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閑話


 不安半分、期待半分といった様子の彼女は、両手で持たなければバランスを崩しそうな箱を胸下に両手で持ち、俺達の前に立っていた。

 最初呼び止められたのは単純に俺を見かけたから呼んだものだと思ったのだが、どうやら俺に渡すもの、恐らくは甘い香りが僅かにするその箱の中身を渡したくて呼び止めたようだ。


「き、奇遇だな、クロ殿」

「はい、そうですね?」

「ええと……その……本当は屋敷に戻ってから渡そうと思ったのだが、偶々クロ殿を見かけて……つい声をかけてしまったのだが……」

「はい」

「…………」

「…………」


 そして呼び止めたは良いが、どうして良いか分からずに妙な間が出来る。

 待っている間に、箱を持っているため抑えきれずにいる紫の綺麗な長い髪が風でなびく。そして風が止んでなびき終わるほどの時間が空いた後、女性陣は顔を近付けあった。


「ほら、ヴァイオレット。照れていないで言う事を言わないとっ」

「わ、分かっている!」


 小さな声でなにか話し合いながら、肩をすぼめる事によって箱が動き箱の上部にその豊満な胸が乗って動き形を変える。あざとい。

 ともかくその箱は先程の言葉通り、俺に渡すものらしいのだが一体なんなのだろう。甘い香りからして食べ物……あるいは、そういった香りの香水かもしれない。


「……それにしても、色々と持っていますね、クロさんにアッシュ君」

「色々仕事で周っていたら貰いまして。アッシュ卿にも持って貰っているんですよ。悪いとは思っているんですが……」

「持ちましょうか、アッシュ君?」

「大丈夫ですよ。重さはそれほどでも無いですし」

「いえ、それだと持つ箱が……」

「? ああ、申し訳ありません、気が利かなくて」


 メアリー……さんは俺達の持っている回収した資料の他に、様々な頂き物を見て持とうとして来る。恐らくは俺達の手が塞がっていては渡すことが出来ないためだろう。

 アッシュもそれに気付き、俺のを持とうとするが、自身の荷物で手一杯なので諦めていた。


「大丈夫ですよ。このままでも受け取れますが……いえ、受け取るのに片手間ではヴァイオレットさんも悲しみますね」

「いや、私は受け取って貰えれば……クロ殿が喜んで貰えればそれでよいのだが……」

「……ヴァイオレットさんは気にしないかもしれませんが、俺が気にするので。少々お待ちください」


 俺は手近にある、置いても汚れにくい場所を探して荷物を置き、その上に資料を置いて、風で飛ばないようにアーモンドグリーンさん(ブロッコリー)を置く。

 そして俺は改めて二人に向き直った。


「お待たせしました。なんの御用でしょうか」

「えっと……」


 俺がなんの用かはなんとなく察しつつも、敢えてなんの用か分からないという体を装う。

 それを見て一歩下がって距離をとったアッシュはなんとも言えない複雑そうな表情をしていた。意地悪とでも言いたげだが、生憎と表情だけでは伝わらない。


「こ、これを……クロ殿の、好物であるから、作って……その、喜んで貰えると、嬉しい」


 照れているのか、顔を赤くして少し途切れ途切れの言葉で箱を前に出す。その際に乗っていた胸がたゆんと揺れた。……ブラしていないんだろうか。あざとい。


「ありがとうございます。開けても良いですか?」

「う、うむ。構わない。私が持っているから開けてくれ」

「では早速――おお!」


 俺は笑顔で箱を受け取ろうとするが、開けるように促されたので差し出した状態の箱を少し見て、上の部分を持ちあげればそのまま中身が見えるタイプだと分かると俺は箱を持ちあげた。

 そして中にあったのは……黒色に近い茶色の、丸い(ホール)型のケーキであった。

 これはまさしく――


「チョコレートケーキですか!」

「う、うむ、そうだ」


 そう、チョコレートケーキ。まさかこの世界でチョコレートケーキを見れる日が来ようとは。アッシュがチョコレートを知らないのかのように不思議そうな表情で見ているように、珍しいモノだから……あれ、そうなると何故あるのだろうか。


「メアリーに教えて貰って私が作ったのだが……」


 成程、メアリーさんに教えて貰ったのか。

 メアリーさんは前世ではあまり料理とかしなかっただろうに、よく知っていたものだ。後でお礼を言っておかなくては。


「その。チョコレートが好きなクロ殿なら喜んでくれると思って……嬉しいだろうか」

「ええ、嬉しいですよ! なんといっても好物ですからね」

「ふふ、まるで子供のようだな」


 そう言われても嬉しいモノは仕様がない。

 誕生日ケーキでもショートケーキよりはチョコレートケーキを望んで買ったり、コンビニではチョコレート関連の商品を進んで見ていたくらいにはチョコレートが好きなんだ。(ビャク)も一緒によく見ていたなぁ、懐かしい。

 クリームヒルトも今朝渡したら喜んでいたし、今世でアイツも大好きだろうから、明日帰って来るクリームヒルトにも残しておかないと。その前に皆で食べないと――っと、


「っと、すいません、はしゃぎ過ぎました」

「いいや、構わないさ。喜んでくれたクロ殿を見れて私も嬉しいからな」


 これからどうするかと色々と想像を膨らませていて、すぐに我に返る。

 チョコレートケーキ自体はとても嬉しい。嬉しいが、少し()()()

 なにせこれを受け取るのは、どうしても気になる事がある。

 その気になる事を解決しなければ、このチョコレートケーキを受け取る事は出来ないからだ。


「ところでお聞きしたいんですが」

「どうした、クロ殿?」


 そう、どうしても聞きたい事がある。

 長くて綺麗な“紫”の髪をしている彼女に、どうしても聞かなくてはならない事がある。


「誰でしょうか、貴女」


 この女性は、誰なんだろうか。


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― 新着の感想 ―
[一言] 口ではヴァイオレットさんって呼びつつ、内心は全部[彼女]表記になってるのか……
[一言] え、ええー???どういうことだ???続きが気になる
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