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緊張と茶化(:偽)


View.メアリー



「それじゃ、シアン。後はよろしくな」

「はい、神父様。ごゆっくりどうぞ。……入る前に誰かが忍んでいて、貞操を狙って襲ってこないか確認してくださいね?」

「わ、分かった」


 カーキーさんの事は置いておくとして、教会の居住スペースへと三人で一緒に歩いていった後、神父様と別れます。

 シアンの注意に普段であれば「そんな事は無いだろう」と言いそうな神父様ですが、今日の今までとジト目で注意するシアンを見て、可能性があるならと気を引き締めていました。

 というかこれって心配する対象が男女逆な気がしますが、この二人だと神父様の方が心配なので違和感ないですね。


「ところでシアン。神父様の頬を叩いたようですが、なにかあったんですか? 痴情のもつれですか?」

「違うわい。今回のクーデターの件なんだけど、なんかトップがシキの面子を研究したそうなんだけどさ」

「そのようですね」


 その辺りは軽くですが師匠に話は聞きました。

 カーマイン第二王子がクロさんへの嫌がらせのために、クロさんに関わる相手を調べ上げ、相手が嫌がる事をやってのけたとか。

 グレイ君相手だと、大切なアプリコットが自分のために傷付く姿を見せられるとか、ロボだと己が外見について糾弾されるとか。

 ……その一つで、師匠達が受けたという魔法を使ったというのですからね。ついでにと言うように相手の心を乱すカーマイン第二王子は、そこまでクロさんを憎んでいたのでしょうか。


「神父様の場合、誰かを救う事に躍起になっている面があるんだけどさ」

「あ、はい。そのように聞いています」

「そこも良いとは思うんだけど、今回はつけ込まれてね。ただでさえ神父様は災害に対してトラウマがあるのに、操られたクーデター組が神父様の前で一斉に自傷して、その後に洗脳を解いたんだよ」

