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賑やかな朝食~後片付け~


「……ふぅ」


 賑やかな朝食も終わり、つい溜息に似た息を吐いてしまう。

 今は各々が食後の紅茶を飲んで談笑したり、明日の調査のために今日すべき事に関して話しあったりしている。その話し合いも終われば大半も屋敷から去って行くだろう。

 俺とヴァイオレットさんはそんな声を少し遠くに聴きながら、朝食の後片付けを行っていた。


「その……先程はすまなかった。私もあのような事を言うつもりではなかったのだが、ゴルドに言われるとつい張り合いたくなってしまって……」

「気にしていませんから大丈夫ですよ」

「少しは気にして欲しい。内容自体は事実なのだからな」

「どっちなんですか」


 そんないわゆる女心というやつなのか、あるいは別のなにかなのかは分からない感情が混じった受け答えをしつつ、俺は水で洗った皿をヴァイオレットさんに渡していた。

 というか、事実だとするとようは――いかん、女性の胸に視線をやるのは失礼だ。見てはいけない。大きければ重力が大きくなるので引き寄せられるのは自然の摂理かもしれないが、見てはいけない。

 ……ヴァイオレットさんなら見ていても大丈夫な気は――いかん、邪念よ去れ。


「そいえばクロ殿。バレンタインデー、というものを知っているか?」

「? ええ、知っていますよ」


 俺が邪念を振り払おうとしていると、ヴァイオレットさんが思い出したかのような、前から言おうとしていたのを、タイミングを見つけたので切り出したかのような質問をして来る。

 バレンタインデー……恐らくヴァイオレットさんの実家の爵位を与えられた周年の日……という意味ではなく、お菓子メーカーの陰謀的な方のバレンタインデーだろう。


「やはり知っているのだな」

「ええ、女性が親しき相手にチョコレートを贈る、というのが日本では一般的でしたね」

「一般的? 日本(NIHON)では?」

「ええ、別の国だと男性が妻とか恋人に贈り物をする日だったりします」

「ほう、男性がチョコレートを求めて血で血を洗う、勝者と敗者が明確に分かれて修羅場になる、と聞いたのだが」

「聞いたのメアリーさんですか、それともクリームヒルトですか?」

「メアリーだが……メアリーの名前が先に出て来る辺り、クロ殿の認識が分かった気がする」


 メアリーさんか。間違ってはいないかもしれないが、変な事をヴァイオレットさんに教えないで欲しい。

 ……いや、病気であまり外に出なかったので、ゲームとか漫画に出て来る過剰なバレンタインデーの描写を鵜呑みしている……という可能性もあるのだろうか。どちらにせよ注意はしよう。グレイが聞いて信じたら大変だ。


「ともかく、その日がなんと私の誕生日であるという」

「そうですね」

「ああ。先月の誕生日以来、誕生日は良いモノだと実感したからな。好意の感情を確かめる日が同じとは、偶然とはいえ嬉しく思ってしまうよ」

「そう……ですね」

「?」


 こう言ってはなんだが、あれは開発者がと言うかシナリオの設定担当がバレンタインという家名だから二月十四日にしよう、的なノリで決めたような気もするが。

 ……まぁ偶然に喜ぶヴァイオレットさんが可愛らしいのでそんな事どうでも良いか。


「どうかしたのか、クロ殿。……そういえば同じような事を言った時に、メアリーも似た反応を示したのだが……」

「恐らく俺と同じで前世を懐かしんだんじゃないですかね。一種の日本という国での祭に近いモノですから」

「そうなのか?」

「ええ、そうです」

「そうか。そ、それでだな、クロ殿……」


 俺はあの乙女ゲーム(カサス)での設定の事は適当に流し、最後の一枚を洗い終わった所でヴァイオレットさんが既に拭き終わっている皿を少々力強く持って、こちらの様子を伺っていた。


「実は皆が帰った後に、渡したい物が――」


 そしてヴァイオレットさんがなにか言おうとした所で。


「と、来客ですね」

「……そのようだ」


 屋敷のチャイムが鳴り、俺達は玄関に移動する事になった。

 なにかを言おうとしていたのは気にはなるが、ヴァイオレットさんは後で話そうと思ったのか、まずは来客対応をしようと手を拭いて軽く服を整えている。話そうとしている内容は気になるが、俺も準備をして早く客人対応しよう。


――こんな朝早くから誰だろうか。


 そう思いつつ、俺とヴァイオレットさんはは早歩きで玄関に向かう。

 まさかいつぞやの様に調査の日にちが間違って伝わっていて既に来ていた、とかないよな。アレは第二王子(アレ)のせいであるとローズ殿下に聞いており、そんな事がないよう灸をすえたとは仰っていたが、またしないとは限らないからな……


