いわゆる同族嫌悪に近い感覚
アゼリア学園調査最終日
調査最終日とはいっても、シキは調査できる範囲は然程広くも無いので今回の調査においては実質自由行動に近い。要は他の場所を調査しているグループとの日程調整のようなものだ。
引率の教員も居ないため監視役となっているアッシュも、
「精進は重要ですが、休息も無ければ駄目ですから」
と言って自由な行動を黙認するようだ。ただ、行き過ぎた行動は咎められるが。一応例の目撃情報に関しては気に留めるよう共有はされているが、曖昧な情報な所があるので本当に気に留める程度だ。
ともかく、各々の生徒達は自由に過ごしていた。
ある生徒は修道女の所に行き体術を教わり。
ある生徒は辺境伯色情魔に口説き方を教わり。
ある生徒は鍛冶職人と少年について熱く語り。
ある生徒は黒魔術師にキノコの栽培方法を習っていた。
……なんだか教わる役職と内容がおかしい気もするが、気のせいだ。
「あれ、これって毒じゃなかったっけ」
「生や熱しただけでは毒だが、この組み合わせで石灰に漬けると毒反応が消える。ああ、だが気をつけろ。森妖精族などには毒のままだからな」
「それはハーフでも?」
「別の血が混じっているのならば問題ない。多少は気分が悪くなるだろうがな」
「ほほう、成程」
そしてネフライトさんは変態毒物愛好家に植物について教わっていた。自ら毒を摂取する変態ではあるが、毒を持つ植物や食料に関しての知識は一級品だ。錬金魔法という素材を多々扱う者として、教わることがあるのだろう。
「ちなみに湯通しして冷水でしめて食べると良い感じに身体が痺れて、吐くことが出来る。あの感覚は一度味わっておくべきだぞ、食べるか?」
「うん、やめておくよ」
「そうか、珍味なんだが……」
「……興味があるね」
大丈夫だろうか。
いざとなった時のために嘔吐薬を用意した方が良いかもしれない。アイボリーかアッシュにも一応連絡しておこう。
なお自由時間にも関わらず、ネフライトさんがヴァイオレットさんの所に行こうとしないのには理由がある。
……ヴァイオレットさんとネフライトさんは、今日か明日会うことになっている。そのことを伝えた。
今はバレンタイン家の報告とやらで手が離せないが、俺が決闘にも関わったアゼリア学園の生徒が会いたがっていると言うと、少しの迷いの後に会うとだけ言ったのだ。
正直言うならば不安ではある。だけど本人が希望するのならば俺は支援にだけ徹しようと思う。
そして気になることもある。
ネフライトさんの動向についてだ。
俺の記憶ではあの乙女ゲームにおいて“シキ”という名の地は存在しない。
あるいはゲームにおけるヴァイオレットさんの末路の一つである“決闘、退学後に辺境の醜男に嫁ぎ変態系の扱いを受ける”というものがこの地だった……と言う可能性はあるけれど。できれば自分を醜男と思いたくないし、変態系の扱いもしていないと信じたい。
ともかく、ネフライトさんがこの時期に調査と言う名のシキで研修を受けるイベントなどない。調査で学園から離れる、というイベントはあるがこのような土地ではないはずだ。こんな性格の濃い奴らが登場すれば嫌でも印象に残るだろうし。
そして攻略対象であるアッシュやシャトルーズと仲は良さそうに見えるが、付き合っているなどの関係ではなさそうだ。
ゲームではルートによって仲の良い攻略対象と同じ調査グループに入り調査を行う。そして事件が起こり急接近するイベントがあるわけだが。
なお、トゥルーエンドや己が肉体のみで問題を全て解決するルート(通称鉄の女ルート)などなら話は別である。
――まぁ、前世で妹がプレイしていた乙女ゲーに近い世界観の世界で生を授かった、というだけならば当てはまらないのだろうけど。
目の前に居るのは立派に生きている存在だ。なにかしらの筋書きがあって、強制力故に動いているだけの人形という訳でもない。確かにある程度の情報を俺が把握していても、事実とは異なる可能性もある。
自意識過剰かもしれないが、俺が居ることによってのいわゆるバタフライ効果……だったか、それが起きていてなにがどのように影響するかなど分からない。やるべきことは目の前の情報を考えることだろう。
「まずは治療に関しては、場所、種族、年齢を考慮しろ。ある程度薬に属するものもあるが、万能薬は存在しない。幼子に蜂蜜が毒なように、魔法も薬も一歩外れれば毒だ」
「はい、理解しております。……しかし、この治療の本は凄い情報量だ。よろしければ私が王国に報告しましょうか」
