これからもまだまだ(:菫)
View.ヴァイオレット
「グレイ、無事か!?」
簡易牢を壊し、リバーズを魔法封じの手錠で拘束するとまずはグレイの無事を確認した。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます、は――ヴァイオレット様」
周囲にシャトルーズが居ることに途中で気付いたのか、グレイは母と呼ぼうとした言葉を飲み込み敬称で私に接してきた。
そのことが寂しいのは兎も角として、まずはグレイの体調などを心配する。言霊による洗脳や魔法が掛けられていないかを確認する。パッと見た限りでは無事であるが、後で念のために神父様に見てもらうとしよう。後心配なのは……
「グレイ、妙なことをされなかったか? 例えばブライさんが見てくるような視線を向けられたとか」
「えっと……大丈夫ですが、どういう意味なのでしょうか?」
「ヴァイオレットさん、気持ちは分かりますが落ち着いてください」
可能性としてリバーズがグレイに変な目を向けた可能性もある。
グレイは中性的だが可愛らしい。この子を牢に閉じ込め魔法を封じてなにもしないとは限らない。……よし、着衣は乱れているが変な形跡はないな。よし。
「……バレンタイン、心配するのは構わないが今は周囲の状況を判断しろ」
「ハートフィールドだ。……確かにそうだったな」
私がグレイの心配をしていると、シャトルーズが諫めるように私に注意をしてきた。
そうだ、確かリバーズは周囲一帯のモンスターも含めて『起きろ』と命令をした結果、操られていたモンスターが暴走しているのであった。
此処には来ない……つまりシアンさんなどが対応しているので今は平気ではあるが、いつ襲い掛かってくるかは分からない。警戒しなくては。
「ローシェンナ。お前が配置したモンスターの種類と数を教えろ」
「…………」
クロ殿が動けないリバーズに対し詰め寄り情報を聞き出そうとするが……リバーズは僕は沈黙が掛かっているから喋りたくても喋れません、とでも言いたげに大きく呆れたかのようなジェスチャーをとる。顔が腹立つ。
お前沈黙はもう解除されて話せるだろう。
するとその様子を見てどう思ったのか、クロ殿は溜息を吐くと、洞窟の近くの壁を殴り腕が壁内にめり込み小石を手の内に納め、そのまま握力で粉々に砕いた。
その様子を見ていたシャトルーズはクロ殿に対して身構えていた。
「そうか……話してくれないのならば仕方ない。手が滑っても取り押さえる時に怪我をしたで済むからな。本当に仕方がない」
「ふっ、その程度の脅しで僕が話すとでも――」
「お前の目の前でこのオークの髪とかを引き千切る。無くなったら落書きをする」
「分かった。お願いだからやめてくれ」
リバーズはあっさりと屈した。
……クロ殿、弱点を突くのが上手いな。
◆
リバーズから聞いた情報を元に、残りのモンスターの退治及び洗脳解除に務めていた。
シアンさんや神父様達とも合流し、情報を共有するとシキに被害が及ばないように各々が行動した。
途中でアゼリア学園の生徒が今回の騒動を起こしたとあって、アッシュ達アゼリア学園の生徒達も今回の事後処理を行っていた。
「まさかお前がここまでする男とは思わなかったぞ、リバーズ」
「…………ちっ」
その最中に私はクロ殿にお願いをして、洞窟内部でリバーズの見張りをしている。今回の件についてどうしても会話をしたかったからだ。
魔法封じや拘束をされているとはいえ、心配だからとクロ殿も少し離れた所から監視はしている。
「何故この女の為にシャトルーズ様やアッシュ様まで協力して居るのだ。ヴァーミリオン様を慕っているのではなかったのか……何故、何故だ……この女を許したというのか……おかしい……おかしい……」
正しくは誘拐騒ぎを起こしているから協力してくれているだが、リバーズにとっては殿下の為にやっていること、つまり私を排除・不幸にする自分に対し敵対していること=ヴァイオレットに対して味方していると認識しているようだ。
学園に居た頃はこんなやつとは思わなかったが……他者を愛するとはここまで狂う時もあるということなのだろうか。
「お前やオースティン、カルヴィンに対しても別に直ぐに許してもらおうとは思わない。償いはする。だが、お前にも償ってもらうぞ、リバーズ」
先程言ったように、私は全てを無かったことにしようと思っているのではない。
殿下や彼女に許してもらえるとは思えないし、許して貰えた所で世間が許すわけでもない。父や母などは私を許すとは思えない。
「……最後に聞かせろ、バレンタイン」
「ハートフィールドだ。……なんだ?」
するとリバーズは私の言葉に対してどう思ったのか、繰り返し呟いていた言葉を止め学園に居た頃のような表情と声で私に対して問いかけをしてきた。
「お前はヴァーミリオン様からあの男に乗り換えたのか?」
「言い方が悪いな」
「答えろ。受け入れてもらえたから縋っているのか」
それだと私がとりあえず行ける方向に言っているだけみたいではないか。……間違っていなかったりするのだろうか?
しかしアッシュの時もそうであったが、そんなにも難しいことだろうか。
「簡単な話だ。結局私は殿下に好かれたことは無かったが、私は殿下が好きだったのも事実で、今はクロ殿やグレイも好きで大切なのも事実だ。私が過去を引き摺って前を向かないままでは、さらに多くの人を不幸にしてしまうからな」
「……そうか」
私の言葉にどう思ったのかは分からないし、変わらず敵意を示しているのかもしれないが、リバーズは一先ず納得したかのように相槌をうった。
「……暑いな」
そして少し離れた所でクロ殿がシャツの胸元をパタパタと動かしていた。
運動後で身体が暑いのだろうか? 後で疲労回復の食事などを用意をした方が良いだろうか。
それは後で絶対にするとして、私はこれからどうするべきかを考える。
今回はグレイを始めとした多くの人に迷惑を掛けた。そして今後もこのような事が起きないとは限らない。私を恨んでいたり殿下の為と思って行動する輩は今後も出てくるだろう。グレイが攫われた少し前に報告を受けたあの件に関してもそうであるが、多くの者に迷惑をかける。
少しでも大丈夫なように、今から対策を立てていかなくては……
「――あれ、いや、ちょっと待ってください――急に来られても、今――まだ」
「ですけど――心配で――怪我とか―――」
と、リバーズの監視をしつつ、これからどうするかを考えているとクロ殿と誰かが話している声が聞こえて来た。
声からして女生徒ではあるようだが、視線を向けても洞窟の壁とクロ殿の陰になって誰が来たかは分からない。いや、この声は学園に居た頃によく聞いた声だ。……忘れるわけがない。
「あ、ちょっと!?」
「居た、ヴァイオレットちゃん! 大丈夫だった!?」
クロ殿の身体を掻い潜るかのようにすり抜け、そう言いながら一名の少女が駆け寄ってきた。
赤みのかかった金の長い髪に、特徴的な透明に近い瞳を持つ――アゼリア学園でも何度も会話をし、よく知っている平民の同級生が心配そうな表情で私の所へと駆け寄ってきた。
彼女は――――




