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悲鳴無視は出来ない性分


「休んでいてください」


 俺とグレイはヴァイオレットさんを彼女の部屋まで運び、強制的に休ませることにした。


「いや、クロ殿。私は別に体調が優れない訳では――」

「休んでいて、ください」

「……はい」


 少々強めの口調で言うと、ヴァイオレットさんは渋々ではあるがベッドに座る。まずは寝間着に着替えさせ、ベッドで寝させた方が良いのかもしれないが、その前に少し確認した方がいいだろうことを聞く。


「……ヴァイオレットさん、俺達になにか相談したいことがあるならお聞きします」

「……この状況が一番相談したいことなのだがな」


 ヴァイオレットさんはそう言うと視線を逸らした。

 くっ、どうしても話してもらえないと言うのか。仲良くなれて来たとは思っていたが、勘違いだったのかもしれない。だが俺達は家族だ。家族である以上妙な状態のヴァイオレットさんを放置するわけにはいかない。

 あるいは体調が悪いことを心配かけさせまいとして、結局は心配されているから悩んでいる可能性もあるが。


「――はっ」


 ん、何故ヴァイオレットさんは良いこと思いついた、みたいな表情をするのだろうか。そして嫌な予感がするのは気のせいだろうか。気のせいであってほしい。


「すまない、クロ殿、グレイ。実はちょっと寒気があってな。心配をかけさせないようとしていたが、逆効果だったらしい」


 やはり体調が優れなかったのか。

 ともかく今日は休んでいてもらおう。場合によっては明日のアゼリア学園の調査における総括での打ち合わせなどは、神父様辺りに頼んで変わってもらうとしよう。

 まずは寝間着に着替えてもらうとしよう。着替えを見るわけにもいかないし、俺とグレイは一旦席を外すとするか。


「あ、あー。やっぱり寒いなー」


 やっぱり寒いのか。

 ストーブに近い火術石を利用した暖房器具を持ってきて温めさせるべきか。よし、そうと決まれば席を外すついでにさっそく用意するとしよう。


「こんな時は誰かに温めてもらわないとなー」


 なんかいつもの口調と違うのは気のせいだろうか。

 いや、単に体調が優れないから違うように聞こえるだけだろう。俺はヴァイオレットさんのためにも暖房器具を用意しなくては。

 ……ん、誰かに? なにかにではなく、誰か……?


「暖房器具ではなく、もっと体の芯から温まる方法はないものだろうかー」


 芯から温まる……生姜湯か。成程、確かに外側だけ温まっても意味がない。体調を戻すためには内側から改善するという訳か。女性は男と比べて冷えやすいと聞くし、今後の事を考えると対策した方が良いだろう。


「待っていてください、ちょっくら生姜を狩ってきます」

「違う」


 グレイに任せて部屋を出ようとするとガッ、と腕を掴まれ止められる。

 え、違うのか。というか掴む腕の力強いですね。いつもの状態と変わらないのではないかと錯覚してしまう。

 だが寒さを和らげ、体の芯から温める方法と言うと……


「温めるには……そうです、肌と肌を密着させると良いと聞きました!」


 間違ってはいないだろうが、対処としては間違っているだろう。それは雪山で遭難とかにする行動だと思う。

 そして誰から聞いたのか後で問い詰めるとしよう。場合によってはその知識を植え付けて、グレイに肌と肌を密着をさせようと画策している候補が何人かいるし。


「グレイ、方法として間違ってはいないが、この状況では――」

「そう、その通りだグレイ!」

「ヴァイオレットさん!?」


 なにを言い出すんだこの人。

 やはりここ数日おかしいのは熱とかのせいであったのか。このような事を言い出すのは熱のせいに違いない。


「さぁクロ様も上着を脱いでください! ヴァイオレット様――お母様を温める為にも、早く!」

「ちょ、待て!」

「手伝おう、グレイ!」

「え、ヴァイオレットさん!? 貴女割と元気ですね! や、やめろ!? 脱がしにかかるな! い、いやー!?」


 同時に妻と息子が()の服を剥きに来るというよく分からない状況。あ、この、ヴァイオレットさん、足に抱き着いてこないで! グレイ、むしろヴァイオレットさんを止めるべきじゃないのか!?


「そうです、ヴァイオレットお母様。父は自分だけ脱ぐのが恥ずかしいのです!」

「なるほど、ではグレイ。とりあえず私達も上着を脱ぐぞ!」

「はい!」

「やめろ!」


 おかしい、この数週間自ら服を脱ごうとする人が多くないか。やはりシュバルツさんの脱ぎ癖は伝播するものだったと言うのか――あ、くそこの二人同時に脱ごうとするから防げない! この前のシャトルーズとネフライトさんの時は大丈夫だったが、油断すると脱がしにかかられるので防ぎにくい。

 こんな姿、よく分からない状況を誰かに見られたらどんな勘違いをされるか分からない。抵抗しようと身体を振り視線が扉の方に向くと――


「……申し訳ありません。扉も叩き暫く待っていまして。一向に出ないので出直そうと思ったのですが、悲鳴らしきものが聞こえまして」


 気まずそうな顔をしているアッシュと目が合った。はは、何故彼がここに居るのだろう。ヴァイオレットさんに問い詰めに来たのではなく、なにかしら調査に進展があったのだろうか。だとしたらタイミングが悪すぎる。

 そしてヴァイオレットさんもアッシュの存在に気付き、ふと今この状況を理解しようとして固まった。


「……どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」

『待って!』


 俺とヴァイオレットさんは同時に叫んだ。


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