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ようは身体目当てのようなもの


「……満足されましたか?」

「はい」

「取り乱して申し訳ございませんでした」


 何故か俺の体臭や声(音)が好きなこの兄妹、ヴァイオレットさんに仕えていたバーントさんとアンバーさんは抱き着くように近付いた後、数分したら離れていつもの仕事状態に戻っていた。無駄にキリッとしているのが腹立つ。


「メアリー様もお久しゅうございます。相変わらずお美しいお姿で」

「ありがとうございます。バーントさんとアンバーさんでしたか。ヴァイオレットに仕えていたという……」

「はい。お名前を憶えて頂き光栄です」


 近くに居たメアリーさんは初め状況を把握しきれていなかったようであったが、少し経つとシキの関連と判断したのか、俺がこの兄妹を満足させている間は変に暴れるよりは大人しくしていた方が良いと黙って居たので、メアリーさんもただ黙って見ていた。その間にこの兄妹の名前を思い出していたようである。


「今日はお仕事……ではなく、プライベートでしょうか。あ、どうぞお座りください」

「ありがとうございます。ですが立っている方が楽ですし、すぐに去りますので」


 メアリーさんは兄妹の服装が学園祭の時のような側仕えの格好ではなく、私服らしき服装であったため疑問を投げかけた。

 そしてどうやら先程の音や香り云々の話はする気は無いようである。触らぬ神に祟り無し的な感じだろうか。


「今はプライベートですが、この街に来たのは仕事です」

「私と兄は明日のクロ様の爵位関連のお話に同伴致します予定なので」

「え」


 そしてバーントさんとアンバーさんが質問に答えたのだが、答えが俺にとっての予想外のものであった。


「俺の爵位関連……って、子爵家になるかもしれないというやつの事でしょうか」

「え、クロさん階位が上がるんですか?」

「ええ、上がるかもしれない、って感じなんですが……正直半信半疑です」


 ちなみに俺はハートフィールド家としてというよりは、個人として男爵の位を持っている。理由は何処かの王子の嫌がらせなので割愛する。

 ハートフィールド男爵家の当主は父であるし、実権は実質シッコク兄が握っている。なので俺の爵位が上がるとしたら、俺を個人として子爵にする事になるのだが……アレが第二王子とは言え、現国王様が息子を殴った貴族の爵位を上げるなんて許すとは思えないのだが……男爵になった時は元々男爵になる予定があったのと、ゴタゴタで滑り込ませただけだろうし。

 と、それよりも重要なのはバーントさんとアンバーさんについてだ。

 流石にこの兄妹も仕えていた元主の家関連だから、ヴァイオレットさんなどの音や香りを楽しむために無理にこじつけて来た、という事は無いだろう。……無いよね?


「何故バーントさんとアンバーさんが同伴を?」

「はい、今回の爵位の件なのですが、バレンタイン家が関わっておりまして」

「……え?」


 バレンタイン家が関わっている……?

 公爵家が、成り上がり男爵家の爵位上昇に関わっているなど、どういう事だろうか。可能性としては……


「実は娘や妹が大事で大好きだから、心配で貴方達を付けさせた……?」

「……ウィスタリア様に仕える者として、発言は控えさせて頂きます」

「あ、ごめんなさい」


 淡い希望を口にしたが、表情をあまり崩さないこの兄妹が、兄弟そろって「それはないです」的な複雑な表情をしたので、それはないと確定した。あとウィスタリアって……ああ、ヴァイオレットさんのお父様か。ついでに俺の義父か。

 ともかく、それ以外となると……


「となると、シッコク兄様辺りが、弟である俺がヴァイオレットさんと婚姻を結んでいる所から、関係を無理につなげて頼み込んだ、あたりか」

「そう思って下さって結構です」

「クロ様夫妻をあげるついでにハートフィールド家を……のようなことを話されていた気もしますね」

「……そこは言って良いんですね……」

「ただの独り言です」


 俺が予想を立て、バーントさんが肯定し、アンバーさんは補足し、メアリーさんがツッコんだ。明日に対する情報が思いがけず得られてよかった。あとはこの情報でどう身構えるかである。

