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先行することだけは譲れなかった(:菫)


View.ヴァイオレット



「ローシェンナ・リバーズは言霊を使います」


 グレイが居るだろう場所、洞窟に向かう際にクロ殿は私達に説明をした。

 リバーズは言霊とやらを使うとのことだが、そのような話は聞いたことが無い。そもそも言霊とはなんなのだろうか。


「クロ殿、言霊とは一体?」

「簡単に言えば言葉通りに操ると思ってください」


 曰く言霊とは放つ言葉に魔力を籠め、言葉が正しいモノだと認識させる魔法とのことだ。獣やモンスターなどならば命令で操ることが出来るらしい。


「シュバルツと似たような感じか?」

「いえ、あちらは心を通わせることで協力してもらう形ですが、強制的に思考を奪うものと認識してください」


 あくまでもできるのは簡単な命令のみ。例えば“来た者を攻撃しろ”や“哨戒して一定の特徴を持つ者を発見したら知らせろ”といった類だけだそうだ。

 しかし人など一定の知力を持つ者も意のままに操れる。ただし時間は大いにかかるとのことだ。

 だがそうなるとグレイの身が心配になる。何故クロ殿がアゼリア学園でも知られていないリバーズの魔法詳細を知っているかは分からないが、リバーズの魔法は危険な領域に踏み入れている。一刻も早くグレイを助け出さねば。


「アプリコット。追跡は出来るか」

「先程捕まえた魔力の残滓から可能である」

「シアン、ロボ、ブラウンも後から続くように神父様に伝えてあります」

「了解した――我が弟子に手を出したことを後悔させてやる」

「さぁ――行くぞ」







「お前は――!!」


 私の姿を確認した瞬間、リバーズは掴んでいたグレイの手を離し、憎々しげにこちらに向き直った。学園に居た頃は常に笑顔で成り上がりの一家には思えないほどに他者に優しかった男であるが、今の表情からその面影は見えない。

 これがこの男の本性――クロ殿曰くやんでれ、であっただろうか。ともかくこの攻撃性を持ち血眼となっている表情がリバーズの本来の姿なのだろう。


「僕の前に姿を現したな、ヴァイオレット・バレンタイン……!」

「今はハートフィールドだ。間違えるな」

「どちらでもいい!!」


 リバーズは学園で使っていた火の魔法を両手両足に宿し、こちらを威圧する。

 我を見失っているのかその炎が宿った手で両頬を掻き毟り呪詛を吐き出すかのように言葉を紡ぐ。


「ようやく、ようやく会えた! 僕の居ない間にヴァーミリオン様達と決闘などという愚行を行い手を煩わせただけではなく、のうのうとこの地で生きているだけでなく家族と幸福を紡ごうとするだと!」

「そうか、お前に会えても私は嬉しくないが、そちらが喜ばしいのなら良かった」

「巫山戯るな!!」


 ……成程、確かにリバーズの言葉には不思議な魔力を感じる。リバーズの言葉は只洞窟で叫ぶことにより残響で怯ませているのではなく、言葉そのものに圧力があるかのように私の身を強張らせる。


「お前は一生をかけて贖罪をする義務はあろうとも、幸福になる権利などお前にはない! だから僕はお前を!」

「不幸にするためにグレイを攫った、か」

「その通りだ!」


 リバーズは宿す火を大きくし、こちらをさらに威圧する。

 随分と非道な義務なことだ。犯罪奴隷でもあるまいに……リバーズにとっては同じなのかもしれないが。


「悪いな、私は過去に対し罪を償うつもりはあるが、贖罪はするつもりはない」

「なに……?」

「聞こえなかったか。私は厚顔に幸せになってやると言っているんだ。そこにお前は関係なく。グレイが必要なんだ」


 少し前の私ならば、私の身と引き換えにグレイの安全を保障させていただろう。

 目や耳、腕の片方を傷付けろと言われたら交渉に応じていたかもしれない。だが、今の私は違う。ロボさんに言われたように、私は厚顔無恥に幸せになってやると誓ったんだ。

 そこにはクロ殿が必要だ。グレイも必要だ。私に笑いかけてくれた家族が今の私の幸福には必要だ。そんな存在を失いたくはない。


「ああ、それと言いたいことがあるのだが――熱くないか、お前の顔」

「……殺す!」

「罪を償わせるのではなかったのか?」

「殺す!!」


 私が煽ると、もうリバーズの耳には私の声が聞こえていないように私に攻撃の意思を示す。

 よし、グレイに危害を加えようとはしないようだ。もし加えようとしたら別の方法で突破するつもりだったが、これならば私がリバーズの相手をするだけでいい。

 ――さて、リバーズの言霊とやらは厄介だが、魔法に関してリバーズは学園では中の上、あるいは上の下程度。私が遅れを取ることは無い。油断はするな。グレイに気をかけろ。私の不始末は私が解決しなくては――


「その女を殺せ!」


 だが、予想だにしていない行動をリバーズはとる。

 まるでこの場に居る他の存在に呼びかけるようにリバーズは言う。

 ふん、もしや外などに居るモンスターに命令しているのだろうか。残念ながら外に居るモンスターはクロ殿達が討伐して――


「えっ」


 ――しているのだが、私の予想とは裏腹に洞窟の奥からズシン、ズシンとなにかがやってくる足音が聞こえる。

 光が少ないのでよく見えないが、リバーズが宿す火の近くにそれが来ると、嫌でもその姿が見えて来た。


『気持ち悪い!?』


 私とグレイの声が同時に木霊のように洞窟内に響き渡る。

 ああ、そう言えばクロ殿言っていたか。モンスターも簡単な命令なら操ることが出来、時間をかければかけるほど複雑な命令を下せるようになると。

 つまりは時間をかければある程度強い強制をモンスターにかけられるわけだ。

 だとしても……だとしてもこれはないだろう!


「ふ、うふふふふふふふ! 行け、ヴァーミリオン様オーク第7号! その尊きお顔であの女を屠るのだ!」

『GYAAAAAAAA!!』


 私達の目の前に現れたのは、C級モンスターであるオーク。知能は多少低いが、その体躯で多くの犠牲者が毎年報告に上がる、まさにモンスターの代表としてあげられるモンスターであった。

 それはまだいい。リバーズとオークを同時に相手するのは私もきついが、時間を稼げば外に居るクロ殿達も駆け付けてくれる。ただグレイに危害が及ばないように気を遣えば良いだけだ。だが、その外見が問題なのだ。


「グレイや私が夢に見るだろ巫山戯るなリバーズ!?」


 そう――顔だけが殿下そっくりに変えられていたオーク(?)が、そこには居た。

 筋骨隆々な緑色の肌に洞窟の高さ一杯の背丈に、顔だけ小さく殿下の顔。無理矢理合成したかのようである。

 うん、限りなく気持ち悪い!


「安心しろ、お前はもう夢を見ることなどない!! 行け、ヴァーミリオン様オーク第7号! リィフトォアーップ!!」

『GYAAAAAAAA!!』


 オークの咆哮が、恐ろしさを感じずに悲しく聞こえたのは気のせいではあるまい。


Qモンスターを改造しているっぽいですが、ローシェンナは人やモンスターを殺したり止めをさす勇気はないのでは?

A後々に分かりますのでご了承ください


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