感情に疎くとも相談は出来る(:灰)
View.グレイ
「神父様、男性は皆が女性のたわわなお胸が好きというのは本当なのでしょうか」
「ごふっ」
教会にて。
ブラウンさんと来た私は、スノーホワイト神父様と紅茶を飲み談笑をしながらふと思い出した胸に抱いていた疑問を聞いてみた。なおブラウンさんは今眠っている最中である。
私が聞くと神父様は飲もうとしていた紅茶を何故か咽たので、常備しているハンカチを差し出したが、大丈夫だと言って受け取りはされなかった。
「ど、どうしたんだ急に。まぁそういうのに興味を覚える年齢ではあるだろうが……」
「そうなのでしょうか? ――それで、男性は皆たわわがお好きなのでしょうか。神父様もお好きなのでしょうか」
「あぁ、うん。逃げられないか……」
神父様は私の追及に苦笑いをした後、咳払いをしいつもの柔和な微笑みの表情になる。
どうやら答えてくれるようだ。神父様はクロ様の様に優しくかつクロ様とは違う視点から教えてくださるので、私としても聞いていてためになるので楽しみだ。
「好みによるだろうけど、好きな男性は多いだろう。豊かな胸は母性の象徴と呼ばれるから、目を惹くのも確かだ。実際女神の絵画や彫刻として大きく描いて、男性が思う女性としての寛大さを表す事も有る。重要なのは“男性が思う傾向”にある、という所だ」
「寛大さ……ですか。それならば私めのような子供にも想う所はある、という事では?」
「ああ、それは……もう少し成長すれば自然と分かる事だとは思うけど、成長して明確に男女での身体的特徴の差だからね。いわゆる自身に無い物だから惹かれる、というのもあるんだろう。他にも惹かれる部分もあるだろうけど……ようは他と比べて分かりやすいんだろうな」
「成程。では神父様も母性に甘えてシアン様のお胸に飛び込んだのはそれが分かりやすく、大人な男性だから興味を持った訳なのですね」
「うん、待って」
神父様の説明に私なりに解釈をすると、神父様は慌てて私の言葉に止めを入れた。
なんだか先程よりも「ややこしい事になっている」という表情なのはなぜだろうか。
「俺が飛び込んだ、というのは何処で知ったのだろうか」
神父様が尋ねて来たので、私は昨日の夜見た事を説明する。
神父様との会話(足止め)の後、少し散歩して帰ろうとして、偶々教会の近くに来た所大きな音がした。
驚いたので窓から中を見ると、神父様がシアン様の服の中に顔を突っ込みたわわなお胸に甘えていた。
その後神父様達は気まずそうに目を逸らしていたが、無事そうではあったのでその場を去った。
と、クロ様とヴァイオレット様の事は伏せ、私は説明をする。
「ええと……色々勘違いがあるようだから言っておくが、あれは事故だ。俺が進んで飛び込んだ訳じゃない」
「そうだったのですか。神父様が大人な男性の証明を果たすために、ラッキースケベイを装ってシアン様に飛び込んだ訳では無いのですね」
「ラッキースケベイとやらは分からないが、事故だから故意じゃないよ」
そうだったのか。クロ様とヴァイオレット様はあの件についてはあまり語りたがらない様子であったので分からなかったのだが、故意では無かったのならば残念だ。
「残念です、私めにはよく分からない事であったので、これを機に知ろうと思ったのですが……」
「うん? なにをかな、グレイ」
私が肩を落とし、紅茶を一口啜っていると神父様が私に聞いて来る。
……丁度良い機会なので、神父様に相談してみるのも良いかもしれない。
「はい。実は今回のたわわに関してなのですが、カーキー様に“大人な男はたわわに惹かれるもんなんだぜハッハー!”という発言から、神父様の行動……事故を思い出して今回聞いたのですが」
「よし、後でカーキーは説教だ」
何故カーキー様が説教を受けるのだろうか。
「実は、その……私めは大人な男性に憧れてまして。早く大人な男性になるにはどうすれば良いかと……身体的なモノでなく、心構えと言いますか……佇まいが余裕を持って……いえ、頼れる存在になりたいという感じなんです」
私はクロ様やヴァイオレット様。アプリコット様にもお話していない悩みを神父様に打ち明けた。
