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始まりは心境報告


「クロ君。私、ロイヤルビッチかもしれない」

「急にどうされたんです」


 影騒動から数日経ち、問題は多いが調査団関連も含め大分落ち着いて来た日の朝。

 俺の屋敷に訪問してきたスカーレット殿下は俺に訳の分からない事を相談してきた。


「まずはそう思った理由をお聞かせ願いませんか」


 ロイヤルな云々はともかく、相談しているスカーレット殿下自身は本気で悩んでいるようであるから茶化さずに真面目に受け答えはしよう。

 なにせ俺達の朝食後に屋敷に来て、ヴァイオレットさんやグレイには席を外して貰うようにわざわざお願いしたのだ。

 本来であれば王族の未婚の殿下が異性の既婚男性と部屋で護衛も無しに二人きり、というのは良くないのだが、正直スカーレット殿下に対しては今更な所もあるだろうし、ヴァイオレットさんも今まで見た事のない神妙な表情に素直に俺達を二人きりにしてくれた。

 そして現在、応接室にてグレイの入れた紅茶を飲みながら相談を受けている。


「……私はエメラルドが好き。外見中身を含め、彼女の色んな所が好き」

「はい、存じております」


 それが理由で一度合コン的なモノを企画したのだからよく分かっている。結局は上手く行かなかったわけではあるが。

 しかし好きとは言っても、スカーレット殿下はどうも同性異性を含めて対等に接してくれる友達が今まで居なかったので接し方が分からなかっただけのような気もする。

 なんと言うか……クリームヒルトが(ビャク)であった頃の幼少期の問題が、スカーレット殿下の場合表面化せず振舞えていた、と言うように思える。何処かでズレを覚えていた、と言うような感じだ。そんな中、友と言える存在が現れた事に対して「これは恋愛的な好きなのでは無いか……!?」みたいに勘違いしている感はあったのだが。


