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妻としての理解_勘違い(:菫)


View.ヴァイオレット



 私達はカラスバさんにコンテストをやっていると言われ、様子を確認、場合によっては中止を言い渡しに学園生が泊っている屋敷に訪れていた。


「止められそうにないんですか、メアリーさん」

「……ごめんなさい」

「……そうですか」

「……そうなのか」


 そこでメアリーと出会ったため、止められるかどうかとクロ殿はメアリーに尋ねていたのだが、メアリーはただ疲れた様子で謝っていた。

 そのような表情と声色で、あのメアリーが原因や理由を述べずに謝った事に対して、私達はそれ以上は言わず止めるのは無理だと判断した。これ以上メアリーを責めるのは酷というモノだろう。


「というより、学園生でよくあんなステージ作ることが出来当たな。先程決まったようであるし、資材は何処から?」


 着いてみると屋敷の外でなにやら盛り上がっており、学園祭でメアリー達が劇をやっていたような構造の簡易ステージが作られていた。つい先程決まった事のはずなのに、簡素的とはいえ何故あんなにも早く作られているのだろう。

 というかシキで領主の許可無しにあんなものを勝手に作っているんじゃない。


「ノワール学園長の頼みで、シキの大工の方々が急ごしらえで作っていましたよ」

「ああ、そうか……」


 ……それなら仕様が無いか。

 仕事中毒(ワーカホリック)なシキの大工面々は、腕は確かで作るのに積極的だろう。材料も足りなければモンスター討伐に向かって自前で仕入れるような集団であるし。そして彼らなら終わり次第解体するから大丈夫か。


「まぁあまり羽目を外しすぎないでくださいね? その、俺達は応援はしますが、領主の仕事でここからちょっと離れた場所に行きますので」


 クロ殿は学園生に混じる軍や騎士、シキの皆々を見てメアリーに告げる。

 もう止めた方が面倒な事になると判断し、見ると強制的に参加するメアリーが出るのを見る事になるためメアリーに気を使って見ないようにするのだろう。

 ミス(ミセス)&ミスターコンテスト、というイベントはよく分からないが、道中のカラスバさんから聞いた話ではなにかアピールをしたり、囃し立てられたりするものらしいからな。メアリーは何事もこなすだろうが、見られる数は少ない方がメアリーのためだろう。


「そうはいかないのだよクロ君!」

「げ、美形好き若作り変態(ノワール)学園長!」


 私達が諸注意だけをしてこの場を去ろうかとしていると、突如ノワール学園長が私達の元へと唐突に現れた。


「げ、とは失礼だね。あとなんか私の名前を変な風に呼ばなかったか?」

「なに訳の分からない事を言っているんですか、そんなはずないに決まってるじゃない事も無いじゃないですか」

「そうだね、気のせい……ん?」

「それでなんの御用です。無許可にこんな事をしている事に対する謝罪ですか?」


 クロ殿が珍しくアタリが強い。

 急にこんな事をやっている事に対する苛立ちなのか、グレイを変な目で見ている事に対する警戒か。

 あるいは……私と同様で学園長にあまり良い思い出が無いせいか。それらの混合かもしれないが。


「ああ、実はね。君達に審査員を頼みたいんだが」

「お断りします」

「お断りいたします」

「なら、審査員特権で参加者に色々指示できる権利を与えよう!」

「ならじゃないですし、それを何故メリットと思われるのです」

「え、魅力的な子達を自分の指示通りに操れる快感があるんだよ?」

「学園長としてその発言はどうかと思うんです」


 その時クロ殿と私は、絶対にグレイをこの学園長に近付けさせないようにと心に誓った。


「というか指示ってなんです。いかがわしい事を強要するなら領主権限とか色々使って強制的に中止しますよ」

「そ、そうです! 大胆な水着を着るならば私は嫌ですからね! 恥ずかしいですし……」


 そして違う意味でクロ殿は警戒心を強めて警告する。

 それにメアリーも乗るが……何故美しさを競うイベントで水着という単語が出て来るのだろうか。クロ殿もその言葉には特になにも思っていないようである。


「いかがわしい事は強要しないよ。まぁ学園服以外を着てアピールをしてもらうから、その時のジャンルの方向を決められる、と言う所かな? ……というかなんで水着なんだい?」

