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住む世界(ジャンル)が違う


 強さという定義は様々だ。

 戦闘で強い、策略で強い、立場が強い、心が強い。

 自分の事を強いと思っている奴は自分の弱さを認めないから強く、自分を弱いと思っている奴は人の強さを知っているから強い、というのを前世のとある作品で聞いた時成程な、と思ったことがある。ようは見方次第で強さなんて変わるということだろう。


「アプリコットと言ったな。実力を持たない言の葉がどれほど罪深いか教えてやろう」

「貴様こそ守るべき女子供とやらに負けた時の言い訳は考えたか? 守るべきだから試合に負けることが勝負に勝つことだ、などか」

「貴様も後で武器が駄目だったなどと言わないことだな」

「――ふっ、良いだろう」

「――ふっ、来るがいい」


 だけど、この強さはなんか複雑だ。我を通すのは強さゆえだというのは思うが、妙な所で強さを持たないで欲しい。良いだろう、じゃない。来るがいい、じゃない。

 お前ら本当は打ち合わせしているんだろ。だからそんな波長が合った言葉が言えるんだろ。


「説明を頂けますか、ハートフィールド男爵」


 アッシュは二人が構え合う段階辺りから広場にやってきて、俺を見つけて駆け寄りジト目で説明を求めて来た。

 そんな目で見ないで欲しい。これでも二人が妥協した案なんです。なんか盛り上がっているのは俺のせいじゃないんです。


「話せば長くなるのですが」

「簡潔に」

「喧嘩です」

「よろしい」


 アッシュの短いが圧を感じる言葉に、誤魔化そうとした俺の言葉はあっさりと折られることになった。

 今の俺、凄く不甲斐ないな。ヴァイオレットさんには見せたくない姿である。

 本来ならば止めるべき立場にあるアッシュだが、シャトルーズがあの状態になったら言うことを聞かないと理解しているのか、溜息を吐きながら聞いてくる。


「あのアプリコットと言う名の少女ですが、力量はどれ程のものなのですか?」


 アッシュからすればアプリコットはよく分からないことを言うだけの妄言少女だ。格好自体は魔女っぽいが、文字通り格好だけにしか見えなくもある。

 だけど実力だけで言えば……


「魔法という項目(カテゴリ)のみに当てはめるのならば、シキで1番優れていて」


 そう、実力だけで言えば。俺が直ぐに教えることが無くなったほどの才能を持つグレイの師匠をやれるほどには、


「学園でも、主席を狙えるかと」

「……ほう」


 アプリコットの魔法は、優れている。


『――行くぞ!』







 片方は模擬刀、片方は杖。

 互いに“一定の魔力とダメージを肩代わりする”護身符を手にし、勝負を開始する。

 この護身符は事前に魔力を籠める量を調整することによって、ある程度肩代わりする量を調整できる。しかも再利用可能。効能だけ聞くとあらゆる戦闘においての必須アイテムに聞こえるが、そうもいかない。

 理由は純粋に肩代わりする時間が長く持たないことと、肩代わりをする魔力を籠めるのに時間がかかること、そして少なくはあるが痛みはあること。なので、こういった模擬戦などでしか利用できないのだ。


「【脚力強化(セット)】【腕力強化(セット)】【眼界強化(セット)】【聴力強化(セット)】【感覚強化(インヒレント)】__開始(オン)


 模擬戦であるにも関わらず、開始と同時に唱えられる唐突な高速詠唱と魔法の多重身体強化(バフ)。見る者が見れば有りえない速度だと分かる発動速度と発動終了(効果顕現)

 事実としてアゼリア学園の一定の生徒はその魔法に目を見開いた。アッシュもその一人であり、先程までアプリコットを心配そうに見ていたが、その魔法を見た瞬間に警戒の念すら抱かせた。

 

「――(シッ)!」


 だが、シャトルーズは動じずに踏み込み、一瞬で距離を詰め迷いなく抜刀する。


()、ぅ……!」


 右脇腹を狙った一刀は後ろに飛びのいたアプリコットに直撃はしないものの、僅かに当たりアプリコットの表情を歪ませる。

 ――掠っただけで、痛みを覚えるほどの速度か。

 さらには模擬刀で護身符を身につけた状態で、だ。

 シャトルーズは精神も技術も道半ばで騎士団長の親にはまだ届かないが、十分な強さを持っているということになる。

 ……ある程度あの乙女ゲーム(カサス)におけるシャトルーズのルートは入っているということだろうか。確か()()抜刀術はネフライトさんがピンチの時に我武者羅に繰り出し、後に技として昇華したものだ。……いけない。考えないようにしないと。


