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ただ遊んでいるだけ(:灰)


View.グレイ



 私がひとしきり褒めた後、クリームヒルトちゃんはまずは牢の鍵を開け外に出て、気絶した監視の男を中に入れて目立たない隅に置き、クリームヒルトちゃんが結ばれていた紐で足と腕と口を縛った。ついでに男の上着を頭にかけ、パッと見誰かが倒れていると分からないようにする。


「うーん、解けそうにないかな。ガッチガチだね」

「そうか……刃物とかがあれば良かったんだろうけど」

「監視の男も切れそうなものは持っていなかったし……どうしよっか」


 その後私達を拘束している紐が解けないかと解こうとしたが、上手く解けずにいた。

 普通に結ばれた私達ではどうしても解けない程強固に結ばれているらしい。所持品がなにか残っていれば良かったのだが、生憎と全て没収されているようだ。


「じゃあ、自由に動ける私がどうにかできないか行ってくるね!」

「それしかないんだろうか。大丈夫?」

「あはは、大丈夫だよ神父様! 私冒険者ですし、荒事は慣れてますから!」

「……そうだね」


 ハッキリ言って危険ではあるが、私達が上手く身動きが取れない以上はそれしかないだろう。止めたいが今はそれが最善だ。……どうにか力になりたいが、今の私では足手まといなので待つことしか出来ない。


「大丈夫、いざとなったら逃げるから平気だよ? それにこの状況じゃ、危険でない選択肢なんて無いからね」


 私の心配を見抜いたのか、クリームヒルトちゃんがいつものような笑顔で私に語りかけてくる。


「それにいざとなれば色仕掛けで誘惑をして油断をさせれば……スカーレットさん、一緒に来ません?」

「私になにをさせる気」

「私のひんそーな体よりは、アダルティな貴女の方が良いかと……こう、はだけさせて縛られた状態に夢中になっている背後を私が殴る、的な。……あるいは神父様はどう?」

「俺になにをさせる気だ」

「神父様の身体の方が、見惚れる方は多いかもしれないし……イケるかと」

「イケない」


 つまり囮だろうか。出来る事なら私が率先して囮になりたいが、良い身体というならならば私の身体は適応外だろう。くっ、どうしようもないのが恨めしい。


「あはは、冗談だよ。じゃ、いってくるね! あ、鍵はここに置いておくから。もし脱出の算段が付いたらローシェンナ君も脱出させてあげてね!」

「はい。……お気をつけて。お怪我はなされないよう」

「ありがとーう!」


 クリームヒルトちゃんはそう言うと、鍵を置きいつものように明るい表情で、周囲を警戒しながら牢を出ていった。

 例え刃物などが見つからなくても良いので、無事である事を祈るばかりである。







 クリームヒルトちゃんが出てから、私達が辺りが静かな状態で脱出の算段や目的などを話していた。何故だか避けている話題があるような気がしたが、ともかくクリームヒルトちゃんが出てから数分後に眠られていたシルバ様が起きられた。


「そうか。クリームヒルトが行ったんだな。なら僕達は祈るしかないか」


 私達は軽く状況を説明すると、シルバ様はそう言って寝ている体勢から座る体勢に変える。あまり心配はされていないようだ。

 これは薄情などではなく、クリームヒルトちゃんの事を信頼しているからこその余裕というやつだろうか。あるいは別のなにかだろうか。


「とりあえず僕達に出来る事はしておこう。計画や相手の事を考えなくちゃね」

「計画ですか」

「そう。例えばそこに居る犯罪者をどうするか、とかね」


 シルバ様はそう言いつつ、縛られた状態で足を上下させているローシェンナを見る。


「聞いた所によればアイツも捕まっているらしいけど、過去を考えれば脱走を一緒にするとそのまま僕達を置いて逃げだしそうだし……」

「当然だ。僕はヴァーミリオン様のために逃げ、あの御方のために力を振るうだろう。それに、そもそも僕がお前らの脱走に協力すると思うか?」

「協力はするだろう。だって、僕達が攫われる前にヴァーミリオンのヤツが居たから、僕達を探している。つまり僕達が逃げ出さないとヴァーミリオンがここに来て危害を加えられる可能性もあるんだよ」

