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ヘタレはお互い様(:偽)


View.メアリー



「元はダイアウルフだったか……」

「それが影の影響であんな大きくなるんだもの、影って厄介ね」

「そうだな。だが元は二体居た。二体が合体してのあの影の獣? とやらになっていたのか。合体しての反応だったのかもしれんな」

「クロ、ぶっ飛ばして良い?」

「何故だ。ヴェールさんが言っていたが、影が混じって一つのモンスターになる見込みがあるから、合体という表現は間違っていないと言っていたぞ」

「よし、ぶっ飛ばす」

「だから何故だ」


 クロさんとシアンは、そんな会話をしながら戦闘の振り返りや影についての予測などを行っていました。ついでに“合体”という言葉に反応したシアンがクロさんの左肩あたりをパシパシと拳を軽く当てます。クロさんは何故そのようにされるかは分からない表情でしたが。


「そういや、私達の所に駆け付けた時に着衣がなんか乱れてたけど、なんで? 走って駆けたにしては妙な崩れだったけど」

「ああ、あれか……」

「来る前に戦闘してたん? なんかエルちゃんが解析してたっぽいし、その時に乱れたとか?」


 そういえばクロさんは駆け付けた時服を直していましたね。普段は身なりをきちんと整えているので印象に残っていました。私はそれほどまでに懸命に駆け付けて来てくれたのだと思いましたが。


「戦闘したのは確かだが、強くはなかった。服が乱れる程じゃ無かったよ」

「じゃあなんで?」

「……さっきスカイの偽者に襲われそうになった時に剥かれたものだ」

「えっ」

「見た目が全く同じだったから、森で倒れていると思って油断した。そうしたらホールドを喰らって馬乗りにされて剥かれかけた」

「……大丈夫だったの?」

「ああ。ヴェールさんがなんかスカイの偽者の肉体に見惚……観察していたせいで少し遅れたが、助けてもらった。その時偽物と思えなかったから混乱してな。……全く、性格とか好みとか全く違うんだな。彼女は俺を襲うような女性じゃないし、俺は好みじゃ無いだろうに」

「……そっかー。スカイちゃんも可哀想になー」

「?」


 ……なんでしょう、何故かは分からないですが、クロさんにそれは違うと言ってあげたいです。ですがスカイのためにもそれを言ってはならない気もします。

 そしてヴェールさんがスカイの肉体に見惚れていた……という事は、影スカイは服を……いえ、考えないようにしましょう。終わった事です。


――……そう、終わった事なんです。


 今は近くにあった影が出てたという扉の所に来て、エクル先輩がアプリコットに手伝ってもらい、扉の様子を確認しています。

 私も軽くは確認しましたが、様子からして大丈夫だとは思います。“後から来るだろう白髪の綺麗な女性”とやらが来て、状態を確認してもらう必要があるようですが……


――エクル先輩……


 クロさんとシアンは軽口を言っていますが、油断は一切しておらずエクル先輩を警戒しています。距離的になにかをしようとも、すぐ様拘束できるような距離をとっています。

 それを理解しているのか、エクル先輩は大人しく調査をしています。……いえ、例え警戒されて居なくてもエクル先輩は逃げるつもりは無いでしょう。

 彼/彼女はきっと――


「って、痛いです、ヴァーミリオン君。もう少し背中の治療は優しくしてください……」


 と、エクル先輩について思いを馳せていると治療を受けている背中に痛みが走り、ついそんな事を言ってしまいます。


「生憎と優しくして治せるほど俺は高度な治癒魔法は使えないのでな。背中の傷が治っていないのに無事なふりして扉に行くような相手に痛み無しで直すのは無理だ」

「う……だって私の怪我で扉を見に行くのが遅れたらと思うと……」

「ほう、俺が気付いていなければ肩甲骨の骨折も大丈夫だったと。仮に扉でなにかあってもその状態で対応したと」

「でもなにかあってからでは――」

「骨折していて痛いのなら簡易に応急手当してすぐに向かう事も出来た。……それをせずに向かった、返って迷惑をかける可能性があったのは誰だろうな」

「……はい、私です。変に強がったせいで、ご心配をおかけいたしました……」

「分かればよろしい。戻ったらグリーネリー先生かアイボリーに……いや、エメラルドに診て貰う事だな」

「……お医者さんなんですから、異性の肌程度は見慣れていますから嫉妬する必要は無いかと」

「……なんの事だろうな」


 私は言いくるめられると、大人しく治療を受けます。ヴァーミリオン君、怒っていますね……確かに簡易治療を受けきる前にすぐに扉に向かったのは良くなかったですね。痛みはないと嘘を吐いたのが特に駄目だったようです。

 ……それにしても、治療のためとはいえ背中を晒すのは恥ずかしいですね。肩甲骨周辺とはいえ、下着が見られそうで……いえ、そんな事を考えるのは失礼ですね。これは外見から治ったかどうかを判断するために必要な処置ですから。

 あと地味に嫉妬するヴァーミリオン君が可愛いです。……というか見られても平気だったのに、なんで今更私は……?


