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おろろろろ(:菫)


View.ヴァイオレット



「フハハハハハ、行クゾ、遥カ高ミノ新世界(ニューレコード)!」

「ぁぁぁぁぁぁぁ――――――!」


 凄い勢いで上空へ飛翔していた。

 先程のスピードはゆっくりと飛んでいたというのは本当であったようだ。出来れば嘘であって欲しかった。

 事実として勢いが強いという感覚はあるのだが、身体にかかる負荷は少ない。要は錯覚なのだろうがこの速度で飛翔していくのは本当に怖い。


「ム、敵影反応デス、ヴァイオレットクン、シッカリ掴マッテイテ下サイ!」


 捕まるもなにも既に全力で掴まっている。落ちないと分かっていても緩める余裕なんてない。

 それに、敵影って……


「ワイバーン!?」


 飛翔小竜種ワイバーン

 人気のない上空や山を縄張りとするB級モンスターだ。翼から巻き起こす風は家屋を破壊し、体内から吐き出す火術は防具を纏った冒険者を熱で殺しきるほどに強く、爪は人間の腕を強度が無いかのようにあっさりと切り裂くモンスター。

 そんな危険モンスターが私達目掛けて襲い掛かってきた。


「フッ、下級B級ゴトキガ、今ノワタシに勝テルト思ウデナイ!」


 だけどロボさんは慌てる所か余裕すら滲ませつつ、ワイバーンに向けて右腕を差し出し――キュインと連続で音を鳴らし、腕を赤く点滅させる。

 ああ、なんだろう。飛翔小竜種(ワイバーン)大型竜種(ドラゴン)に捕食される前の可哀そうな生物に見える。


マキシマム(極限)クラスター(粉砕)キャノン(衝撃砲)ファイア(発射)!」


 なんか出た。


「フッ、数日ニ一度シカ撃テズ、ブッチャケドウイウ仕組ミカ、ワタシニモ分カラナイ代物デス。地上デ撃ツト被害ガ大キイノデ基本的ニ撃テマセン」

「そんなもの絶対に地上で撃つな!」


 ワイバーンの大きさと同じ程度の衝撃波みたいなのが文字通りワイバーンを飲み込んで消失させた。

 ……この人(?)、過剰戦力や過ぎないだろうか。


「サァ、邪魔者ハ消エマシタ」

「邪魔者って……」


 邪魔者と言えば邪魔者かもしれないが、あのワイバーン、一体で確か軍の小隊が組まれるレベルの存在の筈なのだが。

 単独で狩ったとあれば冒険者として名を馳せる程度であるが、ロボさんの前では塵芥ということか。

 と言うより、邪魔者ってなんの……


「――あ」


 綺麗な空だった。

 何処までも続くかと錯覚するような、青い空。

 遥か上空にも関わらず、高度による怖さは無く、誰も居ないこの空間は不思議とこの世界に居るのが私達だけではないのかと錯覚させる。

 下を見下ろせば、遠くに私がかつて通っていた学園と故郷でもある王国が小さく見えた。

 本当に、小さく見えた。


「ヴァイオレットクン、普通ナンテ皆ソレゾレデスヨ。クロクンニモ言ワレタノデハ? 全テヲ好キニナリタイト」


 何故知っている……と言うよりは、ロボさんはクロ殿なら「そういうことを言うだろう」というニュアンスで言っている気がする。

 これは私とロボさんの過ごした年月の差だろうか。少しだけ悔しい。


「そうだ。だがらこそ迷っているのではないか。こんな過去に傷を持つ私が、好きになる資格や、なってもらう資格があるのか。クロ殿の優しさに甘えていないか」

「有リノ侭ヲ、受ケ入レラレヨウトハ、シナイノデスカ?」

「それは天賦を持っている者の台詞だ。私には、それはない」


 生まれの階級を除けば、私は非才の部類に入るだろう。

 非才(それ)を補うために時間を費やして取り繕い、虚構を真にするために努力をしてきた。弱い所をクロ殿達には見せてはいるが、本当に弱い所は見せたくない。

 相手に認めてもらうには相応の努力が必要だ。天賦の才を持っていた彼女も、努力をして才を磨いた上で、殿下達に好かれていた。……お互いの有りの侭の姿を、受け入れたうえで。

 だからこそ、悩んでしまうのだ。


「そのためにも、私が別の男性(あいて)を好きになっていた分と、失敗した過去を超える分の努力をして、相手を知ってから好きだとはっきり――」

「うっせえんですよ」


 だけどロボさんは私の悩みなど、真正面から切り捨てた。


「難しく考え過ぎなんですよ、ヴァイオレットクン。なんで諦めようとしてるんです、好きなのに好きと言わず、納得していないのに過去がどうとか言い訳を言って逃げないで下さい」

