偽者_3(:偽)
View.メアリー
「コホン、取り乱しました」
「……なんの話だろうか。俺達は今入って来て光景に絶句していただけで、なにもしていない」
「……お気遣いありがとうございます」
「何故礼を言われるか分からんが、受け取ってだけおこう」
ありがたいような、恥ずかしいような気遣いを受けながら、私は気持ちを落ち着かせようとします。
ヴァーミリオン君を見ると落ち着かなくなるので、周囲の光景を――見るとさらに落ち着かなくなるので、眼を瞑って深呼吸をしました。
なんですかここ。なんでここだけ前世の日本の二十一世紀的な場所になっているんですか。いえ、見た事は無いんですが。
「長年使われていないようであるから、現神父の趣味という訳ではなさそうだ」
「そこだけは安心しました」
あの優しそうな神父様が、裏ではこういう事をしている。それであるとシアンを心配せねばならないので、明らかに誰の手も入っていない状態で長年放置されている形跡があったので助かりました。
……優しそうな裏で、こういった事をやっているというのは物語では定番ですが、現実では無い事を祈るばかりです。
「過去の拷問場所……だろうか」
「そうでしょうね」
「ああ、そうに違いないな」
とりあえず私達はそう思う事にしました。というかその方が可能性自体は高いでしょうし。
私達のような前世の記憶持ちが作った……という事だけは無いと信じたいです。落ち着いてよく見ると、この世界の魔法技術による道具類ばかりですし……いえ、記憶持ちがこの世界で再現した可能性も……考慮はしますが、この場では昔のこの世界の皆々が尋問のために作った、という結論にしておきましょう。
「しかし雷術石が生きているとなると、そこまで数十年単位で使われていない、という訳ではなさそうだな」
人感センサー的のような魔法で自動的に光が付く機能が備わった魔法が生きているので、古代……というわけではなさそうです。そうなると心配なのは……私が目的としている本があるかどうかですね。
「申し訳ないですが、周辺を調べるのを手伝って頂けないですか? 多分この部屋の何処かに本があるはずなので」
「……この部屋を、か」
「お、お願いします。全体的に黒い本なはずなので」
ヴァーミリオン君が今までとは違う複雑な表情をしました。そうですよね、この部屋を調べると言うのは嫌ですよね。虫とかは大丈夫そうですが、変な跡がありますし。
ですがそうも言ってられません。私は目的のためにこの部屋、あるいは隠された場所にあるだろう本を探さねばなりません。
私は本が隠されていそうな場所を探します。
これは……鞭ですね。馬用です。
これは……鞭ですね。牛用です。
これは……鞭ですね。人用です。
――私はなにを探しているのでしょうか。
本です。本が良いんです。重要な本があるはずなんです。……って、何故馬用とか牛用があるんでしょうか。……考えないようにしましょう。
「メアリー」
「ありましたかっ?」
「いや、まだだ。……探している内に聞きたい事がある。目的のモノを見つけると、聞けなくなりそうだからな」
ヴァーミリオン君は私から少し離れた場所で探しながら、私の様子を横目で見ながらも私に聞いてきます。……今の発言は、なにを私がしようとしているか感じ取っているのでしょうか。
「先程の台詞だが……」
「痛いのが平気なのは確かですよ? 前世で慣れてます」
「それではない。……化物が目覚めた、の下りの語りだ」
それですか。正直先程の会話は色々ごっちゃになっているんですよね。痛いのは大丈夫と言いますか……いえ、それはともかく。
「語りからして、なにかしらの本の様に思える。……もしや今探している本は、語りが書かれていた本に記されていたような未来予知の本に書かれているモノであるのか?」
この世界には、いつかのヴェールさんが日本語で書かれた紙を手に入れていた事があったように、未来予知……占いを行う職業の方々が居ます。
