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デート、灰と杏の場合_3(:杏)


View.アプリコット



 うだうだと考えると楽しむモノも楽しめないし、そもそもクロさん達のデートがメインなのだ。

 デートとか付き合うとかはなんぞや。と考える暇があれば、今を楽しんだほうが良いと判断した。デートの方はクロさん達が楽しんでくれるだろう。

 下手に別の事を気にしていては、折角の初めてのこの街への来訪という、二度と無い経験の感動が薄れてしまう。だから僕達は観光を楽しんだ。


 噴水やシキには無い建物など観光名所を見て回ったり。

 特産品のガラスを作る工程を見てはしゃぐ彼を見て楽しんだり。

 名物料理を注文して一緒に食べてどう再現するのかを話し合ってみたり。

 クレープと呼ばれる食べ物で、食べた事のない味が多くあったのだが複数食べるとお腹が膨れてしまうので、二人で別々の味を買って互いのモノを分け合って食べたり。

 賭け事は良くないのだが、クロさん達に内緒という秘密の約束をして飲み物代程度のお金を賭けて競技を観戦したり。

 まさか勝ってしまったので、あぶく銭ということでエメラルドやブラウンなどのお土産を買おうという事になり、なにが良いか一緒に悩んだり。


 など、様々な事を彼と体験した。

 デートではなく、あくまでも観光。

 男女としてではなく、あくまでも僕らしく彼と過ごせるようにこの街を楽しんだ。

 まったく、僕達と違ってこんな所でデートできるクロさん達が羨ましいな。いつかは僕達も男女としてデートを出来る日が来るのだろうか。

 楽しみではあるが、それを考えると鼓動が早くなって通常の思考が難しくなるので、考えないでおこう。


「アプリコット様! お飲み物です。なんでもこの町特産のグァアアバァアア! という苦しむ果物のジュースだそうです」

「グァバだ。別に叫び声が語源のなどではないぞ。……む、これは確か九月(セプテンベル)辺りの果物であったはずだが……」

「なんでもこの辺りで流通を行っている貴族の方がこの時期でも摂れるようにしたらしいですよ」

「ほう、そうなのか。ともかくありがとう」


 恐らく名前が叫び声に似ているから勘違いしたであろう可愛い彼から飲み物を受け取る。

 本当は僕が年上として奢るべきだと思ったのだが、「この程度は私めにお任せください!」という彼の発言に押され、こうして噴水近くのベンチで彼を待っていたのである。


「……ふぅ、美味いな。時に弟子よ、今日は楽しかったか?」

「はい、勿論です!」

「そうか、よかったな」


 彼が嬉しそうに笑顔で微笑むので、つい僕は彼の頭を撫でる。

 初めは何故撫でられているのか分からない彼ではあったが、すぐに心地良いかのようになされるがままに頬を緩めていた。可愛い、このまま撫で続けたいものである。


――しかし、楽しかったのならば良かった。


 今日はデートらしい事は出来なかったが、彼が楽しんでくれたのならばそれに越した事は無い。僕が変に意識した事によって、彼が僕を気遣い楽しめないのは避けたかったからな。


「あ、ですが……アレが無かったのが寂しいです」

「アレ?」

「はい。デートの時は、男性が離れた際に“ぐへへ、そこのカワイ子ちゃんよー、連れなんて放っておいて俺達と遊ぼうぜー”と不良なる方に絡まれ、そして男性が“俺の連れだ!”と言って連れ出し守る事が、デートでは良く起こる出来事だと聞いたのですが」

「言ったのはメアリーさんか。それともクリームヒルトさんか」

「メアリー様です」


 あの妙な所でズレている先輩(予定)め。弟子に妙な事を吹き込むでないぞ。そんな事がある訳が――


「ぐへへ、そこのカワイ子ちゃんよー、連れなんて放っておいて俺達と遊ぼうぜー」


 あった。

 寄って来たのは男性二人。いかにも遊び慣れていますとばかりの風体だ。

 なんなのだろう彼らは。夕方のこの寒い時期にこんな事していて寂しくないのだろうか。


「生憎と我達は今日はもう帰らなければならぬし、遊ぶ余裕が無いのでな」

「はい。父上と母上が迎えに来られますし、申し訳ありませんが遊ぶのは無理そうです」

「そう言わずによー。ちょっとくらい遅れても平気だって! ほんのちょっとで良いからさ!」

「そうそう、ほんのちょっとお茶しようぜ! 綺麗な君達とお茶をしたいんだよ!」


 ……この手の輩に絡まれるのは煩わしいな。

 手当たり次第に声をかけているようであるし、この手の輩に引っ掛かる女性は本当に居るのだろうか。綺麗と言われても言葉は薄っぺらく――ん、君()