「……それは綺麗事だ。過去の経験から逃げ、愛しい記憶だけを愛し、先に進むなど」

「綺麗事で結構」


 ロボさんは追随を許さないほどに、キッパリと言葉を告げた。

 その言葉は明確な自分というものを感じて、少しだけ羨ましかった。


「貴女はなにも為さずにただ理想論を並べ、叶わないのは世の中の不条理や相手のせいだと言って、不平不満しか言わない奴らと違って、己を磨いているんでしょう」


 だったら、とロボさんは私に言葉を続ける。


「そんなもの引っ括めてクロクンは貴女を好きになりたいと言ってくれたんでしょうが。でなければ貴女のために指輪を送ったり、苦手な人から庇ったり、飲み会なんて開いたりしないでしょう。そんな幸福は滅多に無いのに、目の前の幸福から逃げるなんてどれだけ贅沢言うつもりですか」


 ロボさんはその幸福は人を犠牲にすることでしか得られない幸福ではないだろうと、言ってくれた。

 人を殺すことによる幸福ではなく、薬物による幻覚でもなく、強奪による侵犯でもない。ただお互いに歩み寄れば手に入るものだと。


「だから言えばいいじゃないですか。自分勝手に幸せになってやるって。お前らとの過去は過去に過ぎないんだって。むしろ私を捨てたことを後悔するんだな、って」


 人の目など気にせず、幸福になる権利があるのだと高らかに謳えばいいのだと。

 今、この場所ならば誰にも、なににも邪魔をされず。立場も気にせず、ずっと溜め込んできたモノを吐き出してしまえと、ロボさんは言った。


「……好き勝手言ってくれるな、ロボさん」


 散々説教してくれやがって。美辞麗句ばっかり並べて、優越感にでも浸るつもりか。

 ああ、もう。他に誰も居ないこの空間で、唯一の相手が言いたいことを勝手に言いまくって。これでは抱え込んでいるだけの私が只の馬鹿じゃないか。

 くそ、だったら言ってやるさ、ああ、言ってやるとも。

 私だって言ってやりたいことの一つや二つなんて軽くあるんだから。


「ヴァーミリオンの大バカ野郎――!!」


 彼方に向かいながら今まで出したことの無い大声を、出した。

 私はこんなに大きな声を出せるなんて少し驚きだ。


「あんな女に熱中しやがってー! アッシュもシャトルーズもエクルも誑かしていると知っておきながらー!!」


 ああ、そうだ。

 殿下は他の男にも気安く接しているあの女に対して、それを知っておきながら一緒に居やがって。嫉妬位しても良いだろう。殿下も好む女の魅力をあの女が持っていたのだから。


「いつかお前が後悔するくらい良い女になって、クロ殿と仲の良さを見せつけてやるからなー!! その時になって後悔しても、私はお前の(モノ)なんかにならないからなー!!!」


 ああ、良い女になってやるとも。

 なにがお前を好きになったことは無い、だ。なにが今のお前に味方する奴が居ると思ったのか、だ。残念だったな、今の私には指輪に誓いを立てた間柄の人もいるし、こんな風に空まで連れていって私を心配してくれる味方も居るし、なんと息子まで居るんだぞ。

 金色指輪にクロ殿の傍に居ると誓った。誓い()の言葉に嘘はない。

 だからクロ殿の傍にいて幸せになってやる。そうすれば不幸になっていると思っている私を見た時、あの女と共に唖然とした表情を見られるだろう。楽しみだ。

 ……だけど。


「けど、貴方のことが好きだったのは本当だから、それだけは楽しかったし、心の支えになってはいた――」


 貴方のことが好きでなければ、あの教育の中で私の心はもっと酷いモノになっていただろう。それは嘘にしたくない。

 私の事を好きになったことは無かったとしても、貴方のために頑張る私は心が折れずにいた。


「でも、今の私はクロ殿の妻で、まだまだ知り合ったばかりだけど……」


 会って二ヵ月。

 夫婦になってからも二ヵ月。

 一生を過ごす相手を決めるにはあまりに短すぎたし、相手を知るにも短すぎる。けれど、


「全部、丸ごと全部ひっくるめて! ヴァイオレット・ハートフィールドとして家族で幸せになってやるからなー!!」


 今まで出したことの無い大声で。そう宣言した。

 ああ、なんて気持ちいい。

 不安なんて山ほどある。クロ殿が私の事を好きになってくれるかとか、4歳しか違わないグレイを息子として扱えるかとか。後、私の行き過ぎた行為に対して謝りはするけれど、それはそれとして殿下を一発ぶん殴ってやりたいから捕まらない方法は無いかとか。

 でも私は迷わない。クロ殿に積極的にアピールしてやる。自分勝手に好きになって好きになってもらってやる。……差し当たってはいい加減キスをしたい。有耶無耶になって結局していない。

 でも最初位はロマンティックにしたいなぁ……あ、そういえば。


「……ロボさんすまない」

「ハイ、ドウシマシタ?」


 キスから連想した口でふと思い出した。

 よく考えなくても私、先程までは過去を思い出して気分が悪かったんだ。


「先程の昼ご飯と、急な上下運動と今の叫びで――吐きそうだ」

「エ゛」


マキシマム(極限)クラスター(粉砕)キャノン(衝撃砲)

相手は大体死ぬ

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