私の要領を得ていないだろう言葉の内容に対し、神父様は言い切るまで黙って聞いてくださっていた。
「成程。グレイは何故そう思ったのかな?」
「何故?」
「そう、何故。生物の基本的欲求でも、眠いから寝る。お腹空いたから食べる。というように、行動や思想には理由がある。何故“大人な男性になりたい”と思ったんだ?」
私が言いきると、神父様は近付いてからしゃがんで、私の目線まで顔を下げる。
真っ直ぐ見られたので少し緊張はしたが、優しい微笑みを見るとすぐに緊張は解け、神父様が仰った質問の内容を私なりに考える。
とは言え、理由と言うと……
「学園に行くので、クロ様……父上や母上に不安にさせないようにしたいというのと……」
「うん、それと?」
「アプリコット様が誇れるような、立派な弟子になりたいのです」
そう、両親に心配されるのはともかくとしても、不安がられるような弱々しい男にはなりたくないというのが最初に思い浮かんだ理由。
そして強く思ったのは、アプリコット様という師匠に相応しき男になりたいという事。
学園に行くにあたり今まで以上の方々と交流するだろう。その時に私が弱く子供のままではアプリコット様に恥をかかせてしまう。
そうならないようにするためにも、私は成人になっていないとしても、立ち居振る舞いは大人な男性を目指したい。
「成程、それは立派な心構えだ」
「ありがとうございます、スノーホワイト神父様。なので私めは――」
「けれど、もう少し違う見方が出来るんじゃないか?」
「――?」
私めは尊敬すべき頼れる神父様を参考にしたい、と続けようとする前に神父様は違う見方が出来ると言ってきた。
違う見方……? どういう意味だろう。
「そう、アプリコットのために立派な弟子になりたいというけど、それを改めて思うような出来事があったんじゃないか?」
それは学園に行くという、一つの節目があるからだ。
今までと違う環境に身を置く以上は、今までのような感覚では駄目だという事なので、今回思った訳で……
「それも理由の一つなんだろう。だけど、なにかを言われたから。なにか関係性に変化があったから、改めて思い、相談したんじゃないのか?」
私が説明をすると、神父様はなにかを見通しているかのように聞いて来る。
だけど、なにを私の口から聞き出そうとしているのだろうか?
しかし神父様が言うからにはなにか変化があったから今回聞いたのではないかと、私も心の何処かで引っ掛かりもした。
私としてもその引っ掛かりを知りたくて、神父様が言う改めて思った時を思い出そうとして――
「……アプリコット様と、名前を呼び捨てで呼び合った時が始まりかもしれません」
その、出来事をふと呟いた。
「アプリコット様と学園に行くにあたって、同級生を様付けはおかしいからと、慣れるために練習として一度アプリコット様と呼び捨てで呼び合ったのですが……不思議とその時に妙な感情が湧いたのです」
私は思った事をそのまま口にする。
だけど今話している事は、私が大人な男性になりたいと思った事とは離れているはずだ。だってこれは……単純に、私にとっての嬉しかった出来事なだけのはずだから。
「他にも、その日に私めには無いアプリコット様の強さを見まして。その時に尊敬と根本が似たような感情と心臓の高鳴りを覚えて……その日から、私めは並び立つ存在になりたいと、思い、まして……」
そう、そのためには大人な強き女性であるアプリコット様に相応しき、大人な男性になりたいと思ったはずだ。
だからこそ私は大人な男性を少しでもしろうとして……
――あれ、なんだろう。また不整脈が……
またあの時感じた、今では治ったはずの不整脈が再発してきた。
あの時のアプリコット様を思うと、何故か苦しいが、どこか痛さとは違う不思議な感覚がある。
「……神父様」
「うん、どうした?」
これは……私にとっては、知らない感情だ。未知な感情だ。
これは知るのが怖い。知ってしまっては戻れなくなる様な感覚がある。
今までのような関係性が壊れてしまうような、怖さがある。けれど……
「私めは――」




