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チーク&リップ


 グレイがアプリコットにキスをした。


 俺も、ヴァイオレットさんも、治療中のシアンやグレイとアプリコットを知っているメアリーさんなども困惑しつつもその様子に固まっていた。

 グレイは目を瞑って、アプリコットはなにが起きたか分からないまま目を見開いていた、柔らかく触れる程度のキス。

 それを突然、脈絡……は有った気もするが、ともかく突然行われた。


「え、あ、今、触れ、く、唇……!?」


 極上の微笑みで嬉しそうにするグレイに対し、アプリコットはなにが起きたか分からず唇に指を当てたり、グレイの唇を見たり、顔を真っ赤にさせたりと可愛らしいリアクションを取りながらアタフタしている。

 普段の余裕のある凛々しき姿と比べると今は年齢相応の少女という感じだ。


「で、弟子よ、今お前はなにをしたのか、わ、分かっているのだろうな!?」

「はい、キスです」

「っ!? い、いや、だからであるな……!?」

「? 私めはアプリコット様をお慕いしています。そしてアプリコット様と両想いだと分かりました」

「そ、そうであるな……!?」

「でしたら親愛の証としてキスをしたいと思いました。――アプリコット様の唇を味わいたかったです。……甘かったです。これがキスなんですね」

「あ、う……」


 凄い。我が息子が押せ押せモードになってる。

 今までの純粋だったグレイは何処行った。誰に教わったんだ、カーキーか。成長する息子は喜ばしいけど、父としてまだ早いと思いますよ。


「だ、だが何故キスを……?」

「クロ様とヴァイオレット様がしているのを以前見て、幸せそうであったので」


 俺達が原因だった。

 そういえば年始にグレイとメアリーさんの前でしたんだった。あの時グレイは涙を流していたし、好きな者同士イコールキスをするものと思っていたのかも……だとしてもすぐにキスに移るなんて……


「……親よりも進みが早い」


 おい誰だ今呟いたの。進みが遅くて悪かったな。

 だけどこの進みが心地良くもあるし照れくさいんだよ、文句あるか! ……誰に言っているんだろう、俺。


「だが……」

「どうかされましたか?」

「……いや、なんでもないぞ、弟子よ。ありがとう、弟子の想いは受け取ったぞ」

「ですが今……」

「いや、先程殴られた腹部が痛むだけだ、気にするでないぞ」

「……?」


 しばらくアタフタしていたアプリコットであったが、ある事に気付くと落ち着き、少し寂しそうな表情をしてグレイに感謝の言葉を述べていた。

 これは……キスが出来て動揺と嬉しさはあるがどんな表情をして良いか分からず目を逸らした後に、この状況は言霊魔法による影響だと気付いて、初めはそんな状態でのキスじゃない方が良かった、と言った感じだろうか。

 ……確かにそれだと、少し寂しいかもしれないな。


「……メアリーさん、僕もしたい」


 俺達が動揺していたり、ヴァーミリオン殿下達がローシェンナに対して四苦八苦したりしている中。ふとグレイと同じようにボーっとしているシルバが、グレイ達のキスに少し頬を染めているメアリーさんに声をかけると、


「唇は、付き合ってからだから――頬に」

「へ、シルバ君?」

「――んっ。――――」

「……へ?」


 優しくメアリーさんの頬にキスをした。

 背が高いメアリーさんに対してシルバは背を伸ばして、優しく……


――……なにが、起きている……!?


 グレイのような唇同士ではないが、明確に親しき者にするキスのようなキスで、微笑むグレイに対して、シルバは真っ直ぐ呆然としているメアリーさんを見ていた。


「……次は、男と認めさせてから、付き合ってから……メアリーさんがして欲しいと思う時に、唇にするから」

「ええと……」

「だから、覚悟してね、メアリーさん?」

「は、はい……」


 弟のような可愛らしいシルバが、一人前の男のような表情であった。なんというか……整った顔達がより格好良く見える。

 これは恐らくメアリーさんに対するアピールと、他の者達に対する……


「し、シルバ、貴方はなんて事を! メアリーの白い肌に触れるなど! そう簡単に触れて良いものではないのですよ!」

「アッシュ、お前は似たような事をしているだろうが! だとしても同感だ、シルバお前は今の立場を利用するなど……!」

「やるねシルバくん! だけど私だって負けていられないよ!」

「僕だってお前達に負けてられないんだよ! 身分も能力も、身長も及ばないけど、絶対に負けないからな!」

「え、えと……皆さん、今はそうしている場合では……!」

「そのような表情をするなんて……! ああ、でもヴァーミリオン殿下の嫉妬に狂う顔も良い! 新たな発見だ!」


 ……宣戦布告のためにキスをしたんだろうな。なんか変なのも混じっているが。あとエクルの眼鏡がキラーン! と光っているがどういう理屈なんだろう。

 でも、あれ? 誰かが足りないような……?


