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よいではないか(:菫)


View.ヴァイオレット



「で、どしたのシアンちゃん。私達に触発されて神父様をデートに誘ったの? そして上手く行ってテンション高めでいたの?」

「レモンさん辺りに捕まって着せ替えさせられたのか? そしていつものように激しく動いたら服が乱れ、着方が分からなくて困ってる、と」

「うん、説明しなくても分かる辺り流石だね」


 珍しい柄の布で作られた、振袖のような服を着たシアンは私達の予想に複雑そうながらも頷いた。

 そうか、シアン達もデートをすることが出来たのか。上手く行っていたのならば良いのだが。


「服が乱れてるのは、別に神父様に襲われたとか襲おうとしたとかじゃないよね?」

「あ、知っておりますクリームヒルトちゃん。よいではないかー、というやつですね!」

「うん、そうだよ。よく知ってるね!」

「変な事を吹き込むな」


 よいではないかー、に関しては東にある国の文化としてあるのは知っているが、一般的では無いのでグレイに吹き込まないで欲しい。

 いや、この場合は現在目を塞がれているグレイにその言葉を吹き込んだ相手に言うべきだろうか。


「違うよ。確かに襲いたいし襲われてみたいけど――」

「コホン。……シアン」


 服が乱れている事にクリームヒルトが揶揄い、シアンはむしろそうであった方が良かったかというような反応を示していると、シアンの後ろから神父様が現れた。

 シアンと似た系統の服をしており、こちらは乱れてはいない。そして顔を少し赤くしているのは“襲う”辺りの言葉に照れているのだろうか。神父様はこういう風に照れるのは新鮮だな。