「遅い」


 シャトルーズは攻撃の手を緩めず、抜刀した模擬刀を両手で持ち刀の向きを整えると右腕のみで突きで追撃を行う。淀みなく流れるような所作は正しく風、といった所だろう。


「鈍いのだな」


 だがアプリコットはその突きの一刀を見極め、模擬刀を身体と左腕に滑り込ます形で避ける。本来ならば避けられる速度ではないはずなのだが、先程の強化の影響だろう、今のアプリコットはあの程度の速度ならば対応は容易なようだ。

 滑り込ませた模擬刀を抜かれる前に身体と腕で挟み、抜けない状態にすると同時に杖をシャトルーズに向ける。

 ――至近距離で魔法を放出するつもりか。


「甘い」


 しかしシャトルーズは冷静に対処する。

 目の前で魔法を放たれる恐怖に対し、強化によって抜けられない模擬刀を引いて戸惑うのではなく、避けようとするのでもなくあっさりと模擬刀を手放し、前へと出た。

 攻撃魔法の発動には詠唱から放出まで時間を要する。ならばそれよりも早く相手の集中力を削ぎ、魔力を霧散させればいい――つまり武器で対応できなければ拳を使えばいい。シャトルーズはアプリコットの腹に目掛けて拳を放つ。


「そちらがな」


 アプリコットは魔法を崩すことなく、むしろ予想をしていたとばかりに小さく笑みを浮かべる。シャトルーズはその言葉にハッとするが、時は既に遅く、アプリコットの腹部前面に仕込んであった触れることによって起動する魔法陣が発動していた。

 ……強化に見せかけて、一つ仕込んでいたのか。


「【闇と緋の混合魔法(コンチェルト)】」


 魔法陣と杖による同時魔法攻撃。

 攻撃に転じたことにより無防備となったシャトルーズに魔法が襲い掛かる。

 

「【防護魔法(シールド)】!」


 撃たれる直前に防御系の魔法を唱えダメージを軽減し、魔法の煙が上がる中体勢を整えるために後ろへと後退する。その際に魔法の反動で緩んだ腕の間から模擬刀を抜き出して、再び手に模擬刀を持ち出し敵の攻撃に対処できるように空中で体勢を整えながら、着地をする。だが、アプリコットにとっては距離が離れれば十分だ。


起動(A)_起動(α)_起動(a)__開始(オン)

「……成程、口だけではないようだ」


 シャトルーズはその魔法を見て、アプリコットを僅かではあるが認めていた。

 アプリコットの背後に浮かぶ複数の紫と赤の魔法陣。一つひとつがD級を軽く屠る威力を持ち、その全てがシャトルーズを捉えていた。

 フェンリルの時だって場所が悪く、庇う対象が多くなく、相手が高い魔法防御力と強靭な肉体さえなければ十分に戦えるレベルなのだ。


「――――」


 だけど、それはシャトルーズとて同じだ。

 剣聖としての血だけではなく、大魔導士(アークウィザード)の血を引く彼は、まだどちらの才能も開花はさせてはいないけれど。どちらの才能も磨きをかけているのだから。


「【属性付与(エンチャント)】――」


 構えるは八相。

 狙うは魔法の隙間の切り開ける道。

 活路を見出すことが騎士の正道なり。


「【絶対の(システム・)囁く声(ラビリンス)】」

「一閃」


 互いの技が、ぶつかり合う。

 ……なんだろう、この二人住む世界(ジャンル)が違っていないだろうか。

 正直言うならば羨ましい。見学している子達も今では固唾をのんで見守っているじゃないか。

 魔法を使って戦闘とか、魔法がある世界の醍醐味じゃないか。


「俺だって魔眼とか発動したり、ド派手な魔法とか撃ちたかったなぁ」


 二人が魔法を駆使して戦う姿に、若干黒くなっている過去を思い出しながら羨望の視線を向けるのであった。


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