「…………」

「シャル、あれに参加しないの?」

「……ん、あぁ。そう、だな。……参加しないと……いや、今の俺には参加する資格はない」

「?」


 俺が疑問に思っていると、スカイさんがシャトルーズを心配しているが見えた。

 そうか、シャトルーズが居なかったのか。でも何故参加していないのだろうか?


「……皆。シルバの行動には目が余るが、今はこうしている場合ではない。残りは俺……私とヴァーミリオン、アッシュ、エクルが残りを掃討すると良いだろう。他の皆は休むか一旦外に出て休むか待機すれば良い」


 そしてシャトルーズは騒いでいる殿下達に対し、冷静に諫めていた。

 ……なんだろう? 今のシャトルーズはいつもと違って……なにか自信のようなモノを失っている気がする。

 そういえばいつも持っている刀が無いな。それと関係しているのだろうか。


「メアリーも一緒に来てもらえるだろうか」

「え、はい大丈夫ですよ?」


 あれ、今普通に名前を呼んだな。スカイさん以外には女性の名前を呼ぶのを躊躇うのに……何故だろう。やっぱりなにか様子が変だな。


「そうか。後はバーントとアンバーと言ったな。私には命令権が無いからな、神父やクリームヒルト達の回復を待っても、私達に付いて来ても良い。好きにしてくれ」

「お気遣いありがとうございます」

「私は皆様に付いて行きます。妹はお嬢様達と共に」

「分かった。クロ子爵達は息子とシルバ、そしてスカイを頼む。まだ言霊魔法の影響が抜け切れていないようだからな。ダメージを受けてはいるが、お前達が居れば脱出も容易だろう」

「はい、分かりました」


 けれど今は言う通りに動いておこう。

 俺も俺の事で一杯一杯ではあるし、大方制圧はしたが全てでは無いだろうし。

 ……制圧した後でも色々とあるだろうからな。


「シャトルーズ。我は……」

「アプリコットは腹部にダメージを受けているからな。無理はしなくて良い。私達の戦力は充分であるし、そこのグレイを診ていてやれ」

「うむ……? 分かった」

「よし、行くぞ」

「カルヴィン。お前が僕に命令をするな!」

「……ヴァーミリオン」

「行くぞ、ローシェンナ。お前の力を最後まで使え」

「承りましたヴァーミリオン様!」


 ……あっちはあっちで面倒そうだな。いざとなればメアリーさんがいるので不意の攻撃とかには問題は無いだろうけど。……不意にキスを受けてはいたけど、大丈夫だろう。


「クロ殿」

「ああ、はい。すいません、俺達はまず安全な所に行かないとですね」


 と、それよりも俺は俺の事をしなければ。

 ヴァイオレットさんの治療によって俺は大分回復はしたが、倒れている神父様やクリームヒルトさんを安全な所に運ばなくては。

 後はボーっとしているグレイと、まだ言霊魔法の効果が抜け切れていなさそうなシルバとスカイさんもどうにかしないと。

 俺がそう思っていると、ヴァイオレットさんが言葉を続けた。


「私達もキスをするか?」

「は――いや、張り合わないでください」

「むぅ」


 可愛らしく拗ねても駄目です。

 というかそんな張り合わなくても……


「……今回の件が終わったら、しましょうか」

「っ! ……そうか」


 今度は嬉しそうな表情になる。可愛い。

 色々と話をして……受け入れてもらって、解決したらその時に……


「アンタら無事を確認したら殴るぞ」


 そしてシアンが神父様を担ぎながら、俺達を睨んでいた。


「……私もいけんやろうか……いや、無理ですね……うん」


 あと、スカイさんがなにか呟いていた。


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