「敬語はやめて。あくまでも私はスカーレットとして、友人であるクロ君に聞いているんだから」

「ええと……」


 とは言え、これはあくまでも俺の予想だ。

 今も俺の事を友と言ってくれているように、他者の感情を完全に理解するなんて芸当は俺には出来ないので、実際本気でエメラルドに恋をしていたのかもしれない。

 スカーレット殿下の中では感情の整理がついていないだけなのかもしれない。


「敬語の方はご勘弁願えれば。ですがあくまでも学園の後輩であり、組手もする一友人として相談を受けましょう」

「ありがとう。でね、私はエメラルドが好きなの。同意が得られればあの触れれば折れそうな身体を好きにしたいと思うほどには」


 後でエメラルドにスカーレット殿下に対しては変に了承とかしない様に警告しておこう。借りを作って言う事を聞くなんて言った暁には色々されそうである。


「これが恋と言わずになんと言うのか。私はこの行き遅れのこの年齢になってから、恋を初めて知ったの」

「ええと……以前折り合いをつけて、親友を目指すというような事を言っていませんでした?」

「ロイヤルに忘れた」

王族(ロイヤル)関係無い相談じゃ無かったんですか」


 ロイヤル付けとけば許されると思ってないかこの人。この人なりの冗談なのだろうが、目を逸らしている辺り感情的に複雑なのだろうか。


「ともかく私はエメラルドが好きなの!」

「は、はい」

「でも……でも、私は一目惚れをしてしまった!」


 ルーシュ殿下といいバーガンティー殿下といい、王族は一目惚れしやすいんだろうか。

 聞けばヴァーミリオン殿下も一目でメアリーさんに惹かれているような感があったらしいし。


「はい、それは誰でしょうか」


 本当はなんとなく察してはいるが、一応本人に言わせた方が良いと思い聞いてみる。


「……クリームヒルト」

「嘘おっしゃいなさんな」

「クリームヒルトの! 前世の姿をした! ハクっていう美少女!!」

「はい。それはどのような女性ですか?」

「変身能力を持つ我が王族の負の象徴と言える改造人間! すんごい美女! すんごく美人! 惹かれる程の美少女! 見惚れてしまうほどの美貌を持つ女性!!」

「はい、良く言えました。語彙力低下する程なんですね」

「……ロイヤル腹立つ」


 スカーレット殿下が立ち上がって叫び、俺がわざとらしく“よくできました”というようにパチパチと拍手すると、冷静になろうとゆっくりと座った。

 スカーレット殿下が好きになったハクさん。

 つまりはクリームヒルトの前世の姿である(ビャク)の姿をした一応の女性。今はヴェールさん監視の元、ヴェールさんが行なっている調査協力をしている。

 その姿にスカーレット殿下は一目惚れをしたというのだ。先日の影騒動からなんとなく察してはいたが、やはりそうであったのか。


「なんであんな美少女なの……なんでクリームヒルトの前世なの……」

「それを俺の前で言いますか」

「ごめんなさい……でも私あの子と相性が悪くて……」


 まぁ同族嫌悪的な感じなのだろう。アプリコットとシャトルーズ的な。

 ただもう少し歩み寄れば今だとそこまで相性は悪くないとは思うのだが。

 ともかくスカーレット殿下にとっては相性の悪いクリームヒルトの前世の姿に惚れたというのが複雑な感情なようだ。

 俺にはよく分からないのだが……まぁハクさんが化けたのが俺が見惚れる程の存在で、それが第二王子の前世というような感じだろうか。

 …………自分で考えておいてそれは嫌だな。うん、ちょっと同情してしまう。だがクリームヒルトをけなそうとするなら許せはしないけど。


「しかし、(ビャク)の姿をしたハクさんを、ですか……アイツが、ねぇ……」

「彼女の姿が絶世の美少女っていうのがそんなに信じられない?」

「俺としては見慣れていた姿ですし、血も繋がっている妹ですからね。その存在が絶世の美少女、って言われると複雑で……」

「色んな所で惚れさせてるでしょ。金のメアリー。白の謎の美少女、的な感じで学園とか軍でも騒がれているよ」

「そうみたいですけど」


 今は監視され、表には出ないようにしているハクさんではあるのだが、完全に隠れ切る事は出来ずハクさんの目撃情報は出ている。

 そして姿を見た者が「なんか凄い美少女いた!」と噂され、目撃情報が出る度に「謎の白髪の美少女は事実だった!」と広まりつつある。

 ……前世でも(ビャク)はモテなかった訳じゃない。モデルを頼むほどには整っていたと思うし、兄としての贔屓目を有りにしても美人ではあったと思うが……なんだろう、この複雑さは。


「ともかく、ハクさんに惚れたんですよね」

「……うん」

「クリームヒルトの前世の姿云々はともかくとしても、今は関係無い話です。クリームヒルトも複雑ではあるようですが、いずれ慣れて別の存在だと割り切るでしょう」

「そうかな?」

「そうですとも」


 ちなみにだがハクさんの事情を知っているクリームヒルト達は、まだハクさんについて話せないので、目撃情報とか惚れた事に関しては変に関わる事も出来ない。

 クリームヒルトは「あはは、なんだこれ」的な感じで俺とは違った意味で凄い複雑なようだ。


「……一目惚れなんて軽いかな?」

「ルーシュ殿下も同じ事を悩んでいましたが、良いと思いますよ。外見も重要な要素です。あの姿は自由に変えられるかもしれませんが、ハクさん曰く一度読み取った姿を変えるのは一苦労だそうですし、あの姿が気に入ったのであの姿を基本とするようですし」


 なんでも姿を喪って居た時になった姿であるそうなので、あの姿を基本とするようだ。

 あまり変えすぎると自己を確立出来なくなるのも理由にあるらしいが。


「ありがとう。そう言って貰えると助かる……だけど私はエメラルドも好き!」

「はい」

「それなのに他の女に惚れて心を揺れ動かされるなんて……浮気以外の何物でもないじゃない! いわゆる寝取り! やっぱり私はロイヤルビッチなのかな!?」

「まず言っておきますが、浮気は付き合っている者同士が別の存在と付き合うのが前提です。スカーレット殿下は付き合ってもいないので浮気でもなんでも有りません」

「ぐふっ」

「あと、寝取りもなにも、性的な感情はスカーレット殿下から一方的に出ているだけじゃ無いでしょうか」

「ぐはっ!? そ、そんなの分からないじゃない!」

「そしてロイヤルな云々と言いますが……女性に聞くのは失礼なのでしょうか、経験はおありで?」

「…………エー未満」


 キス(A)もまだという事か。それでよく言えたものである。

 別に悪いと言っている訳では無い。むしろまだ二人に惚れただけで、行動もなにもしていないのにこうやって悩むだけ誠実と言えよう。


「良いですか、ロイヤルな云々ですが」

「ロイヤルビッチね」

「……そういった存在は一々悩みません。酷い奴は己が快楽と達成感のためだけに所帯を持つ男と関係を持ち、金目当てで女という性を使い、“私は母である以前に女なの。男であるアンタには分かんないでしょうけど、私は女を捨てたくないの。むしろ互いに気持ち良い事しているんだから問題無いでしょ”とか言って子供すら利用するような女なんです」

「お、おお、なんだか実感が籠っているね……」

「……過去(ぜんせ)で苦労したので」

「色々あったんだ……」


 はっ、いかん。俺が過去を吐き出してどうする。

 今はスカーレット殿下の相談をきちんと受けないと。


「失礼、それで俺にどうして欲しいのでしょうか」


 家族には話せず、他人にも話せないが、ある程度話せる間柄(ゆうじん)である俺に対してなにかして欲しいから相談してきたのだろう。

 あるいはこういった場合は単純に話して自身の感情を整理したいだけで、なにかして欲しいという訳でも無い。という可能性もある。どちらにせよ、目的をハッキリさせねば。

 このままの状態で放置しては、スカーレット殿下だけではなくエメラルドやハクさんにとってもあまり良い結果にはならなそうだし。


「……うん、実はクロ君にしか頼めない事があるの」


 どうやら解決策を欲しての相談であったようだ。

 しかも俺に“しか”頼めない事と来た。

 頼られるのは素直に嬉しいし、俺に出来る事というのならば出来うる限り力になろう。

 スカーレット殿下には俺がシキの領主になりたての頃色々とお世話になった事も有るし、互いに模擬戦を行い良いライバル関係でもあると思う。

 そんな存在が俺を頼ってくれるのならば、初めにスカーレット殿下が言ったように王族と貴族関係無しに、スカーレットという女性の友人に対してクロとして力になろう。


「私を……」

「はい」


 俺はそう心に決心しつつ、スカーレット殿下の言葉を待つ。

 いつもならスパッと言葉を言うスカーレット殿下にしては珍しく、下を向いて言葉を止める。

 そして決心したかのように俺を見ると、言葉を続けた。


「――私を抱いて!」

「何故そうなる」


 そして俺はおもわず素でツッコんだ。


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