精度やどれだけ先の事を見れるかは占う方々によって異なりますが、中には数百年後を予知し、本にしている方も居ます。大抵は外れたり、“太陽と月が重なり消える蔭の囲いし時、王国に災厄が起こる”といった抽象的な情報しかなかったりしますが。
つまりこの質問は私が昔に予知系の本を読んで、それに記されている情報を元にここで探している……と思っているのでしょう。
「近しい内にその封印されたドラゴンが復活します。その前兆としての異常がこのシキで起きているのです」
「何故断言できる」
「ある意味ではこの数年の最も正確な未来予知を以前から知っていたからですよ。今探しているのは証明する本……歴史的な記録本です」
「……未来予知の本でも、未来予知の魔法の類でもなく、未来予知、か。それは――ぐっ!?」
「ど、どうしました!?」
「い、いや、なんでもない。妙な棒を見つけただけだ」
「妙な棒……?」
妙な棒、とはなんでしょうか。気にはなりますが、私に見られないように素早く服に隠したので分かりません。あれでは後で見ようとしても、ヴァーミリオン君から奪わないと見れませんね……と、これは……
「未来予知には曖昧かつ、愉快犯もある。お前の見る目を疑っている訳では無いが、信用できる筋なのだろうな」
「ええ、クロさんに違うとは言われましたが、ある意味ではヴァーミリオン殿下達が全くの間違いではないと証明してくださっているのですよ」
「……殿下、か。それに俺達が……メアリーお前は、いや、お前達は――」
「“お前達はこの世界のなにを知っている”。……貴方は私達にそう問いたんでしょう?」
「…………」
その言葉は、昨日お師匠様と話していた言葉であり、ヴァーミリオン君は私は知るはずもないと思っている言葉でもあります。
どこで違和感を覚えたのか。
何故その質問をしようとしたのか。
――答えが予測したものであったとして、彼はどのような行動をとるつもりなのか。
「……私はなににもなれない偽物です」
私は見つけた“ソレ”を見て、中身が予測した者である事を確認しながらヴァーミリオン君の答えに私なりに答えます。
「私は前世ではなにもなせずに生を終えました。ですから今世での私はなにかを成そうという気持ちが強かったのでしょう。なので前世から知っていた未来予知を頼りに、少しでも善くしようとしていました」
「前世から知っていたのか」
「ええ。そしてこれもその情報を思い出して得た、情報の正確性を示す本です」
見ていた本を閉じ、私の言葉にこちらを見たヴァーミリオン君に近付いて本を渡し、読む様に促します。
そして私は距離をとって周囲を見て……変な道具類を見るのは複雑ですが見つつ、念のため他に重要な者が無いかを確認します。
「その本に書かれているのは、この地で過去に封印されたモンスターに関しての経緯や弱点が書かれています」
周囲を確認しながら、私は読み進めているヴァーミリオン君に語りかけます。
……表情は、分かりません。とても、怖いです。
「……そのようだな。抽象的な、伝記的語り口ではあるが」
「本来であれば、抽象的な内容を読み解きながら攻略する必要があるのですが……弱点に関しては分かっていますよ」
「前世から知っているからか」
「ええ。申し訳ありませんが、弱点を突くのに貴方の力が必要なんです」
「だから俺をここに連れて来た訳か。【珠玉の星】……王族のみに使えると言われる魔法には関係あるか」
「【珠玉の星】はまだ必要ないです。ですがそれを現在の殿下達今使えるのは貴方だけですから、重要ではありますが。……さて、ヴァーミリオン・ランドルフ殿下」
「なんだろうか、メアリー・スー」
――っ。……落ち着くのです。
「“お前達はこの世界のなにを知っている”。……今から言う事がその答えです」
私は一通りの確認を終え、本から顔をあげ私の方を見ていたヴァーミリオン君の方を向きます。
「ヴァーミリオン殿下。私達は……いえ、私は。貴方と貴方達を利用させて頂きます」
一呼吸置いて、意を決すると真っ直ぐ言います。
……これから話す身勝手な内容に対し、クロさんとクリームヒルトに内心で謝りながら。
――?
チクリ、と。私の知らない痛みが、身体の奥深くで感じました。




