知らぬ内の巻き込まれ_2
服を着ていない女性がダンボールに入っている。
言葉だけ聞けばなにかあったとしか思えない内容のモノではある。
シキならあっても「ああ、なにかしてるんだな……別に大丈夫か」的な反応をしてしまいそうではあるが、なにかあっては大変なので真剣に対応した。
とはいえ、大丈夫かどうかだけど確認して俺は一旦外に出ただけなんだが。
「それで……なにをされていたんでしょうか」
そして外に出て服を着るまで待機し、改めて俺はダンボールの中に居た女性に尋ねてみた。
答えたくないのならば答えなくて良いのだが、この世界で初めて見るダンボールの件もあるので出来れば答えて頂きたい。
そう、ダンボールの箱の中に裸で居た女性……スカイさんに。
「ええと……使用禁止の中、温泉を利用して朝の鍛錬の汗を流しているのが判明したらと思うと……本来であれば騎士らしく正直に答えるつもりであったのですが……クロの声を聴いて隠れなくてはと思いまして……」
「え、俺の声を聴いて?」
「その……いえ、言い訳は騎士らしくありませんね。どうぞ断罪してください。どんな痛みにも辱めも受けましょう。切れというのならば東の国の作法らしく腹を切ります。脱げと言われれば脱ぎます」
「俺をなんだと思ってるんですか」
スカイさんは武器や防具を置いた状態で、全ての咎を引き受けるとでも言いたげな表情と体勢で俺に断罪を求めた。
騎士っぽいと言えば騎士っぽいかもしれないが、痛みと辱めってなにを想定しているんだろうこの騎士見習い。俺をなにか変態だと思ってはなかろうか。
それにしてもなんで俺の声を聴いて隠れようとしたのだろう。あと諸事情と罪悪感って……別に厳しい声色で無かったつもりだが……一応聞いてみるか。
「なんで俺の声を聴いて隠れたんですか?」
「…………」
「えっと、理由を話して貰えませんか? 言い訳になっても良いですから」
「はい。……昨日の触られた件があったので、あまり見たくなかったと言いますか……」
「……ごめんなさい、無理に聞いて……」
それを言われるとなにも言えなくなる。あの後スカイさんはずっと恥ずかしがっていたからな……
「あとお風呂に入っているという事を知られたくなかったのと……諸事情と貴方に対して罪悪感が込み上げてきた時の声だったので……」
「え、罪悪感?」
「な、なんでもないです……!」
「はぁ、そうですか……?」
スカイさんはお風呂上りとは別に何故か顔を赤くして、なんでもないと言う。大抵こういう時のなんでもないはなにかあったからこその台詞なのだろうが、女性に対して深く突っ込むのも失礼な気もするし、追及はやめよう。スカイさんなら変に犯罪を仕出かそうとした、という事は無いだろうし。
「それにしてもこのダンボールはどうされたんですか?」
俺はこれ以上裸でダンボールを被り隠れていた件の追及はやめるため、ダンボールについて聞いてみた。ここから少しずつ話を逸らしていこう。実際に気になる内容でもあるし。
「ダンボール……あ、これですか? 更衣室の隅に置いてあって、中になにも入っていなかったのですが……」
「へぇ、そうですか……」
俺はダンボールを手に取り、ダンボールを見る。
パッと見る限りは俺がよく知っているダンボールと同じ構成のものだ。とはいえ、これを見て「ああ、こういう構造だったな」って思い出した程度だが。
「あの、あまり見ないでください……」
「え? ……ああ、失礼しました」
俺がダンボールを見ていると、スカイさんが恥ずかしそうに言ってきた。
最初は何故かと思ったが……そりゃお風呂上がりに入って自身を濡らしていた水分がダンボールのシミになっているんだ。なんとなく恥ずかしいだろう。……ん? なんかシミのつき方が変なような……ああ、いや、見るのはよそう。
「あの、その箱ってダンボール、っていうのですか?」