「セイフライド! 何故それを早く言わんのだ! くそ、そうと知っていればネフライトのやつだけで行かせなかったというのに……! ロープなぞ僕の前では紙屑当然だ、引き千切ってやる!」


 シルバ様の言葉に、ローシェンナはロープをどうにか切れないかと藻掻き始めた。どうやらシルバ様は扱いが分かっているようである。なんとなく「適当に言ったら本当にしだしたよ……」的な反応をしている気もするけれど、流石シルバ様と言えよう。


「とりあえず今は無駄な体力を使わない事かな? クリームヒルトの奴が戻って来る前に――しっ、皆。静かにして。誰か来る」


 スカーレット様はローシェンナを生暖かい目で見つつ、今後について言おうとすると警戒の念を込めた静かな言葉で私達に注意する。

 その言葉を聞き、私達は声を潜めた。

 すると少し遠くから、コツコツと地面の岩を歩くような音が聞こえてきて、男性が現れた。


「ん? 男が三。女が二と聞いていたが……聞き間違いか? 女は王女だけじゃねぇか」

「……そうは言うけど、男のいる場所に王女である私を放り込んでいることには変わりないでしょ。私達をどうするつもりなのかしら」


 どうやらあまり状況を把握していない男性のようだ。

 初めは姿を隠してある監視の男を指さしてクリームヒルトちゃんが休んでいる的な事を言おうとしたが、わざわざ言わなくても勘違いしてくれるかもしれない。


「違いねぇな。……ところで言霊魔法のアイツはなにしてるんだ?」

「ああ、くそ。何故僕はこんなにも無力なんだ! これではヴァーミリオン様に失礼しか出来ないじゃないか、あの輝かしい御方のために僕は事を為さねばならないのに! だがあの御方と比べれば全ては無力だな! よし、ならば無力なりに頑張ろうではないか!」

「私が聞きたいよ」

「……そうだな。いつもの事だな」


 いつもの事なのか。

 しかしその言葉が出て来るという事は、少なくとも以前からローシェンナと関わりを持っていたという事になる。

 だが攫ってきた私達の状況を把握していないとなると、一体何故ここに――


「…………」

「なにかしら。ロイヤルな私の姿を見てなにか思う事でも? それとも魔法を使えない事を良い事に、いたぶ――」

「【眠れ】」

「――る、っ、ぅ!?」


 男が言葉を発すると、私――私達は、急激な眠気(めまい)に襲われた。

 なんだろうか、今のは。魔法? だが魔法陣もなにも無しに、こんな直接精神に関与してくる魔法など……!


「言霊魔法……!?」


 どうにか意識を保たせながら、自身の意志とは関係無しに襲い掛かる感情を押しのける中で精一杯の中、シルバ様だけが男に対して言葉を返していた。しかしすぐに奇妙な感覚に襲われたのかすぐに這い蹲ってしまう。