 ……まぁ細かい事は明日分かるだろう。今は少しでも前情報を知っておけたという事に感謝しよう。


「大丈夫なんでしょうか? 階位一つ上がると、貢献とか納める税金とかも変わるんですよね?」

「そうですね。シキは人口的にも土地的にも子爵家の規模では無いですから難しくは有りますが……頭は痛めないといけないですが、やりくりすればどうにでもなりますから大丈夫ですよ。心配くださってありがとうございます」


 書類関連は大変であるし、貴族としての繋がりはあまり無いので、難しくはある。けれどシキの住民は色んな方向に振り切ってはいるが優秀な奴も多いので出来ないという訳でも無い。

 それに俺だけではなく、ヴァイオレットさんという支えも居るので頑張れる。それが一番重要な事である。


「と、ありがとうございますバーントさん。アンバーさん。久方ぶりに会えたのも嬉しかったですが、明日の情報を得られたので助かりました」

「いえ、少しでも力になれたのならば幸いです」

「私達もお会いできて光栄です」


 明日のために街に来たのは確かだろうが、ここでバーントさんとアンバーさんに会えたのは偶然だろう。今の情報と折角の再会なのでなにか奢ろうかと思ったが――


「それに久方ぶりの満足いく親愛なるクロ様の生声を味わえましたから」

「はい。親愛なるクロ様の香りも感じられました。やはり良いものです」

「ええ、ヴァイオレット様とグレイ君の残り音も感じられましたから……ふぅ」

「それに殿下達と共に馬車に長時間居た混じり香りもありましたから……ふぅ」


 ――前払いでこの兄妹の欲求は満たさせてるので止めた。というかむしろ欲求を満たすための後払いとして情報を言った気もするし。あと残り音ってなんだ。そして最後のふぅ、はなんだ。問い詰めたいが碌な答えは帰ってきそうにないので問うのは止めよう。


「あの、お二人共クロさんの事を好き……なんでしょうか?」

「はい、クロ様はお嬢様……ヴァイオレット様と夫婦になるに相応しく思っており、私としましても好ましく思っております」

「いえ、そういうことではなく……」

「……? ああ、成程。ご安心ください。親愛なるとは言いましたが、私が恋しているのはクロ様の美声」

「私が恋しているのはクロ様の香り」

『そしてクロ様家族のハーモニーを愛しています!』


 ハモってにこやかに言う事じゃねぇ。


「……クロさん、もしかしてなにかしらの覚醒を促す力に長けていたりします?」

「長けていたとしても、この方面はないと信じたいですね……」


 そんな様子を見て、メアリーさんが耳打ちで俺に聞いて来た。

 俺が居なければ覚醒はしなかったかもしれないだろうけど……でも自覚しなかったらヴァイオレットさんの洗濯物とかを無自覚のまま口に含みそうだったからな……。あのままだと抑えきれずに犯罪に走りそうであったから、今は自覚を持って抑えて狡猾に事を為そうとしているから……あれ、どっちの状態が良いのだろう。


「……これもある意味色恋なのかな」

「……そうなんでしょうかね?」


 明日の事とか、楽しくはあるけれどなんだか面倒な奴らにあったりとか色々あるが、俺とメアリーさんは未だに騒いでいる殿下達の方を見たりしながら遠い目をした。

 シキから離れて少し変態性が薄まると思ったけど、シキに負けず劣らず騒がしい事が続きいきなり疲れが溜まってきた。


――シキは逆に静かだったりしてな。


 そんな事を考えつつ、愛しの妻と子が居るシキを思うのであった。





「……? あれ、でも従者……? もしかして……」

「どうされましたか、メアリーさん?」

「……いえ、なんでもないです。なにかを思い出せそうだったんですが……」

「?」


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