「メアリー」


 私が今まで平気であったのに何故今更肌を見られる程度と思っていると、ヴァーミリオン君の言葉をかけられたので私は意識を傾けます。

 なんだか先程よりも真剣みがあるような気がします。


「二度とこの傷が出来た時のような事はしないでくれ」

「というと……」

「自身の命を投げ出してまで救おうなんてしないでくれ。……お前はエクルに犠牲にする事を嘆いていたが、お前も同じような事をしていたのだからな」

「……はい。ですが。ヴァーミリオン君が危険だと思ったら、つい動いてしまったんです」

「その心意気はメアリーらしさだとは分かっている。だが……それでも俺はお前が傷付く所は見たくないんだ」

「私もヴァーミリオン君が傷付く所は見たくないんです」

「自分の命を軽視しないでくれ」

「ただ投げ出すつもりは有りませんよ。ふふ、こうして国王候補を救ったのですから、賞与が欲しいくらいですね」


 私はヴァーミリオン君に変に気を使われないよう、そんな冗談を言って場を濁します。

 当然命を簡単に投げ出すつもりも無いですし、あの時の私はその行動が最善と思って行動をしました。例えあの時に戻っても、私は同じ事をするでしょう。

 ……私を心配してくれるのは素直に嬉しいのですがね。こればかりは私の性分と思って貰えると……


「成程、賞与か。……ではキスを与えようか」

「え?」


 私がどうにか納得してもらおうと思っていると、ヴァーミリオン君はよく分からない事を言いだします。

 ……キス? 接吻? イベントスチルでよくあるアレの事ですか? いえ、ゲームの世界とごっちゃにしては……


「というわけでメアリー、こちらを向け。お前の美しい顔を俺に向けろ。その唇に褒美を与える」

「はいっ!?」


 って、それ所ではありません。ヴァーミリオン君は治療が終わり、私に服を着直させ私に前を向くように迫ってきました。というか肩を掴んで、怪我に気を使いながら私の顔をヴァーミリオン君に向き合う形にさせました。ち、近いです!


「ほ、ほら、戦闘後で汚れていますし、ヴァーミリオン君――殿下を汚す訳には!」

「お前の顔はいつだって綺麗だ。だから問題無い」

「うぐ……キ、キスをする時は強引に迫るものですよ。一々確認を取るのは良くないと聞きました!」

「確認をせず無理矢理口にするのはただの性的暴力ではなかろうか」

「そうですけど!」


 私が知る少女漫画や乙女ゲームは大抵不意打ちだったり、「キスをして良い?」と聞いて了承を得る前に勝手にしたり、俺様系で無理にするのが多かったんです!

 そればかりじゃ無かったですけど相手がリードする展開が多かったんです! ……いや、実際にそれをされたら私が無理に奪われるじゃないですか! って、なんで私はセルフツッコミしているんでしょう。

 ともかくこのままではなんだかよく分からない内にヴァーミリオン君にキスをされてしまいます。この格好良くて色っぽい唇に――


「付き合ってもいない男女がそう安々とキスをするのはよくありませんよ!」

「……そこまで拒否されると、俺も男としてへこむぞ」

「あ、いえ、ヴァーミリオン君は魅力的だと思いますし、されたくない事はないんですが、もっと相応しい場所で、相応しい時間でですね」

「ほう、それならば相応の場所ならば問題無いという事だな」

「はい、その通りです!」

「では賞与はその時に授けるとしよう。構わないか?」

「はい! ……あれ?」


 ヴァーミリオン君が落ち込んだので私がフォローをすると、なんだか妙な事になった気がします。

 これはもしかしなくても……


「よし、言質はとったぞ。キスは確約したからな」

「騙しましたね!?」

「人聞きの悪い。言葉巧みに誘導したと言ってくれ」

「変わりません!」


 くっ、ヴァーミリオン君がまさかこんな事をして来るなんて。今まで強気に出られてもこちらが押したら大抵は引いていたのに……!


「メアリー、今俺の事をヘタレと思わなかったか」

「言ってません」


 思っているだけです。


「あのー……今よろしいでしょうか?」


 私が内心で変な事になったと慌てていると、声をかけられました。

 この話しかけようとしていたけれど、私達の様子を見て上手く話し掛けられず、でも話しかけないと駄目だと気を使ったような声は……クロさんですか。


「なんでしょうか、クロさん。グレイ君はこの通り私の膝で安らかに眠っていますよ」

「その言い方永い眠りについたみたいなんで止めて下さい。ええと、そのグレイは渡して貰うとして、ヴァーミリオン殿下もメアリーさんも参加してくれませんか」

「参加ですか? あ、どうぞアプリコット。嫉妬せずとも次の膝枕は貴女の番です」

「嫉妬は……まぁしてはいるが、膝枕はせぬぞ」


 私はクロさんの言葉に疑問を持ちつつ、クロさんの隣に居るアプリコットに眠っているグレイ君を起こさない様にゆっくりと渡します。

 膝枕に関しては魅力的に思ってはいるようですが、恥ずかしいのでしょうか。

 ともかく参加とはなんでしょうか?


「仮面の男……エクル卿の処遇に関してです」

「……分かりました」


 私はその言葉に頷くと、ヴァーミリオン君を見て確認をとり立ち上がります。

 ……この時が来たんですね。


備考 忘れた方のための解説

ダイアウルフ

それなりに賢い狼型のモンスター。弱いため人を直接襲うことは滅多に無い。

1章で操られシキの子供を攫ったモンスター。その後ヴァイオレット達がフェンリルに襲われるきっかけとなった。


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