「ええ、この世界でそういった名前かは分かりませんが、前世ではこういった構成の紙製品をダンボールと呼んでいましたね。梱包に便利なんで世界中に広がっていましたよ」
「へぇ……そうなんですね」
「ほら、紙三枚で構成されているのに結構丈夫でしょう?」
「……あ、確かにそうですね」
俺がダンボールを軽く叩くと、スカイさんが興味深そうにしていたので渡すと、同じように叩き感心したようにダンボールを見ていた。年齢相応でちょっと可愛らしい。スカイさんって結構大人びているからなぁ。
――でもそうなると、このダンボールは誰が……
スカイさんの反応を見る限りでもそうだが、この世界ではあまり一般的な技術ではない。ヴァイオレットさんやヴァーミリオン殿下といった身分の高い方々なら、他国の新技術として知っている可能性はあるかもしれないが。
それを除くとすると、これを知っているのは俺達転生者組が主だ。そして作るとしたら錬金魔法で作れそうなクリームヒルトとメアリーさんか。
昨日の時点では無かったし、クリームヒルトはずっと屋敷に居た。そうなると後はメアリーさんだが……彼女が作った理由も分からないし、作ったとしても放置した理由も分からない。
――だとすれば、やはり仮面の男が……!?
やはり一番可能性が高いのが仮面の男がなにかしらの理由で放置した可能性が高い。
なにかしらの理由を問われると分からないが、考えられる事としては……
「クロ……?」
考えられる事としては……なんだろう。
仮面の男が「俺ダンボール作ったんだぜ、見てよ!」と言った感じに……ないな。
だが方向性としては考えられるだろうか。先程ちらっと見えた奇妙なシミを考えると……
「見せびらかす示威行為……あの温泉上がりとは違うシミはやはりあの男が作った……?」
可能性として高いのは、気付かぬ内に置く事による存在感のアピール。こちらを見ているぞ的な不敵な示威行為。
あんな仮面をして、目的不明なまま日本語で会話をして来るくらいの男だ。愉快犯的な感じにそれ位はしても……って、あれ、スカイさんが恥ずかし気に……あ、そうだ。
「あ、あの……!?」
「あ、ごめんなさい……ちょっとスカイとは別の事を考えてしまっていて」
シミについては見ないでって言っていたのに、俺はつい呟いてしまった。
なので別の事だと言って話を逸らそう。
「い、いえ、私関連で無いのならば良いのです……けど」
ん、けど、なんだろう?
スカイさんが様子を伺うようにこちらを見ては、話して良いかどうかを悩んでいる。
さらには持ったダンボールをどうすれば良いかのように軽く動かしている。今まで見て来た限りでは、あまり表情を崩さないので珍しい仕草である。
「怖い顔をしてましたが、なにかあったのでしょうか……?」
――――
「なんでもないですよ。この世界で初めて見たダンボールだったので、気になっただけですよ」
「…………」
虚を突かれたが。
危ない、危ない……先程呟いてしまった台詞もそうだが、少し周囲を気にしないとな。仮面の男に関しては俺達転生者以外にはあまり巻き添えをさせたくない。それにしてもそんなに怖い顔をしていたのだろうか――わぷっ?
「え、スカイさん?」
「スカイです」
俺が大丈夫だと笑顔を作っていると、急に視界が暗くなり妙に甘い香りに包まれた。
これは……スカイさんが持っていたダンボールを俺に被せた?
「クロ、――ですよ」
「え、あの、よく聞こえないのですが……」
スカイさんが何故このような行動をしたのかは分からない。悪意を持っての行為でない事は分かるのだが……ダンボールを被って話されても上手く聞き取れない。
それにしても……
「なんか二種類の女性の香りがする……」
「え、何故です?」
「知りませんがな」
何故かは知らないが二種類の女性の香りがこのダンボールからする。
だが何故だろう。なにか理由が――はっ、まさかこれも仮面の男の策略!? 実は仮面の男は女だった!? ……落ち着け、昨日の腹筋といい、変態っぽいな、俺。