「俺の本は馬鹿共のせいで王国では禁書扱いだ。やるだけ無駄というものだ。それが例えお前のような侯爵の者でもな」
「……そうですか」
アッシュは変態医者に治療について教わっていた。
王族に仕え、あらゆる種族を支える者として知識は吸収しておきたいのだろう。向上心無くしては殿下の近侍や将来の懐刀として務まらない、と言う所か。
「ちなみに俺は腕が吹っ飛んだ程度ならばくっ付けることが出来る。数日は違和感はあるだろうが……どれ、実体験してみるか」
「遠慮します」
「ちっ」
「普通に舌打ちしましたね」
この二人も大丈夫だろうか。
アイボリーは相手が王族でもない限り、ああやって舌打ちも普通にするから見ているとハラハラする。それだけ王国では散々な扱いを受けたから仕様がないかもしれないが。
だけど多くの人を救いたいという願いと王族への忠誠心だけは本物だから困る。そのために王国に戻って怪我を治したいと思っているわけだし。
「まったく、適当な事ばかり言うのだな、貴様は」
「どういう意味だ、銀の妖刀使い」
「シル……? ともかく、言葉だけでは意味が無く、実際に行動に移してこそ意義を持つというものだ。その取り繕うだけの言葉はやめ、行動に移すための勉学に勤しめということだ」
「なにを言う? 我が魔法と戦闘能力はお前の刀に負けるつもりはない。まぁ、言葉だけの説教は誰でも出来るからな」
「なんだと……!」
「なに、恥じることは無い。ライザーは自身の強さには意義を持てないと言うのだろう、だからそうして取り繕うだけの言葉しか吐けないのだ」
「……ほう、言ったな」
そして……なんでアプリコットとシャトルーズは喧嘩を始めようとしているんだ。
元々相容れない性格だとは思っていたが、まさに一触即発状態である。
アゼリア学園の生徒達もシャトルーズの強さを知っているのか誰も近付こうとせず遠巻きに見ているし、止められそうなアッシュとネフライトさんは離れていて居ない。
アプリコットに関しても、扱いが難しいのと魔法の実力自体は本物なので、住民も遠巻きに見ている――と言うよりは、「あらあらアプリコットちゃんはいつものように元気ねぇ、うふふ」といった元気な孫を見る目で見守っている。止めてくださいお願いします。
「シャトルーズ卿、アプリコット。喧嘩はおやめください」
なので俺が間に入って止めるしかなかった。
だけどこいつ等、俺を挟んでも睨みあっている。もう少し見つけるのが遅かったら俺は喧嘩に巻き込まれていたかもしれない。
「止めるな男爵。俺の刀は女子供を傷付けるためにはない。だが、馬鹿にされて鞘を収めるほど人間は出来ていない」
うん、それは知っている。
冷静の仮面を被った脳筋ですからね、貴方。
「止めるなクロさん。我が実力を虚仮にされて冷静になれるほど、我は大人ではない」
うん、それも知っている。
売られた喧嘩は買ってやろうっていうスタンスだもんな、お前。
「こんな所で喧嘩をしては、私もアゼリア学園に報告しないといけないのですが……」
「男爵が黙っていればいい。それだけだ」
「その通りだ」
おいこらふざけんな。仲が良いのか悪いのかどっちなんだ。
住民と喧嘩して、子爵家兼騎士団長の息子を傷付けたとか完全な領主の監督不行き届き扱いになるぞ。
「お二人が怪我をされても困りますので」
『ふん、コイツ相手に俺が怪我をするなどありえん』
『なんだと、貴様……!』
同時に同じ言葉を言って睨みあった。お前ら仲良いだろう。
どうしようか。止められそうな神父様を呼んでいる間にも喧嘩を始めそうだし、シアンとかだと更に煽りかねないし。
面倒だから喧嘩させようか。どっちが負けても他言はしないだろうし、シャトルーズに武器の恩を使って他の生徒にも圧力をかけてさせるようにしておこう、そうしよう。
「……では、危険と判断したら止めます。安全を考慮して武器は模擬武器。魔法は一定の魔法まで耐える護身符が破壊されるまで。場所は広場を使用します。それでよいですか」
『ふん、構わない』
『真似するな貴様!』
お前らやっぱり仲良いだろう。
鉄の女ルート
だいたいコイツ(主人公)が居ればよくね? というレベルまで強くなった主人公が無双するトゥルーエンド後のみ行けるお遊びルート。ドラゴンとか邪神は一撃で屠る。賢者の石とかをついでに作ったという感覚で量産する。多分国とか軽く滅ぼせる。
なお、あらゆる問題は解決するが、このルートでも悪役令嬢ヴァイオレットはルート中に離脱する模様。
 