「え、ミス&ミスターコンテストって水着を着るモノなのでは? ですよねクロさん」

「……水着に関してはノーコメントで」


 ……もしや日本(NIHON)ではミス(ミセス)&ミスターコンテストで水着を着ていたのだろうか。……何故だろう。


「というか別の服なんて早々用意出来るもんじゃないでしょう。サイズとか色々ありますし」

「そこに関してはルーシュ殿下の協力により、あらゆるジャンルとサイズが用意済みさ! なんだか男女問わず大量に服があるらしい」

「ルーシュ殿下なにやっているですかぁ!」

「……ちなみにあの大量の服ですが、エクルが関わった服屋で様々な服がありますよ。『多分日本の2010年世代後半の色んな相手を殺す服的な』やつとか」

「エクルさんはなにやってんですかぁ!」


 ノワール学園長がしめした方には大量の服が並べられていた。私が見た事がなく、クロ殿がなにか興味を持っていた服たちもある。

 デートで買い、私達やロボに合わなかったヤツか。残りは寄付すると言っていたが、その前に使うのか。

 ……ローズ殿下に見られたらどうなるのだろう。というかこのイベント自体ローズ殿下に見られたらどうなるのだろうか。というより中止するならローズ殿下を呼べば中止できそうだな。

 あと日本(NIHON)語らしき言葉で通じ合っているのが相変わらず羨ましい。私も少しずつ勉強はしているが、まだ分からない。アプリコットの様にコツを掴んですぐ理解出来れば良かったのだが。


