それはともかくとして
「好っ――――!?」
シアンは神父様に告白(?)されて、顔を赤くして動揺し、言葉が詰まっていた。
周囲の起きている者達はなにが起きたか分からず、ただ目をパチクリとさせて両者を見ていた。
全員が「どう出る……!?」と言った表情で見守っている。
俺的には多分シアンがヘタレると思うのだが……
「すーはー……は、はい。私も好きですよ神父様」
と思っていたら素直に受け答えた。
え、いつもならシアンは碌に会話も出来ずに想いを伝える事なんてまだまだかかると思っていたのに、素直に答えるだと……!? まさかシアンも言霊魔法の影響を受けていると言うのか!
……いや、違うな。シアンは先程は顔が赤かったのに、今は少し寂しそうに微笑んでいる。あまり見ない表情だが……
「私も……兄の様に貴方の事を慕っていますよ、神父様」
あ、そういう事か。確かに神父様相手だとそういう意味の可能性が高い……というかそちらかもしれない。
だがシアンならば「私も好きです、異性として!」とか利用しようとしたり、言おうとして照れて言えない……的な感じになると思ったのだが。
――あ、言霊魔法の後遺症と思っているのか。
言霊魔法にかかっている間は、ローシェンナ曰く「深くかかれば、かかっている間の記憶は曖昧になりやすい」らしい。
それに先程はグレイとシルバの一件をシアンは見ている。シアンはあの状態の両者が言霊魔法の影響があったのだと言っていたので、今の状態の神父様もその一種だと思っているのだろう。
しかし神父様は大分抗っていたし、記憶も多く残っているのかもしれない。
だから感情を爆発させた時の事を思い出し、改めて“家族として”好きであると伝えたかったのかもしれない。そしてシアンは先程のグレイの様子を思い出し、下手に否定しないほうが良いと思ったのだろうか。
「シアン、違う。俺は――」
「神父様」
返答に神父様はなにかを言おうとして、言葉を遮られた。
シアンに言葉をかぶせられたと言うのもあるが、シアンが神父様に取られた手を離し、人差し指がなにか言おうとした神父様の口の前に置かれたからだ。
「その言葉だけで嬉しいです。……誘拐された後です、今は休みましょう。一旦お互いに落ち着く時間が必要です」
「…………」
こんなシアンの嬉しいけど悲しい、先程のアプリコットと同じような表情を見る事になるとは思わなかった。
お祈りをしている時のような綺麗さはある。けれどあまり見たくなかったな。
――……これは例え神父様が正常で本気だとしても、信じて貰えそうにないな。
元々こんな状況で言う事でも無いだろうが、神父様もタイミングの悪い。もう少し後ならシアンも喜んで受けていたかもしれないのに。
……いくら自身の感情にも疎いとはいっても、後で神父様のフォローをしたほうが良いかな。そして同タイミングでヴァイオレットさんに頼んでシアンのフォローをした方が……そのためにはまず、ヴァイオレットさんに前世の事をきちんと話さないといけないな。
「……そう思うのも無理はないんだろうな」
神父様もこれ以上この場で話しても無駄であると悟ったのか、小さな声で寂しそうに呟いた。
――……ああ、今回の騒動を作った奴らめ。恨むからな。
烏合の衆のような奴らであって、目的も分からなかった。けれど言霊魔法を操って人間関係を弄ぶような事をした。
その結果が……感情が本物ではないのだと寂しそうに笑う少女が二名と、思いが伝わらない神父が一名生まれた。
大切な女友達と男友達が悲しむ姿を見る破目になった。
「それはともかくとして、好きだ、シアン」
「へ?」
……なったと思っていたら、神父様が追撃をかました。
シアンの手を再びとる。今度は先程のよりも強く握られているように思える。
「シアンの懐疑はもっともだ。俺がシアンの立場であれば同じように思うだろう。俺は言霊魔法なんてものの影響を受けた。感情を爆発させ、抑え込む事に抗うな、と。だけど……抑え込んでいた感情が膨らんだ時、最初に湧いた感情がシアンへの想いだった!」
「し、神父様?」
神父様はグイッ、とシアンに近付く。
顔を近付けられたシアンは顔を赤くしつつ、必死に強気な神父様の言葉をどうにか理解しようとしているように見える。
「暗示でその想いに気付く、なんて本物では無いと思うかもしれない! 偽りの感情を、本物と思い込んでいるのではないかとな!」
「お、お顔が近っ、近いです……!」
「失礼した。ともかくキッカケはどうあろうと、今は信じて貰えなくても良い。今のこの気持ちは偽りのない感情だ! そして今、抑えきることは出来ない!」
「ですから、それは……!」
「例え言霊魔法の後遺症だとしても! 俺がこの感情を思い、抑えきれないという事は元々俺にあった気持ちなんだ。だから伝えたい。俺は――」
神父様はそこで間を置き、シアンを真っ直ぐ見つめると――
「――シアンの事が妹としてではなく、女性として好きだ」
シアンに、異性として好きなのだという想いを伝えた。
それはシアンがこの数年待ち望んでいた言葉であり、好きな相手に言われるという夢にまで見たであろう台詞だろう。
言霊魔法による偽り。その可能性が有る以上は素直に喜べない事かもしれない。
「あ、うぅ、わたし、その……」
だが少なくともシアンにとって愛しの相手に異性として好きだと告白される事は、嬉しさと照れで感情の許容量を超える程度には喜ばしい事であったのだろう。
今までにないくらい動揺し、言葉もたどたどしくなり乙女な表情をしているのがその証左である。あんなに顔が赤いのを初めて見た。
「……ごめんな、シアン。急にこんな事を言われても困るだろうけど、今言わないと俺はまた言えなくなると思ったから……」
「いえ、その……私は、別に、構わない、です。謝られなくても、構いま、せん」
後はシアンが私も好きだと頷いて、後日改めて想いを伝え合えばめでたく結ばれ――
「いや、謝るよ。だって、シアンは俺の事を男として見られないだろうから」
「……はい?」
……ん?




