癖は取れない(:菫)
View.ヴァイオレット
なにが起きたか分からず、シアンと共に止めるべきなのかと悩んでいた。
「カルヴィン、先程言った対処方法とはなんだ?」
「ああ、まずは今の状態なんだが、捕まっていた者達は感情を暴走させろ、という命令をされたのが原因であのようになっているようだ」
「ほう、つまり」
「気絶させて魔法が抜けきるのを待つか、全ての感情を吐き出させれば良い」
悩む時間の確保と現状の把握のためにシャトルーズに問うと、そのような回答が返って来た。
つまりは“感情を吐き出すために行動”する命令を受けているので、その命令を完遂させる事が言霊魔法の魔法……魔力から逃れられる術という事か。
神父様の場合は……
「離してくれシアン! 俺は、俺は神父として。お前の兄としているためにも今すぐ離して貰わないと問題が起きる!」
「なにを仰っているのですか神父様、きちんと説明をして下さらないと困ります!」
「離せば教えるから!」
「離したら自傷するでしょう!」
……あれは神父様が……シアンになにか異性としての誘惑に負けそうになっている、という事だろうか。
昨日見た限りでは、ブラウンがなにか言ったので神父様がシアンに対して情緒不安定になっていた。そしてシアンを見て――シアンの服装のスリットを見ていたような……つまり……
「シアン! 一旦離れてお得意の蹴り技で戦闘するんだ!」
「え、な、なんでなのイオちゃん!?」
「良いからするんだ! そうすれば神父様を気絶させる隙が出来るから!」
「わ、分かった!?」
シアンは困惑しながらも、私の言う通りに一旦離れて神父様に向き直る。
神父様はシアンが離れた事に己が息を整えて、落ち着こうとしている。そしてシアンの方を向こうとして――
「神父様、失礼します!」
「悪いが今やられる訳には――っ!?」
「っ!? ハッ!」
「ぐふっ!」
向こうとして隙ができ、シアンはその隙を見逃さず神父様に蹴りを入れる。そして蹴りがクリーンヒットし、神父様は蹲り……
「今だ! 解呪系魔法か追い打ちを!」
シアンは好きな神父様相手だと躊躇うのではないかと思い、その隙を見逃さない様に私が声をかける。これならば私の言う通りにやったという事で、シアンも心を病む事は無いだろう。
そしてシアンの解呪魔法をかければ神父様も元に――
「追い打ち、しゃらぁ!!」
「がはっ!?」
元に戻ると思ったのだが、シアンは解呪魔法ではなくさらなる蹴りで神父様に追い打ちをかけた。
多分クロ殿と偶に戦う時やモンスターと戦う時の癖が出たのだろう。
「――はっ、しまった、いつもの癖で!? 大丈夫ですか神父様―!?」
「ぐ、ふ……強くなったな、シアン。こんな蹴りはシキに来た時以来、だ、な……」
「昔の事を思い出さないでください神父様!」
「後は頼んだ、ぞ……ぐっ」
「神父様――!!」
……過程はともかく、神父様を気絶させることは成功したようだ。本来であれば神父様は戦闘巧者なので、このように簡単に気絶させられたのも神父様自身が言霊魔法に逆らっていたので対応出来たのだろうが……
「うぅ、やってしまった……愛しの神父様に手を出してしまうなんて……」
「シスター・シアーズ。彼ほどの人格者ならば、後から必ず理解してくれるだろう。今は落ち着かせる事に出来た事を良しとしよう」
「……うん、ありがと、シャトルーズ君。慰めてくれて……でもイオちゃん、なんで蹴り技で神父様の隙が出来たの?」
「……それも神父様が目を覚ましたら聞くと良い。覚えていないかもしれないがな」
「というより、あれは……うむ、神父様も男児であるという事が分かったな……」
「? コットちゃんも分かってるみたいだけど……? んん??」
私達がなんとなく神父様が暴走していた理由が分かっている中、シアンだけは分からずにいた。
しかし入る前のスカーレット殿下や、精神的には強い神父様ですらああなっていたとすると、もし私がかかってしまったらどうなるのだろうか。
感情を爆発させて……クロ殿やグレイに対する愛を叫んだりするのだろうか。……もしクロ殿がかかったら、私に対して好きだと叫んで貰えるだろうか。それはそれで見てみた――
「…………」
「どうした、アプリコット?」
「……いや、神父様ですらあのようになっていたとなると、弟子の場合はどのようになっているのかと……いや、このような事を考えている暇は無いな。苦しんでいるかもしれない、早く助けに行かねば」
「……うむ、そうだな」
「? ヴァイオレットさん、何故目を逸らす?」
ちょっとでも変な事を考えようとした私を殴りたい。今殴っては駄目なので、後で無事終わったら猛省しようと思う。
「だがレデ――アプリコット。疑心暗鬼にならずに行動するのも良いが、多少は覚悟して想像した方が良い」
「……それは、そうだが……」
「どうした、歯切れが悪い。……あの少年となにかあったのか?」
「……どうも最近避けられている故、恐らく我を嫌っている。もし感情を爆発させた弟子が居るならば……我に対して不満をぶつけるのではないだろうか、とな。」
昨日今日の事を嫌われて避けられていると思っているのか。
普段であればこのような弱気にはならないのだろうが……好きな相手だからこそ不安になっているのだろうか。
「ふ、ライバルと認めたお前はその程度か」
どうにかして励まそうと思っていると、面倒な奴が面倒な煽りを始めた。
……だがその方がこの二人らしいので放っておくとしよう。シアンが神父様の状態を確認しているので、私は周囲を警戒しながら神父様を診てみよう。
「なんだと……どういう意味だ緑の裁定者!」
「避けられているとは言うが、実際に嫌いと言われたのか!」
「言われてはいない! だが弟子は――」
「あの少年は優しき少年だと私にも分かる。だからこそ少年が直接言っていないだけかと思っているのかもしれない! しかし直接言われずして勝手に思い込み避けてどうする! 私――俺からすればその程度で諦める程度の想いしかない、弱い存在にしか見えないぞ!」
「なっ――言ったな緑の討伐者! 我が弱いだと、巫山戯るな! 我は強き偉大なる魔法使いアプリコットであるぞ!」
「であれば突き進め! やってもいないのに諦めるな!」
「はっ、お前に言われるとはな。我も気の迷いがあったようだ。……感謝しよう、緑の調停者」
「ふ、お前に勝手に倒られては困るからな、レディ・アプリコット」
「貴様やはり馬鹿だろう」
とりあえず上手くいったようだ。
クロ殿が言っていたが、この両者は合えば言い争いをするのは同族嫌悪に近いとは言っていたが、今回のを見ていると納得する。
「とりあえずどうしようか。神父様をこのまま置いておく訳にもいかないし……」
一旦落ち着くと、シアンが私達に尋ねてくる。
神父様は気絶はしたものの、命に別条はなさそうなので平気ではあろうが……確かにこのまま敵地に放っておくわけにもいかない。ここは一旦戻ってロボに預けた方が良いだろうか……?
「あは」
そうして私達が悩んでいる所に――彼女は現れたのであった。




