らしきもの)を剣の様に構えるのだろう。
「抜刀術……一閃!」
コイツ主人公守る為に編み出した技を掃除に使いやがった。
いや、正しくはクリームヒルトさんとは関係ない所で編み出した技っぽいし、別に良いのだろうか。どちらにしろ掃除に使う技じゃないが。
「ふっ、我が修道士道に一遍の曇りなし」
「へぇ、凄いな。俺も神父生活も長いけど、こんなに早く綺麗にする方法があるなんて知らなかった」
「そうであろう、神父。清掃は心の在り方を反映する。俺は掃除も得意なんだ」
「だけど危険だからもうしないこと。いいね?」
「ふむ、すまない」
コイツってこんなに馬鹿だっただろうか。
いや、テンションが上がって変な方向に行っているだけだろう。シアンもシャトルーズの意志は汲み取っただろうから、そろそろ元の服装にして良いと助言しとこう。
同じリスクを負う件に関しては、充分に負うことが出来たと俺とシアンから伝えれば止めるだろう。……五月蠅いからついやってしまったが、あまり良くない状況だし。
「ああ、居た、クロ殿。ここに居ると皆から聞いたのだが――」
と、俺が話しかけるよりも早くヴァイオレットさんが教会の中に入って来た。
俺に用事があったのだろうか、俺を探そうと教会内を見渡し、俺を見つけた後の言葉の途中でシャトルーズと目が合い、動きが止まる。
「なんというか、カルヴィン」
「……なんだ」
シャトルーズもヴァイオレットさんを見て動きが止まり、妙な無言の間が流れた後に初めに言葉を発したのはヴァイオレットさんであった。
取り乱すことなく。軽蔑することも無く。元同級生の姿を見て冷静に微笑んで感想を言う。
「似合っているぞ」
「……そうか。実は俺もそう思い始めた所だ」
その台詞にシアンと神父様が噴き出した。
シャトルーズ・カルヴィン
濃緑髪黄緑目
身長170cm代後半
筋肉は割とある(乙女ゲーム基準)
攻略対象
子爵家
騎士団長と大魔導士の子供
今回着た服はシアン(160cm前後)の古めの予備。色々と危うい。