「……すまない。今我は大切な男子とデート中なのだ」

「大切な男子? デート中に君達をここで放っておく奴なんて放っておこうぜ!」

「そうそう、こんな可愛い子を放っておくなんて――」

「え、放っておくはずないじゃないですか。私めがアプリコット様を放っておくはずがないです」

「え」

「……もしかして、君がそのデート中の男性?」

「はい。今日は私めとアプリコット様との初デートなのです!」

「……男の子だったか……」

「はい?」


 やはりというか、彼……弟子の事を女の子と思っていたようだ。男性寄りではあるが、中性的な弟子である。ヴァイオレットさんも勘違いしていたと聞くし、間違えるのは無理もないかもしれないが。

 ……しかしここで引き下がってくれるとも思えない。

 弟子は世界一の美形ではあるが、見た目からは強そうには見えない。対して相手は女性を強引にでも連れだしそうな男性二人。僕達は初めての街で自警団とか何処に居るか分からぬし、地の利はあちらにあるだろう。女が僕だけと分かったとしても、僕だけなら弟子から力付くで連れて行けると思うかもしれない。

 ……もし弟子を傷つけようものなら、容赦は――


「しかしそうか……大事な間柄なら仕方ねぇな。しかも放っておかずに傍に居やがる」

「そうだな。大事な間柄を引き離す奴は万死に値する。間男は死すべしだからな」

「え」


 なんだこの男性陣。急にしおらしくなったぞ。

 しかもなんだか、意味は分かるのだが彼らから発せられる言葉としてはよく分からない事を言っている。


「じゃあな少年少女! 仲良くやるんだぜ!」

「美男美女でお似合いだぜ!」

「はい、応援ありがとうございます!」

「う、うむ。ではな」

「じゃあな! ……なぁ兄ちゃん。本当にこのやり方で良いのかな。俺、このやり方で彼女作れる自信ないよ……」

「馬鹿言っちゃいけねぇぞ弟よ! 早く彼女を作って母ちゃんを安心させるんだろう!? まずは会話が大切だから、そのためにもこうしてお茶に誘ってる! 会話をして互いを知らなけりゃ女の子は惹かれねぇぞ!」

「そ、そうだね兄ちゃん、俺、頑張るよ!」

「よく言ったぞ弟よ! ……でもデート中に誘うのは良くねぇな。例え放っておかれている子でもな」

「だね」


 兄弟だったのか。というか会話の端々から良い人っぽい性格が読みとれる。

 とりあえず彼女を作りたかったら風貌と言葉遣いを直したほうが良いと思うぞ。そっちの方が好きな女性も居るだろうが、貴方達には合わないと思う。


「やりましたアプリコット様! デートイベントを見事こなしました!」

「ああ、うむ、良かったな……」


 ともかく、弟子……彼が喜んでいるのなら良しとするか。

 先程のが彼とメアリーさんが言っていたものかと問われると微妙な気もするが。


「それに、アプリコット様に大切な男子と言われました! こんなに嬉しい事は有りません!」

「ごふっ」

「ハンカチどうぞ」

「い、いや、自前のモノがあるから大丈夫だ」


 僕は飲みかけていたグァバジュースを噴き出し掛ける。少し口から垂れてしまったが、僕の懐から取り出したハンカチで拭きとった。

 ……うむ、確かに言いはしたが、そうハッキリ言われると動揺するな。相変わらず彼のストレートな性格は心臓に悪い。でも嫌いではない。


「そもそも我は元から大切と言っているだろう」

「そうですか? ……そうですね、言われていましたね」

「であろう?」


 ……まぁその大切は弟子としての大切であったのだが。


「ですが何度言われても嬉しいモノは嬉しいです! 初デートのこの日に言われた事実は私めは一生忘れません! なにせ私めにとっても大切な女性に言われたのですから!」


 …………いつの事だったか、クロさんやヴァイオレットさんが互いに好意を言われて照れて顔を赤くしている、という事があった。

 その時は嬉しいのは分かるが、少しは慣れたらどうだと思っていたものだが、今ならあの時のクロさん達の気持ちが分かる。これは慣れるには時間がかかりそうだ。

 本当になんなのだろう、彼は。可愛い。


「アプリコット様!」


 彼は喜びのあまり立ち上がり、僕の前に立ち僕を笑顔で見てくる。


「また、デートをしましょうね!」


 夕日をバックに見せる笑顔は、一つの絵画の様に惹かれる笑顔であり。

 無邪気な笑顔は間違いなく――


「……ああ、その時が楽しみだな」


 グレイという男の子の、僕の大好きな笑顔であった。


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― 新着の感想 ―
[一言] はぁ.....グレイとアプリコットは尊いな。 そして途中のチャラ男もどきの兄弟。 お前らは普通に過ごしてたらかなり持てると思うぞ.....。
[一言] グレイとアプリコットのデートの甘酸っぱさに悶えてたのに、突然現れたナンパ兄弟が良い人そうすぎて全部そっちに持ってかれましたww 彼らに無事彼女ができることを祈ります。
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