「誤解される可能性があるから、あまりそういう事は言わないでくれ」

「あ、ち、違うんです! 今のは願望が出ただけというか、むしろス――神父様に乱されるのならば良いと言いますか! 彼氏と彼女ですから避けては通れない道ですから!」

「…………」

「えっと。その……ごめんな、さい」


 アレを自爆というのだろうか。神父様がシアンの言葉に顔をさらに赤くしている。

 シアンも自身の言葉(ほんね)に気付き、段々と言葉尻が小さくなっていき、顔を真っ赤にして目を逸らした。

 ……確かに私も服の乱れも、クロ殿にされるのならば……いや、今はよそう。私の本音は置いておこう。


「って、わ、わ!?」

「シア――、あい、いや、ごめん!」


 互いに顔を赤くすると、シアンが無理に手で押さえている振袖のような服が更に乱れ、色々と危うい所が見えそうになる。

 神父様もそれに気付いて直そうとするが、危うい所が見えそうになって顔を赤くして慌てて視線を逸らしていた。


「み、見たかったら見ても……いえ、でも……」


 そしてそれに気付いてシアンも顔を赤くしていた。

 ……初々しいな。なんとなくだが、今の私は温かい目で彼女らを見ている気がする。

 そしてクリームヒルトは後ろで「ひゅー」と口笛を鳴らしている。ある意味生暖かく見ているのだろう。


「と、ところで! この服を着直したいんだけど、誰か分かる? レモンさんの所に行くにはちょっと遠くて……」

「いや……生憎だが、私は分からないな。グレイやカラスバさんは分かるだろうか?」

「いえ、私めは見た事も有りません。というかどのような服かもよく分かりません」

「俺も分からないですね……」

「そうか……クリームヒルトは?」

「うん、昔着た事あるから分かるけど……でも曖昧だなぁ」

「それでも良いから着せてもらえる? ええと、茂みで……」

「ごめん、今の私はちょっとヴァイオレットちゃんから離れられないし、ここからだと屋敷が近いからそこでも良いかな?」

「イオちゃんが良いなら」

「ああ、構わないぞ」


 私が了承すると、服をどうにか抑えながらシアンも屋敷に来る事になった。

 グレイとカラスバさんは……どうやら少し離れて、出来るだけ視界に入れないように歩いてついてくるようだ。


「……ところで、ヴァイオレット。この一、二時間で教会には行ったか?」

「……ええ、先程行きましたよ」


 そしてシアンが神父様に乱れた衣装を見られないようにするためか、少し離れると神父様が私に近付いて、小声で私に尋ねて来た。

 ……先程までの表情とは違い、真剣みを帯びた表情であった。


「そうか。……悪いが、シアンの着替えついでに説明もお願いできるか。俺は先に戻る」

「はい、構いませんよ」

「すまないな。……俺も把握は出来てはいないのだが……なんとなく……」


 神父様はそう言うと、シアンの方をチラリと見た。

 感情などに鈍い神父様であるが、なんとなくシアンを今の教会に近付けさせてはいけないと直感が告げているのだろうか。そしてその直感が当たっている訳である。


「ご安心を。私の方から言いますので」

「すまない」

「いえ、シアンは大切な友ですから。今は下手に近付けさせないほうが良いと分かりますから」

「ありがとう。……彼女を誰かに任せるなんて、情けない彼氏だな」

「貴方なりの優しさでしょうから、シアンも分かってくれますよ」

「……ありがとう、ヴァイオレット」


 私なりに神父様を励ますと、神父様は少し気を緩めていつものような柔和な表情に戻った。……やはり神父様はこういった表情の方が似合うな。


「ねぇねぇ、さっきからなんの話をしているの?」

「なんでもないさ、クリームヒルト。さ、ここに居るとバーガンティー殿下が追いかけてくるかもしれない。早く戻るか」

「そ、そうだね。早く戻ろうっ!」

「早くするのは私だがな」


 私達の会話にクリームヒルトは疑問を抱いていた。シアンが合流した今、ここで話すのは得策ではないと思い、話を逸らすためにバーガンティー殿下の名前を出すとクリームヒルトは慌てて話を逸らされてくれた。


――さて、シアンとクリームヒルトを上手く抑えられるだろうか。


 特に今回の件に関してはシアンが心配だ。

 場合によっては皆で抑えなければならないからな……。


「シアン、悪いが俺は先に戻るよ」

「え、何故ですか? デ、デートの締めのキスがまだですよ!」

「キッ――! コホン。すまないな、ちょっとしたサプライズがあるんだ。楽しみにしていてくれ」

「サプライズ……ですか。私にとっては貴方が傍に居る以上に楽しみかつ喜びは無いのですが……」

「うぐっ……と、ともかくサプライズだから楽しみにしていてくれ!」

「は、はぁ……?」


 ……神父様、嘘が下手だな。

 シアンも他の者相手なら隠し事をしているという事が分かるだろうが、神父様相手だから分からないのだろうな。


「じゃあまた後でな、シアンちゃん!」

「えっ!?」


 神父様はここに居ると気付かれると思ったのか、いつもと違う呼び方を言って慌てて去って行った。慌てて逃げるとは、神父様も可愛い所があるものだな。

 それはともかく……


「……シアンちゃん、ねぇ。……そう呼んで貰えるようにデートで頼んだのかなー? どう思いますヴァイオレットさんや」

「恐らくだがデート中に互いにいつもと違う呼び方をしていたのだと思うぞ、クリームヒルトさんや」

「うーん、そうなると気になる事がありますな」

「そうだな。あちらが呼び方を変えたという事は……」

「うん、シアンちゃんも特別な呼び方で神父様を――」

「さぁ、早く屋敷に行こう!」


 私達がわざとらしい会話をすると、シアンは慌てて屋敷の方へと走っていった。

 ……うむ、やはり可愛らしいな。シアンやアプリコットが私達を揶揄う理由がよく分かる気がする。


「逃げたな」

「逃げたね」

「……あ、転んだ」

「……私達以外誰も見て無くて良かったね。色々出ているよ」


 そしてシアンは十数メートル先で思い切り足を引っかけ派手に転んでいた。


「あの、カラスバ様。私め達はいつまで目を閉じていれば良いのでしょう。シアン様が転んだのならば、怪我の確認と治療をしたいのですが」

「それは他の子がするから大丈夫。……俺達が見たら駄目なヤツだよ、あれは」

「そうなのでしょうか……?」


 男性が見たらさらにマズいのは確かだが、私達が見ても今のシアンの状態は駄目なヤツだと思うが。


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