「へーい、どちらさんですかな!」

「おいクリームヒルト、出るのは構わないが、もっと礼儀正しくしてほしいんだが……ん?」

「む、バーガンティー殿下とエフ?」


 俺が玄関に着いた頃にはクリームヒルトが扉を開ける所であった。傍らにはグレイも居る。

 別に出る事自体は構わないのだが、調査の騎士団とかだったら色々面倒になるのでもう少し落ち着いて欲しい。とはいえ、今回はもっと偉い殿下が来客であった訳だが。


「あ、やっほー、ティー殿下、エフちゃん! グッドモーニングーテンターク!」

「グ、グッド……!?」

「リターン……グッドモーニングーテンターク……!」

「いえーい!」

「いえい」

「え、エフ!?」


 そしてバーガンティー殿下を置いてけぼりによく分からない挨拶をし、挨拶を返したエフさん(フードを深く被っている)とハイタッチを交わしていた。随分とエフさんと仲良くなってるな、アイツ。元々誰かと仲良くなるのは上手い方ではあるが。


「コホン。朝早く申し訳ありません。おはようございます」

「うん、おはよー。ティー殿下、黒兄に用事?」

「いえ、貴女に用事がありまして……」

「私に?」


 っていうかクリームヒルトのヤツ、前はバーガンティー殿下と呼んでいたと思ったんだが、いつの間にティー殿下と呼ぶようになったのだろうか。

 というかバーガンティー殿下がクリームヒルトの用事となると……再び強さの証明のために戦いでも挑みに来たのだろうか。


「む……声が聞こえたのでもしやと思ったが……」

「へぇ、バーガンティー殿下だね。傍に居るのは……護衛かな」

「エフ、っていう子らしいよ」

「へぇ……?」

「エフ……あれは女性……? それにあのフードは……?」


 そう思っていると、元々近くに居たのか、声を聴いて見に来たのは分からないがヴァーミリオン殿下達も玄関の様子を見て様々な反応を示していた。

 アッシュとエクルは朝早くから来たバーガンティー殿下よりも、エフさんの方を気にしているのは気のせいだろうか。


「気のせいでは無いだろう。エフもアイツらに見られるのが嫌で認識を阻害するフードを被っているのだろうからな」

「そうなのですか? そういえば一昨日もエフさんを知っているような反応をされてましたよね?」


 確か温泉の仕切りが壊れた時であったか。

 あの時にヴァイオレットさんがエフさんの事を――いかん、あの時を思い出そうとすると違った光景(ヴァイオレットさんの濡れ透け)を思い出してしまう。さっきから邪念しかないぞ、俺。


「知っている。だが、彼女が内緒にしたい以上は私からはなにも言わないさ」

「そうですか、分かりました」


 まぁあんな格好をするくらいだし、隠したい事もあるのだろう。

 数日ではあるが行動を見て、エフさんが悪意を持って害をなそうとする気配はない。ならば暴こうとするのは野暮だろう。


「それで、私に用事ってなに?」


 と、それよりも今はバーガンティー殿下の用事に関してだ。

 聞くべきか聞かないべきか悩んだが、ここで去るのは違う気がする。もしも気まずそうにしていたら去るが、その気配も無いので動けずにいて――


「クリームヒルトさん、私とデートをして下さい!」


 瞬間、全員の会話が止まって全員がバーガンティー殿下を見た。


「良いよー」


 そして次にあっさり承諾したクリームヒルトを全員が見た。

 え、良いの? 昨日とか告白の時とか脈が無い感じであったのに、あっさりと認めるなんてどういう心境の変化だろうか。

 聞いては見たいが、今聞くべき事でもない。ここは兄として戸惑いつつも見守っていくべきなのだろうか……


「良いのですか!?」

「あはは、誘っておいて驚くんだね。明日から調査で忙しくなるかもだし、調査で学園とか軍の皆が来たら機会もなくなるからね。それとも社交辞令で言っただけで本当は嫌だったり?」

「そ、そんな事は有りません! 貴女と過ごせる時間が少しでも増えるのならば私としては嬉しい限りなのです!」

「そっか、良かった。でもエフちゃんは良いの? 護衛なんでしょ?」

「はい、ですので出来れば三人で……」


 それってエフさんが物凄く居辛い事にならないだろうか。実際フードで顔は見えないが佇まいからして居辛そうに見える。


「あはは、良いよー。それってデートじゃなくて友達とお出かけな気もするけど」

「……ごめんね?」

「ううん、遊ぶなら皆で遊んだ方が楽しいからね!」

「もし逸れたら……私は読書でもしてるから……ゆっくり路地裏とかに……仲を深め合っても良いからね……!」


 ……いや、どっちだろうか。なんというか恋愛関係は本の世界だけで知っていて“ヒロインの危機に颯爽と駆け付けるヒーロー!”的なものを期待しているような感じだ。


「あはは、どういう意味での深め合うかが気になるよ」

「不良に……絡まれて……颯爽と助ける……?」

「あ、そっちね。でも多分私絡まれても大抵の相手には勝つと思うよ」


 うん、だろうな。対人相手で仲間を気にしなくて良いのならクリームヒルトは余程じゃない限り負けないだろう。


「あ、そうだ。神父様も今日の午前には戻るっていうし、折角なら――」


 そんな少々ズレた会話と思考をしていると、クリームヒルトがなにかを思いついたかのように手をポンと叩き、俺達の方を振り返る。


「明日からは忙しくなるんだし、私だけじゃなくって、黒兄達もデートをしたらどう?」


予告『ドッキドキデート大作戦!』


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