「それは……大分酷い事をしますね。普通の方でもそれ自体がトラウマになりそうです」

「だよね」


 それを含めても神父様へのピンポイントな攻撃ではありますが。

 クーデターの組の人員による被害、火事、モンスター。

 これらがシキを災害に巻き込むだけでも神父様の過去……モンスター被害で住んでいた場所が自分以外が崩壊する、という過去(トラウマ)を刺激しそうです。

 それにプラスで自傷した人達が「助けて」「痛い」「見捨てないで」と言う言葉を神父様にぶつけたそうなので、神父様の精神面が危うかったとか。


「だからメアちゃんとリムちゃんには感謝しているんだよ? 今回の件が早めに終息してなかったら、割と危うかったんだから」

「そこまでなんですか?」

「うん。神父様、一回切り替えると悪者相手には容赦しないから」


 その言葉には、神父様が戻れるところで留まってくれてよかった、という言葉が含まれているように思えました。

 ……無意識でしたが、少しでも私の動きが助けになったのならば良かったです。


「まぁ、私は神父様の誰かを救うために容赦ない所も好きではあるけどさ。神父様自身は自覚ないだけで気にしているし……本当に良かった」

「ですが、シアンの愛のビンタで目が覚めたようですし、心配しなくてもシアンが居れば大丈夫でしたよ」

「ごふっ。……あ、愛って……確かに神父様は愛しているけど、言葉にするのはちょっと……」

「ヴァイオレットやアプリコットに散々言っておきながら今更ですね」

「うるさいわい」


 私の言葉に顔を赤らめ、軽く私の頭に手刀をいれるシアン。こうしていると、少女のようで可愛らしいですね。


「というか、メアちゃん大丈夫? 色々と対応して怪我が酷い、って聞いていたんだけど。左腕とか毒とか……いつもの様には見えるけどさ」

「ええ、大丈夫ですよ」


 そして私はエクルさん達にした説明と同じ説明をします。


「……流石はメアリーちゃんだね」


 すると何故かアッシュ君や師匠と同じような遠い目で、渾名ではない呼び方で私を褒めてくれました。……なんでそんな表情をするのでしょうか。


「ところでシアンも大丈夫なんですか?」

「私は大丈夫だよ。相手も強くなかったし、対応で疲れたけど、今はちょっと眠いくらいだよ。私に対する嫌がらせは、多分神父様関連だっただろうし」

「あ、そこも心配なんですが、神父様の事です」


 シアンに対する嫌がらせは特になかった、というよりはシアンが自ら解決したようですね。少し安心しました。


「神父様? 今はあの通り、いつもの格好良い神父様だし――はっ、まさか私が気づかないだけでいつもと様子が違ったり……!?」

「いえ、神父様はお風呂に行かれましたが……今日は教会のお風呂場を女性陣に開放していたんですよね?」

「うん、そうだね。男性は宿屋に――」

「だったらお風呂場が女性の香りとかに包まれて、変にモンモンとしないかな、って」

「え。……え、そんな事ってあるの?」

「異性の香りって結構敏感になるそうですし、そんな展開を私はよく見ますよ」

「よく見るの!?」


 主に年齢層高めの作品とか。

 なんらかの理由(主に雨に濡れる)で家に上がり、後からお風呂に入った方が「さっきまで入っていたんだよね……!」みたいな感じにモンモンとする展開。

 そしてお風呂からあがった時に先にあがった方がどういう体勢かで受け攻めが決まります。場合によっては一緒にお風呂場入りますが。


「で、でも。モンモンするなら私に対してなにかチャンスがあるかもしれないし!」

「シアンが結ばれるのなら私は祝福しますが、他の女性の香りで昂った神父様に、我慢できずに襲われても良いのなら……」

「絶対ダメ! ちょっと神父様止めて、私のニオイでお風呂場を埋めて来ないと……!」


 私が心配して言っておいてなんですが、それはそれで良いのでしょうかと言いたくもあります。

 ……というかこれって煽りになるのでしょうか。振り返ると私がシアンの反応を見て楽しんでいるようにしか思えません。いけません、自重しないと。


「まぁ、それは後にするとして。着いたよ」


 後にしたらシアンは神父様と一緒に入る事になるのではないかと思いつつ、立ち止まると止まった先にある扉を見ます。

 教会の一室の、元はシスターが住む場所として使われていた部屋です。


「じゃ、私はこれで」

「あれ、シルバ君の様子を見るんじゃなかったんですか……?」

「ついさっき見て、戻った時にメアちゃんが来たんだよ。だから大丈夫」


 あれ、だとすれば何故シアンはここに来たのでしょう。

 場所自体は私も知っていますし……あ、あまり変な所に行かない様にしていたという事でしょうか。シアンと出会って半年も経っていませんし、居住スペースにずかずかと入られる程の関係でないという事でしょう。


「メアちゃんだったら、別に私室に入らなければここまで来ても構わないよ。変な事するタイプじゃないし」


 しかし私が納得した瞬間に、シアンは見抜いて答えを返してきました。

 ……相変わらず鋭いですね。ここまで来ると心を読めるのではないかと思ってしまいます。


「右ストレートでぶっとばす。右ストレートでぶっとばす。真っすぐいってぶっとばす……」

「なんか物騒な事言っているけど、メアちゃん。緊張していたみたいだからね。だから私が来たんだよ」

「……え、私が緊張、ですか?」

「うん。神父様すら気付くほどにね。今のぶっとばす云々はよく分からないけど、緊張を茶化して解そうとしているんでしょう?」


 ……そうなんでしょうか。そうだとすると、私は……


「じゃ、またねメアちゃん。次会う時はいつもの慈愛の笑顔で居る事を願うよ」

「……はい。ありがとうございます。あ、それと――」

「後から誰か来たら、私が案内するよ」

「……ありがとうございます」


 シアンはそう言うと私の右肩に励ますように手を置いて、そのまま去っていきました。

 …………年数で言えば私の方が長く生きていますが、シアンの方がやはり大人ですね。


「……“私の奥底には、私が自分で置いたもの以外にはない”――よし」


 私は恵まれた交友関係を持てたと再認識しつつ、改めて扉の前で気持ちを引き締めます。

 そしてノックを三回。大きすぎず、小さすぎずを意識して叩きます。


「入りますね」


 返事は無いですが、先程シルバ君は寝ているという事を聞いていたので、失礼と思いながらもそのまま扉を開けます。

 扉を開け、まだ部屋の中には入らずに、部屋の中を見ます。

 ベッドはすぐに見えましたが、中に入らないと寝ている姿までは確認出来ません。


「失礼します」


 私は一言言いつつ、中に入り、そして――


「ふへへへ……気持ち良い、美味しい……ふへへへへへへへ……」

「うぅ、ぐ……(ぐる)じい……」


 苦しみながら寝ているシルバ君と、そんなシルバ君を抱きしめて気持ちよさそうに寝ているメアリー・スー()が居ました。


「失礼します」


 そして私は廊下に戻って扉を閉めました。

 ……私はついに分身が出来るようになったのでしょうか。


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