「うむ? おかしいな、第二王女だけにかけたつもりだが……全員に影響している? んん゛っ、あー、あー……」

「お前、何故僕の言霊魔法を使える」

「ん? お前が使えるなら俺が使えてもおかしくはないだろう。えーと、【立ち上がれ】」

「っ、ぅ……!?」


 その言葉に私達は抗いながらも、手足が結ばれた状態でどうにか立とうと行動しようとしてしまう。

 この感覚は以前も味わった事のある感覚だ。

 別の牢屋にいるローシェンナにかけられた事のある、己が感情が塗りつぶされる気持ち悪い感覚。ローシェンナの時と比べるとより一層深くに入り込む感覚がある。


「はは、楽しいなこれは! 意識して言うだけで相手が言う通りに動くぞ!」

「あんな粗悪な言霊で何故……? ……ああ、魔法封じの首輪があるから、より入り込むのか……くそっ」

「よし、【感情を爆発させろ】! 【醜い感情を相手にぶつけろ】!」

「っ――!」


 その言葉に、私は心の奥底から感情が湧き出て来るのを感じた。

 普段であれば抑えているような感情。生活を送る上で我慢をして我慢して、生活を成り立たせるために秘さなければならない、醜い感情が奥底から湧き上がってくるのを感じる。


「いいぞいいぞ! 抗おうとしているその態度! だが【抗うな】! 感情を剥き出しに相手を罵倒しろ!」


 それをなんの目的かも分からない、私達の情報すら曖昧な男により、無理に暴かれようとしている。それがただただ腹立たしく――


「私めは……私は!」

「俺はそんな事を……!」

「煩い、気持ち悪い……!」

「好き勝手言って……鬱陶しい……!」

「そう。そうだ、その意気だ。もっと暴走しろ! はは、ははははは! 楽しいな言霊魔法って言うのは! 一時的とはいえこうして言葉通りに操れる! なんて楽しい魔法なんだ!」

「貴様……! 僕が作った言霊魔法をそのように!」

「なにを言っているんだ、お前だってモンスター相手にしていただろう、なにが違――」


 恐らく男は、なにが違うんだと続けようとして。ローシェンナはなにか否定しようとして。

 だけど両者の続きの言葉は言えなかった。

 何故なら――


「私めはアプリコット様をお慕いしています!」

「俺はシアンが女性として大切だ!」

「私はエメラルドと友達になりたい!」

「僕はメアリーさんと付き合いたい!」


 何故なら、私達の言葉に掻き消されたからだ。


「……は? ど、どうなっている?」


 言霊魔法を一時的に使用している男は、なにが起きたか分からない様に私達を見る。

 だが今の私にはどんなことどうでも良い、何故か心の中から湧き出る感情が抑えきれなくて些細な事など、どうでも良くなっている。そう、まるで溜め込んでいた欲望を解放されたかのようだ。


「私めはアプリコット様が大好きです! お綺麗な黒髪と瞳は惹き込まれずっと見ていたく思います! 誰かに奪われるなんて嫌です、私めはあの方を師匠と弟子として独り占めしたいです!」

「だが俺はブラウンに言われてもしかしたらと思っていた。自分で否定していたが、昨日からシアンが可愛くて可愛くて仕方ない! さらにはスリットから見える太腿に目がいって劣情が湧いてしまう! くそ、俺だって男なんだと気付いたよ! 神父として失格だ!」

「王族と平民とか知らない! 私はエメラルドが気になって一緒に居たいと思っている! 恋愛的に好きだって言えば誤魔化せると思っていたけど、私はああやって気軽に話せる女友達が欲しかった!」

「弟としてしか見ていないメアリーさんに男として認識させたい! 可愛がられるんじゃなくって、格好良く思われたい! 僕だって――手を繋いだりキスをしたりして、メアリーさんを照れさせるような姿を見たいんだよ!」


 牢内に居る全員が感情を叫ぶ。誰かがなにか言っている気がするがそんな事どうでも良い! 私は己が沸き上がって来る感情を心行くまで叫びたい!


「な、何故訳の分からない事を叫んでいるんだ! 俺は負の感情を相手にぶつけて笑ってやりたかっただけなのに……!?」

「お前、感情が暴走させろって言っていただろ? だから文字通り感情が暴走しているんだよ。ちなみにあれは疑問ですら暴走しているから、本気で思っていない事すらも本当だと思って吐露しているんだよ」

「じゃあ何故醜い感情を言えと言ったのに、あんな感情を叫んでいるんだよ!」

「そりゃあれを醜い感情、イコール秘すべき感情と考えているんだろう。似たカテゴリだからな。お前の使い方が美しくないだけだ」

「くっ、言いやがるな……というかなんでお前は平気なんだ」

「自身の魔法にやられてたまるか。対策くらい分かる」


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― 新着の感想 ―
[一言] あ〜おもしれ~。 やっこさん使いきれてないなぁ。 感情系統の発露は其の人を知らねぇと危ねぇのに。 やっぱ、色恋の本音は聞いててニマニマするなぁ。 ヤサグレた心が癒やされるわぁ。 言霊魔法作成…
[一言] この調子に乗り方は転生チートかと思ったけど、違うのか。 なら、何か能力を貰って強くなったタイプ?模倣とかコピー系? グレイと神父がついに! 殿下のストーカーが今一番正常という異常事態
[一言] この男が転生者かどうかはともかくロクデナシであることは確かですね
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