赤みのかかった金色に近い色のふわっとした長い髪
「キメラ?」
「はい」
俺は森を駆け、ヴェールさんは箒で低空飛行で並走して、先程の光が放出された起点となる場所の近くに来ていた。俺は土地勘があるのでどんどんと進む中、ヴェールさんは箒に乗って木々の間を器用に飛んで追い付いてきていた。本気で走っても付いてこられる当たり、流石と言うべきか。
そして今は周囲を探して痕跡が無いかキメラが居る気配がないか走って確認している所だ。
「そういった目撃情報がありましてね。後は屋敷の放置されていた場所にそういったモンスターが居る、というような文献……というのでしょうか。ともかく記述されたものがあったんです。そこに書かれていた文献と先程の攻撃の特徴が似ていたもので」
「それでクロ君は調査を行っていたわけか」
「そうなります。確定事項で無いのと、不要な警戒をヴェールさんに抱かせたくなかったので」
「立場的には仕方ないよ」
俺はそれらしい事を言いながら周囲を見て足跡、あるいはモンスターの死骸や血などが無いかを探す。
攻撃が放たれたという事は、なにかと戦ったという事だ。それが別のモンスターか冒険者かは分からないが……ともかく、それらしい痕跡を俺達は探す。
先程の光の跡なのか木々が不自然に開いている部分はある。
あとは足跡らしきものはあるが、ダイアウルフやケルベロスらしきものしか……
「……ん?」
「どうかしたかい?」
あれ、ダイアウルフにケルベロス……そういえば夢中になって気付かなかったが、ここって俺が依頼に出した場所付近だったな。
そうなると……
「……もしかしたら誰か冒険者が来ているかもしれません。依頼に出した場所の近くなので」
「そうなると……ちょっと待ってくれ。人の痕跡ならば探せるだろう」
「人の痕跡?」
「うむ、人の魔力の残滓の索敵だね。ほら、傷痕の魔力の痕跡を調べる事で犯人を捜すのがあるだろう? アレの応用さ」
専門的な魔道具を使用する事で傷や破壊跡を誰がやったかを調べるもの。例えば前回の誘拐騒動で言霊魔法で操った者が多く居たが、同じ魔法を使ってもこの魔法の痕跡で誰がこの魔法を使ったかが分かったりする。いわゆる魔力の指紋的なものを調べる奴だ。
ちなみにシュバルツさんがヴァイオレットさん暗殺の件で捕まえられなかったのは、魔法でモンスターを操った痕跡がないためだったりもする。
それはともかく。
「それって専門的な道具とか場所が必要だったような……」
そんな簡単に調べられるモノではない。
今ここに道具でも持って来ていない限り無理な行動の様な……
「私を誰だと思っている? その程度出来なくてなにが大魔導士か」
やだ格好良い。
とてもじゃないが俺の肉体に興奮している変態と同一人物には思えない。
ヴェールさんは杖を構え、周囲に魔法陣を展開させる。…………やってみたいな、それ。と、いかん。今はそれ所じゃない
「ま、ちょっと時間はかかるが……」
「分かりました。俺は少し周囲を探し――」
「見つけた」
「早っ」
時間がかかるとはなんだったのか。早いに越した事は無いのだが。
「……東の方に複数の魔力痕跡。よく知っている痕跡だ」
「知っている……? まさか!」
「……息子達三つとあまり知らない痕跡が四つ。恐らくは――いや、場所に向かおう」
ヴェールさんから珍しく余裕が消え、真剣な表情で痕跡があったであろう場所に向かう。
息子達はシャトルーズとヴァーミリオン殿下とアッシュだろう。そして先程の事を考えるとクリームヒルトとメアリーさん。そして恐らく他の冒険者二名。冒険者の片方は先程の痕跡の中に長刀と知っている魔法の跡があったので、ブラウンも居るかもしれない。
――アイツらの実力なら不覚は取らないだろうが……いや、戦闘開始次第では……
少なからず実力はある連中ではある。
全員が魔法を含めれば俺は歯が立たないレベルには戦闘強者だが……確か生霊のような特徴を持って、気配どころか姿も消せるとか言う訳の分からない力を持っていたはずだ。
不意打ちされたとしたら……考えるな。最悪は想像しても、今すべきは現場を把握しての最善の行動だ。不安になってありもしない精神的疲労を覚えても意味はない。
「ここだ。ここで戦闘した痕跡がある」
そう。意味はないのだから、今ある状況を――
「魔法と血の跡に――」
そこにあったのは戦闘の痕跡と、地面にある乾ききっていない血の跡。
「――赤みのかかった、金色の髪」
メアリーさんの金髪とも少し違う、赤みのかかった金色の髪。
そんな髪が少し離れた位置でも目に見える程度にはまとまって落ちていた。
他にも見た事のある服の布や、包帯の切れ端。
――……………
「……急ぎましょう、ヴェールさん。追跡は出来ますか?」
「ああ。これならアッシュ君の精霊を追えるから大丈夫だ」
「お願いします。アイツらを助けないと」
「任された。……君のためにも急ごう」