「君達はあの最新鋭の服装も知っているんだね。流石若い子だ」

「いや、最新鋭というか、前衛的というか……」

「え、ああいう服って外で着ている方が多かったんじゃないんですか? だから話題になっていたんですよね?」

「話題の意味が違うんです」

「まぁあの服の中なら君達が好きな服があるだろう? それを着た美男子や美少女を見たくないのかい? 審査員なら最前列で見られるよ!」

「いえ、ですから」

「妻が好きな服着てくれるかもしれないんだよ!」

「着てくれる姿は見たいですが、羞恥するならば嫌ですし、そんな姿を衆目に晒したくないです」


 クロ殿は私の事が出ると、迷わずに断ってくれた。

 その事が嬉しいと思うと同時に、もしかしたらあの中にクロ殿が遠慮して私に着させていない服があると思うと、あの並べられている服も少し見てみたくもある。


「うーん、困ったな。領主を抱き込めば遠慮なく騒げると思ったんだけど……ちょっとクロ君。耳を貸して」

「なんですか。どんな交換条件を出されても俺は審査員として参加しませんよ」

「まぁまぁ、聞くだけ聞くだけ。実はね。――で――の」

「…………」


 ノワール学園長の手招きに初めは耳を貸す気すらなかったクロ殿ではあるが、ノワール学園長がクロ殿の耳元に素早く移動して、なにかを告げる。

 私やメアリー、そしてスカーレット殿下にも聞こえない声でなにか話し合っているかと思うと……


「…………分かりました。審査員の件を受けましょう」


 と、急に意見を変えて審査員をする事になった。


「すいません、ヴァイオレットさん。急に審査員を受ける事になりまして」

「今日の仕事はどれも取り急ぎではないから構わないが……急にどうしたんだ?」

「ええと……」


 私が理由を尋ねると、クロ殿は少し話辛そうにする。

 というよりは説明し辛い感じだろうか。ふむ、そうなると……


「ああ、いや、話さなくて良い。クロ殿も男だ。美しき女性を間近で見たいという欲求はあるだろう」

「その納得のされ方は非常に困るのですが」


 変に聞かない方が良いだろうと思い、私は一歩引く事にした。

 クロ殿は男性だ。私には理解出来ぬ男性特有の葛藤や悩みがあるだろう。ならば私はそれを否定せず、黙認するのが妻の務めというモノだ。

 クロ殿はそういった方面に関しての欲求は薄いとは言え、無い訳では無い事は身をもって知っている。というか無いと困る。

 自制心が強いだけで、私やグレイに気を使っているだけなのだ。ならばこういった女性の綺麗な姿を間近で見る事が出来る、という程度はむしろ安心出来る部類の欲求の満たし方と言えよう。


「安心してくれ、クロ殿。どのような内容を参加者に要求しようと構わない。私は少し外れているからな」

「あの、別に審査員になれば参加者に無理な要求が出来る、とか提案された訳じゃないですからね?」

「違うのか?」

「違います。というか要求した所で受ける訳ないでしょう」

「?」

「何故そこで疑問顔なんですか?」


 私が疑問顔に対し、クロ殿がさらに疑問顔になる。

 ……何故そこで疑問顔になるのだろうか。


「メアリー君。今の会話はどういう意味だい? 私のようなお爺さんには分からなくてね」

「恐らくですが、クロさんはまず無茶な要求を言った所で、このような正式なコンテストでも無いコンテストで参加者が従う訳ない、という話ですよね」

「うん、それはまだ分かるよ」

「ですがヴァイオレットにとってクロさんの要求は、クロさんが喜んで貰えるのなら喜んで受け入れる事が当たり前になっているのです」

「つまり彼女が参加者であれば、愛しの夫のいう事を喜んで聞くのに! という事かな」

「ですね。バカ夫婦というやつです」


――成程、そういう事か!


 私にとってクロ殿が喜んで貰えるのなら要求を聞くのが当たり前であったが、確かに誰もが聞く訳では無いな。

 これは盲点であった。思いもよらなかった。


「あの、お二人共。せめて俺達の聞こえない所で言ってくれません?」

「ですがクロさんも理由が分かったでしょう?」

「……そうですが」

「よっ、ラブラブ夫婦! 学園退学後心配だったけど、仲良くやれているようで学園長としては安心だ!」

「ええ、ラブラブ夫婦! その幸福を分けて欲しいですね!」

「メアリーさん、参加する時覚悟してくださいね。学園長、領主として貴方も参加させて……その後はお楽しみにして下さいね」

「ごめんなさい」

「私のようなお爺さんの裸を見たがる女性は少ないと思うが……望まれるなら仕様が無いな。ふ、久々に脱ぐか……!」

「なんでノリノリなんです」


 ……成程、クロ殿が見たかったのは美形の男性陣であったか……そういう方面なら仕様が無い。


「クリームヒルトやメアリーも好む方面か……うむ」

「その“うむ”はなんですか」

「大丈夫だ。私はまだよく分からないが、そういう方面もあると理解している。クロ殿も……うむ、大丈夫だ」

「大丈夫じゃなくて大丈夫です」


 何故かその後、クロ殿にそういう事では無いと念を押して伝えられた。




「ねぇカラスバ君。そういう方面ってなに?」

「さぁ、私にも分からないですね。何故か分からないですが、私とクロ兄様に関係している気がしますが」

「? そっか。でも良いのかな」

「なにがです?」

「いや、だって君のお兄さん達、審査員の立場で話しているけど、全員参加者じゃん」

「……ですね、いつ話しましょうか?」

「放っておけば後で楽しそうだね。その方が良いリアクションが見れそう。ああ、でもあまり伸ばすと君のお兄さんが可哀想って言うなら……」

「良いリアクションのクロ兄様……見たい!」

「……うん、放っておいた方が良いみたい。…………」


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