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追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活   作者: ヒーター
9章:変わっていく日常と変わらない日常
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隠していた事は何気なく


 嬉しさよりも羞恥とかの気持ちが上回る、しかし確実に嬉しかった思い出として残る経験をした。入れ知恵をしたアンバーさんには今度会った時に一言を言ってやりたい。

 服の上からの柔らかさと香りは、直に触れる時とは違った良さがあるとかよく分からない変態的思考に陥りそうになり、だが夫婦なんだから別に変態的な思いをしてもおかしくないんじゃないかと開き直り、それはそれとして羞恥はあるというよく分からない思考のループに至っていた。正常な考えに戻るには時間がいりそうである。


「ちょ、ちょっと周囲を見てきますね!」

「う、うむ。私はこの辺りを見ていよう」


 先程の行為をやったヴァイオレットさんも同じように時間がいると思ったのか、俺の提案に顔を少し赤らめながら了承した。


――絶対シアンとかに揶揄われる。


 顔を胸に埋められ抱きしめられるという行為もあるが、その前の格好つけたかった発言も絶対に色々と言われるだろう。

 ……でもヴァイオレットさんに関与するだろう死のイベントに近付けさせたくなかったのも、無意識に格好つけたかったのも事実だ。

 事実なので堂々としていれば良いのだけど……恥ずかしいものは恥ずかしい。顔が熱い。


「締めの包帯です!」

「ぐっ!」

「はい、終わりましたよ」

「……か、感謝する」


 俺がニヤニヤしているシアンや、怪我の治療を終えて「ヒャッフー!」とかよく分からない奇声を発するクリームヒルトなどから逃れ、適当な所に居るとそんな声が聞こえて来た。

 声がした方を見ると、そこにはメアリーさんがシャトルーズの治療を終えている所であった。

 そういえばシャトルーズはクリームヒルトと同程度の怪我をしていたな。クリームヒルトのように骨が折れたりはしていなかったけど、全身が傷だらけであった。


――って、隠れて聞く形になってしまった。


 意識はしていなかったのだけど、声がしてつい木の後ろに隠れてしまった。

 誰かに見られたくなかったのもあるけど、この二人に関しては会話を邪魔したくないというか、下手に関与しない方が良いと思っていたからでもある。

 気付かれぬ内にこっそり離れようか。というかなにかと鋭い両名だ。俺が居る事に既に気付いていて、話そうとした事を話せないでいるかもしれない。

 ここはゆっくりと離れて……


「しかし先程のクロさんの発言は凄かったですね。その後のヴァイオレットの行動も凄かったですが」

「……そうだな。相変わらずの仲の良さだ。見ているこっちが恥ずかしくなる。破廉恥だな」


 あ、俺の事は気付いていないなコイツら。

 もし気付いていてこの会話のチョイスであれば性格が悪すぎる。ていうか破廉恥言うなや。破廉恥だけど。


「シャル君もして欲しいですか? ヴァイオレットよりは大きくないですが……」

「っ!? か、揶揄うな」

「別に構わないのですがね」

「……恥ずかしくないのか」

「恥ずかしいです」


 じゃあ何故言ったのだろう。ノリだろうか。


「ところでシャル君、実は聞いて欲しい事があるんです」

「…………」

「無言は了承と取りますよ?」

「……好きにしろ。私はキメラに負け、治療を受けている身だ。どのような言葉でも甘んじて受けよう」

「……そうですか」


 シャトルーズの言葉には、受けはするがそれで意思を変えるような事は無く、説得されるつもりは無い。と言外で言っている気がした。

 しかし話を聞く分には精神的にもダメージを負っているようだ。なんというかシャトルーズは決めたら融通が利かない部分があるから……って、ここで聞いているのは良くないな。


「実は私は、昔病弱だったんですよ」

「……? そうだったのか?」

「ええ、味はしない。耳が聞こえない時がある。香りなんて分かりませんし、酷い時には動く事もままならないくらいには」

「お前の今の様子からは信じられないな。だから今はその時の反動で行動的になっているのか?」

「そうですね。自由に身体を動かせる、というのがこんなに素晴らしいものだと思ったのを覚えています」


 ゆっくりと。だが、素早く離れようとして――


「……前世での私は、なにも事を為せずに死にましたから」


 離れようとして、その言葉が聞こえたので俺の足が止まった。


「前、世……?」

「はい、前世です。十歳以降は家から一歩も出れず。私の面倒を見て下さった方以外とは誰とも接さず。私の人生とはなんだったのだろう、と無力を覚えた前世です」


 メアリーさんが語るのは、前世という普通ならば記憶にない事柄。

 それをまるで何気ない会話かのように語っている。


「覚えていますか、シャル君。……いえ、シャトルーズ・カルヴィンさん。私が、私は酷い女だと言った事を」

「? ああ、キメラと戦う前に行った“今まで言った言葉も、行動も。私が考えていたものじゃない”というやつか」

「はい。私の行動は……」


 そしてメアリーさんはそのまま――


「私の行動は、前世で見聞きした行動の真似事なんです。……貴方達が見て来たメアリー・スーという女は、そういう女なんです」


 少し寂しそうな表情で、今まで誰にも語っていなかっただろう事を、告げた。


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